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謝罪会見

自社の役員・取締役が不正や不祥事で責任追及されたら!? 経営者が対応すべき内容を解説

2024.04.15

企業の不正・不祥事というと、従業員の横領や情報漏洩などがまず思い浮かびますが、これらの不祥事が、従業員ではない取締役などの役員によって引き起こされる場合もあります。

むしろ、取締役などの方が、一般の従業員よりも多くの経営情報を持ち、権限も大きいことから、こうした不正・不祥事の誘引が大きいともいえるでしょう。

そこで今回は、従業員ではなく取締役などが、不正・不祥事を行った場合の責任について説明します。なお、本稿では役員のうち特に問題になりやすい「取締役」を想定し、また、上場企業ではなく未上場の中小企業を対象して解説していきます。

取締役と一般従業員の不正・不祥事の違いとは

取締役による不正・不祥事と、一般の従業員のそれとの対応の違いとしては、取締役に対しては労働契約が締結されていないため、就業規則などに基づいた対応ができない一方で、会社法に定められた特別な責任追及の手段がある点が挙げられます。

すなわち、一般の従業員が不正・不祥事を行った場合には、就業規則の定めに従い、懲戒処分を検討したり、退職金を減額又は不支給としたり、損害賠償を請求するといった対応が考えられます。

他方で、取締役は会社と委任関係にあるとされており(会社法330条)、労働契約関係はないのが基本です。そのため、就業規則の適用もなく、懲戒処分などの人事上の措置を行うことができないことになります。

もっとも、取締役の不正・不祥事に対しては何も対応できないかというとそうではなく、取締役に対する責任追及については会社法で別途定められています。この点が、取締役と従業員との大きな違いとなります。
【参考】会社法330条 / e-Gov検索

取締役が直接的に不正・不祥事に関与していたときの対応手順

パターン1:直接的に不正・不祥事に関与していた場合

⑴解任

取締役が不正・不祥事に直接関与していた場合について、まず考えられるのは、取締役の解任です。

従業員と異なり、取締役は会社法上、株主総会(普通決議)によっていつでも解任することができます(会社法339条第1項)。取締役には、労働契約法による保護がなく、解任自体には理由を問いません。ただし、解任に「正当な理由」がない場合には、解任によって生じた損害を賠償しなければなりません(同条第2項)。具体的には、在任期間分の役員報酬を賠償することになります。

したがって、在任期間を10年とできる中小企業(非公開会社)では、残任期間が多く残っている場合があり、その場合には、解任に「正当な理由」があるかが大きなポイントになります。とはいえ、本稿で想定している横領などの不正・不祥事行為があるような場合には、「正当な理由」があることが多いといえるでしょう。

他方で、在任期間が残りわずかである場合には、あえて解任をせず、任期満了を待ったうえで不再任とすることも検討するとよいでしょう。もちろん、辞任を促すことも有効です。
【参考】会社法339条 / e-Gov検索

⑵損害賠償責任の追及

会社法では、取締役に対して特別な損害賠償責任を課しており、取締役がその職務ついて任務懈怠がある場合には、①株式会社に対する損害賠償責任(会社法423条)と、②当該任務懈怠によって損害を被った第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)があります(本稿では、紙幅の関係上横領などにより会社が損害を被ったケースを想定し、①について解説します)。

「任務懈怠」には、不正・不祥事のような法令に違反する行為だけでなく、経営判断の誤りも、例外的ではありますが対象になり得ます。

会社に対する損害賠償責任については、実際に会社側にたって訴訟を提起するのも取締役になるのが基本です。そのため、同僚意識から、他の取締役への責任追及が適切になされない可能性があることから、株主が取締役に代わって責任追及を行うことも認められており、いわゆる「株主代表訴訟」と呼ばれています(会社法847条)。

もっとも、所有と経営が一致していることが多い中小企業では、「株主=取締役」であることが多く、あまり利用されませんが、株が分散し、株主間でも対立があるような中小企業では株主代表訴訟が提起されることもあります。
【参考】
会社法423条 / e-Gov検索
会社法429条 / e-Gov検索
会社法847条 / e-Gov検索

⑶刑事責任の追及

横領のように、その行為自体が刑罰法規に触れるような場合には、刑事責任の追及も考えられます。

パターン2:不正・不祥事を見抜けなかった他の取締役の責任

取締役の責任との関係でもう一点重要であるのは、不正・不祥事に関与していなかった取締役の責任です。

取締役は、他の取締役の職務の執行に対して監督義務を負います(会社法362条第2項第2号)。したがって、自らは直接不正・不祥事に関与していなくとも、他の取締役の不正・不祥事を見抜けなかったことについて、他の取締役も任務懈怠(監視義務違反)が認められ、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

もっとも、通常会社経営は複数の取締役で業務を分担させており、他の取締役の業務を逐一監視しなければならないとするのは現実的ではありません。ですから、基本的には他の取締役の業務執行が適切に行われていると信頼してよく、何らかの適正さを疑わせる事情を知り得たような場合に限り、監視義務違反が成立すると考えられています(これを「信頼の原則」といいます)。
【参考】会社法362条第2項第2号 / e-Gov検索

【こちらもおすすめ】刑事責任を問われる場合も…企業で起こりやすい不祥事の種類と会社の責任

不正や不祥事を少しでもなくすために

冒頭で述べたとおり、会社と取締役との間には、労働契約関係がなく、服務規律等の就業規則のルールで行動を縛るということはできないのが原則です。また、取締役は経営層の一人であることから、そうしたルールによる過度な拘束が望ましくない場合もあるでしょう。

したがって、各取締役に対する経営層としての専門性を活かす一方で、不正・不祥事を防止するという観点がポイントになります。たとえば、以下のような対応をとることが考えられます。

①会社の支配権(議決権)を持つ

まず重要であるのは、会社の支配権(議決権)を確保しておくことです。

たとえば、取締役に対して最も強い牽制を与えるのは、報酬の決定権や、取締役の解任・選任の権利を握ることといえます。

さまざまな事情があり、株が分散していることもありますが、過半数、できれば特別決議を可決することができる3分の2以上の議決権を確保しておくことが望ましいといえます。

②取締役会や経営会議の定期的な開催と報告

次に重要であるのは、他の取締役による業務執行の監督機能をしっかりと機能させることです。

多くの中小企業では、本来は3か月に一度開催しなければならない取締役会を開催していないと思われますが、こうした取締役会や経営会議など、取締役が一堂に会する場で、業務の執行状況を報告させることは、他の取締役の不正・不祥事を見抜く重要な機会といえます。

したがって、取締役会などの会議を定期的に開催し、業務報告を受けることが監視義務のスタートになるのです。

③内部通報制度の充実

また、かねてから重要性が謳われている「内部通報制度」を充実させることも重要です。

上記のような取締役会などでの報告を受けていたとしても、他の従業員をも巻き込んで巧妙に不正・不祥事が行われているような場合、それを見抜くことは困難といえます。

そこで、社内の自浄作用として期待されている「内部通報制度」をつくっておくことが、不正・不祥事の発見の契機となります。

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従業員との違いを理解した適切なガバナンス体制の構築を

これまで述べてきたとおり、取締役は従業員と異なり、経営層としての専門性も発揮してもらう必要があるため、服務規律のようにルールでがんじがらめにすることが適当ではない場合があります。

そのため、業務の執行に裁量を与えつつも、適切に監視義務を果たすことができるよう最低でも定期的な業務報告を求めるなどし、ガバナンス体制を整えておくことが適当でしょう。

*metamorworks, aijiro, SmartPhotoLab, mojo cp / shutterstock

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