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ワクチン説明書から見る科学(効果があるが万能でない)

こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
 産業医として化学工場、営業事務所、IT企業、電力会社、小売企業等で勤務し、厚生労働省において労働行政に携わり、臨床医として治療を行った複数の健康管理の視点で情報発信をしております。多くの企業様に労働衛生法、従業員の健康、会社の利益を守るお手伝いが出来ればと、新ブランド産業医EX(エキスパート)を立ち上げさせて頂きました。
https://www.sangyouiexpert.com/
 さらに、文末のように令和元日(5月1日)に、「令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法」を出版し、今まで高価であった産業医が持つ情報を、お手頃な価格にすることができました。
 今回は、「ワクチン説明書から見る科学(効果があるが万能でない)」について作成しました。
 労働衛生の取組を行うことで、従業員に培われる「技術」「経験」「人間関係」等の財産を、企業が安定して享受するためにご活用ください。
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ワクチン説明書から見る科学(効果があるが万能でない)
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 弊社では、インフルエンザワクチン接種の対応も行っており、今年は例年受けていなかった方も受けるなど、インフルエンザワクチン市場は大変盛況です。その中で、インフルエンザワクチンの効果について説明を求められることが多々ありました。
 また、以下コラム「【労働衛生教育利用可】科学と科学的非科学との違い」(以下「科学のコラム」という。)について、堅苦しいテーマでもあるにもかかわらず、11月初旬時点で2,500人以上の方にご覧頂いており、事例に基づいてもう少し分かりやすく説明して欲しいとの希望がありました。
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174817/
 今回は、インフルエンザワクチン添付文書(以下「ワクチン説明書」という。)(※1)を元に、科学について説明させていただきます。

※1:インフルエンザHAワクチン「第一三共」1mL
https://www.medicallibrary-dsc.info/di/influenz_vac_1ml/

◎法則性の科学と観察性の科学
 科学のコラムでも示したように、科学は物理や化学に代表される数学的に表すことが比較的容易であり、再現性が高い「法則性の科学」と、大規模疫学や人文科学に代表される観察をし、統計的に分析を行うことで傾向を求める「観察性の科学」があります。
 法則性の科学は、単純化された事象に対しては再現性が高く有用である一方、複数の要素が関わってきた場合、演算が困難となり速やかに利用することが困難になります。
 観察性の科学は、複数の要素が関わっていても前後の相関を示すことが容易である一方、観察する集団等の属性により、傾向が変化することも多く、必ずしも高い再現性が得られない課題があります。
 なお、AI(人工知能)による評価は、観察性の科学を機械的に行い、インプット内容から傾向を元にアウトプット案を示すものといえます。
 それぞれに一長一短があり、科学の整理は2軸のそれぞれを評価し、良い点と悪い点の双方を受け入れた上で利用することが必要になります。

◎ワクチン説明書の法則性の科学
 ワクチン説明書において、科学的に効果がある法則性の科学は次の様になります。
・化学物質について
ワクチンは、厚労省より指定された製造株(以下「指定株」という。)についてインフルエンザウイルスを培養・分解・不活化した後、ヘムアグルチニン(抗原性糖タンパク質)を採取・希釈したもの。
・化学物質の特性について
ヘムアグルチニンは、インフルエンザウイルスの表面抗原の一つであり、ウイルスの宿主細胞への吸着に関与している。本剤の接種により、HAに対する抗体が産生され、インフルエンザウイルスの防御抗体として働くことで、インフルエンザの予防が期待される。
・使用時の注意
容器の栓及びその周囲をアルコールで消毒した後、注射針をさし込み、所要量を注射器内に吸引する。この操作に当たっては雑菌が迷入しないよう注意するなど。
 法則性の科学の部分は高い再現性が求められ、製造に当たっては法令(※2)で詳細が定められています。例えば、10個中1個不良品がある薬を注射したいかといえば、ほとんどの人が「NO」と答えるでしょう。
 また、指定株の抗体ができたとしても、指定株が流行した株と異なる場合は、科学の法則として、目的とする免疫効果を得ることができません。(類似抗体による効果が得られる場合はあります。)。
 法則性の科学は、高い再現性が得られますが、基礎科学を丁寧に理解しないといけないため、多くの人にハードルも高く、前述の様に複数の要素が関わった場合は、因果関係の見える化が困難になります。

※2:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第96条(製造管理又は品質管理の方法の基準への適合)に「医薬品(中略)製造業者(中略)は、その製造所における製造管理又は品質管理の方法を、法第14条第2項第4号の厚生労働省令で定める基準に適合させなければならない。」等と定められています。
 
◎ワクチンの説明書の観察性の科学
 ワクチンの説明書において、科学的に効果がある観察性の科学は次の様になります。
・抗体ができたか否かの観察
20歳以上の健康成人100例を対象とした試験において、A型インフルエンザHAワクチン(A/カリフォルニア/7/2009(H1N1))0.5mLを上腕に2回皮下接種したときの抗体を測定した。その結果、1回目接種21±7日後に中和法で87%、HI法で73%に抗体ができていたなど。
・発病阻止ができたか否かの観察
1997~2000年において老人福祉施設・病院に入所(院)している高齢者(65歳以上)を対象にインフルエンザHAワクチンを1回皮下接種し有効性を評価した。有効性の正確な解析が可能であった98/99シーズンにおける結果から、発病阻止効果は34~55%、インフルエンザを契機とした死亡阻止効果は82%であり、インフルエンザHAワクチンは重症化を含め個人防衛に有効なワクチンと判断された。
・目的としない症状がでてしまったかの観察
副反応として、3歳以上13歳未満の小児について、注射部位に紅斑、腫脹、硬結、疼痛、熱感が5%以上の確率で発生したなど。
 ワクチン接種後に抗体が陽性になるかは、注射の方法、接種対象者の抗体を作る力、抗体検査の感度等の複数の影響が存在します。それぞれを事象毎に切り分けて、完全に法則性を導き出すことは難しく、傾向を調査することになります。そのためには、観察性の科学で集団の中で割合を評価することが比較的容易であり、有効です。
 なお、少数の事例報告も観察の科学ですが、信頼性が低いです。評価する集団を適切に定義し、因果関係を調査したい事象の介入により、時間的にどういった変化があったかを観察することが重要です。

◎ワクチンも大事だが日頃の予防対策も大事
 日本では、「インフルエンザに関する報道発表資料 2020/2021シーズン」の様に、
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou_00008.html
観察の科学を続けております。その結果、今年は例年にない風邪(上気道炎)に対する対策が行われていることから、インフルエンザ定点当たり報告数は、少ないときは昨年同週の1%未満で推移しています。(同時に、ゼロにできないことも明らかになりました。)
 厚生労働省発出の「季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い」(※3)によると、9月、10月にインフルエンザワクチンの接種がされた方はほとんどいないことは明らかです。従って、ワクチンによる予防より基本的な予防対策が大きな効果を示すことが、観察性の科学の元、さらに明らかになりました。
 ワクチンは有効ですが、万能ではありません。科学に基づいた適切な対策が大きな効果を示します。これは、インフルエンザウイルスに限らずコロナウイルスにも同じことが言えます。

◎「名ばかり専門家」が社会的健康を破壊する時代に立ち向かうために
 専門家と呼ばれる者が、約40万人が致死的(令和2年11月6日時点、死亡者数約1,800人)という情報を一人歩きさせ、社会を混乱に陥れ、数多くの個人と企業を精神的・社会的に不健康にし、一部報道では社会的新型コロナウイルス禍が原因で自殺者数が増えているとありました。「一般的に専門家と呼ばれる者」が不安をまき散らす時代に、各企業は「適切な科学者」を行政に確保するよう意見をするか、自社で「適切な科学者」を確保することが必要な時代になってしまいました。
その際に、科学者と呼ばれる者が、「法則性の科学」と「観察性の科学」を自分の中で整理しているかを評価するのは、重要な指標になります。特に、観察性の科学で効果が認められたからといって、法則として絶対的に効果があるように話をする者は科学の素養があるとは言えません。新型コロナウイルスに対するワクチンについての意見は、科学者としての知性を評価する良い指標になるでしょう。
 物事を軽視するとしっぺ返しを受けるのは世の常で、科学についても同様に、軽視するとしっぺ返しを受けます。「名ばかり専門家」のアジテーションに負けないように、適切な努力と高いアンテナを張り巡らしてください。

※3:季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い(抜粋)「原則として、予防接種法に基づく定期接種対象者(65 歳以上の方等)の方々でインフルエンザワクチンの接種を希望される方は10 月1日(木)から接種を行い、それ以外の方は、10 月26 日(月)まで接種をお待ちいただくようお願いします。」

参考:感染予防効果あり!では、来年度以降の集団の健康管理をどうする
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174562/

参考:【感染症】第3波の混乱に巻き込まれないために
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174984/
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令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法
http://miraipub.jp/books/%E3%80%8C%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9-%E9%83%A8%E4%B8%8B%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE-%E5%83%8D/

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