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割増賃金率 引き上げ 残業

25%から50%へ!月60時間超残業の割増賃金率が引き上げ。中小企業に求められる対策は?【23年4月から】

2022.08.17

これまで大企業に義務化されていた割増賃金率の引き上げ。法改正により2023年4月以降は、中小企業にも求められる運びとなりました。今回は、割増賃金率引き上げに関する詳細内容と今後の対処方法について、順を追って解説していきます。まだ対応できていない企業は、法改正に向けて準備を進めましょう。

割増賃金率の引き上げに至るまでの経緯

割増賃金とは、社員が法定の労働時間を超えて働いた場合、その超えた時間分に割増賃金率を乗じて支払うものです。一般的にいう“残業代”のことです。

長時間労働が問題視される中、定期的に割増賃金率の見直しが行われています。2010年に実施された法改正では、1ヶ月に60時間を超える長時間労働を行った労働者への割増賃金率が、25%から倍の50%へ引き上げられました。ただ、規模の小さい中小企業では、割増賃金率の引き上げによる残業代の増額が経営に影響を与えることが懸念され、猶予措置として25%のままとなっていました。

しかし、2019年4月に働き方改革関連法が施行され、中小企業に対する猶予措置が終了。2023年4月以降は、中小企業も大企業と同様に、1ヶ月に60時間を超える時間外労働の割増賃金率は“50%”に引き上げられます。

【参考】「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」 / 厚生労働省

改正のポイント

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げについて、具体的な内容を見ていきましょう。

前述の通り、月に60時間を超える法定時間外労働を行った労働者に、50%以上の割増賃金率で算出した割増賃金を支払うことが原則です。割増賃金のルールは手厚ければ手厚いほど社員にとってはありがたい制度になるため、“50%以上”という表記がなされています。なお、“法定労働時間”とは、1日あたり8時間、1週間あたり40時間の労働時間をいいます。この基準を超えた場合は、割増賃金を支払わなければならないというわけです。

法定労働時間を超えて深夜労働をした場合には、ベースとなる“50%”の割増率に深夜労働分の割増賃金が加算されます。具体的には、夜10時~明け方5時の深夜時間帯に法定時間外労働を行った場合の割増賃金率は、時間外労働の割増賃金率50%+深夜割増賃金率25%=75%。ちなみに、法定休日に労働を行った場合の割増賃金率は35%*法定休日労働が深夜時間帯に及んだ場合は休日労働割増賃金率35%+深夜割増賃金率25%=60%です。

*法定休日には法定労働時間が存在しないため、時間外労働に対する割増賃金は発生しない

【参考】「法定労働時間と割増賃金について教えてください。」 / 厚生労働省

給与計算の変化

割増賃金率が引き上げられたことにより、当然ながら給与計算も変わります。計算方法を“月給30万円、年間の所定休日が125日、1日あたりの所定労働時間が8時間の正社員”を例に挙げ、解説します。

①割増賃金を計算するためには、まずこの社員の1か月の平均所定労働時間を求めます。

数式は、(365日-125日)×8時間÷12ヶ月=160時間となり、1か月の平均所定労働時間は160時間です。

②1か月の平均所定労働時間と月給で、1時間あたりの賃金を求めます。

300,000円÷160時間=2,000円

つまり、この社員の1時間あたりの賃金は2,000円ということになります。

③割増賃金の額を求めましょう。比較しやすいよう、割増賃金率引き上げ前・引き上げ後の数式を記載します。たとえば、月に90時間の残業をした場合の割増賃金額はそれぞれ以下の通りになります。

【引き上げ前】2,000円×1.25×90時間=225,000円

【引き上げ後】(2,000円×1.25×60時間)+(2,000円×1.50×30時間)=240,000円

計算式が変わったことで、割増賃金率の引き上げ後の金額が15,000円増額しています。あくまでもこれは基本の計算であり、深夜残業や休日出勤が発生した場合はさらに計算内容が変わってくる点に注意が必要です。

【こちらの記事も】円満退職のはずが…実はよくある「未払い残業代請求」の事例と対処法を解説

企業が行うべき対応・流れ

割増賃金率の引き上げに伴い企業が行うべき対応には、主に次の内容が挙げられます。実際に引き上げが開始されるまでの間に対処できるよう、早急に進めましょう。

①社員の労働時間・業務内容の洗い出し

まずは社内の現状を把握するため、割増賃金の対象となる社員の就労状況を確認します。長時間労働が続く社員の業務内容や業務量が適切かを再度確認し、労働時間の削減に向けて対応すべきです。その他の社員の業務についても、非効率的な仕事がないかを確認し、社員が無理なく働くことができるように対処することで、会社全体の時間外労働を削減することへとつながります。

②勤怠管理体制の整備

適切な形で割増賃金を管理するためには、勤怠システムの見直しや整備も不可欠です。現在採用している勤怠管理法に問題がないかを再度確認してみましょう。たとえば、時間外労働の際に自己申告の制度を導入している場合は、正しい管理ができていない危険性があります。昨今は、コロナ禍の影響により在宅勤務を行う社員も増えていることから、クラウド上で自動管理できる勤怠管理システムを導入する方法も効果的でしょう。

【もっと詳しく】勤怠管理でかさむ残業…勤怠管理をシステムで効率化する方法【基礎】

③代替休暇制度の採り入れ

“代替休日制度”とは、1ヶ月に60時間超の時間外労働を行った社員に対して、割増賃金の支払いの代わりに有給休暇を付与する制度です。この制度を導入することで、会社側には割増賃金額の削減というコストカットの効果があり、社員側には休暇付与により長時間労働による疲労の軽減・リフレッシュへつながるという効果が期待できます。代替休暇制度を実際に導入する際には、就業規則によるルール化と労使協定の締結が必要です。また、代替休暇の取得は社員の意思に委ねられていることから、会社側が割増賃金の支払いを免れるために社員へ代替休暇の取得を強いることは禁止されている点に注意しましょう。

【こちらの記事も】【よくある間違いも】就業規則の変更が必要となるケースと進め方チェックリスト

まとめ

割増賃金率の引き上げについてご理解いただけましたでしょうか。今回の法改正は、“コストがかかる”という点が気になってしまうかと思いますが、この機会に社内体制を見直し、長時間労働問題と業務効率問題を解決する良いきっかけであると発想を転換してみましょう。適切な労働時間の管理を行う健全な企業は、イメージアップにもつながり優秀な人材確保のチャンスが巡ってくる可能性もあります。まずは社内体制の見直しから進めていきましょう。

【こちらの記事も】【気になる残業時間】計算方法、法改正に伴う変更点への対応…残業に関する相談まとめ

【参考】
「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」 / 厚生労働省
「法定労働時間と割増賃金について教えてください。」 / 厚生労働省

*chocolat、CORA、Fast&Slow、 Luce、freeangle / PIXTA(ピクスタ)