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未払い残業代

円満退職のはずが…実はよくある「未払い残業代請求」の事例と対処法を解説

2021.08.26

円満退社だと思っていた元従業員から、未払い残業代を請求されたらどうしますか? 「なんでいまさら……」「払わなきゃいけないの?」と驚くこともあるでしょう。

しかし、こういう案件は実はめずらしくはありません。また、未払い残業代は、会社側の主張が通らないケースが多いので、どのようなことが起こりうるのかということは経営者の方は知っておいた方がよいでしょう。

今回は、未払い残業代が請求が法的にどのように取り扱われるのかを解説し、対処法についてもご紹介します。

円満退社のはずなのに!元従業員からの残業代請求

実際に筆者がご相談を受けた労働案件を紹介しましょう。中小企業で10年以上勤めていた方が退職しました。それまで特に、会社と問題を起こすようなことはありませんでした。ところが、退職後3か月ほどしたときに、弁護士を通して、いきなり会社に未払い残業代の請求が来たのです。「一体どうしてこんなことになるのか分からない……!」パニック状態になった会社の方が相談に来ました。

実は、こういうケースは決して稀ではありません。会社の方は、従業員はみんな満足していると信じている場合も多いですが、必ずしも従業員は会社の対応に満足しているわけではないのです。内心では、「有休も満足に取れなかった」「残業代もほとんどもらえなかった」と、不満を胸に抱いている従業員は相当数いるのです。

ただ、会社で勤務している間は、なかなかそういう不満を表立って口に出せません。そこで、そういう不満が、退職を機に一気に噴き出すようなことがあります。最近はネットなどでも、未払い残業代請求を呼びかける士業の方などもたくさんいます。そういう情報に触れると、それまでの不満が爆発することがあるようです。

会社側は不利…未払い残業代でよくある争点

こういう事案の相談を受けると、まずは本当に未払い残業代があるのかを明確にする必要があります。これに対して会社側は「会社にはいたかもしれないけれども、同僚と雑談していただけで、定時後は仕事をほとんどしていませんでした。他の社員に聞いてもらえれば分かります」などと主張することが多々あります。会社の立場からは、本心からそう思っているのでしょう。

しかしながら、タイムカードの記録などから、その従業員が会社にいたことが証明されたならば、法的に争って会社側の主張を認めさせることは非常に困難です。会社にいた以上、事実上仕事をしていたと判定されることになります。つまり、仕事をしていない従業員は、無理やりにでも帰宅させることが会社には求められているのです。

筆者がそのことを説明しても、「辞めた従業員が仕事をしていなかったことは、他の従業員もみんな見ています。その証言をまとめて争いたいのです!」などと主張する会社もあります。会社の気持ちとしてはよく分かります。ただ、こちらもなかなか難しいことは間違いありません。

実際問題、多くの従業員は、会社で働いている以上、労働者という立場の弱さから、会社に対する不満をなかなか表立って口に出せないものです。そのため、会社に在籍している従業員が会社のために、辞めた従業員の残業時間内の行動について証言したとしても、その内容を重く見てもらうことは困難です。どうしても「無理やり言わされているのでは……」と疑われることになります。

双方にメリットが!まずは話し合いから

このような未払い残業代の請求が来た場合は、できる限り話し合いで解決することが、会社にとっても従業員にとっても得になることが多いといえます。

先ほど説明したように、タイムカードなどで本人が会社にいたことが証明されれば、会社側は裁判や労働審判などでもまず勝てないからです。それならば、裁判所での争い以前に話し合いの場で解決した方が得になります。そういう中で、会社といては従業員側に対して、できるだけ低い未払い残業代で納得してもらうよう、交渉することになります。

辞めた従業員側としても、裁判等の費用と時間を考慮すると、少々金額が下がっても、話し合いの解決が望ましいということがあります。特に相手方に弁護士が付いている場合、その辺の損得も考えて、従業員を説得してくれることもあります。

このような話し合いをするにあたっては、従業員の勤務時間や勤務態度などを示す証拠など、準備しておくことも大切になります。相応の金額まで下げられる可能性があると相手方が判断するように資料を準備することで、交渉自体が有利に進められることもあるからです。これらの証拠については、話し合いで解決しなかった際、このあと説明する労働審判でも使用することになります。

労働審判では減額を主張しよう

話し合いでの解決ができないときには、通常、労働審判で未払い残業代の問題は争われます。労働審判は、基本的に3か月程度で結論を出してくれる制度なので、従業員側としても使い勝手が良いのです。また、労総審判の場合は、必ずしも法律に縛られずに、一番妥当と考えられる解決内容を、審判として出すことができます。そういう融通の利くところが、労働審判が広く使用されている理由となります。

先ほど、本人が仕事を実際にはしていなかったなどということは、法的にはほとんど認められない主張だという話をしました。これはその通りなのですが、労働審判の場では、こういう内容の主張も、説得力がある限り出すことが望ましいといえます。辞めた従業員の方でも、自分で心当たりがあるならば、こういう主張が出てきたときに、あまり強く争えないようになることもあります。

また、裁判所としても、それなりの納得感のある内容が提示されたら、未払い残業代の金額を決めるときに、法律を離れてそれなりの減額をしてくれることも期待できます。

労働組合が出てくる場合も

これまでは、退職従業員が弁護士を使って未払い残業代を請求してきた場合を説明してきました。しかし、従業員が使用するのは、弁護士だけではありません。労働組合に加入して、組合から残業代についての話し合いを求めてくることもあるのです。

こういう場合、「なぜ会社をすでに辞めている従業員が、組合に入れるのか?」ということで、そもそも話し合いを拒否する会社があります。しかし、退職した従業員も組合に入って、交渉をすることは法的にも認められています。

このようなときにも、話し合いの進め方は、既に説明した弁護士が請求してきたときと基本的に同じように考えることができます。

【もっと詳しく】いきなり労働組合から団体交渉の申し入れが…どう応じるべき?【経営者の基礎知識】

 

多くの中小企業では、従業員との人間関係は重視しますが、制度としてのリスク管理は十分でないように思えます。そうした中で、本件のような退職者からの未払い残業代を請求されると、慌ててしまうことが多いです。

弁護士に相談する前の予備知識としても、本記事で記載した程度の内容(勤務時間・態度の記録、まずは話し合い……等)は、押さえておくことが望ましいと考えます。また、先に述べたように、仕事をせずに会社にいただけの時間を残業代として請求されないために、仕事をしていない従業員は帰宅させるような環境を作ることも検討したいものです。

* freeangle / PIXTA(ピクスタ)