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クライアントと自宅で話すアジアの営業担当者

過剰なクライアントファーストが組織を苦しめる…影響と運用方法を解説

2023.12.06

顧客満足度向上のために“クライアントファースト”を掲げる企業は少なくありません。筆者が以前在籍していたコンサルティングファームもクライアントファーストを重視していました。ビジネスが客商売である以上、顧客を大切にするのは当然のことです。しかし、行き過ぎたクライアントファーストは組織にとって大きなリスクとなる諸刃の剣です。

本記事では、過剰なサービスが組織崩壊につながるケースと、クライアントファーストを効率的に運営するための指針について紹介します。

クライアントファーストとは

クライアントファーストとは顧客満足度を最優先に考え、顧客のニーズや期待に応える経営方針のことを指します。社内共通の価値観とすることで企業の競争力を強化することが目的であり、顧客満足度の向上やロイヤリティの強化、長期的な関係構築などに有効です。

しかし、クライアントファーストがその他に維持されるべきバランスを超えてまで絶対視されるようになると、組織にさまざまな問題を引き起こす可能性があります。

行き過ぎたクライアントファーストは危険?その理由とは

では、過剰なクライアントファースト絶対主義がもたらすリスクとは何でしょうか。

リスク1:リソースの浪費

最初に懸念されるのは、リソースの浪費です。

顧客のすべての要求に対応しようとすると、報酬に見合わない量のリソースがサービスや商品提供に消耗されてしまうことがあります。さらに、顧客対応の場面だけの問題ではなく、全社的なリソースの消費効率を損なうレベルにまで達すると、組織の継続的成長や革新の機会が失われる危険性もあるのです。範囲外の要求は消費されるリソースとのバランスを考慮し、対応を検討しなければなりません。

リスク2: 不公平な顧客対応

また、一部の顧客の要望に過度に応えると、他の顧客の利益が損なわれる場合もあります。想定よりも特定の顧客に過剰なリソースを消費してしまうことで、他の顧客対応が十分にできなくなってしまいます。その結果、全体的に顧客満足度が下がってしまい、顧客離れを招いてしまうかもしれません。

リスク3: 社員のストレス増加

副次的ではありますが、行き過ぎたクライアントファーストは社員の過剰なストレスの原因になってしまう恐れもあります。過剰な要求を対応するのは主に現場の社員です。通常のサービスでは想定されていない要求に対応することになるため、強いプレッシャーやストレスを感じてしまう場面も考えられます。クライアントファーストが絶対視された価値観の組織では、要求に応えることが当然であるため、担当者が「お客様は常に正しい」「お客様の機嫌を損ねてはいけない」という強いプレッシャーにさいなまれ、心身に影響が出てしまうケースが起こりうるでしょう。

このような状態が社内で発生すると、社内全体で社員の燃え尽きや職場のモラル低下、さらには高い離職率を引き起こす可能性が出てきてしまいます。

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クライアントファーストの適切ラインとは?

適切なクライアントファーストの限界を設定する

まず、適切なクライアントファーストの限界を見極めることが重要です。顧客の要望に応えることは大切ですが、それが組織のビジョンや戦略と一致しているかどうかを常に考える必要があります。

クライアントファーストの原則を盲目的に追求するのではなく、組織の長期的な目標や方向性との整合性を確認することが重要です。そのためにも、どのような顧客の要求を優先するのか、どのような状況で妥協や調整が必要かをまとめたガイドラインを定めることが重要です。

適切なサービスレベルを設定する

すべての顧客に対して同じレベルのサービスを提供することは難しいため、顧客の重要度や利益に応じて適切なサービスレベルを設定することも重要です。たとえば、収益の大部分を占める優良顧客には特別なサービスや特典を提供し、それ以外の顧客には標準的なサービスを提供することでリソースの適切な配分を図ることができます。適切なサービスレベルとして、契約書で締結した内容以上の対応、時間外や休日対応、多頻度の対応などは許容外といった具体的な基準を決めるとよいでしょう。

加えて、顧客満足度を高く保ち、効率的な運営を行うためには組織内での情報共有や意思決定プロセスの改善も必要です。たとえば、担当者一人で抱え込まず、営業相談を受けた場合は営業部に相談するというようなものです。顧客からの要望やフィードバックを適切な部署や担当者に伝えることで、迅速かつ正確な対応が可能となります。そのためにも、顧客の情報を組織全体で共有する仕組みが必要です。その結果、サービスの改善や刷新を効果的に進めることもできます。

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効率的なクライアントファーストを運営するためのガイドラインについて

組織がクライアントファーストを効果的に運営するために、以下のガイドラインを参考にしてみてください。

ビジョンと戦略の明確化

概念的かもしれませんが、組織のビジョンや戦略を明確にしましょう。クライアントファーストな対応がビジョンや戦略に沿っているのかを確認することが必要です。経営陣や社員全体が同じ価値観を常に共有していることで、より自信をもって意思決定や判断を下すことができます。

リソースの適切な配分

過剰なサービス提供によるリソースの浪費を避けるため、顧客の重要度と利益に応じてリソースを配分することが重要です。

優良顧客には特別なサービスや特典を提供する一方で、他の顧客には適切なサービスレベルを設定することで、リソースの効率的な活用が可能となります。再掲となりますが、一定のリソース提供までは前例を元に対応可能な基準を定めておきましょう。それを超えるリソースを必要とする場合は、リソースの程度に応じて社内で検討、承認を得るプロセスを定めておくと担当者のストレスも大きく軽減することができます。

顧客データの活用

顧客ニーズを正確に把握するために、データを活用して行動や要望を分析し、適切なサービスを企画、提供することが重要です。

顧客データベースやフィードバックの分析から、傾向やニーズを把握し、それに応じた施策を講じていきます。たとえば、これまでの実績や経緯を分析し、特別な場合とそうでない場合の対応内容や顧客の反応などを蓄積していくことが重要です。特別な要求にそのまま応えることはできなくとも、有効な代案を提案することで満足度を維持するといった知見は非常に有効でしょう。

同時に、情報を共有できる環境や意思決定プロセスの改善によって、組織内の情報が円滑に流れ、迅速な対応が可能となります。顧客側としては要求への対応度はもちろん、スピード感も重要な価値に感じられるはずです。

社員の教育と意識向上

クライアントファーストを実現するためには、組織内のすべての社員がその重要性を理解し、組織の戦略や価値観に基づいた対応ができることが求められます。社員に対して適切なトレーニングや教育プログラムを提供し、顧客視点で考える力を養うことが重要です。また、社員へのフィードバックや報酬制度の設計によって、社員のクライアントファースト意識を高めることも効果的です。

この点について、以前執筆した以下の記事も参考にしてください。
幹部を育てないと会社は伸びない!幹部のマネジメント力を上げるメソッド
経営者の意識が変わるだけじゃダメ。従業員の意識改革を成功させるポイント4つ

最後に

クライアントファーストと聞くと、何やらすばらしい表現に聞こえる側面もありますが、偏り過ぎてしまうとよくない影響が出てしまいます。

もちろん、クライアントファーストの考え方を実践すると、よい対応や考え方ができる場面もあります。ただ肝心なことは、顧客に評価されることと、事業が成長することのバランスを取ることであり、このバランスが失われては元も子もありません。

クライアントファースト絶対主義に陥らず、事業戦略のなかでどのように顧客満足度を向上させていくか? ということが、本質的な目的であることを忘れないようにしましょう。

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*siro46, imtmphoto, maroke, Zerbor / shutterstock