
実は経営者も知らない?従業員の健康管理に必要な「産業医」ができること3つとは
“産業医”をご存知でしょうか。労働者が50人以上いる事業場への産業医の設置が義務づけられていますが、実際のところ「何を相談できるのか分からない……」「うまく活用できていない……」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。今回は、産業医である筆者が、産業医に相談できること・活用法を解説します。
目次
「産業医」とは
産業医とは、“法令上の要件を満たし、事業者に産業医として選任された医師”です。
産業医は職場の健康課題を分析し、衛生管理体制の構築や運営のために意見を述べます。産業医かつ臨床医として働いている医師もいますが、臨床医が“病気やケガの診断や治療を中心に行う”のに対し、産業医は“働く方が健康で安全に働ける環境を調整する役割”といえるでしょう。
会社によって、業務の内容も従業員の属性もさまざまですから健康課題は異なります。たとえば以下のような、会社によって異なる課題があるでしょう。
・メンタルヘルス
・業務上疾病
・障がい者雇用
・女性労働者
・シニアワーカー
・外国人労働者
「法令で決められているから産業医をおいているが、最低限のことをやってくれるだけでいい」というスタンスから一歩出て、従業員が健康でいきいき働ける職場づくりのために、産業医を最大限に活用しましょう。また、安全衛生管理を推進するという点で、社員が50人以下であっても産業医を活用される方がよいでしょう。
【参考】産業医と労働安全衛生法の歴史 / 堀江 正知
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産業医ができることとは
1)包括的なメンタルヘルス対策
「ストレスチェックをやっています」「講師を頼んで、年に1回ハラスメント予防の研修をしています」という対策はよく聞かれます。「ただ法律に決められたことをやっている、研修だけ行って効果測定まで行っていない」という状況では、メンタルヘルス不調を予防したり早期発見することや、労災や法廷闘争に至るリスクを減らすには不十分であることが多いものです。
ストレスチェックの結果や日々の面談を通して、産業医は事業場の課題を把握しています。すでにあるガイドラインなども活用しながら、課題の優先順位づけを行い、ルールづくりを行う際のアドバイスをもらえます。たとえば、メンタルヘルス不調に対して産業医に以下を依頼することができます。意見を聞きながら、会社に合ったルールづくりをしましょう。
・従業員や上長が産業医に相談できる窓口をつくる
・受診が必要になった際の医療機関の選び方の相談や紹介状の発行
・復職準備のプログラム作成
2)合理的配慮のための意見をもらえる
令和8年度から障がい者の法定雇用率が段階的に2.7%まで引き上げられます。雇用を増やしたいというニーズがある一方で、障がい者雇用の方が職場に適応できず苦労された経験を持つ人事の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
【参考】令和5年度からの障害者雇用率の設定等について / 厚生労働省
また、就労支援においては合理的配慮が必要となってきます。しかし、個別性が高く、マニュアル化しにくいのが難しいところです。「満員電車が苦手なので在宅勤務がしたい」「朝起きられないのでフレックス勤務がしたい」という要望のすべてに配慮するわけにいかない場合もあるでしょう。
そのような場合には、“産業医の意見を求める・産業医を通して主治医の意見も求める”というステップを踏むことで、合理的な範囲内での配慮がしやすくなります。
【参考】障害者雇用進展期の雇用管理と障害者雇用促進法の合理的配慮 / 眞保智子
3)データ分析と健康経営ための体制づくり
健康診断やストレスチェック、労働時間など産業医がアクセスできるデータは多岐にわたります。医療の専門家として、データを分析に、健康経営のための課題の抽出や優先順位付け、実行のためのアドバイスを行うことができます。
そのため、「健康経営に手を付けたいけれど、どこからはじめていいのかわからない」「課題が、実際に何をしていいのかわからない」という場合は、ぜひ産業医に聞いてみてください。データに基づいた、専門家の視点から意見をもらうことができるでしょう。
【こちらもおすすめ】従業員の健康は組織の価値向上につながる!中小企業で行うべき「健康経営」について解説
産業医に出会う方法とは
「自社に合う産業医を、どうやって探せばよいのかわからない……」という声をよく聞きます。産業医を探すルートは大きく以下の3つがあります。
1:産業医を紹介してくれる会社に依頼する
紹介会社には、複数の産業医が登録しています。従業員の属性に合わせて「女性従業員が多いので女性医師がいい」というご要望や「曜日や時間を合わせてほしい」というニーズに合う産業医を探しやすいでしょう。また、一度選んだ産業医が合わないと感じた時の変更が可能であることも多いです。
2:地元の医師会に依頼する
医師会経由の場合は、地元の医師に依頼できるのがメリットです。医師のネットワークを持っており、従業員が医療機関の受診が必要になった場合に、適切な医療機関を紹介してもらいやすいでしょう。
3:開業している産業医に依頼する
産業医事務所を開業する産業医が増えています。産業保健を専門とし、経験を積んでいる医師が多いです。そのため、以下のような経験をもった質の高い産業保健サービスが期待できます。
・法令の改正など最新の動向に詳しい
・会社の中の仕組みづくりに慣れている
・困難なケース対応に慣れている
最後に
せっかく産業医を選任しているのですから、健康診断の判定や巡視など、法律で決められた業務だけでなく、職場の健康課題の取組に、産業医を活用しましょう。これから産業医を探すという会社の方は、自社に合った産業医を選任し、企業の価値を高めるために“パートナー”として活用してみてください。
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