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TOP > 記事一覧 > 総務・法務 > 多様な働き方を実現するために必要な準備とは?制度の見直しポイントについて弁護士が解説【ABW第5回】
就業規則

多様な働き方を実現するために必要な準備とは?制度の見直しポイントについて弁護士が解説【ABW第5回】

2023.03.08

ABWとは“Activity Based Working (アクティビティ・ベースド・ワーキング)”の略称であり、業務や気分に応じて働く時間や場所を自ら選択できるワークスタイルを指します。ABWは、多様で柔軟な働き方を可能とする仕組みであり、人材の定着や優秀人材の確保、業務内容によっては仕事の生産性の向上が期待されます。もっとも、多くの会社では社員が一同に会してオフィスに出社して働くという働き方を想定して就業規則などの制度がつくられているため、ABWを導入するにあたっては、いくつか就業規則などの見直しが必要になってきます。そこで本稿では、ABW導入のため、就業規則などの社内規程の見直しについて解説します。


就業規則などの見直しポイント

見直しポイント①:労働条件通知書の「就業場所」の記載

まず、就業規則ではありませんが、労働条件通知書の記載事項の見直しが必要になります。会社は、社員を採用する際、社員に対して労働契約の期間の有無や業務内容などの労働条件を明示した通知書を交付しなければなりません。労働条件通知書の明示事項の1つには、“就業の場所”が挙げられており、採用の段階でABWでの働き方を許容する場合には、普段のオフィス以外の場所を労働条件通知書で記載しておく必要があります。記載例としては、以下のような内容が考えられます。

「事業場、自宅、その他会社が認めた場所」(サテライトオフィスなど具体的な場所が特定されるのであれば追記可能)

【参考】労働基準法 第15条「労働条件の明示」/ 法令検索

他方で、労働条件通知書の記載する事項は、採用された最初の労働条件を指しますので、採用の段階で通常のオフィス勤務のみを想定している場合には上記のような記載は不要です。また、これから新たにABWを導入する場合にこれまでの社員に労働条件通知書を交付し直す必要はありません。

見直しのポイント②:労働契約や就業規則で就業場所をオフィスにしている場合

上記の労働条件通知書とは異なり、労働契約書や就業規則には、“就業の場所”の記載は必須ではありません。したがって、労働契約や就業規則には、就業場所の記載がないことが多いですが、仮にこれが記載されている場合には、上記の労働条件通知書の変更例のように修正する必要があります。

見直しのポイント③:フレックスタイム制の導入

ABW導入にあたっては、場所的な柔軟性だけでなく働く時間の柔軟性を高めておくことが有益でしょう。社員がイニシアティブをもって働く時間を柔軟にする仕組みとしては、フレックスタイム制があります。フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則の改定と労使協定の締結が必要になります。

(適⽤労働者の範囲)
第●条 第●条の規定にかかわらず、営業部及び開発部に所属する従業員にフレックスタイム制を適⽤する。
(清算期間及び総労働時間)
第●条 清算期間は1箇⽉間とし、毎⽉1⽇を起算⽇とする。
② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、154時間とする。
(標準労働時間)
第●条 標準となる1⽇の労働時間は、7時間とする。
(始業終業時刻、フレキシブルタイム及びコアタイム)
第●条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の⾃主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後3時から午後7時までの間とする。
② 午前10時から午後3時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、所属⻑の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。
(その他)
第●条 前条に掲げる事項以外については労使で協議する。

フレックスタイム制は、始業・終業の時間を社員の裁量に委ねる仕組みであるので、一定の時間帯に勤務することを必須とする業態では、コアタイムを設けるなどの工夫が必要になります。

【就業規則の見直しについてこちらもおすすめ】就業規則の変更、トラブルを避けるにはどうすればいい?

見直しのポイント③:PCなどの持ち出しによる情報漏洩対策

ABWを導入するにあたって会社の大きな懸念点の1つは、PCなどの持ち出しによる情報漏洩です。個人情報漏洩事件などでも、社員が電車に個人情報が入ったPCなどを置き忘れて発生することもあります。ABW導入に伴う情報漏洩対策としては、大きくは、“ルール・人・技術”の観点からバランスよく対策を講じることが有益であり、そもそも機密情報を扱う業務に従事する人はABWの対象から外すことや、情報セキュリティソフトの適切な導入の他、機密情報の管理の在り方そのものの見直しも必要となります。詳細は以下の総務省が出している“テレワークセキュリティガイドライン(第5版)”をご参照ください。

【テレワークセキュリティガイドラインの参照】テレワークセキュリティガイドライン(第5版) / 総務省

情報漏洩対策の“ルール”の観点として、就業規則や情報管理規程などに以下のような定めを入れておき、無条件でのPCなどの持ち出しは禁止しておくべきでしょう。

第●条 秘密情報を含む電磁的記録媒体又は情報通信機器は、原則として、社外へ持ち出してはならない。ただし、テレワークその他の業務上の必要がある場合には、媒体・機器中に含まれる秘密情報について、第△条(注:秘密の明示等)の措置が講じられている場合に限り、これを社外に持ち出すことができる。

2 社外で電磁的記録媒体又は情報通信機器を利用する場合には、第三者が秘密情報を閲覧等することがないように注意し、厳重に管理するものとする

上記でのべたように就業規則を見直した場合には、過半数組合か、過半数組合がいない会社では過半数代表者から、就業規則の変更に対する意見をもらう必要があります(労基法90条)。もっとも、ここでは意見を聴けばよく“同意”を得る必要まではありません。

また、新たな就業規則については、社員に対していつでも閲覧できるように周知しなければなりません。

【参考①】労働基準法106条「法令等の周知義務/ 法令検索
【参考②】労働契約法10条「就業規則による労働契約の内容の変更」/ 法令検索
【参考③】労働基準法90条「作成の手続」/ 法令検索

【情報漏洩についてこちらもおすすめ】テレワークを狙ったサイバー攻撃が多発!巧みな手口に対応する「セキュリティ対策」とは

ABWを導入するメリット

上記のように就業規則を見直すことには手間と労力を要しますが、ABWには以下のようなメリットがあります。

(1) 生産性の向上

業務の内容にもよりますが、一人で作業をするような業務の場合には、周りに邪魔されない空間で業務を進めることができ、生産性の向上が期待できます。また、アイデアを生み出すような創造的な仕事の場合も、ずっと同じ空間でアイデアを練るよりも、時々違う空間に移動することで創造的なアイデアが生まれやすいでしょう。

(2) 採用・定着における魅力づけ

コロナ禍によりテレワークによる働き方が急速に普及し、多くの人が柔軟な働き方を継続したいと考えています。コロナ禍に収束の兆しが見えている中で、テレワークなどの柔軟な働き方をやめて旧態依然とした働き方に戻る会社であるのか、テレワークなどの柔軟な働き方のメリットを活かしつつこれを継続する会社であるのかが見極められているといえるでしょう。したがって、ポストコロナを見据え、いまABWを導入することで、人材の採用や定着を図ることができます。この採用・定着におけるメリットは、人手不足が深刻な経営課題となる中小企業においては、極めて重要といえ、就業規則の見直しをしてでもABWを導入する大きなメリットといえます。

【ABWについてこちらもおすすめ】自由な働き方を実現するために!今の時代のオフィスに必要な役割とレイアウト【第3回ABW解説】

まとめ

ABWの導入にあたっては、基本的に就業規則の改定が必須ではありません。しかし、これまでの“みんながオフィスに集まって働く”という典型的な働き方とは異なる働き方であることから、上記で述べたような就業規則の見直しを行うことがベターであるといえます。ABWの導入にあたっては、厚生労働省のテレワークガイドラインも参照するとよいでしょう。ABWは今後の人材獲得・定着に大きなメリットを与えるため、経営課題として本格的に導入を検討してはいかがでしょうか。

【テレワークガイドラインの参考】テレワークガイドライン / 厚生労働省

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*artswai, JIRI, YsPhoto, dyna, Ushico, CORA / PIXTA(ピクスタ)

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