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TOP > 記事一覧 > 総務・法務 > 2022年4月施行「年金制度改正法」で中小企業が知るべきポイントは?
中小企業が対応すべきポイントは?

2022年4月施行「年金制度改正法」で中小企業が知るべきポイントは?

2022.03.15

現役世代*の人口が減少するなか、慢性的な人手不足の課題は中小企業にとって深刻なものです。

そのようななか、就労を希望する高齢者が増え、新たな労働力として注目されていることはご存じの方も多いのではないでしょうか?

このような情勢を受け各種年金法が改正され、2022年4月に新たな制度が施行されることになりました。

今回は、法改正の内容とともに、中小企業の対応ポイントについて解説をしていきましょう。

*主に20歳から60歳までの保険料を納めて公的年金制度を支えている世代(引用元:厚生労働省

※最終更新:2022年3月

年金制度改正法とは?

今回施行される『年金制度改正法』は、正式には『年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要』といい、2020年5月に改正が実施され、2022年4月より順次施行が開始されます。

ワーク・ライフ・バランスや働き方改革の流れを受け、より多くの立場の人々が長期にわたり働くことができる環境をつくり、高齢期の経済基盤をより強固にすることを目的として、改正される運びとなりました。

今回の改正内容は、『国民年金法』『公務員共済組合法』『厚生年金保険法』『確定拠出年金法』『児童扶養手当法』など、さまざまな年金法の内容に影響しており、大々的な改正であることがわかります。

年金制度改正法の改正内容とは?

具体的な改正内容としては、主に次の4つがポイントとして挙げられます。

1:被用者保険の適用範囲拡大
2:在職社員の年金受給制度見直し
3:年金受給開始時期の選択肢拡大
4:確定拠出年金の加入可能要件見直し

1:被用者保険の適用範囲拡大

さまざまな雇用形態や就労形態で働く方に対応するため、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入が適用される範囲が拡大されます。

パート・アルバイトのような短時間労働者に対して社会保険を適用するよう義務づけられている企業規模が、現行の従業員500人超から段階を経て引き下げられることになりました。

具体的には、2022年10月には従業員100人超の企業が、2024年10月には従業員50人超の企業がそれぞれ短時間労働者を社会保険に加入させる必要性が生じます。

社会保険の加入対象となる短時間労働者は、次の要件すべてを満たす方です。今回の適用範囲拡大に際し、以下③の継続雇用期間がこれまでの“1年以上”より、実務上の現状を踏まえることで“2ヶ月超”へと変更されました。

①1週間あたりの所定労働時間が20時間以上
②1ヶ月あたりの所定内賃金が88,000円以上(賞与・残業代・通勤費は除く)
③2ヶ月超の期間を継続雇用される見込みがあること
④学生アルバイトではない者(夜間・通信・定時制の学生は除く)

2:在職社員の年金受給制度の見直し

年金を受け取りながら働き続ける労働者向けの制度である『在職老齢年金制度』が、次の通り見直されることになりました。

①低在老(60~64歳の在職老齢年金制度)の支給停止基準額の変更

60~64歳向けの『在職老齢年金制度』において、年金が支給停止される基準額(年金額+賃金報酬額)が現行の28万円より、高在老(65歳以上の在職老齢年金制度)と同額の“47万円”へ引き上げられます。

なお、女性の場合は2030年度まで年金の支給開始年齢の引き上げが実施されることから、男性労働者の場合は2025年、女性労働者の場合は2030年までの経過措置となっています。

*低在老:60~64歳の在職老齢年金制度
*高在老:65歳以上の在職老齢年金制度

②在職定時改定制度の導入

老齢年金の基本的な構成は“老齢厚生年金”と”老齢基礎年金”です。就労する年金受給者の場合、これまでは退職などの理由で社会保険の資格を喪失するまでは、老齢厚生年金額の改正は行われませんでした。この状況に対応し、在職中でも年金額の反映が行われるようにするため、新たに『在職定時改定制度』が創設されました。

これにより、65歳以上である高在老の対象者の年金額は毎年10月に改定され、在職中に受け取ることのできる年金額が増加することになります。なお、60~64歳の低在老の対象者であっても、被保険者期間が10年以上あれば、特別支給の老齢厚生年金が支給される点についても覚えておきましょう。

3:年金受給開始時期の選択肢拡大

公的年金の受給開始時期は原則として65歳ですが、この65歳を基準とした60~70歳の期間で希望する開始時期を決定することができていました。65歳より前の時期に受け取りを開始した場合は年金額が減額され、65歳より後の時期に受け取りを開始した場合は年金額が増額されます。

今回の改正で、この年金受取開始時期の選択期間が60~75歳まで延長されることになりました。受取時期を後の時期にすればするほど、年金額が増額されることになります。これにより、高齢者が自分の仕事との兼ね合いに合わせた形で年金の受け取り時期を選ぶことができるようになりました。

4:確定拠出年金 加入可能要件の見直し

確定拠出年金制度(DC制度)とは、国民年金・厚生年金制度による年金額に上乗せ支給される制度で、拠出された掛金や運用による収益の合計額を基準に給付される額が定められるものです。この確定拠出年金制度に加入できる年齢の上限が、次の通り引き上げられます。

・企業型DCの加入者:65歳未満→70歳未満
・iDeCo加入者:60歳未満→65歳未満
・DCの受取開始時期:60~70歳まで→60~75歳まで
・DB(確定拠出企業年金)の支給開始時期:60~65歳まで→60~70歳まで
・簡易型DC・iDeCoプラスの対象企業:従業員100人以下→従業員300人以下

中小企業が対応すべきポイントは?

ここからは、年金制度改正法を受けて企業が取るべき対応内容やポイントについて、順を追って述べていきましょう。

1:高齢労働者向けの雇用環境整備

まず、企業においてどれだけの人数の高齢労働者が在籍しており、どのような働き方や賃金を受けているのかを洗い出します。その上で、これらの労働者を今度どのようにして雇用していくのかを検討し、制度化します。

特に規模の小さい中小企業の場合、経験豊富なシニア層の労働者は、企業内で充分な戦力として扱われているケースが少なくありません。今回の改正では、働き続ける高齢者を後押しするような制度として、在職老齢年金制度や年金受給開始時期に関する変更が行われていることもあり、今後も働き続けたいと望む高齢者が増えることが予想されます。

このような労働者の思いに応えるため、企業側は高齢労働者が安心して就労し続けることができるよう、賃金面や福利厚生面の充実を図る必要があります。

ただし、60代以降の高齢労働者の場合、現役世代と比較すると体力面・精神面の変化が訪れるケースが多く、中には長期間にわたる雇用により疲弊をしてしまう労働者もみられます。優秀な人材として雇用継続を検討する場合でも長期にわたる期間の雇用契約はせず、1年毎などの一定期間による期間雇用とし、労働者側にも選択の権利を設けるような対応を取ると良いでしょう。

2:社会保険料を考慮した雇用計画

被用者保険の適用拡大が必要となった場合、労働者にかかる社会保険料が増額となり、コスト負担がかかることを念頭に置く必要があります。まずは、今後社会保険の加入が必要となるパート・アルバイトなどを洗い出し、どの程度の額が新たに社会保険料としてかかるのかを算出します。

その対応に加え、今後はこれらの社員を含め、どのような雇用形態の労働者を雇用していくのかを、社会保険料の負担額をふまえた上で検討し直します。

社会保険が適用されない雇用形態で働く者を雇用した場合と適用される雇用形態で働く者を雇用した場合、それぞれのケースを想定し、社員に対する採用や教育にかかる手間と人件費・保険料などのコストを洗い出し、会社の経営方針と照らし合わせて今後の雇用体制を決定していきましょう。

まとめ

高齢の労働者向けの年金制度が改正されたことで、今後は在職老齢年金制度を活用しながらの就労を希望する労働者が増加することが予想されます。

特に在職老齢年金では、年金額の支給停止を避けるために賃金報酬額の調整をするケースが考えられます。そうなると、給与額の調整を求めることもあることから、企業側の正しい制度理解が必要不可欠となります。

今回の法改正を機に、年金制度の概要を把握し、さまざまな働き方に対応できるような体制づくりを心がけてみてはいかがでしょうか。

*Fast&Slow、CORA、mits / PIXTA(ピクスタ)

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