━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・
特許事務所 第72号 2011-11-01
http://www.ishioroshi.com/
-------------------------------------------------------
弊所取扱分野紹介(
契約書作成・
契約書チェック・英文
契約)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
(弁護士
費用オンライン自動見積もあります)
弊所取扱分野紹介(英文
契約書翻訳・英語法律文書和訳)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_honyakub.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 今回の判例
外国会社サイトの
特許権侵害と国際裁判管轄
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
H22.9.15 知財高裁判決
日本
法人であるX社が、Sグループに属する大韓民国
法人で韓国内
に本店を有するY社に対し、日本国内において、Y社が、X社の有
する日本
特許権を侵害するY社製品の譲渡の申出を行ったとして、
Y社製品の譲渡の申出の差止と、
損害賠償の支払を求めました。
これに対し、Y社は、
抗弁として、同事件につき、日本における国
際裁判管轄を否定して争いました。つまり、この事件は、日本の裁
判所には管轄権がないと主張したわけです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
知財高裁は、以下のように判断しました。
● 本件訴えの国際裁判管轄の有無に関しては民訴法5条9号(
不法行為地(*))が斟酌される。この『
不法行為地』とは、加害
行為が行われた地(『加害行為地』)と結果が発生した地(『
結果発生地』)の双方が含まれる。
(*)
特許権侵害に基づく
損害賠償請求も、
不法行為に関する訴え
の一種です。
● それで、
不法行為に該当するとしてX社が主張する、Y社に
よる『譲渡の申出行為』について、申出の発信行為又はその受
領という結果の発生が日本国内においてなされたか否かにより、
日本の国際裁判管轄の有無が決せられる。
● Y社が英語表記のウェブサイトを開設し、製品としてY製品
の一つを掲載するとともに,『Sales Inquiry』
(販売問合せ)として『Japan』(日本)を掲げ、『Sa
les Headquarter』(販売本部)として、日本
の拠点(東京都港区)の住所、電話、Fax番号が掲載されて
いる。
● 日本語表記のウェブサイトにおいても、当該製品を紹介する
ウェブページが存在し、同ページの『購買に関するお問合せ』
の項目を選択すると、当該製品の販売に係る問い合わせフォー
ムを作成することが可能であること、Y社の経営顧問が、その
肩書とY社の会社名及び東京都港区の住所を日本語で表記した
名刺を作成使用していること、Y社製品の一つを搭載した製品
が国内メーカーにより製造販売され、国内に流通している可能
性が高いことなどを総合的に評価すれば、X社が
不法行為(特
許権侵害)と主張するY社製品の譲渡の申出行為について、Y
社による申出の発信行為又はその受領という結果が、我が国に
おいて生じたものと認めるのが相当である。
● 本件請求の準拠法は、X社
特許権の登録国法である日本国特
許法になり、我が国の裁判所が、本件請求を審理判断すること
は、裁判の適正・迅速を期する理念に沿う。
● Y社は、東京都において販売の拠点を設けていることをウェ
ブサイトにおいて開示し、英語表記のウェブサイトにおいてY
社製品について製品紹介を行い、当該製品が日本にも流通して
いることを認識している。さらに、日本語表記のウェブサイト
においてY社製品の購入問い合わせを可能としているのである
から、当該製品に関して我が国において侵害訴訟等が提起され
ることは予想の範囲内のことということもできる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)国際裁判管轄とは何か
本件のように、訴訟が別の国の当事者の間で起こされる場合があ
ります。例えば、A国のX社から、B国のY社に対する訴訟が、A
国の裁判所に提起されたとします。
この場合に、この事件について裁判管轄を有するのがA国の裁判
所なのか、又はB国の裁判所なのかという問題が、国際裁判管轄で
す。そして、他国の裁判所に訴えを提起されたY社としては、他国
の裁判より自国での裁判のほうがやりやすいため、また、他の理由
で、国際裁判管轄を争うことが珍しくありません。
(2)国際裁判管轄の判断基準
国際裁判管轄については、民訴法上の明文規定はありません(*)
。それで、最高裁昭和56年10月16日判決(マレーシア航空事
件)は、「よるべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則
もいまだ確立していない現状のもとにおいては、当事者間の公平、
裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがって決定
するのが相当である」と判断していました。
(*)ただし、例外として、日本が締結している一部の国際条約で
は、国際裁判管轄に関する規定を含むものがあります(例:
「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(モ
ントリオール条約))。
また、2011年に成立した民訴法の改正で、消費者
契約及
び労働関係に関する訴えの国際裁判管轄について規定が整備
されました。
現在の裁判実務は、上記最高裁判例その他の判例をもとに、国際
裁判管轄については、基本的には日本の民事訴訟法の管轄規定に依
拠しつつ、各事件における個別の事情を考慮して、「特段の事情」
がある場合には我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定するという枠
組みにより、国際裁判管轄の有無が判断されています。
日本の民事訴訟法では、国内裁判管轄をいくつか定めていますが
、その中には、以下のようなものがあります(以下は一部の例示で
す)。
● 被告の居所(民訴法2条)
●
法人その他の団体の事務所又は営業所(同4条)
● 義務
履行地(同5条)
● 被告の財産所在地(同8条)
●
不法行為地(同15条)
そして、本件で問題となったのは、上記のうち、「
不法行為地」
だったわけです。
(3)国際裁判管轄とビジネス上の指針
例えば、自社の製品が、日本においては他社の
特許権の侵害の可
能性が高いものの、同種の
特許権が登録されていない国があり、そ
の国で製造・販売したいと考えたとしましょう。
このスキーム自体は、製造・販売・宣伝等がすべて同種の
特許権
が登録されていない国で行われている限り、何らかの特段の事情が
なければ、日本の当該他社の
特許権を侵害するとはいえない場合が
多いと思われます。
しかし、本件のように、製品紹介のウェブサイトを日本語で開設
したり、日本において販売拠点があるかのような表示をしたり、日
本からの問合せを受け付けたり、さらに(日本では)侵害となる当
該製品が日本国内で流通しているといったことを認識していたり、
といった事情によっては、日本ででの
特許権侵害を疑われ、訴訟提
起を受ける可能性があります。
もちろん本件も、国際裁判管轄が日本にあるという判断がなされ
ただけであり、最終的に
特許権侵害の有無が判断されたわけではあ
りません。上記の設例も、日本の裁判所で管轄が認められるという
ことと、侵害について敗訴判決を受けることとは別問題ではありま
す。しかしながら、訴訟提起を受けることそのものに伴う人的、費
用的、時間的コストを考えれば、訴訟提起を受けること自体を回避
できることのメリットは少なくありませんから、上のような、
特許
権侵害を疑わせる事情はできる限り拭っておくことは重要ではない
かと思われます。
もっとも、どのような事情があれば日本で国際裁判管轄が認めら
れ、どのような事情があれば認められないかを一律に判断すること
はできませんし、専門家であっても事前に正確に予測し切ることが
難しいことは事実です。しかし、過去の判例などの事情をもとに専
門家の助言を受け、少なくともリスクの高い行為については避ける
などの事前対処をすることで、訴訟提起を受けることのリスクは相
当に下がるのではないかと思われます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本マガジンの内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアド
レス宛、メールでお申出ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集発行】石下雅樹法律・
特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-10-13
横浜東口ビル4階
mailto:
info@ishioroshi.com
弊所取扱分野紹介(リーガルリサーチ・法律調査)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_legalresearchb.html
顧問弁護士
契約(
顧問料)についての詳細
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_feeb.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンに対するご意見,ご感想は
mailto:
info@ishioroshi.com まで
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・特許事務所 第72号 2011-11-01
http://www.ishioroshi.com/
-------------------------------------------------------
弊所取扱分野紹介(契約書作成・契約書チェック・英文契約)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
(弁護士費用オンライン自動見積もあります)
弊所取扱分野紹介(英文契約書翻訳・英語法律文書和訳)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_honyakub.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 今回の判例 外国会社サイトの特許権侵害と国際裁判管轄
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
H22.9.15 知財高裁判決
日本法人であるX社が、Sグループに属する大韓民国法人で韓国内
に本店を有するY社に対し、日本国内において、Y社が、X社の有
する日本特許権を侵害するY社製品の譲渡の申出を行ったとして、
Y社製品の譲渡の申出の差止と、損害賠償の支払を求めました。
これに対し、Y社は、抗弁として、同事件につき、日本における国
際裁判管轄を否定して争いました。つまり、この事件は、日本の裁
判所には管轄権がないと主張したわけです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
知財高裁は、以下のように判断しました。
● 本件訴えの国際裁判管轄の有無に関しては民訴法5条9号(
不法行為地(*))が斟酌される。この『不法行為地』とは、加害
行為が行われた地(『加害行為地』)と結果が発生した地(『
結果発生地』)の双方が含まれる。
(*)特許権侵害に基づく損害賠償請求も、不法行為に関する訴え
の一種です。
● それで、不法行為に該当するとしてX社が主張する、Y社に
よる『譲渡の申出行為』について、申出の発信行為又はその受
領という結果の発生が日本国内においてなされたか否かにより、
日本の国際裁判管轄の有無が決せられる。
● Y社が英語表記のウェブサイトを開設し、製品としてY製品
の一つを掲載するとともに,『Sales Inquiry』
(販売問合せ)として『Japan』(日本)を掲げ、『Sa
les Headquarter』(販売本部)として、日本
の拠点(東京都港区)の住所、電話、Fax番号が掲載されて
いる。
● 日本語表記のウェブサイトにおいても、当該製品を紹介する
ウェブページが存在し、同ページの『購買に関するお問合せ』
の項目を選択すると、当該製品の販売に係る問い合わせフォー
ムを作成することが可能であること、Y社の経営顧問が、その
肩書とY社の会社名及び東京都港区の住所を日本語で表記した
名刺を作成使用していること、Y社製品の一つを搭載した製品
が国内メーカーにより製造販売され、国内に流通している可能
性が高いことなどを総合的に評価すれば、X社が不法行為(特
許権侵害)と主張するY社製品の譲渡の申出行為について、Y
社による申出の発信行為又はその受領という結果が、我が国に
おいて生じたものと認めるのが相当である。
● 本件請求の準拠法は、X社特許権の登録国法である日本国特
許法になり、我が国の裁判所が、本件請求を審理判断すること
は、裁判の適正・迅速を期する理念に沿う。
● Y社は、東京都において販売の拠点を設けていることをウェ
ブサイトにおいて開示し、英語表記のウェブサイトにおいてY
社製品について製品紹介を行い、当該製品が日本にも流通して
いることを認識している。さらに、日本語表記のウェブサイト
においてY社製品の購入問い合わせを可能としているのである
から、当該製品に関して我が国において侵害訴訟等が提起され
ることは予想の範囲内のことということもできる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)国際裁判管轄とは何か
本件のように、訴訟が別の国の当事者の間で起こされる場合があ
ります。例えば、A国のX社から、B国のY社に対する訴訟が、A
国の裁判所に提起されたとします。
この場合に、この事件について裁判管轄を有するのがA国の裁判
所なのか、又はB国の裁判所なのかという問題が、国際裁判管轄で
す。そして、他国の裁判所に訴えを提起されたY社としては、他国
の裁判より自国での裁判のほうがやりやすいため、また、他の理由
で、国際裁判管轄を争うことが珍しくありません。
(2)国際裁判管轄の判断基準
国際裁判管轄については、民訴法上の明文規定はありません(*)
。それで、最高裁昭和56年10月16日判決(マレーシア航空事
件)は、「よるべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則
もいまだ確立していない現状のもとにおいては、当事者間の公平、
裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがって決定
するのが相当である」と判断していました。
(*)ただし、例外として、日本が締結している一部の国際条約で
は、国際裁判管轄に関する規定を含むものがあります(例:
「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(モ
ントリオール条約))。
また、2011年に成立した民訴法の改正で、消費者契約及
び労働関係に関する訴えの国際裁判管轄について規定が整備
されました。
現在の裁判実務は、上記最高裁判例その他の判例をもとに、国際
裁判管轄については、基本的には日本の民事訴訟法の管轄規定に依
拠しつつ、各事件における個別の事情を考慮して、「特段の事情」
がある場合には我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定するという枠
組みにより、国際裁判管轄の有無が判断されています。
日本の民事訴訟法では、国内裁判管轄をいくつか定めていますが
、その中には、以下のようなものがあります(以下は一部の例示で
す)。
● 被告の居所(民訴法2条)
● 法人その他の団体の事務所又は営業所(同4条)
● 義務履行地(同5条)
● 被告の財産所在地(同8条)
● 不法行為地(同15条)
そして、本件で問題となったのは、上記のうち、「不法行為地」
だったわけです。
(3)国際裁判管轄とビジネス上の指針
例えば、自社の製品が、日本においては他社の特許権の侵害の可
能性が高いものの、同種の特許権が登録されていない国があり、そ
の国で製造・販売したいと考えたとしましょう。
このスキーム自体は、製造・販売・宣伝等がすべて同種の特許権
が登録されていない国で行われている限り、何らかの特段の事情が
なければ、日本の当該他社の特許権を侵害するとはいえない場合が
多いと思われます。
しかし、本件のように、製品紹介のウェブサイトを日本語で開設
したり、日本において販売拠点があるかのような表示をしたり、日
本からの問合せを受け付けたり、さらに(日本では)侵害となる当
該製品が日本国内で流通しているといったことを認識していたり、
といった事情によっては、日本ででの特許権侵害を疑われ、訴訟提
起を受ける可能性があります。
もちろん本件も、国際裁判管轄が日本にあるという判断がなされ
ただけであり、最終的に特許権侵害の有無が判断されたわけではあ
りません。上記の設例も、日本の裁判所で管轄が認められるという
ことと、侵害について敗訴判決を受けることとは別問題ではありま
す。しかしながら、訴訟提起を受けることそのものに伴う人的、費
用的、時間的コストを考えれば、訴訟提起を受けること自体を回避
できることのメリットは少なくありませんから、上のような、特許
権侵害を疑わせる事情はできる限り拭っておくことは重要ではない
かと思われます。
もっとも、どのような事情があれば日本で国際裁判管轄が認めら
れ、どのような事情があれば認められないかを一律に判断すること
はできませんし、専門家であっても事前に正確に予測し切ることが
難しいことは事実です。しかし、過去の判例などの事情をもとに専
門家の助言を受け、少なくともリスクの高い行為については避ける
などの事前対処をすることで、訴訟提起を受けることのリスクは相
当に下がるのではないかと思われます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本マガジンの内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアド
レス宛、メールでお申出ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集発行】石下雅樹法律・特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-10-13
横浜東口ビル4階
mailto:
info@ishioroshi.com
弊所取扱分野紹介(リーガルリサーチ・法律調査)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_legalresearchb.html
顧問弁護士契約(顧問料)についての詳細
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_feeb.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンに対するご意見,ご感想は
mailto:
info@ishioroshi.com まで
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━