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TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 有給休暇を取得しないのはなぜ?有休消化率の低い企業に共通する課題とは
業務過多

有給休暇を取得しないのはなぜ?有休消化率の低い企業に共通する課題とは

2023.01.13

働き方改革の一環として年次有給休暇の取得義務化が始まってから、もうすぐ4年になります。これは、年10日以上有給休暇が付与される社員(本稿では、パート・アルバイト含め社員と総称します)に対して、年5日の取得を義務とするものです。厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査」によると、2021年の1年間に企業が付与した年次有給休暇取得率は58.3%であり、調査開始以来過去最高となっているものの、政府の掲げる有給取得率70%には遠く及ばない状況です。今回は有給休暇を取得して欲しいのに制度導入や働きかけをしても思うように進まないというお悩みをお持ちの中小企業経営者・人事担当者に向けて課題解決のポイントをお伝えいたします。

企業における有給休暇取得のための制度整備状況

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(MURC)が全国の社員30名以上の企業10,000社を対象に実施した『令和3年度「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査』によると、社員の年次有給休暇の希望実現度は取得日数が75.7%、取得時季が76.5%でした。また、取得しやすい雰囲気の有無については、65.7%が「ある」と回答しています。

企業における制度の導入はある程度進んでいることがわかります。にもかかわらず、なぜ取得が思うように進まないのでしょうか?

有給休暇を取得しない人が考えていること

前述のMURCの調査によると、半数弱が取得へのためらいがあり、うち58.5%が「周囲に迷惑がかかると感じるから」という理由を上げています。

また、同じ調査の中で、希望どおりの日数の年次有給休暇を取得できなかった理由として「仕事の量が多過ぎて休んでいる余裕がなかったから」「休むと職場の他の人に迷惑になると考えたから」「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいなかったから」、年次有給休暇を取得しやすくするために重要だと思うこととして「休暇取得促進のための職場全体の雰囲気づくり」「休暇中に他の人が仕事を代替したり、カバーできる体制づくり」という声が挙げられています。

これ以外にも筆者が実際に接している企業から聞こえてくる声として、「有給休暇を取りたい日が他の社員と重なったので遠慮した」というものもあります。地域に根差した中小企業では社員が近隣に居住していることが多く、必然的にイベントも重なってしまいます。個人客を対象としたBtoCの企業は土日祝日がかき入れ時なため、特に顕著です。

【こちらの記事も】違反には刑罰もある!年5日の年次有給休暇の指定義務への対応【弁護士が解説】

有休取得が進まない企業から見えてくる経営課題

以上を勘案すると、希望すれば取得は可能であると認識しているものの、「休むと業務が滞る」という現実や周囲に対する遠慮が取得をためらわせているということがわかってきます。つまり、制度導入はされていても、それを活かせる風土になっていないのです。これらのことから、以下の3つが課題として挙げられます。

①業務量過多(業務が多過ぎて有給休暇を取る余白がない)
②業務の属人化(属人化することで担当者が有給休暇を取りづらい)
③心理的安全性(有給休暇を取得したいという声をあげづらい雰囲気)

課題解決のためのステップ

先ほど挙げた3つの課題をまとめて解決できた事例をご紹介します。業務量を削減し属人化を解消するための取り組みとして何を行ったかというと、“制約理論を活用した業務フローの見直し”です。その取り組み方法についてお伝えします。なお、事例の会社は全員で見直しを行いましたが、人数が多い会社では全員参加は難しいと思いますので、各部門の希望者で行っても差し支えないでしょう。

大まかな手順は、次のとおりです。

1.参加者全員で現時点での業務フロー図を書く
2.業務フローからボトルネックを見つける
3.タスクを細分化する
4.ボトルネックの詰まりを取り除く

この取り組みをすることにより業務プロセスが明確になり、

・どこで何の業務をしているかを共有できる
・それぞれの業務がどこに影響を及ぼしているかを把握できる
・しなくても良い業務が見える

という効果が得られます。その結果、業務量が減り、属人化を解消することができます。

また、業務プロセスに余白が生まれるので、無理なく有給休暇を取りやすくなります。さらに、業務フロー図づくりでは全員で付箋を使って現状の課題を可視化していくため、みんなの課題として捉えられるようになります。結果として、共通の課題解決が目的となり、対立することなく、客観的に対話を進めることができるようになります。対話を重ねることで、次第に安心して有給休暇を取得できる風土になっていくのです。
なお、この取り組みを行うと、労働時間が減り、仕掛品の保管コストもかからなくなるため、投資をせずともキャッシュフローも改善されますし、人員配置の適正化も進みます。様々な場面で応用できますので、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

【こちらの記事も】経営者の意識が変わるだけじゃダメ。従業員の意識改革を成功させるポイント4つ

その他の有給休暇取得のための施策

根本的な解決とはいきませんが、最後にいくつか有給休暇取得のための施策をご案内いたします。

(1)優先順位を変える

業務に余裕がある時に有給休暇を取得するのではなく、まず有給休暇取得日を確保し、次に業務スケジュールを立てるというものです。

(2)有給休暇取得の時季指定を行う

自ら有給休暇を取得しようとしない社員に対して、意見を聴取したうえで、年5日を上限に使用者が取得時季を指定できるというものです。2019年の取得義務化に合わせて可能になりました。

(3)有給休暇の計画的付与を行う

年次有給休暇のうち5日を超える分について、労使協定を結ぶことで、計画的に休暇取得日を割り振ることができるというものです。5日は個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければなりませんので、ご注意ください。

有給休暇の本来の趣旨は、心身を休めてリフレッシュすることです。そのため、社員が自律的に取得できるよう社員と共に環境を整えることが最優先されます。時季指定、計画的付与はあくまで法律を守るための手段に過ぎないということを念頭に置いてください。

 

以上、「制度導入や働きかけをしても思うように有給休暇取得が進まない」というお悩みに対する解決策をお伝えいたしました。制度導入や働きかけといった経営者・人事担当者の努力があってこそではありますが、いかに社員と共に運用に取り組めるかが重要です。社員が自律的な有給休暇取得により心身の健康を保ちながら幸せに働くことができ、会社の業績も向上するという好循環が生まれることを願っています。

【こちらの記事も】売上ばかり上げようとしてもダメ?中小企業診断士が教える「業績の良い会社の共通点」3つ

【参考】
『令和4年就労条件総合調査の概況』 / 厚生労働省
『少子化社会対策大綱 施策に関する数値目標』 / 内閣府
『令和3年度「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査』 / 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

*Luce、tadamichi、Ushico、cba、umaruchan4678 / PIXTA(ピクスタ)

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