登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 「最近の若者は…」と思ったら。世代間ギャップを埋めるためにすべきこと 
上司 悩む

「最近の若者は…」と思ったら。世代間ギャップを埋めるためにすべきこと 

2022.10.04

この春の法改正(ハラスメント対策強化)の話題もあり、経営者や管理職の方々からは、若手世代とのコミュニケーションに悩んでいるという相談が多く寄せられるようになりました。

今回は、一般社団法人 日本ES(人間性尊重経営)開発協会の代表理事である筆者が、若手世代とのコミュニケーションを円滑にするために知っておきたい考え方や改善策をご紹介します。

「最近の若者は…」に要注意

まず注意しなければいけないのは、「最近の若者は」という言葉です。「最近の若者」という括りが具体的にどのような年齢層や特性を指しているのかは人によって意味が異なります。“若者”とひとくくりにしても、当人が育ってきた環境等によって特性はさまざまであり、それらを総合して「最近の若者は〇〇である」という断定的な言い方をすることは、真意や背景を掴みづらくなり、円滑なコミュニケーションを阻害してしまいます。まずは、「うちの若手は~」「最近の若者は~」と言いたくなった時に、自分自身の固定的な物の見方・捉え方が投影されていないか、確認する必要があるでしょう。

コミュニケーションの問題は、世代に関わらず、すべての年代に共通するものです。上司・部下間、部署間、同じ職場の中、チーム内等、様々な境を超えた情報共有や意思疎通において、必ず直面する課題でもあります。だからこそ、そもそも自分自身がどのようなことを伝え、どのような関わりをもちたいのか、あるいはどのような職場や組織をつくっていきたいのか、自分自身のビジョンをまずは明確にする必要があると言えます。

【こちらの記事も】社員が定着しない…見落としがちな中小企業の人材確保のワナ

価値観の変化を掴む必要性

一方で、個々の価値観の変化に気づくことも重要です。例えば、2019年に発表された調査によると、新入社員における“就労意識”は下記の通りです。

1位 社会や人から感謝される仕事がしたい
2位 仕事を通じて人間関係を広げていきたい
3位 ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい
4位 どこでも通用する専門技術を身につけたい
5位 高い役職につくために、少々の苦労はしても頑張る

出典:「平成31年度新入社員『働くことの意識』調査結果」 / (公財)日本生産性本部/(一社)日本経済青年協議会

リーマンショック直後の2009年に発表された同調査結果では5位以内に入っていなかった「ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい」が上位に挙がっていると共に、「社会や人から感謝される仕事がしたい」が1位になったのが、この2019年の調査でもありました。高度経済成長期、バブル崩壊後、就職氷河期等、育ってきた社会環境は人によって異なります。そのときの社会の姿や、その影響をうけた大人たちの中で形成された仕事観が、時代によって変化するのは当然のことです。

個々の価値観の多様性に気づくことなく、「自分が育ってきた時と同様のアプローチで今の若手社員も育つはず」と決めつけてコミュニケーションを取ろうとすることは危険です。当人にとっては締め付けにもなり得るため、「考え方が合わない」「言いたいことを言えない」等の不満・不安要因を増長することになりかねません。世代に限ったことではありませんが、個々の社員が“何を大切に”“どのような目的で”自社を選び、日々仕事をしているのかをまずは認識し、どのような働きかけをしていくか考えていく必要があります。

【こちらの記事も】社員が「休みたいのに休めない」慢性的な人手不足を解消するためにまず取り組むべきこと3つ

若手社員とのコミュニケーション改善に向けてできること

まずは関心をもって話を聴いてみる

コミュニケーションをより良くする一つの策として、“1on1ミーティング”があります。1on1ミーティングの目的は、成長支援をする場であると言われています。上司が伝えたいことを言い諭す場ではなく、部下が考えていることやモヤモヤしていることをまずはしっかりと“聴き”、課題解消・ビジョン共有の機会として、“定期的に”“高頻度で”かつ“短時間で”行なっていくことが重要です。

1on1ミーティングでは、関係性の質の向上、個々の幸福度や行動の変容といった人間性に着目した対話をしていきます。いくつかの問いかけを重ねながら、小さなところから、自己肯定感や貢献意識、信頼関係を強化していく機会と捉えると良いでしょう。

メンター制度を導入する

若手社員に対し、直属の上司ではない“斜め上”の先輩が、働く上でのマインドや職場の文化を伝え、成長を後押しする“メンター”を仕組み化するメンター制度も効果的です。新卒・若手社員にとってのメンターは、配属先の人間関係や、あいさつ・電話対応などのマナー、報告・連絡・相談の仕方や迷ったときの判断軸など、社会人として大切な“職場が有する見えない資産”を教えていく大切な存在です。

これからの時代のメンターに求められるのは“つなげること”と“見える化すること”です。“職場が有する有形・無形の資産”を言葉で伝えていくことで、メンバー個々が自社の文化や仕事の意義に触れやすくなり、より良いES(従業員満足)の状態で働き続けることができるようになる、という点に導入の意義があるのです。

【こちらの記事も】従業員満足度(ES)とは。具体的なES向上施策を解説

職場の中につながりを増やす

“孤立”を防ぐことも必要です。時に独りでじっくりふりかえる(内省する)機会を持つことは重要ですが、それが“孤立”になることは避けなければなりません。そのために、“当人”と“上司や同僚”という関係性、あるいは3点目の存在として“メンター”との関係性といった多様なつながりを、仕事を通して生み出していくことが重要になります。つながりは、一様に強く太くある必要はありません。ちょっと話を聞いてもらう、たまに顔を合わせて昼を食べる、毎朝あいさつだけは交わす、といった“弱いつながり”の存在が、功を奏することも多々あります。

とにかく問題が生じると、私たちは“当人”そのものにフォーカスして、そこを起点とした関係性を改善しようと躍起になり(上司・部下の関係性の改善、職場内の人間関係の改善、顧客との関係性の改善等)、それがうまくいかないために疲弊する、といったことが起きがちです。しかし、“強いつながり・弱いつながりなど多様なつながりを職場に増やす”という視点で考えると、孤立を防ぎ、新たな解決策の道筋が見えてくるかもしれません。

社員体験価値を意識した人事施策を考える

このような施策を運用するうえで押さえておきたい考え方として、“EX(社員体験価値)”があります。働くうえでの体験価値は、入社初日だけで高まるものではありません。組織として考えれば、入社後、新しくお客様を担当したり、新しい業務を任されたり、研修に参加したり、外部の場に出たり、家庭の事情で働き方を変えるタイミングが来たり……というすべての機会が、体験価値の対象になります。

また、それらが“価値として強化される”ために、“内的動機(心の火種)が刺激される(やりがいを感じる・ワクワクする・幸せな気持ちになる等)のはどのような瞬間か”を考え、そのような心の火種を刺激する機会・場を演出していく仕掛けが必要になってきます。心の火種には、例えば以下のようにいくつかの種類があります。

・承認:周りから認められること
・成長:自己のキャリアを高めるための機会を得ること
・能力の発揮:自己の興味関心や強みを活かせたり深められているという実感
・人間関係:良いチームワークで取り組めていること

心理的安全性を踏まえた職場づくりをする

心理的安全性(Psychological Safety)について、エドモンドソン教授(ハーバード大学)は、下記のように定義しています。

チームにおいて、メンバーが発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えられるようなことがないという確認をもっている状態であり、チームはリスクをとるのに安全な場所であるという信念がメンバー間で共有された状態

出典:“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams” /  Amy Edmondson(1999)

心理的安全性の高いチームとして機能するために大切になってくるのが、“フォロワー(チームメンバー)のリーダーシップ”と“リーダーのフォロワーシップ”であると言われています。フォロワーのリーダーシップとは、「いまこんな問題が生じているからこうした方が良いのではないでしょうか」と現場の情報を正しく共有したり意見具申することです。そして、リーダーのフォロワーシップとは、例えば「自分はこういうところが苦手だからこういう時は助けてね」とメンバーに投げかけ共有することです。

とかくメンバーには「リーダーは何でもできる人」という潜在的な意識が生じがちです。リーダーが「あなたはまだ新人だからそういうこと言わない方が良い」と促すと、リーダーのリーダーシップが全てとなり、フォロワーとしてのリーダーシップは消え去ります。フォロワーのリーダーシップが消えるということは、現場で何か問題が生じた時に率先してその状況を把握して皆で共有しようと動いたり、問題解決のために周りに自ら働きかけたり、というメンバー一人ひとりの問題解決力が低下するということです。結果として、「何か問題が起きたらリーダーが動いてくれる」という意識構造ができてしまいます。

だからこそ、リーダーが“フォロワーのリーダーシップ”の発揮をフォローする(促す)ことが重要なのです。そのためには、常にそれを示し続けないといけません。現場の情報を共有する意味・目的、リーダーである自分が助けてほしいこと・大切にしていること、なぜそれが大切だと感じるのかの経験値等。それをリーダー自らが語り続け、謙虚に弱さを見せていくことから、フォロワー自身も語ることを促す空気感をつくることができるのです。

 

若手世代とのコミュニケーションについて考えるとき、まずは1on1ミーティングやメンター制度等を利用して、積極的に対話の機会を設け、“どんな価値観を大切にしているのか”“この組織で何を実現したいのか”といった考え方を知っていくことが大切です。そして、EX(社員体験価値)や心理的安全性の考え方を踏まえて、一人ひとりのキャリアのあり方に焦点を当てつつ、施策を回していく必要があります。

そのためには、“語り(ナラティブ)”を大切にした組織風土をつくることも重要です。責めるのではなく“聴く”“促す”という姿勢をもって、リーダー自身が語り続けることで、メンバー自身も安心・安全な空気感のもとで語ることができるのです。

【もっと詳しく】「ナラティブ」とは。中小企業がとるべきハラスメント対策

*shimi、Luce、takeuchi masato、foly / PIXTA(ピクスタ)