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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 退職した社員がパワハラ告発。これは有効?会社が取るべき対応とは【弁護士が解説】
パワハラ

退職した社員がパワハラ告発。これは有効?会社が取るべき対応とは【弁護士が解説】

2023.02.13

パワハラは社員の在職中に行われる行為です。しかし、被害者である社員が退職した後、在職中に行われたパワハラの事実が告発され発覚することがあります。こうした社員が退職した後にパワハラの事実が告発された場合には、社員が在職中に告発があった場合とは異なる対応が必要となる場合があります。そこで、本稿では退職した社員からパワハラの告発があった場合の対応について解説します。

そもそも「パワハラ」の定義とは?

パワハラ(パワーハラスメント)については、労働施策総合推進法第30条の2で以下のとおり定められています。

第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

【参考】労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 / 法令検索

当該条項にある「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」が、パワハラにあたる行為です。ここでは”その雇用する労働者”とされていますが、”退職した社員が雇用されている間”に受けた行為については、パワハラにあたります。

なぜ退職後に告発するのか?

なぜ退職前のパワハラを退職後に告発するのでしょうか。パワハラを受けている社員は、上司等のパワハラの行為者に対して大きな恐怖心を抱いており、意思が抑圧されている状況にあります。そのため、在職中にパワハラの告発を行うと、パワハラの行為者からのさらなるパワハラされる恐れがあることから、退職をした後に告発をすることが考えられます。

とくに、中小企業においては、いくら匿名で告発を行ったとしてもパワハラ対象者に告発を行った事実が推測される可能性が高いこと、また、人数が少なく、オフィスも一部屋でまとまっているような場合には告発を行ったとしても行為者と顔を合わせない状況を作りだすことが難しく状況が抜本的に改善することを見込めないことから、在職中の申告を控え、退職後に申告することも多いのではないのでしょうか。

筆者が経験した例でも、社員が退職する最終出勤日に「パワハラがあった。会社に早く対応を取ってほしかった。今後同じことが起きないようにしっかりと調査をしてほしい。」と告げられた例があります。このように、本当は在籍中に対応を求めたかったもののなかなか言い出せず、退職の段階になった時に初めて告発する例があります。

なお、公益通報を行った者を保護する公益通報者保護法では、現在、退職後1年以内の者についても”公益通報者”として保護されることとなっています。

【こちらもおすすめ】【経営者も気を付けるパワハラ!】22年4月に防止法が義務化!ハラスメントに対する相談まとめ

退職後の告発対応の特殊性

厚生労働省の指針により、パワハラの告発があった場合、会社としては迅速かつ適切な対応をすべきとされています。具体的には、以下の対応を取ることが求められます。

(1)事実関係を迅速かつ正確に確認すること
(2)事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
(3)事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
(4)再発防止に向けた措置を講ずること

【参考】職場におけるハラスメント関係指針 / 厚生労働省

退職後の告発において特殊な点としては、まず被害者である社員が退職しているため、(2)の対応として配置転換等の措置を取ることはできません。また、(1)の事実関係の確認にあたっても、被害者である社員が既に退社しているため、事実関係確認のためのヒアリングを求めることが難しい場合があります。他方で、いくら被害者である社員が退職しているとしても、加害者が無罪放免となるわけではないので、パワハラの事実が確認できた場合には、(3)の措置として、注意指導や、懲戒処分の実施は行うべきでしょう。また、パワハラが今後起きないようにするためにも、再発防止措置として、社内研修などを行いましょう。

退職後も会社を訴えることはできるが消滅時効の可能性あり

パワハラは、パワハラを受けた社員の人格権を侵害する行為です。そのため、不法行為の問題となり、パワハラを受けた社員はパワハラの加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。また、会社は、職場環境整備義務として”パワハラが起きないようにする義務”を負っています。そのため、パワハラを受けた社員は、会社に対しても、”職場環境整備義務違反”を理由として損害賠償請求が可能です。これらの損害賠償請求は、民法上の権利であるため、必ずしも在職中に請求することは求められておらず、会社の退職後であっても請求可能であり、会社を退職した後であっても会社を訴えることは可能です。もっとも、退職後、いつまでも損害賠償請求を行うことができるわけではなく、消滅時効により損害賠償請求権が消滅する可能性があることには注意が必要です。

民法では、契約上の権利については、以下のとおり5年又は10年の消滅時効が定められています。

(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

不法行為に基づく損害賠償請求権については、原則として3年の消滅時効が定められていますが、”人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権”については、5年の消滅時効と定められています。パワハラを理由とする損害賠償請求権には、①契約上の債務不履行という構成と、②不法行為という構成があり、どちらかを選択することができます。仮に、①契約上の債務不履行(契約責任)の構成を取る場合には、パワハラの事実を知らないということは考えられないため、パワハラが発生してから5年の消滅時効となります。他方で、②不法行為の構成を取る場合には、仮にパワハラによって精神疾患にり患したような場合には、”身体を害する不法行為”として5年の消滅時効となります。他方で、そうした疾患にり患するほどではない場合は、3年の消滅時効となります。

パワハラで会社が訴えられた際の対応法・注意点

上記のとおりパワハラは会社が行うわけではなく社員が行います(組織的なパワハラは別です)。

したがって、会社としては”パワハラが起きないような環境を整備する義務”を負っているため、仮にパワハラが発生したとしても、会社としては、社員研修を徹底していたり、相談窓口を設置しパワハラの告発に迅速かつ適切に対処するなど、「パワハラが起きないような環境を整備する義務」を果たしていれば、パワハラを行った加害者に対する請求はともかく、”会社に対する請求は認められないこと”となります。そのため、会社が訴えられた際の対応としては、上記のような事情を主張していく必要があります。詳細については以下の記事もご参照ください。

【もっと詳しく】パワハラが発覚したとき、会社の法的責任を回避するには?【事例・弁護士が解説】

パワハラが起きないようにするためにできることとは

上記のとおり、パワハラで会社が訴えられた場合には、会社が”パワハラが起きないような環境を整備する義務”を果たしていれば会社に責任はないことになります。しかし、これらは、いずれも”パワハラがあった時点”にどうであったかで判断されるため、訴訟を起こされた後に対応しても反論は困難となります。したがって、常日頃から、ハラスメント研修、相談窓口の設置とその周知、パワハラの告発があった場合の迅速対応等を徹底しておくことが肝要です。特に退職者からの告発は、既に会社との利害関係がなくなった人からの告発であり、非常に重要な告発です。さらに、会社を退職した後にまでも告発をしてきたことから、相当な思いがあって告発してきたといってよいでしょう。そのような退職者の告発を無碍にせず、会社としては事実関係を調査し再発防止に努めるべきでしょう。

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