登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 未払い賃金請求が心配!過去に誤った対応をした企業はどうすれば?【弁護士が解説】
未払い賃金請求が心配!誤った対応をした場合は?

未払い賃金請求が心配!過去に誤った対応をした企業はどうすれば?【弁護士が解説】

2022.03.08

未払い残業代が請求された事案は、本当によくあります。以前に当メディアで、未払い残業代を請求された場合の対応について執筆しましたが、それ以降も何度も経験しています。

2020年4月1日に未払い賃金の消滅時効期間が2年から3年に延長されたことにより、今後は未払い残業代も3年間分生じることになっています。それだけに、対応を間違えれば、企業が被るリスクも深刻になるのです。

今回は、未払い残業代が生じていると理解した場合、会社としてはどのような対応を取るべきなのかについて解説しましょう。

【前回の記事】円満退職のはずが…実はよくある「未払い残業代請求」の事例と対処法を解説

知らないうちに「未払い賃金」が生じている

経営者の中には、法律違反を知っていながら、未払い残業代を支払わない人がいるのは事実です。しかし、それは数からいえば少数派だと思われます。多くの経営者は、実は自分の会社に未払い残業代が発生していることを認識していないのです。

例えば、以下のような場合に、知らずに残業代が発生していたということがよくあります。

1:管理職の残業代未払いのケース

“管理職”として“管理職手当”を支払っているのだから、残業代は発生しないと考えている場合があります。しかし、単に社内の職制上の管理職というだけでは、法律上の“管理監督者”には当たりません。相当の裁量権(業務や人事に及ぶ)や、報酬額(最低でも600万円以上)がない場合、いくら“管理職”といっても、やはり残業代は生じることになります。

【もっと詳しく】「管理監督者」とは?「名ばかり管理職」との違い

2:割増賃金を誤計算したケース

法律上の割増賃金の規定を誤解して少なく支払っていた場合や、法律上の変形労働時間制の条件を満たしていないのに、変形時間制ということで残業代を支払っていなかった場合もあります。

【もっと詳しく】残業に関する相談まとめ:間違えやすい計算方法と法改正への対応

3:就業規則で定額残業代を定めていたケース

就業規則などで定額残業代を定めていたケースもよくあります。極端な場合だと、「うちの会社は残業代も込みの賃金設定にしている」ということで、あらかじめ社員にも伝えたうえで、残業代を支払わないといった会社もあります。

このような会社は、社員が同意していた以上問題は生じないと考えています。しかしながら、たとえ社員の本心からの同意があったとしても、残業代を支払わないのは法律違反なので、このような同意自体無効とされてしまいます。

会社が「残業代込みの賃金」ということで高い賃金を設定していた場合には、その高い賃金に加えて、高い賃金をもとに計算した割増の残業代を支払わざるを得ないことにもなってしまうのです。

【もっと詳しく】固定残業代は明確にすべき?みなし残業制度のメリット・デメリットと注意点

社員との信頼関係だけではリスク回避できない

会社によっては、上記のような問題点に気が付いても、「うちの会社では、社員との信頼関係ができているから大丈夫!」と考えて、危機感のないケースもあります。例えば、以前未払い残業代の問題が起こった会社で、こんな事案がありました。

その会社では、かつては低い基本給の代わりに、残業代は青天井で出していました。そういう中で、給与を増やすために、用が無くても会社に居たり、休日出勤をする社員がいました。それは会社にとっても、社員にとっても良くないということで、会社は残業代の平均値を加えた金額を基本給とする代わりに、残業代は基本給に含まれるという制度を採用した。

新制度になったときには、多くの社員が「これでお休みに子供と遊べます」と、本当に感謝していたし、それに加えて残業代を請求しようなどと考える社員は一人もいませんでした。そこで会社も安心していたところ、数年後経ったころに、ある社員から残業代が払われていないということで訴訟提起されたのです。

年月が経てば人の心も変わっていくこともあります。いくら信頼関係があるとはいえ、やはり制度としてしっかりとしたものを考える必要があるといます。

制度改革をするデメリットとは?

自分の会社が、未払い残業代の問題を抱えていると分かっても、何か制度改革をすることに不安を感じるという経営者もいます。変に残業代の制度を変更することにより、「寝た子を起こすのではないか」「藪をつついて蛇を出すのではないか」という心配です。

たしかにこのような心配もあるでしょう。未払い残業代が生じていたということを会社が認めれば、未払いの残業代を請求してくる社員もいるのは否定できません。また、制度改革で、多額の残業代を支払うことになるなら、今後の経営が成り立たないのではという心配もでてきます。

しかし、先述したように、今後残業代の消滅時効が3年になることを考えると、どこかで制度を変えないと、爆弾を抱えて経営を続けるようなものといえます。

法律に従いリスクを管理しよう

何にしても、会社として違法な状況を続けるわけにはいきません。たとえ、最初から100点を目指すことができなくても、少しでも法律違反を是正して、リスクを減少していく必要があります。単に「法律違反だから直す」というより、「社員に対して少しでも、良い待遇をしていく」という意図で制度を作っていくなら、それほど大きな反発もないはずです。

以下に先述したよくある未払い賃金ケースについての対応をご紹介しましょう。

1:管理職の残業代未払いのケース

“管理職”ということで残業代を出していない会社の場合は、“管理職手当”を残業代だと明確に規定して、法律に定められた固定残業代のルールに則って支給することで、相当なリスク管理が行えます。

2:割増賃金を誤計算したケース

変形労働時間制や割増賃金の計算方法などが間違っていたのならば、正しい計算方法を採用することで対応できます。それにより全体の給与が高くなりすぎるのなら、法律を守る形で給与の額自体はこれまでと同じ程度になるように制度を変えていくように、社員と話し合うことになります。

3:就業規則で定額残業代を定めていたケース

賃金に残業代も含まれている形で運用していたのなら、基本給部分と固定残業代部分を明確に分け、どれだけの時間に対する残業代なのかなど明確にすることによって、法律の要求を満たすようにできます。

最後に

未払い残業代の問題は、これまでも多数生じていましたが、これからますます問題が起きてくるものと思われます。大きな経営リスクとしないためにも、できるだけ早い対応が必要です。

その際には労働問題に詳しい、社労士や弁護士といった専門家の助けを借りることも必要でしょう。

【あなたにおすすめ】
「労働時間」正しく管理できてますか?立ち入り調査のポイント&よくある誤解と正解まとめ
思わぬ落とし穴も!? 義務化された「管理職の労働時間把握」罰則と勤怠管理法を解説

*ナオ、freeangle、Rhetorica、kikuo / PIXTA(ピクスタ)