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TOP > 記事一覧 > 総務・法務 > パワハラと業務命令の違いは?ハラッサーにならないための方法を弁護士が解説
ハラスメント

パワハラと業務命令の違いは?ハラッサーにならないための方法を弁護士が解説

2023.04.19

パワハラが社会問題となって既に久しいですが、2022年の労働施策総合推進法の施行により、パワハラ防止措置義務も課されたため、より一層世の中のパワハラに対する意識は高まっています。こうしたパワハラの社会問題化に伴って、上司が過剰にパワハラリスクを恐れてしまい、なかなか必要な業務命令や指導ができないという悩みも多く聞かれます。実際、「会社はパワハラといわれるとマズイだろう」との思惑のもと、なんでも「パワハラを受けた」と主張する社員がいることも現実です。

しかし、こうした業務命令や指導は、業務の円滑な遂行や人材の育成のために必要性のある行為であり、必要な業務命令や指導はしっかりと実施していくべきです。そこで、今回はハラスメントの加害者である“ハラッサー”になってしまわぬように、パワハラと業務命令の違いについて解説します。

【参考】パワハラ防止措置義務いついて / 厚生労働省


「パワハラ」の定義を再確認しよう

パワハラと業務命令の違いを理解する前提として、まず“パワハラ”の定義を確認しておきましょう。

法律の条文上は、“パワハラ・パワーハラスメント”といった文言はありませんが、労働施策総合推進法で第30条の2では、以下がないようにする措置を講じることが企業に義務付けられており、これがいわゆる”パワハラ”にあたる行為とされています。

(1) 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって
(2) 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
(3) その雇用する労働者の就業環境が害されること

また、パワハラになり得る代表的な言動例として、以下が挙げられています。

(1) 身体的な攻撃:暴行・傷害
(2) 精神的な攻撃:脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
(3) 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
(4) 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
(5) 過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(6) 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること

このうち、業務命令や指導との関係で問題になりやすいのは、(2)精神的な攻撃(4)過大な要求です。

【参考】労働施策総合推進法 第30条の2 / 法令検索

パワハラにあたる例/あたらない例とは

①「業務上必要かつ相当な範囲」を超えるとパワハラになる

上記の定義規定のとおり、パワハラにあたるのは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動ということになります。したがって、まず“業務上の必要性”が全く存在しない場合には、“業務命令”とはいえないので、パワハラになります。

また、業務上の必要性がないわけではないものの、その業務命令、指導の内容や方法が“相当な範囲”を超えた場合にも、パワハラになります。つまり、必要性に照らして業務命令、指導の内容、方法などのバランスがとれている必要があります。実際には、この点が非常に判断に悩むケースといえます。

②パワハラにあたるケース/あたらないケース

厚労省の例示によると、たとえば以下のようなケースでは、パワハラにあたるとされています。

① 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
② 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
③ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
④ 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する

他方で、以下のようなケースだと、パワハラにはあたらないとされています。

① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする
② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする
③ 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
④ 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる

裁判例では、上司から求められた資料の提出を怠るなどの勤務状況であり、度々指導を受けていた従業員が、上司から 「新入社員以下だ。もう任せられない。」 「何で分からない。おまえは馬鹿。」などといわれた事案について、これらの発言は当該従業員に「屈辱を与え心理的負担を過度に加える行為であり……原告の名誉感情をいたずらに害する行為である」としてパワハラと認定しました。(サントリーホールディングスほか事件)

【参考】パワーハラスメントの定義 / 厚生労働省
【参考】サントリーホールディングスほか事件 / 安西法律事務所

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パワハラにならない業務命令をだすポイント

上記のとおり、パワハラにあたるか否かは、業務上の必要に照らして、業務命令・指導の内容・方法などのバランスがとれていることがポイントです。また、パワハラがなぜ違法であるかを考えると、それは労働者の“人格権”を侵害するからとされています。これらのことを踏まえると、パワハラにならない業務命令をだすためには、以下のような点がポイントになります。

(1) 業務上の必要性があること

これは大前提です。そもそも業務上の必要性が全く存在しないのに、何らかの指示をしたりするのは、まさに“いやがらせ”であり、人格権の侵害に他ならないでしょう。

(2) 業務上の必要のために 「そうしなければならないか 」を考える

上記(1)のように全く必要性がないケースは少なく、実際には業務上の必要性自体はあることが多いです。こうした場合には、「この業務をやってもらうために必要な言い方か」ということを常に考えましょう。上記のパワハラにあたる例のように、業務上の必要性がある指導であったとしても、大勢の前で叱責する必要はないはずです。このように、業務上の必要性を達成するために「そうしなければならないか」ということをよく考えましょう。

(3) 「人」ではなく「事」を注意する

上記(2)とも関係しますが、基本的にミスなどに対して辱める方法をもって成長させようとするのは危険と考えましょう。なぜなら、それはまさに“人格侵害”そのものであるからです。

中には、みんなの前で注意するなど周りに知らしめることで「もうこんな思いをしたくなければミスをしなくなるだろう」ということを期待して、そうした指導をする方もいますが、それはまさに「人格を侵害して反省させよう」としているのです。このようにミスに対して“人格”を責めるのではなく、ミスが起こった原因や対策をしっかりと伝えることが正しい指導といえます。

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業務命令をパワハラだと拒否された場合の対処法

さて、冒頭述べたとおり、企業へのパワハラに対する法的、社会的責任が重くなっていることから、適切な業務命令や指導に対しても、「それはパワハラですよ」といって反発し、応じようとしないケースも多くあります。しかし、これに委縮してしまっては、業務の円滑な遂行が阻害されますし、組織風土も悪化します。したがって、このような“適切な”業務命令や指導に従わない社員に対しては、業務上の必要性を示し、しっかりと業務命令・指導を行っていくべきでしょう。それでもなお、従わない場合には「業務命令違反として懲戒処分などの対象となることがある」として、措置を講じていくことになります。

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*しば, kabu, わかし, emma / PIXTA(ピクスタ)

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