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パソコンを操作している男性

社員から内部告発にあったら?経営者がすべき対処【弁護士解説】

2024.12.09

兵庫県の斎藤知事が、内部告発した職員をかえって処分したという事件がありました。この内部告発の対応をめぐり、批判が寄せられています。これまでにも、地方テレビ局の社長によるセクハラ、食肉の偽装問題、自動車企業のリコール隠し、宅配企業の過大請求など、有名な内部告発事案が多数ありました。告発への対応を誤ると、企業にとって非常に大きな損害が生じるでしょう。

本記事では、社員から内部告発があった際、経営者はどのように対応するのがよいのかを、弁護士である筆者が解説します。

内部告発とは

内部告発とは、企業の内部にいる社員等が不正を告発することです。企業内の不正を早期に発見することが期待できる一方、企業側は不正を隠そうとして、内部告発者の迫害に動くこともあります。

そこで、公益通報者保護法により、社員数(アルバイトや契約社員、派遣労働者等も含む)が300人を超える企業には、内部通報制度の導入が義務付けられるとともに、それ以外の企業でも、内部通報制度の整備をする努力義務が課されています。
【参考】公益通報者保護法に関するQ&A(基本的事項)/消費者庁

【こちらもおすすめ】【2022年6月施行】改正公益通報者保護法の内容を弁護士が解説!

内部告発への対応・内部通報制度の整備が重要な理由

内部告発に真剣に対応することで、企業は不正行為を早期に正せるでしょう。一方、内部告発者の情報を守らなかったり、不利益な扱いを禁止したりしないと、内部告発をしようという社員はいなくなります。そのような企業では、致命的な状況になるまで不正が拡大してしまう可能性があるかもしれません。

SNSが発達している昨今、ネットなどで企業の不正情報が報告されると一気に拡散されます。それによって、企業の存続さえも危ぶまれるような事態になりかねません。告発者を守るために内部通報制度を設けている企業では、不正をあらかじめ防げるので、致命的な事態を抑えることが可能です。そしてそのような取り組みにより、自然に企業価値が高くなることも期待できるでしょう。

一方、内部通報制度を整備していない場合、消費者庁による行政措置(報告徴収・助言・指導・勧告)の対象となり、場合によっては企業名が公表されることもあります。さらに、内部通報者保護に関して違反をした場合などは、過料の制裁を科されることがあります。
【参考】公益通報者保護法に関するQ&A(基本的事項)/消費者庁

【こちらもおすすめ】自社の役員・取締役が不正や不祥事で責任追及されたら!? 経営者が対応すべき内容を解説

内部告発されたときの流れ

公益通報者保護法によって対応が必要なのは、基本的には犯罪行為に対してです。横領行為や性犯罪行為などが、これに当たります。ただ、犯罪とまではいえないパワハラやセクハラの内部告発についても、同じように対応しましょう。
【参考】内部通報制度を活用して信頼度UP!/消費者庁

1. 告発者の情報を保護する

内部告発があったときには、まずは告発者の情報を守ることが重要です。特に、告発を受けた側が告発者の正体を知った場合には、報復行為がなされることが予想されます。そのような事態を招かないためにも、告発者情報の保護は絶対に必要です。

2. 事実調査をする

次に、告発内容が真実かどうかを調査する必要があります。これはできれば、外部の第三者機関に対応してもらうほうが望ましいでしょう。ただ、初期段階では内部調査もやむを得ない場合が多いです。いずれにしても、今回問題となった兵庫県知事のように、特に調査もしないで告発者を逆に処分するような事態は大きな問題を生じさせます。

3. 調査結果により対応を検討する

調査の結果、内部告発が事実だとされたら、相応の対応をとる必要があることは当然です。

一方、告発内容が虚偽だと判断された場合にも、それなりの対応は必要となります。少し前に、飲食店の厨房にナメクジが大量発生していたとの虚偽の告発をした元社員が、業務妨害で起訴されて実刑判決を受けた事案がありました。このよう悪質な告発には、それなりの対応が必要となるのは当然です。ただ、勘違いによる内部告発などを重く処分した場合には、今後の告発者が委縮してしまうことになります。その点は十分に配慮が必要です。

内部告発されたときやってはいけないこととは

内部告発に関連する判例は多く残されています。そのうち多数を占めるのが、「内部告発者に対して企業が不利益な扱いをしたことで、告発者が企業を訴えた事例」です。それらの企業が必ずしも「悪」であるともいえません。では、なぜこのようなことが起こるのかというと、恐らくは内部告発者に対する見方が、内部と外部で違っているからだと思われます。

外部から見た内部告発者は、「正義感に燃えた勇気ある人」です。しかし内部から見た告発者は、「役に立たないから出世できない変な人」「みんなの和を乱すつまはじき者」といった位置づけがなされていることが多いでしょう。だからこそ、そのような人からの告発は無視されたり、かえって処分の対象になったりするのかもしれません。まわりの社員たちも、内部告発者にあまりよい感情を持っていないことが多いようです。

企業や一般社員のこういう気持ちに、まったく根拠がないといえないことが難しいところです。しかし、だからこそ内部告発の対応については、しっかりと制度をつくり、制度通りの運用を機械的に行うようにすることが重要になってきます。はなから意見を聞かず告発を無下にすることは、行ってはいけません。

【こちらもおすすめ】不信感がより強く…「改正公益通報者保護法」の要点と不正の早期把握のために対応すべきこと

最後に

古代ギリシアの哲学者・ソクラテスは、まわりから「アブ」と喩えられていました。ブンブンうるさく飛んで、チクリと刺すアブによって目を覚まそうとはせずに、アテネの人はソクラテスを死刑にしてしまいました。内部告発者も、組織にとってはアブのような人です。うるさいということで処分せずに、組織が目を覚ますために活用することが望まれています。

*Daniel Beckemeier / shutterstock