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「何度も言っているのに、また遅刻…」一向に改善しない従業員に対応するポイント【産業医が解説】

2023.01.25

「問題がある従業員がいて……」というご相談がよくあります。「どうやったら問題を解決・改善できるのだろうか?」というのが重要な論点であることはもちろんですが、問題がこんがらがって、「改善できなければ、解雇できないだろうか?」というところまで追いつめられていらっしゃる経営者の方にもお会いします。しかし、解雇は要件が厳しく簡単にはできません。そこで今回は、産業医である筆者が、”解雇”を考えるほど追いつめられる前に、経営者やマネージャーの方が現場でできる対応についてご説明します。

遅刻と居眠りの多い従業員、どうする?

よくあるご相談として、”遅刻”と“居眠り”があります。以下は、架空の事例です。

Aさんは20代男性、入社して半年の新入社員です。入社直後から「大事な会議に遅れる・仕事中に寝ている」ということが月に数回みられていました。まだそれほど難しい業務は担当していませんので、同僚や上司がカバーしていましたが、「また遅刻か」「ほぼ毎日居眠りしているよね」と、周囲からの信頼は失われつつあります。最近では「体調が悪くて」という理由での遅刻や、当日連絡による有給休暇の取得が増えています。体調不良と言われると、上司も強く注意することができません。

Aさんのような方が部下にいる場合、どのような対応が望ましいのでしょうか?

まず、何が問題なのかを関係者で共有することから始めましょう。同じ事象でも人によってとらえ方や感じ方が異なるものです。誰が、何に困っているかについて、客観的な事実を集めましょう。

上司は「Aさんのマネジメントの方法について困っている」、同僚は「Aさんの業務の穴を埋めることに疲れてきている」、Aさんは「朝起きられない、日中に眠くなることに困っている」と、立場によって困りごとの内容や困り度合いが異なるということはよくあります。

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「事例性」と「疾病性」

誰が何に困っているかを整理したら、次に行うことは”事例性”と”疾病性”に分けて考える”ことが重要です。

【参考】産業医はじめの一歩-「働く人・企業」のニーズをつかむ!基本実務の考え方と現場で困らない対応/羊土社

事例性とは

事例性とは、現場で起きていること(職務上問題になっている客観的な事実)のことです。現場で起きていることを説明するときに、つい個人の評価や感情が反映されてしまうので、事例性を描写する際には、できるだけ客観的に記述してみましょう。

例えば以下のような言い換えをしてみましょう。

例1)「遅刻魔である」→「週に〇回遅刻をする。遅れてくる時間は1回につき〇分から〇分程度である」
例2)「仕事中によく居眠りをしている」→「午後1~3時の間作業の手が止まり、席に座ったまま寝ているということが、今週は〇回観察された」

そして、改善のための指導を行う時も、具体的な数値目標を用いながら、改善できたかどうかが客観的にわかるようにしましょう。また、問題の根本的な原因がある場合、単に注意指導を繰り返すだけでは改善は難しいものです。そこで役に立つのが、“疾病性”という言葉です。

疾病性とは

疾病性とは、本人が抱える症状及び周囲が感じる病的感のことです。「体調が悪くて……」という本人の訴えがある場合、事例性だけを取り上げて、注意指導を繰り返す・処分をする前に、疾病性の評価が必要です。たとえ、ご本人からの訴えがなくても、はたから見て元気がない・遅刻をする・居眠りをするという状況があれば、「医学的な原因はないのだろうか?」という視点で考えることは欠かせません。

遅刻や仕事中の居眠りが起きている背景として、以下のような様々な背景が考えられます。

・小さなお子さんがいて、夜鳴きで起こされて睡眠不足である
・子育てや介護で疲労が蓄積している
・寝つきが悪い、眠りが浅いなどの睡眠の問題がある
・ゲームやインターネットに費やす時間が多く、睡眠時間が削られている
・睡眠のリズムに関わる病気がある
・突然寝てしまうという症状が出る病気がある

もちろん、経営者やマネージャーの方が医学的な判断をする必要はありません。そこで頼れるのが、“産業医”の存在です。指導や処分の前に、産業医による疾病性の評価をおこないましょう。遅刻や居眠りの背景に疾病の影響があり、治療により症状が改善すれば、遅刻や居眠りがなくなった、ということはよくあります。

ルールに則った公平・公正な対応を

産業医として、従業員の方の面談を行い、遅刻や居眠りが問題ではないかと指摘をすると、「他にも遅刻や居眠りをする人はいます」というご意見をいただくことがあります。

会社からすると、仕事ができて業務をたくさん抱えているベテランのBさんの遅刻は許容するけれども、新入社員のAさんの遅刻は許容できない、というような言い分があるかもしれません。ただ、Aさんの遅刻には厳しく対応するのに、Bさんには注意しない、ということが起きると、従業員間の不満や、会社に対する信頼の喪失につながります。色々な事情があるにせよ、客観的な事実と会社のルールに沿って対応しましょう。

対応の際には、就業規則に則って、一貫した対応をするということがポイントです。ルールの範囲内で公平・公正に対応するために、柔軟に働いてパフォーマンスを発揮したいBさんについては、裁量労働制を導入するなど、納得を得やすい形にできないかを検討しましょう。また、Aさんに注意や指導を行う場合は、書面で伝え、プロセスを踏むことが必要です。

例えば、8時出勤のところを9時にしか出勤できないという遅刻の改善に対しては、いきなり「明日から8時出勤してください」ではなく、「2週間で8時半出勤、4週間後に8時出勤ができるように改善してください」のように期限を決めることも大事です。特に疾病性がある場合、治療を始めたとしても改善されるまでに時間がかかることがありますので猶予期間を設けるというのは、いち産業医からのお願いでもあります。

まとめ

従業員の問題の根底には、個人の事情や疾病の影響・組織の体制に起因するものもあれば、小さな問題を放置した・適切な対応が取られなかったことで、問題が膨れ上がってしまう場合など様々な事情があります。表面的な問題を解決しても、土壌が変わらない・一貫した対応が行われなければ、また似たような問題が出てくるでしょう。弁護士や社会保険労務士、産業医など外部の専門家の力を借りながら、ルールに則った一貫した対応をこころがけましょう。

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*Fast&Slow, mits, elise, metamorworks, プラナ / PIXTA(ピクスタ)

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