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経営課題

リモートワークの弊害をどう乗り越える?コロナ禍で露呈した中小企業の経営課題

2022.11.01

コロナ禍3年目に入り、あらゆる意味で「コロナ前に“戻る”という希望的観測は持てないのではないか」そういった観測が主流になりつつあります。コロナ禍で急速に進んだリモートワークやテレワークの適用範囲が広がり、コロナ前のような就業スタイルに戻ることは難しいでしょう。一方で、リモートワークを既に導入し先進的な働き方を進めている企業、導入を進めたもののなかなかうまく行っていない企業、導入の検討すら進んでいない企業など、各企業の状況は千差万別です。

今回は、経営コンサルタントである筆者がクライアント事例から得た学びを含め、リモートワークを進める際の弊害やリスクについての議論を整理します。リモートワークはうまく導入すれば、かなりの時間効率性効果を得ることができます。しかし丁寧かつ上手にことを運ばないと、社内に不満や軋轢を生み出す原因にもなってしまいます。当記事は、リモートワーク下で会社(チーム)を強化するきっかけの一つとして、ご一読いただければ幸いです。

そもそもリモートワークは是か非か

筆者は全国各地から講演をご依頼いただくのですが、近年は“これからの経営者の役割”であったり、“新しい企業の戦略とはかくあるべき”といったテーマが増えています。それはやはりコロナ禍で如実に見えてきた、“これまでのやり方がこれからは通じそうにない”という直感にも近い体感が経営者の皆様にあるからではないでしょうか。

そこで筆者がしばしばお伝えしているのは、“人と機械(デジタル)の役割再配置”が、今まさに最も重要な検討事項であるということです。今やどの企業経営者とお話ししても、人手不足に悩んでいない方は皆無と言って良いでしょう。しかし、日本の現状を見ると、人手不足が簡単に改善される望みはありません。であればこそ、人間には人間にしかできない役割を果たしてもらい、機械で代替できる仕事は対人件費とのコスト比較の上で、どんどん機械・デジタルの導入を進めて行くべきです(詳細はここの本論ではないので別の機会に譲ります)。

限られた大切な人材を一箇所に縛り付け業務を遂行してもらうのではなく、ロケーションフリーの就業環境を用意し、場所を選ばず業務遂行できるように整えていく。そうしたコロナ禍に端を発した働き方の変化も、労働生産性の改善につながる施策として捉えられます。当記事はそのような背景に基づいて書かれているとお考えください。

リモートワークの弊害?リスクとされている課題について

筆者がコンサルタントとして経営者の皆様から聞くリモートワークの課題は以下のようにまとめられます。念のためWeb上で様々に議論されている記事などを確認しても、おおよそ同じような議論が行われておりました。

・社員や部門間での不公平感の発生
・セキュリティリスクの高まり
・勤務実態の不透明性
・勤怠管理や人事評価の難しさ
・コミュニケーションやチームワークの希薄化
・従業員の環境変化での身体的・精神的リスク

これらのうち多くの課題は、これまでの自社スタッフに対する就業管理や作業管理について見直す良いきっかけになると筆者は考えています。

先ほど述べたように、社員を一箇所に集めて固定席を用意し、その場所で就業させることの企業側の目的は、就業時間内は会社の資産を使って作業を進められるという環境面、そして居場所を拘束して仕事をさせることができるという管理面での簡便性です。

しかし単純な話ですが、人材有効活用の観点からも、一箇所に社員を貼り付けておくことよりも、ITツールを利用し複数の場所で作業を進められるようにした方が、会社全体の事業が速く進みます。特定の場所でしかPCなどの端末を利用できない状況よりも、出先現場や移動中にも作業が進められるようになれば、移動を待たずに進めることができますし、後工程の作業もスムーズです。

この目的を前提にすると、ロケーションフリーで従事すべき作業と、事情によって固定の場所で働かなければならない作業に仕事・役割を仕分けることができます。「リモートワークは福利厚生の一環」のような考え方ではなく、あくまでも事業効率性に基づいて検討されたものであれば、それは社員に対しても「給与面などへの反映が期待できるべき施策なので、不公平感などにはつながらない」という説明がしっかりできるはずです。

同様にセキュリティリスクも必要性に応じて、セキュリティ管理ツールの導入や、セキュリティ研修の実施などを適切に検討・導入していくことで解消できます。セキュリティ対策など専門的な見識が必要な場合は、信頼のおける外部の助けを借りることも検討しましょう。これはしっかりとした目利きが必要です。中には既に過去の遺物となったようなセキュリティ対策のアドバイザリーを行っている業者も筆者の目からは散見されます。総務省が出している『テレワークセキュリティガイドライン』なども事前にご確認いただくとより適切な判断ができるでしょう。

【参考】「テレワークセキュリティガイドライン(第3版)」 / 総務省

【こちらの記事も】IT活用のよくある失敗とは?回避するべき3つのポイントと成功事例を紹介

リモートワークの弊害、ではなく本質的な経営課題として捉える

一番感情的な懸念として経営者の皆様から上げられるのが、勤怠管理や勤務実態の不透明性です。しかし、敢えて厳しい言い方をしますと、企業が社員の就業状況を仕事内容や仕事量ではなく、デスクに座っている、または社屋の中にいる時間で計測していたことを反省していただきたいと筆者は考えます。社員の管理・評価を仕事の内容や品質および成果でしっかり観察・理解している企業であれば、「今日何時間仕事したか?」という問い掛けは不要ではないでしょうか。あくまでも労務管理の管理義務として遂行しなければいけない項目については、法人の責任としてやらなければいけないことは前提のお話です。

「今までの就業管理・作業管理をいかにリモートワーク環境下で行うのか」という考え方ではなく、作業の内容や品質、完遂までのリードタイムで本質的に評価する方法への移行を真剣に検討をすべきです。筆者はよく、会社にいる時間がそのまま給与になると思っている従業員に対する不満・愚痴を耳にしますが、まずは「企業が座席に着席している時間で従業員を管理していませんか」と問い直してみて欲しいです。従業員がリモートワーク中に、ログインしている時間を計測したりカメラの前に座っている時間を計測するといった方法は、生産的な結果を生みません。あらゆる影響としてマイナスしか生み出さないことをここに明言しておきます。

【もっと詳しく】「私の評価がなぜ低いのか」に答えられますか?テレワークにおける人事評価の3つのポイント

リモートワークの難しい側面

自宅でリモートワークをされている方は多くいると思いますが、実際は自宅に就業環境が整備されていることは多くありません。家族が一緒なら、なおさら自宅はあくまでも生活に最低限必要な環境であり、空間設備が整えられていないことがほとんどでしょう。いざリモートワークをしようとしても自宅にはその環境が無く、リモートワークそのものが難しかったり、ストレスを伴ったりすることが少なくありません。

企業としては、リモートワークが社員のストレスにならないようなケアが必要になるでしょう。コワーキングスペースやワーケーションサービスなどの利用の検討をおすすめします。また、自社オフィスについても適切な見直しが必要です。常時自社オフィスに滞在するようなオフィス設計から、必要に応じてオフィスを柔軟に利用するための設計に変えていく必要があります。

常時従業員全員分の座席を用意する必要がない場合、適切なサイズのオフィスへの引っ越しを検討しましょう。適切なサイズは、どのくらいの頻度で何名くらいの社員がオフィスに来るかを見積もります。オフィス内部も、固定席が常時必要でない従業員の分はフリーアドレスにして、書類や文具などを収納できるロッカースペースを用意すると、省スペース化ができます。会議室は壁で囲まれたクローズドな部屋だけではなく、オープンなフリー会議スペースを設置する、WEB会議用の一人用のブースを設置するなど、リモートワーク環境に合わせた設計が必要でしょう。

【もっと詳しく】そろそろ検討すべき?オフィス改装の重要性やメリットを解説【初めてのオフィス改装】

一番の課題はチームワーク力の醸成

ここまで検証してまいりますと、やはり経営者が懸念すべき課題は以下ではないかと考えます。

・コミュニケーションやチームワークの希薄化
・従業員の環境変化での身体的・精神的リスク

ペーパーレス化やリモートワーク環境を整えれば、従業員が離れた場所で効率的に業務を進めることは可能です。しかし、チームワークの基盤となる従業員同士の信頼関係や親近感をリモートのコミュニケーションだけで維持・醸成していくことは難易度の高い取り組みでしょう。

デジタルの適用を進める役割である筆者も、全国の取引先やお客様、関係者各位には、デジタルとアナログのコミュニケーションを組み合わせて仕事を進めています。やはり、最初の信頼関係構築や、複雑で難易度の高い議論を行う場合には、対面で行ったほうが遥かに大きな効果が得られます。デジタルのコミュニケーションだけでは、細やかな相談や悩み事を共有するといった感情面での踏み込みが必要なコミュニケーションを相互に行える関係性の構築が難しいこと、物事を構想/設計するレベルの議論が活性化しにくいことは、すでにご経験があるかと思います。

この点を考慮して、上手にアナログのコミュニケーション機会をリモートワークの環境下でもバランスを取って業務・運用設計していくことが大切です。以下のような業務イベントは敢えて対面で実施するように定義し、従業員の皆さんにもその意図を丁寧に説明することで、チームワーク醸成のよい機会にすることができます。

・業務研修・OJT
・定期的なチームミーティング/ディスカッション
・上司またはスーパーバイザーなどの1on1ヒアリング
・戦略・作戦会議などのクリエイティブを求められる会議

同時にモチベーション向上を企図して、就業後の懇親会などを併せて企画することも効果的と考えます。もちろんここでの参加を義務にすると逆効果になるのでご注意ください。オフラインで信頼関係をより強化していく活動を敷石とすることで、リモートワークをさらに活性化する環境整備が整います。

【もっと詳しく】対面で行うアクティビティも!チームワークを醸成する「チームビルディング」とは

最後に

現在の経済・社会的状況はおそらく大きく過去に戻ることはないでしょう。というよりは、国際的な日本の競争力を維持するためにも後戻りは許されません。経営者の皆様には今の状況をよい機会と捉えて頂き、行政の提供する補助・支援制度なども最大活用しながら、強い経営基盤を実現していただきたく思います。

*mits、PanKR、takeuchi masato、タカス、kou、kouta / PIXTA(ピクスタ)

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