OJTを機能化する方法とは?配属先の社員を成長させるポイント
前回は配属先で新入社員を潰さない方法として、新入社員の成長と定着を促進するために組織を挙げて取り組む必要性、新入社員の傾向を踏まえたOJTのあり方についてお伝えしました。
今回はさらに踏み込んで、実際の職場でOJTを機能化させるために必要なことを解説します。
【前回はこちら】現代の新人とどう関わる?配属先で新入社員を潰さない方法
目次
前回の振り返り:新入社員の育成は“四位一体”
前回お伝えしたことを一言でまとめると、「新入社員の育成は“四位一体”で取り組むことが重要」ということです。
四位とは、人事担当者、現場のマネジャー、OJTリーダーおよび職場メンバー、そして新入社員のことです。四位一体の実現のためには、新入社員の成長につながる情報を関係者で共有し、共有されたものに共感し、協働していく必要があります。単なる作業分担や仕組み、ツールそのものだけを指しているわけではありません。四位一体の肝は、「連携」のあり方を関係者で合意することです。「みんなで育てる」というスタンスを持ちましょう。
しかし、ここまで話してきたことはあくまでも理想論です。実際に現場で“四位一体”を実現しようとしても、「そうはいっても……」という本音があるのではないでしょうか。
各レイヤーが抱える育成の本音
会社の規模や業界、組織・風土、働いている人など、1社1社が抱えている状況はそれぞれ異なります。理想論をそのまま当てはめてもうまくいきません。実際には理想論を手掛かりに自社ならではの特定解を模索し、つくり上げる必要があります。
そして、新入社員に成長を実感してもらいながら「この仕事をこの会社で続けていきたい」と思ってもらえるような関わりを意識していく必要がありますが、新入社員もその組織の一員として自らの成長に責任を持つ必要があります。どちらかが妥協したり、育成側が新入社員に迎合するということではなく全員が変わっていく必要があるのです。
では、配属先の上司や先輩はいかに新入社員と関わるべきなのでしょうか。その具体策を解説していきます。
適切な新入社員との関わり方とは
“四位一体”を実現するカギは、新入社員の育成に対しての共通のモノサシを持つことです。
上の図は一例ですが「ビジネスパーソンの成長のステップ(入社から3年間)」を表しています。
成長のモノサシとは、「いつまでに何ができるようになれば(=どのような状態になれば)OKか?」を見える化したものです。
新入社員の場合、「自分は今どこにいるのだろう?」「順調に成長できているのだろうか(遅れていないだろうか)?」「次の成長テーマは何だろう?」と、成長のモノサシをはっきりと認識することで安心感につながります。
人事部が用意できるのは、テクニカルなものではなくビジネスパーソンとして普遍的なものになりがちですが、部門・職種別でより具体的なものを作成しましょう。
営業職版「成長のモノサシ」
これは営業職の例です。とある商社さんとの取り組みで営業パーソンの育成にあたっての成長ステップを整理しました。
会社、部門、職種ごとなどによってさまざまですので、「これ」といった正解はありません。ただ、このようなモノサシがないと育成が場当たり的になり、メンバー間で成長のバラつきが出やすく、配属先の上司による当たり外れリスクが高くなります。
もし、このようなモノサシがないようでしたら、早急に作成することをおすすめします(以前つくったけど、そのあと更新されていないという場合は最新版にアップデートしてください)。作成後は、現場のマネジャーやOJTリーダー、先輩社員、新入社員で共有し、日常の共通言語にするとよいです。
新入社員の早期育成に、成長のモノサシは不可欠です。モノサシを前提にどのように新入社員と関わっていくかについてですが、「人の欲求構造」に則った関わり方を原則とすることが重要です。
人の欲求構造に則った対応
新入社員からすれば、まず自分が職場で受け入れられているか、一員として認められているかという欲求が満たされなければ「ここで頑張っていこう」という気持ちを持てません。たとえ職場に受け入れてもらっていると感じたとしても、できることを増やして「この職場でやっていける!」という自信を持たないことには「貢献したい」という段階にたどり着けないのです。欲求構造の順番どおりに関わっていくことが必要です。
相互理解のコミュニケーションが重要
最初の「受け入れてもらいたい」の段階では職場内で新入社員との信頼関係を築くことが重要です。そのためには、相互理解のコミュニケーションが欠かせません。
具体的には、新入社員を理解しようとすること、そして新入社員に自分自身のことを理解してもらうことです。新入社員を理解するためには、マネジャーやOJTリーダーは相手の話を聞いて共感すること、話しやすい状況をつくることが必要です。イライラしていたり、眉間にしわを寄せてPCに向かっていたりすると新入社員は「忙しそうだから声をかけるのをやめておこう」と委縮してしまう可能性があります。
また、自分自身を理解してもらうためには、仕事に対する考え方やプライベートのことについて、さまざまな場を活用し率先して自己開示していくことです。堅苦しく伝える必要はなく、自分の言葉で相手に伝えることでより理解が促進されるでしょう。このように、相互理解の関係ができているか? を手がかりに、普段の関わり方を工夫していくことが重要です。
経験学習サイクルの促進
次の「自信を持ちたい」の段階では、できることを少しずつ増やしていくために「経験学習サイクル」の促進を意識して対話するという関わりが重要になってきます。
経験学習サイクルというのは、アメリカの教育学者であるデヴィット・コルブ氏が提唱したものです。経験を積み、振り返り、概念化して教訓を引き出し、実践し、さらにその実践した経験を振り返る、この繰り返しで学びを深めていくサイクルです。業務に習熟していない段階の新入社員がこのサイクルを回して、一つひとつできることを増やすためには、まず仕事の全体像、目的、手順、期待するレベルを説明し、疑問点は対話の中で質問してもらい、仕事のWhat/Why/Howを理解させます。
さらに、その仕事の経験が新入社員にとってどのような意味があるのか、その仕事を通じてどのような力をつけてほしいかを説明して動機づける。そういう丁寧なコミュニケーションを基に①具体的な経験に向かわせる必要があります。
①具体的な経験から②振り返り③概念化④次の実践の各段階ではOJTリーダー、場合によっては上司や先輩、人事の方など関わる人たちが経験学習サイクルに則った「問いかけ」をすることが重要です。
上図の通り「何がうまくいったの?その理由は?」「どんなことが学びになった?気付いたことは?」「じゃあ次は何にチャレンジしようか?」「実践の時にサポートが必要?」といった問いかけが例としてあげられます。新しい経験が多いからこそ、経験がしっかりと学びにつながるように②振り返り、③概念化を丁寧に問いかけて促進することが大切です。
問いかけで言語化・整理させる
知識やプロセスは整理されて記憶に定着します。また、自分自身の行動を振り返ることで、成功に再現性を生み出すことができます。そして、うまくいかなかったことがあれば次に同じミスを繰り返さないようにすることができるのです。
「頭の中で何となく考えて終わりにさせない」ためにも、問いかけることで「なぜうまくいったか?いかなかったか?」「次に活かせる成功法則や教訓は何か?」を確実に言語化しましょう。
また、振り返りや概念化の中でフィードバックも大切です。次の図にポイントをまとめました。
状況に合わせた指導方法
さらに、経験を積ませていくなかでも新入社員の理解度によって指導の仕方を使い分けていくことも欠かせません。
前提は、新入社員をよく観察し、どのような状況かを把握することです。そのためにも新入社員本人もさることながら、周囲にも耳を傾けて状況を把握しやすくすることが必要です。
そのうえで指導をする側が自分のやりやすい方法にこだわり、ワンパターンになることなく状況に合わせて上図にある教示やアドバイス、質問による援助、行動による援助、再統合を使い分けて指導することで、新入社員の成長の速度が上がり、成長実感も得られやすくなります。
成長意欲を上げる日頃の声掛け
最後に「貢献したい」の段階です。
新入社員にいきなり大きな貢献を求めようということではなく、小さな貢献であっても「ありがとう」と感謝の言葉で返します。やってくれたことを承認し、「こんな貢献につながっているよ」とひとこと添えるといった関わり方が有効です。
人は感謝されたり、貢献を実感できたりして嬉しい記憶が残ればその行動を繰り返すようになるものです。当たり前のことだと思うかもしれませんが、新入社員に貢献感を持ってもらうために意識して声をかけていくことです。
新入社員への日ごろの声掛けは上図のA、Bどちらの比率が高いでしょうか? Aのような仕事の進捗ありきのコミュニケーションばかりでは、貢献感や面白みは感じづらいものです。
Bのようなコミュニケーションを取ることで成長意欲を促せるだけでなく、新入社員がどんなことに関心を持っているかが分かるようになり、より貢献実感を持ってもらうためにはどうしたらよいかということを一緒に考えることもできます。
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新入社員の導入教育、OJTリーダーの教育に必要なこと
新入社員への導入教育で大切なポイント
最後に新入社員やOJTリーダーへの教育における大切なポイントをお伝えします。
まずは新入社員ですが、新入社員もその組織の一員として自らの成長に自らが責任を持つ必要があります。
新入社員の導入教育における最重要ポイントは、ビジネスパーソンとしての成長の仕方を学び、自ら成長していくための土台を築くことです。なぜなら、「成長マインドセット」や「成長の方法」を身に付けている人は、業務知識・スキルの習得速度が速いし、知識・スキルの活かし方も上手だからです。導入教育としてこの土台がしっかりとできてこそ、自身のキャリア、成長を誰か任せにすることなく、自律的に成長する人材として定着する可能性が高まるのです。
OJTリーダーへの教育で大切なポイント
続いてOJTリーダーへの教育のポイントです。まずは、新入社員と同様にOJTリーダーにも指導者として自ら成長していくための土台づくりをすることが求められます。
自分にとっての意味付け
OJTリーダーを担うことは、自分自身にとってどのような価値があるのか? 自分のキャリアにとって何のメリットがあるのか? を掘り下げ、内発的動機を高めます。
周囲への貢献
OJTリーダーを担うことは、新入社員や 所属部署(上司)、組織全体、そして顧客にとってどのような価値があるのかを理解し、自分が担うことになる役割が全体への貢献につながることを実感できるようにします。
そして、OJTリーダーの上司にあたるマネジャーが、OJTリーダーと新入社員間のコミュニケーションの頻度や深さ、その傾向、新入社員以外の職場メンバーの巻き込み方を見守りながら、新入社員や周囲との信頼関係が薄れたり、抱え込み状況が見られたら介入し、OJTリーダーとしての役割を果たすことができるように関わっていくことが重要です。
新入社員の導入教育に向けて自社で取り組むことを考える際の一助になれば幸いです。
*polkadot_photo / shutterstock
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