
「赤字が止まらない…」いつ会社をたたむべき?撤退タイミングを弁護士が解説
「戦争と恋愛は始めるのは簡単だが、止めるのは難しい」なんて言葉があります。儲かっている事業ならこんなことを考える必要はありません。また、赤字の企業でも、「それでも将来は何とかなるのでは?」という希望があるうちは、なかなか撤退の決断は難しいようです。それでも、タイミングや判断を誤ってしまうと、多くの人を傷つけることになってしまいます。しかし、会社をたたむという一大決心はそう簡単にできるものではありません。弁護士として筆者も様々な例を見てきました。今回は、会社をいつたたむかというタイミングと判断基準を考えてみましょう。
目次
会社をたたむタイミングとは
事業が難しいのは、赤字だからといって、「当然に止めるべきだ!」とはならないでしょう。Amazonなんて創業以来長期間赤字でした。楽天も基本的に赤字企業としてスタートしています。赤字だからダメとはいえないのです。中小企業でも、当初は顧客を集めるために投資をするようなビジネスモデルですと、しばらくは赤字が続きます。しかし、一定のポイントを超えると、急激に利益がでてくることも期待できます。だからこそ赤字企業でも会社をたたむ決断ができない場合がでてくるのでしょう。
会社をうまくたたんだ事例
筆者が現実に対応した事例です。基本的には、余力があるうちにたたんでいるケースがうまくいっています。
たとえば、飲食店に材料を下ろしている問屋さんがありました。収益が悪化する中で、今後の見通しも立たず、たたむことを決意したのです。基本的に、顧客の飲食店や、従業員なども同業他社に引き受けてもらい、大きな傷を残すことなくたたむことができました。結果論ですが、その少し後にコロナが猛威を振るい、飲食店のみならず、そこに材料を下ろしている問屋も大きなダメージを受けずに済んだのです。早めの判断が功を奏した事例といえます。
会社をたたむのに失敗した事例
一方、失敗といえる事例もありました。
こちらは親から引き継いだ製造業です。かなり赤字がかさんでいるのですが、そんな中で単年の黒字が出る年もあるといった状況でした。親から継いだ会社ということもあり、従業員の首を切れない中で、たたむことを決められなかったのです。いくつか不動産を持っていただけに、それらを売却することで赤字を補填して、なんとか会社として生きながらえていたという状況でした。売る土地がなくなった後でも、追加融資を受けて頑張りますが、最終的に破産となった事例です。そして、土地が残っているうちにたたんでおけばよかったと、残念な気持ちになるのです。
この他にも、事業がうまくいかない中、親族にお願いして、その不動産を担保にした追加融資を受けたような事例もありました。相当な高利の融資です。こちらも最終的に撤退できずに破産となりましたが、このような事例では親族との人間関係まで壊してしまう恐れがあります。
【こちらもおすすめ】倒産の兆候を見逃さない!今さら聞けない「財務分析」のやり方【経営の基礎】
事業撤退の判断基準
そのため、会社をたたむか・たたまないかの判断は、何らかの基準を持つことが大切なようです。一般的にいわれている基準として、以下が挙げられます。
1)市場と需要から考える
事業の将来性を判断するには市場状況の分析が必要です。市場の需要や競合状況などを考慮し、将来的な市場規模や需要の拡大の見通しを慎重に評価しましょう。
2)競合を見て考える
判断には競合状況の分析や自社の競争力、市場占有率などが重要となります。競合他社が同じ製品やサービスを提供していて、自社の市場シェアが低下している場合、他社と差別化するための戦略や市場参入の再評価も必要となります。
3)社内リソースから考える
必要なリソースを確認する必要があり、資金だけでなく、人材・設備・技術といった必要なリソースが不足している場合は判断することができるでしょう。
また、外部の投資家や銀行からのアドバイスをしっかりと確認することが必要です。銀行がさじを投げているのに、更に高利のところから資金調達をして、のっぴきならないところまでいってしまったような例を、いくつも見てきました。極めてまれな例外はあるにしても、通常は外部の人が見ても厳しい場合は、立て直しにくいのです。
【こちらもおすすめ】経験と勘じゃダメ?事業計画に必要な市場調査のやり方と手順【事業計画書の書き方・基本】
その他、うまく会社をたたむ方法
会社をたたむといっても、単純にその事業を止めるだけではありません。”同業他社に譲り渡す”ことも一つのあり方です。うまく譲渡できれば、雇用関係を維持できますし、損害を最小限に抑えることも可能となります。また、顧客がいるビジネスの場合、ペイする価格帯まで値段を上げて、事実上顧客が離れていくことで事業を終わらせる一方、それまでは価格を上げることで高収益とするなどのやり方もあるようです。それなりにうまく利益を出しているような企業もあり、筆者も感心したこともあります。
最後に
会社をたたむ際に難しいのは、責任感があり、従業員思いの経営者の方が、なかなか決断できず結果的に多くの人を苦しめてしまうケースがあることです。少なくとも経営者本人が迷うような状態なら、客観的に見ればたたんだ方がよいところまで来ていると考えるべきでしょう。
しかし、一度うまくいかなくとも、その後のキャリアの積み方はさまざまです。経営者の経験を生かし経営コンサルタントへの転身や、経営の視点をもった視座の高いサラリーマンとして復職することなど、幅広い選択肢があるでしょう。また、もう一度起業へチャレンジすることも選択肢の一つです。実際に、会社をたたんだ後に再起業し、現在では東証プライムに上場するまで成長させた経営者もいます。会社をたたんでしまうことが末路ではないのです。取り返しのつかないことになる前に、柔軟な判断するように心がけましょう。
【こちらもおすすめ】孤軍奮闘には限界が!経営コンサルタントが教える「経営相談の活用のコツ」
*川竜, わかし, bebe, emma / PIXTA(ピクスタ)