原契約とは?場面ごとで異なる意味や現契約との違いをわかりやすく解説
契約書をチェックしているときに“原契約”という言葉を目にした経験はないでしょうか? また似た用語として、“現契約”という言葉も目にした経験があるかもしれません。
契約関係の言葉は意味を取り違えると後で大変な事態になりかねません。しっかりと正しい意味を把握しておきましょう。本記事では“原契約”の意味と使う場面、注意事項をわかりやすく解説します。
目次
原契約とは?
“原契約”とは“最初に締結した契約”という意味です。
どのような契約でも状況に応じて更新し、内容を変更・付加していくのが一般的ですね。そのような更新後の契約ではなく、最初に締結した契約を“原契約”と言います。
使われる場面ごとの原契約の意味の違い
“原契約”という言葉が使われるのは主に以下の場面です。
- 覚書によって契約内容を変更した場合
- 同じ内容で契約を更新した場合
- 基本契約と個別契約を締結する場合
1.覚書によって契約内容を変更した場合
この場合は変更する前のもともとの契約が“原契約”となります。覚書とは変更後の契約内容を定めるための書類で念書とか変更契約書とも呼ばれます。
覚書には“原契約”から変更のない部分は記載せず、“原契約”から変わった部分だけを記載するのが一般的です。したがって、覚書を締結したからといって“原契約”が全て無効になるわけではなく、変更していない部分は依然として有効のままとなります。
2.同じ内容で契約を更新した場合
この場合は更新する前の最初の契約が“原契約”となります。契約には有効期限がある場合があり、特に問題がなければ同じ内容で自動更新される場合が多いです。更新後の契約も同じ契約内容ですから実質的には“原契約”がそのまま有効なのと変わりませんが、1の場合とは微妙に意味が異なるため注意しましょう。
3.基本契約と個別契約を締結する場合
この場合の“原契約”とは“基本契約”と同じ意味です。契約には基本契約と個別契約がセットになっている場合があります。同じような契約を何回も締結する予定の場合に、同じ内容を何回も確認するのは手間なので、共通する条文だけを抜き出してまとめたのが基本契約です。この場合、基本契約書だけ最初に作成しておいて、個別の契約が発生するときだけ個別契約書を作成し、基本契約書と個別契約書をセットで締結します。このときの基本契約を“原契約”と呼ぶ場合があります。
原契約と現契約の違い
“原契約”とよく似た言葉に“現契約”という言葉があります。『総務の森』でも“原契約”と“現契約”の違いについて質問が上がっていました。どちらも“げんけいやく”と読むので紛らわしいですが、全く別の意味の言葉です。
“原契約”が“最初の契約”という意味なのに対し、現契約とは“現在有効な契約”という意味です。
前のセクションで“原契約”という言葉を用いる3つの例を挙げました。
- 覚書によって契約内容を変更した場合
- 同じ内容で契約を更新した場合
- 基本契約と個別契約を締結する場合
1の場合は、変更した後の契約内容が“現契約”、変更する前の契約が“原契約”となります。
2の場合は更新した後の最新の契約内容が“現契約”、更新する前の契約が“原契約”となります。
3の場合は基本契約が現在も有効であれば“原契約”であり、“現契約”にもなります。さらに、現在有効な個別契約も“現契約”です。契約の履行が完了するなどして有効でなくなった個別契約のみが、“現契約”ではない状態になります。
複数回の更新・変更があった場合の原契約
では、更新や変更が複数回生じた場合に“原契約”とは、何を表すのでしょうか? 例えば、2回目の契約書変更のとき、最初の契約書と1回目の変更契約書はどちらが“原契約”になるのでしょうか? 言葉の意味を厳密に解釈すると、原契約とは“最初の契約”、つまり、最初に締結した、1回も更新や変更が生じていない状態の契約を指します。
しかし、実務上の“原契約”は“更新時に内容を引き継いだ、元となる契約”を指す場合があります。つまり、3回変更した契約書なら、2回目までの変更を全て含んだ内容という意味になります。
“原契約”という言葉は、法的に意味が定義されているわけではないため、何を指すかは状況や個々人によって認識が異なります。したがって、契約を締結・更新・変更するときには、“原契約”が何を指すかをしっかり規定しておく必要があります。
例えば、下記のように、どの契約書が“原契約”なのか、一見に識別できる書き方をしたほうがよいです。
『a年b月c日に甲乙間で締結されたxxxxxx契約書、d年e月f日に甲乙間で締結されたyyyyyy覚書』(以下、原契約書という)…、
本契約に定めのない事項と原契約
覚書によって契約内容を変更した場合や基本契約と個別契約を締結した場合には、契約書が2種類存在する状態になります。
もし、覚書に書かれていないけど“原契約”には書かれている内容があったり、基本契約と個別契約が矛盾する場合には、契約の解釈をめぐって相手とトラブルになる可能性があります。
その場合に備えて、“原契約”や覚書、基本契約や個別契約の優先順位を規定し、明示しておく必要があります。
一例として、覚書に規定を入れるなら、以下のように入れれば2つの契約書の矛盾を解消できます。
- 覚書の規定が“原契約”の規定に反するときは覚書が優先して適用される。
- 覚書に定めのない事項については“原契約”が適用される。
もちろんこれは一例であるので、個々の契約によってどのような規定かはさまざまです。重要なのは、契約書や覚書も全部含めた契約全体の条文のロジックに抜けや矛盾が生じないような記載なのです。
契約書の表題と法的効力
ここまでで“原契約”、“現契約”、“基本契約”、“個別契約”、“覚書”、“変更契約書”、“念書”などの言葉が出てきましたね。これらの契約書の表題(タイトル)によって、法的効力は異なるのでしょうか?
実は契約書の表題は、その契約書の法的な意味には全く関係がありません。例えば、“覚書”という表題の書類に対して「契約書じゃないから契約は無効だ!」などと主張しても認められません。
“契約書”という表題でないと正式な書類にならないのではないかと思っている方がときどきいます。しかし、“契約書”でも“覚書”でも“念書”でも“確認書”でも“合意書”でも、内容に契約事項が書かれていれば、法的には契約書として扱われます。
契約とは“お互いが合意した約束”ですので、合意した内容と、署名などの合意の証拠が残っていれば契約として扱われます。
これらの名称の使い分けは法的に決まっておらず、あくまでも俗的な慣習です。ただ、あまりにも内容とかけはなれた表題をつけると混乱の元となるので、書類の内容を正確に表現した表題のほうが望ましいでしょう。
あいまいな言葉を契約書からなくそう
本記事では“原契約”の言葉の意味について解説しました。これらの言葉の意味は法律で厳密に規定されているわけではなく慣習に基づいています。したがって、個々人で認識の違いが生じる場合があります。それを防ぐには“原契約はどの契約を指すのか”を契約書へきっちり記載しましょう。あいまいな言葉や矛盾したロジックは契約書からなくし、未然のトラブル防止が大事です。
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