「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」。これは19世紀に分裂していたドイツを統一し、名宰相と言われたビスマルクの言葉です。ここで「賢者は歴史を学ぶ」ではなく「賢者は歴史から学ぶ」となっていることがポイントです。
「歴史を学ぶ」だと単に歴史そのものを学んで終わりますが、「歴史から学ぶ」となると歴史から学んだことを現代にも活かしていくという語感があるからです。
それでは、本記事をお読みのみなさんは、歴史から学んだことを現代に活かせている実感があるでしょうか。みなさんの中には、「歴史は学生時代から苦手」という人や、「大河ドラマから歴史は好きなものの現代に活かせていない」という人もいるでしょう。私の実感として、残念ながら歴史から学んだことを現代に活かせている人は少ないと感じます。
筆者自身、小学生の頃から歴史が好きだったものの、長年「歴史は歴史、現代は現代」と思っていました。しかし、経営コンサルタントとして20年弱過ごした経験から、歴史からの学びは現代でも活かせると今では確信しています。特に、経営者の方々と向き合うことが多いため、リーダーに求められる役割について歴史から学べることは多くあると感じています。
本記事では、リーダーに求められる役割について、歴史から学べることを5つ取り上げ、歴史上の人物の取り組みを紹介し、そこから現代に活かせることについて考えてみたいと思います。
目次
歴史から学ぶリーダーに求められる役割とは
筆者は、歴史から学ぶリーダーに求められる役割として、次の5つのことを考えています。
- 理想を示して導くこと
- 自分を高めて成長すること
- メンバーのやる気を高めて強みを活かすこと
- ライバルと戦いつつ学び合うこと
- 将来につなげること
それぞれ、歴史から学べることと、現代に活かせることについて考えてみます。
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1. 理想を示して導くこと
変革期のリーダーほど、目指す理想の姿を示し、その実現に向けて組織を引っ張りました。
歴史上では、織田信長が目指した「天下布武」は、各地の戦国大名により分裂していた日本を武力により天下統一するものでした。また、明治維新のリーダー達が目指した「富国強兵」は、西洋列強の侵略の脅威に対して、国を豊かにし、武力を強化するものです。こうした理想を示すことにより、信長であれば織田軍団を、明治維新のリーダー達は日本そのものを引っ張っていったのです。
現代においても、時代の流れや自社を取り巻く環境の変化を踏まえながら、経営者が理想とする姿を示していきます。たとえば、自動車部品メーカーの経営者であれば、自動車のEV化(脱炭素社会の実現に向け、電気自動車の普及が進むこと)の流れを踏まえて、EV化に向けた部品の開発・供給をリードすることを目指すことなどがあります。
このような理想とする姿は、経営計画の中で伝えるほか、機会があるごとに経営者から社員のみなさんに伝えていくことが大事です。
2. 自分を高めて成長すること
優れたリーダーは学び続けることにより、自分を高め、組織をより高みに引っ張っていけるように努力します。
歴史上では、江戸幕府を開いた徳川家康は、鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡(あづまのかがみ)」や中国の古典「貞観政要(じょうがんせいよう)」などを読みこんでいました。「貞観政要」は部下からの諫言(かんげん)の大事さを伝える本で、徳川家康のほか、北条政子や明治天皇なども読んでいます。家康は本書を読んでいたこともあり、家臣からの直言や諫言を大事にしていました。
現代であれば、リーダーとして現在の時代の流れや取り巻く環境を新聞やビジネス書などから学ぶとともに、リーダーとしてのあり方を古典的な名著から学ぶことも大事です。長い年月の風雪を耐えて残っている名著には、現代のリーダーにも学べることが多くあるのです。前述の「貞観政要」のほか、中国古典の「論語」や「孫子」にもリーダーのあり方として参考となることが数多く書かれています。
3. メンバーのやる気を高めて強みを活かすこと
大きな成功を収めるリーダーほど、メンバーのやる気を高め、その強みを活かそうとします。
歴史上では、戦国時代に小田原を中心として関東を治めていた後北条氏の2代目北条氏綱は、遺言にこんなことをいっています。
「侍から農民にいたるまで、すべてに慈しむこと。人に捨てるようなものはいない」
「その人の長所を活用して、短所を使わない。どんな人も活用することこそ、名将という者である」
人の強みを活かそうとする信念を感じる言葉です。戦国時代は生き死にがかかっていただけに、すべての人の強みを活かしきって戦に勝ち抜こうとしたため、強みを活かせる人こそが名将だったのです。この言葉を残した北条氏綱自身、家臣の強みを活かして領国を広げています。
現代においても、リーダーがメンバーの強みを見つけ、活かそうとする姿勢が重要です。但し、リーダーの視点のみではメンバーの強みが見つけられないこともあります。そうしたときはメンバーの同僚や部下・後輩のメンバーに対する評価も確認します。近年は社員の強みを調査する外部機関もありますので、こうした調査も活用できます。
確認されたメンバーの強みと、それぞれの仕事で求められる強みを合わせることにより、メンバーの強みを最大限活用できます。
4. ライバルと戦いつつ学び合うこと
厳しい環境に勝ち抜くためにライバルと戦いつつ、ライバルのよい面は学ぶ謙虚さも重要です。
歴史上では、徳川家康は長年、ライバルとして武田信玄や武田家に苦しめられました。多くの家臣を失っているため、武田家を恨んでも不思議ではありませんが、恨むどころか武田家滅亡後は武田家家臣を多く採用しています。旧武田家家臣を取り込むことで、徳川軍団をさらに強いものとしたのです。
現代において企業経営者は、国内はもちろん、海外のライバル企業との戦いに直面しています。しかし、ライバルと戦うだけでなく、ライバルの戦い方を学ぶことも重要です。その中にはライバル企業に勤務していた人を採用し、その人から学ぶということもあるでしょう。
思えば、明治維新では多くの「お雇い外国人」により近代化を進めました。グローバル化が進んだ今こそ、海外のライバル企業からの「お雇い外国人」が必要かもしれません。
5. 将来につなげること
リーダーは自分がいる間だけではなく、自分がいなくなった後にも理想を追求してくれる人材を育てることが重要です。
歴史上では、幕末の薩摩藩主 島津斉彬(なりあきら)は薩摩の次世代を担うリーダーとして西郷隆盛を抜擢し、育成しました。島津斉彬は、世界情勢や日本の危機から、日本が一つになって富国強兵を目指す必要性を西郷隆盛に直接教えていきました。島津斉彬は志半ばで亡くなりますが、その教えを受けた西郷隆盛は明治維新を実現し、日本が一つになって富国強兵を目指す理想を実現します。
現代においても、リーダーが次世代の経営幹部と期待する人材を抜擢し、教育することは重要です。教育の中では理想を共有するとともに、その実現に向けた計画の策定や実践も併せて実施すると、より実践的なリーダー育成となります。
本記事では、リーダーに求められる役割について、歴史上の人物の取り組みから現代にも活かせることを5つ紹介してきました。この実践を通して、歴史から学び、賢者のリーダーとなっていただければ筆者としては幸いです。
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