いきなり労働組合から団体交渉の申し入れが…どう応じるべき?【経営者の基礎知識】
中小企業は、労働組合とは縁が無いほうが普通でしょう。ところが、いきなり組合から団体交渉の申し入れが来ることがあるのです。一体どうすれば良いのか、頭がパニックになるはずです。そんな経営者のために、団体交渉を申し込まれたときの対応について説明します。
突然だった団体交渉の申し入れ
筆者の事務所で、現実にあった事案について、少し事実を変えてみていきます。
勤務態度に問題のある社員に対して、会社側から、「このままの状態なら、辞めてもらうしかない」といった話をしていました。そうした中、その従業員が加入したという労働組合から、団体交渉の申し入れがあったのです。会社としては、組合だなんて考えたこともなかったのでびっくりしてしまいました。そもそも、会社の外部の組合が、なぜ会社のことに口をはさんでくるのか、理解できないところです。
そもそも団体交渉権とは?
団体交渉権とは、憲法上労働者に認められている権利です。労働者は経済的に弱い立場にあります。そこで、団結することにより、経営者と対等に渡り合うことを法律は認めています。そのために労働者が作る団体が労働組合です。
この組合には、会社内部で作るものの他に、特定の会社とは別に、会社外部に作られるものもあります。よく、「ユニオン」などと呼ばれている組合ですね。このようなユニオンに労働者が一人で加入することもできます。そして、ユニオンがその加入した労働者のために、会社に対して、勤務条件の改善などを求めてきます。これが団体交渉といわれているものです。
団体交渉は拒否できるの?
会社としては、その存在自体聞いたこともなく、会社とこれまで何の関係もない組合から、いきなり団体交渉をするように求められても、戸惑うだけです。なぜ、そのようなものに応じなければいけないのか、納得がいかない気持ちでいっぱいでしょう。
しかしながら、労働組合による団体交渉権は、憲法上の権利です。今回の例でいえば、従業員の勤務条件に付いての話し合いですから、会社としても無視することはできません。
応じないと不当労働行為になる?
労働組合が団体交渉を要求してくるときに、「応じないときには、不当労働行為として労働委員会に申し立てる」などと言ってくることもあります。不当労働行為というのは、労働組合の権利を侵害するような行為のことであり、労働委員会により認められると、会社には改善命令などの対応が命じられます。実際に、筆者の事務所でかかわった団体交渉でも、実際に不当労働行為として労働員会への申立がなされたこともあります。
ただ、この点はそれほど心配することはありません。組合はすぐに「不当労働行為」だと言ってきますが、現実に認められる事例はほとんどないと言っても良いでしょう。もちろん、団体交渉を全く無視すれば別ですが、組合の要望通りに開催しないからと言って、不当労働行為となることはまずないと考えて大丈夫です。
安易に締結しないで!労働協約とは
団体交渉を始めるにあたり、組合側は労働協約の締結を求めてきます。労働協約というのは、会社と組合の間の契約であり、非常に強い拘束力を有しています。組合対応に慣れていない会社の場合、安易にこの協約を締結してしまう場合があります。
しかし、一見大したことの無いような内容でも、会社にとっての足かせになりますので、原則として協約の締結は拒否するのが正しい対応となります。
労働者の権利には団体行動権もある
労働組合の権利として、団体交渉をすることに加えて、団体行動権(争議権)というものがあります。簡単に言うとストライキをする権利です。会社別の労働組合の場合は、使われることもあります。ただ、数人の従業員が外部の労働組合(ユニオン)に加入する場合には、ほとんど問題になりません。
筆者の事務所でも多数の労働組合との交渉を行ってきましたが、ストライキをすると言ってきた組合はひとつもありませんでした。
団体交渉をするときに知っておくべきポイント
ポイント1:団体交渉の日時は指定してもいい
団体交渉については、組合側から様々な要望が出されます。この要望について、会社としてどこまで認める必要があるのかが問題となります。まず、団体交渉の日時についてですが、労働組合の要望している日の都合が悪かったり、それまでには準備が整わなかったりする場合には、会社にとって都合の良い日時を指定してもまったく問題ありません。
場合によって労働組合側は、先に説明したように「不当労働行為だ」などと言ってきますが、対案である日時を出している以上、気にする必要は無いといえます。
ポイント2:団体交渉の場所と人数
団体交渉の場所についても、労働組合側が指定してくる場合がほとんどです。たとえば、会社の部屋を使うことを要求してきたり、逆に組合で行いたいと言ってきたりする場合もあります。ただ、会社で行うと、他の従業員の目に触れてしまいますし、会社に居座られる可能性もあります。また、組合で行う場合は、多数の組合員に囲まれて、事実上帰れなくなる場合もあります。
そこで、団体交渉の場所としては、外部の会議室などを借りるのが望ましいでしょう。外部施設なら、時間で借りるのでその時間が来れば事実上話し合いを終わらせることができるという意味でも望ましいですし、また人数制限もしやすいという意味でも望ましいといえます。
会議室の費用は、基本は折半ですが、大した金額ではないので会社が負担してでも、外部会議室の使用がおすすめとなります。
ポイント3:団体交渉の内容の範囲
団体交渉で話し合う内容について、あらかじめ組合から文書で提示されます。こちらについては、会社としてもあらかじめ文書での回答を作成しておくことが必要となります。ただ、内容によっては、政治的なものであったり、会社の経営権の範囲内の問題であったりと、労働組合との交渉には適さないものもあります。そのような場合には、理由を明確にして交渉を拒否することも可能となります。逆に、交渉しなくても良いことまで安易に交渉すると、組合側に付け込まれることになりますので、注意が必要です。
ポイント4:団体交渉で合意はしなくてもいい
労働組合としては、団体交渉を行う以上は、一定の合意をするようにと迫ってきます。ただ、会社側は誠実に交渉をすることは法的な義務と言えますが、合意しなくてはいけないということはありません。会社の立場を丁寧に説明すれば十分です。また、同じ内容の協議を何度も要求してきた場合には、話し合いを拒否することも可能となってきます。
これまで見てきたように、落ち着いて対応すれば、団体交渉は決して恐れることはありません。ただ、これまで経験のない経営者にとって、いきなり自分たちだけで対応するのはかなり大変かもしれませんね。労働組合など労働法の基本を勉強するとともに、頼れる弁護士の活用を考えるのが、現実的な対応かもしれません。
* takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)