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整理解雇

業績悪化で整理解雇を考えざるを得ない…その前に検討すべき具体的対策を紹介

2022.04.05

厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症の影響による「雇用調整の可能性がある事業所数」及び「解雇等見込み労働者数」を令和2年5月から発表しています。令和4年3月時点の累積値では、それぞれ13万6,246事業所及び12万8,806人となっており、人員削減を検討せざるを得ないケースが増えているようです。

「新型コロナウイルス感染症のような外部環境の影響による整理解雇はやむを得ない」と考える経営者もいるかもしれません。しかし、人員削減の手段として整理解雇は避けなければならない対応方法であるといえます。

今回は、その理由と整理解雇を行う前に検討すべき具体的な方法について紹介していきます。

整理解雇は最終手段と考えておく

整理解雇とは”会社の業績不振や経営悪化を理由として人員削減するための解雇”のことです。

「会社の経営危機を回避するために一部の社員を解雇することはやむを得ない」と考える経営者もいるかもしれませんが、整理解雇は最も避けなければならない手段といえるでしょう。

なぜなら、整理解雇の対象となった従業員は、急に職を失い、生活や将来設計にも多大な影響を及ぼすことになるからです。また、整理解雇を実施する以前に、従業員は”労働基準法”や”労働契約法”などの労働法規により手厚く守られており、たとえ経営危機を回避するためといっても、整理解雇が法的に受け入れられるとは限りません。

以下の4つの要件を満たさなければ法的に整理解雇をすることができませんので、必ず理解しておきましょう。

整理解雇の4要件とは?

その1:人員削減の必要性

”従業員の解雇”という手段が、会社の維持・存続を図るために最も有効な方法であることを示さなければなりません。

「会社を存続していくためには固定費を削減する必要があり、そのために従業員を解雇し人件費を削減することがやむを得ない措置である」というような理由とともに、その事実を客観的に示すことが必要です。

その2:解雇回避の努力

経営者は従業員の解雇を避けるために考えられる他の選択肢を十分に検討・実行したか、その努力が求められます。

例えば、固定費の削減をするために、高額な役員報酬を減額することなく整理解雇を実施するのであれば、それは十分な努力をしたとはいえないでしょう。

その3:人選の合理性

整理解雇の対象となる従業員を選定する基準が、合理的かつ公平であるかどうかが判断されます。

整理解雇を実施せざるを得ない場合、経営者がどのような基準に従ってその対象者を選定したか、明確に示さなければなりません。

例えば、以下のような基準が考えられるでしょう。

・年齢
・勤続年数
・雇用形態
・勤務態度
・成績
・従業員の生活への影響度

その4:解雇手続きの妥当性

やむを得なく整理解雇を実施する際に、その必要性や時期、対象者の規模や手順について協議や説明を行うなど、従業員の納得を得るための努力をしているかが問われます。

十分な協議がなされずに行われた解雇は、労働協約違反として無効になります。

整理解雇を検討する前にやるべきことは?

前述のとおり、整理解雇は最も避けなければならない手段であるといえます。仮に業績不振により営業赤字が続く状態であれば、真っ先に固定費の中で大きい割合を占める人件費の削減に目が向くのは当然でしょう。しかし、まず以下のように「従業員の人件費を削減する」という手段以外の方法はないか確認しましょう。

売上高や粗利益率を上げる方法はないか?

「そもそも売上高や利益率を増加させることが難しい」という前提を一度取り払って、まずどのくらい売上高を確保できれば、また利益率を上げることができれば、現状の固定費を賄い利益を創出することができるのか確認してみましょう。

”損益分岐点”という考え方を用いれば、あとどのくらい売上高を増やせば、従業員を解雇せず固定費を支払えるか認識することができます。その水準が認識できれば、具体的な対策も検討しやすくなるでしょう。

損益分岐点:費用を固定費と変動費に分け、利益ゼロとなるポイントを計算する方法。損益分岐点は以下の計算式で求められる。

損益分岐点=固定費÷(1-変動率)

役員報酬、その他経費の削減する余地はないか?

経営環境の悪化により業績不振に陥り、固定費削減をしなければならないという場合、まず考えるべきは経営者自身の役員報酬や人件費以外の費用を削減する余地はないかということでしょう。

前述の整理解雇の4要件の”解雇回避の努力”にもあったように、経営者は従業員の解雇を避けるために考えられる他の選択肢を十分に検討・実行したか、その努力が求められます。

経営者自身の役員報酬はもちろん、その他の経費で削減できるものはないか見直してみましょう。その際、損益計算書の費用科目を一つずつ見ながら、削減できる対象はないか検証するとよいでしょう。

【こちらの記事も】役員報酬は簡単に変えられないってホント?減額・増額時のルールと注意点

それでも人員削減を検討しなければならないときは

上記のような方法を検討した上で、やむを得なく人員削減をしなければならない場合もあるでしょう。その際にも、整理解雇を実行する前に以下のように検討すべきことがあります。

派遣社員との契約終了

派遣社員は、派遣元の企業と雇用契約を締結した上で派遣され働いている従業員のことをいいます。

派遣社員を受け入れている場合、契約期間満了をもって契約を更新しないとすることが可能です。

もし中途解約を検討する場合は、その条件が派遣元企業との契約において定められているはずですので、必ず確認した上で申し入れましょう。

契約社員の雇止め

“1年毎の更新”のように有期雇用契約の従業員を契約期間満了を持って、更新せずに契約を終了するということです。

ただし、この際”無期転換ルール”と”雇止め法理”という考え方を考慮しておくことが必要になります。

無期転換ルール:契約期間が通算5年を超えた従業員から無期転換の申し入れがあった時、使用者は拒否することができず自動的に無期労働契約が成立する。

雇止め法理:以下の1・2いずれかに該当する有期雇用労働者が、契約期間満了後遅滞なく更新を申し込み、かつ使用者が申し込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は従前と同一条件で申し込みを承諾したものとみなす。

1.過去に契約が反復して更新されており、雇止めが社会通念上解雇と同一視できる
2.有期労働契約更新への期待が合理的である

有期雇用契約の従業員に対し契約を更新しないという場合、この2つの考え方と照らし合わせて適切性を確認することが重要です。

退職勧奨

退職勧奨とは“従業員が自らの意思で退職をすることを会社が働きかけること”です。あくまで従業員による自発的な退職、または従業員と使用者の合意により労働契約の解約をするということになります。

従業員が退職の意思を示していないにも関わらず、度重なる勧奨により退職を強要するのは違法です。過去には、従業員が退職勧奨を”解雇”と受け止め裁判に発展した事例もありますので注意しましょう。

【こちらの記事も】問題社員を解雇できないか?不当解雇になるケースと実現する要件とは

希望退職者を募る

希望退職とは“従業員に対して退職一時金の上乗せなどの有利な条件を提示し、退職希望者を募ること”です。会社側から対象となる従業員を選定する等はできず、あくまで従業員の意思が優先されます。

退職金一時金の上乗せ等、様々な優遇措置を提示することが一般的で、従業員側も納得しやすいことが特徴です。

 

今回は、整理解雇を避けるべき理由と整理解雇を行う前に検討すべき具体的な方法について紹介しました。整理解雇を検討せざるを得ない場合の具体的対応策として参考にしていただければ幸いです。

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*【IWJ】Image Works Japan,ダイ,takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)