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「原価セール」事件と営業秘密の保護

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石下雅樹法律・特許事務所 第23号 2006-06-16 原価セール事件
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「原価セール」事件と営業秘密の保護
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H18. 2.27 知財高裁判決

あるドラッグストアAが,平成13年1月から5月にかけて「原価セ
ール」を行いました。

具体的には,チラシに仕入価格を書き,さらに定価を書いた上で,仕
入価格で(一部は仕入価格を下回る価格で),医薬品,健康ドリンク
などを売りました。

これに対して,医薬品メーカBは,ドラッグストアAとの取引基本契
約等が解除又は解約しました。A社は,B社による解除の効果を争っ
て,A社がこの取引基本契約上の当事者の地位にあることの確認を求
めるとともに,同契約に基づいて,A社がB社に対し平成14年2月
19日から同年3月2日にかけて発注した商品の引渡しを求めた訴訟
です。

A社の行った「原価セール」が不正競争防止法又は独占禁止法・景品
表示法に違反するか等が主たる争点となりましたが,平成16年2月
13日になされた原判決は,いずれもこれを否定し,B社の行った取
引基本契約の解除ないし解約はその効力を生じないとして,A社の請
求をいずれも認める判決を出しました。

Aが行った「原価セール」ですが,果たして許されるのでしょうか。
この問題は,独禁法等の問題も絡んでいますが,今回は不正競争防止
法の問題に絞って検討します。

不正競争防止法に関する医薬品メーカB社の主張は,A社の原価セー
ル行為が,不正競争防止法2条1項7号(営業秘密を漏らす行為)に
違反する不正競争行為である,ということでした。

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 裁判所の判断
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知財高裁は以下のように判断しました。

営業秘密に関する不正競争防止法2条1項7号該当するためには
(1)その情報が営業秘密に当たること,
(2)営業秘密の保有者からその営業秘密を示されたこと,
(3)不正の競業その他の不正の利益を得る目的又はその保有者に損害
を加える目的があること

を要する,と要件を示しました。

そして,B社商品の仕入価格(控訴人にとっての卸価格)は,A社とB
社との合意によって定まるものであって,前記要件のうち(2)の「示
された」に該当しない,と判断しました。また,(3)の要件も充足す
る証拠もないとしました。

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 解説
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【不正競争防止法】

この法律は,事業者間の公正な競争等を確保するため,一定の類型の不
正競争の防止について定め、国民経済の健全な発展に寄与することを目
的としています。

この法律で禁じられている不正競争の類型の一部を挙げると,

1)他人の著名な商品等表示(氏名、商号商標、その他の表示)と同
  一又は類似の表示を使用することによって、混同を生じさせる行為

2)他人の商品(最初の販売から3年までのもの)の形態を模倣した商
  品の,譲渡,輸出,輸入等をする行為

3)窃取,詐欺強迫その他不正の手段により営業秘密を取得等する行
  為

4)商品や役務の広告,取引書類などに,原産地,品質用途,数量等の
  誤認をさせる表示をするなどの行為

5)競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知,流
  布する行為

などです。

今回問題となったのは,不正競争防止法2条1項7号で禁止の対象とな
っている「営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)から
その営業秘密を示された場合において,不正の競業その他の不正の利益
を得る目的で,又はその保有者に損害を加える目的で,その営業秘密を
使用し,又は開示する行為」でした。

今回,裁判所は,「仕入価格(卸価格)は,当事者間の交渉によって決
まるものであるから,「営業秘密を示された」ものには当らないと判断
しましたが,その判断自体はやむを得ないものでしょう。また,B社は,
卸価格は,「商慣習により当然に秘密にすべき情報である」とも主張し
ましたが,裁判所はその主張も認めませんでした。確かに,卸価格の秘
密の保護を,既存の法体系の中で求めることには困難があるものと思わ
れます。

もっとも,ビジネス上,仕入価格を公表されると困る場合は当然に想定
されます。ですから,そのような場合は,取引約定書契約書等の中で,
仕入価格を明らかにしないという明確な合意を結ぶことが賢明でしょう。

仕入価格に限らず,契約を結ぶ場合,出来る限りの考えうる事態を想定
しておく必要があります。たとえ,合意がなされていなくとも他の法律
で保護されるように思える場合も,契約書で,合意事項を明確にしてお
くことは,重要なことです。

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