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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
弁護士
法人クラフトマン 第97号 2013-03-19
(旧 石下雅樹法律・
特許事務所)
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弊所取扱分野紹介(
契約書作成・
契約書チェック・英文
契約)
http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/keiyaku/
(弁護士
費用オンライン自動見積もあります)
弊所取扱分野紹介(英文
契約書翻訳・英語法律文書和訳)
http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/honyaku/
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1 今回の判例 図面の著作物・図面に基づく製品の製造
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大阪地裁平成24年12月6日判決
A社がB社に対し、A社が開発・製造・販売する製品(攪拌造粒機
)の主要部分の製作を委託する取引を続けてきましたが、平成21
年8月31日をもって同取引は終了しました。
取引においては、A社がB社に対し、A社が作成したA社製品に関
する
設計図面を開示し、B社はこれに基づいて原告製品を製造して
いました。
取引終了後、B社は、別の会社C社から攪拌造粒機の製造委託を受
けて製造販売しました。これに対し、A社は、B社のこの製品につ
いてA社の
特許権侵害等の主張のほか、B社が、A社製品の図面を
使用してB社製品又はその構成部品の製造を行うことが、A社製品
の図面に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害すると主張しまし
た。
この事件においては争点は多数ありますが、本稿では、著作権侵害
についてのみ取り上げます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 判決の内容
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裁判所は以下のように判断しました。
● 本件でA社製品図面であるとして提出された
設計図面は通常の
作図法に従って記載されているところ、A社は、
設計図面のうちど
の部分が著作物性を有するのか等について具体的な主張をしておら
ず、製品図面は著作権法上の著作物といえない。
● 著作物たる「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1
項6号)であっても、これに従って製品を製造することは、建築物
の場合(著作権法2条1項15号ロ)を除き複製や翻案には当たら
ない。
● したがって、B社がB社製品又はその構成部品の製造をするこ
とが、図面に係るA社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると見
る余地はない。
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3 解説
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(1)
設計図の著作権法上の位置づけ
少なからぬ方が誤解している点ですが、
設計図といった図面がす
べて著作物となるわけではありません。
設計図は、「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項
6号)として著作物となりえます。しかし、著作権法の保護を受け
る著作物は、同法2条1項1号のとおり「思想又は感情を創作的に
表現したもの」である必要がありますから、著作物として保護され
る
設計図又はその一部とは、制作者の創作的な(個性が表されてい
る)表現が示されている部分ということになります。
そして、
設計図の主たる機能は情報の正確な表現であり、どの技
術者もその
設計図を読めば同じ情報を読み取ることができる必要が
あります。そのため、実際には、
設計図において、創作的な表現が
認められ、もって著作物として保護されるという範囲は、非常に限
られている、という点は頭に入れておく必要があると思われます。
(2)
設計図に基づく製造と著作権侵害
また、
設計図に基づき製品を製造する行為を、著作権自体で差し
止めることも通常は困難です。
例えば著作権の代表的な支分権である「複製権」は、その著作物
自体を複製する権利です。つまり、仮にある
設計図が著作物である
とした場合であっても、その
設計図自体の複製はその
設計図の複製
権侵害となりますが、
設計図に基づいて物を製造することは複製権
侵害にはならないというのが判例の考え方です。また日本では、設
計図の翻案権(著作権法27条)の侵害にも該当しないと考えられ
ています。
(3)設計情報の保護のための他の措置
以上を考えると、他者に
設計図面を開示する場合、他に対策を講
じなくても、
設計図面には著作権があるから大丈夫という考え方は
自社の利益保護の観点から大きなリスクがあるということになりま
す。
ですから、開示する情報の重要性とかけられるコスト、時間的余
裕等の要素を考慮し、以下のような手を事前に打つことは重要なこ
とであると考えられます(ただし、以下のいずれかの手段が決定的
な特効薬という意味ではありません)。
● 開示する情報の範囲の選別
「信頼関係がある」という理由で安易にすべての情報を開示し
せず、本当に重要なコアは自社で処理できないか検討する。
● 秘密保持
契約の締結
できるかぎり秘密情報を特定する。
●
特許・実用新案等の出願
著作権は表現を保護するのに対し、
設計図に具現された技術的
思想を保護することを本来的機能とするのは、
特許や実用新案
です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4 お知らせ 弊所ウェブサイト
リニューアルのお知らせ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今般弊所は、ウェブサイトを全面
リニューアルいたしました(な
お従前と同様外注はせず、代表弁護士石下の手作りです)。
今回の
リニューアルにより、全般的に読みやすくなり、多くの皆
さんにさらに有用なサイトになったと自負しております。
また、
会社法務・ビジネス法務・知的財産関係の各法律について
ポイントを解説したページ
http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/
も情報が満載です。ぜひ一度ご訪問ください。
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本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本稿の内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています(これまで数社からお申し出をい
ただいたことがあり、すべて承諾させていただきました)。
この場合、遠慮なく下記のアドレス宛、メールでお申出ください。
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【編集発行】
弁護士
法人クラフトマン (旧 石下雅樹法律・
特許事務所)
横浜主事務所
〒221-0835 横浜市神奈川区鶴屋町3-32-14 新港ビル4階
ラフトマン法律事務所
TEL 045-276-1394(代表) 045-620-0794 Fax 045-276-1470
新宿オフィス
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パシフィックマークス新宿サウスゲート 9階
弁護士
法人クラフトマン新宿
特許法律事務所
TEL 03-6388-9679 FAX 03-6388-9766
mailto:
info@ishioroshi.com
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顧問弁護士
契約(
顧問料)についての詳細
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1 今回の判例 図面の著作物・図面に基づく製品の製造
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大阪地裁平成24年12月6日判決
A社がB社に対し、A社が開発・製造・販売する製品(攪拌造粒機
)の主要部分の製作を委託する取引を続けてきましたが、平成21
年8月31日をもって同取引は終了しました。
取引においては、A社がB社に対し、A社が作成したA社製品に関
する設計図面を開示し、B社はこれに基づいて原告製品を製造して
いました。
取引終了後、B社は、別の会社C社から攪拌造粒機の製造委託を受
けて製造販売しました。これに対し、A社は、B社のこの製品につ
いてA社の特許権侵害等の主張のほか、B社が、A社製品の図面を
使用してB社製品又はその構成部品の製造を行うことが、A社製品
の図面に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害すると主張しまし
た。
この事件においては争点は多数ありますが、本稿では、著作権侵害
についてのみ取り上げます。
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2 判決の内容
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裁判所は以下のように判断しました。
● 本件でA社製品図面であるとして提出された設計図面は通常の
作図法に従って記載されているところ、A社は、設計図面のうちど
の部分が著作物性を有するのか等について具体的な主張をしておら
ず、製品図面は著作権法上の著作物といえない。
● 著作物たる「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1
項6号)であっても、これに従って製品を製造することは、建築物
の場合(著作権法2条1項15号ロ)を除き複製や翻案には当たら
ない。
● したがって、B社がB社製品又はその構成部品の製造をするこ
とが、図面に係るA社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると見
る余地はない。
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3 解説
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(1)設計図の著作権法上の位置づけ
少なからぬ方が誤解している点ですが、設計図といった図面がす
べて著作物となるわけではありません。
設計図は、「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項
6号)として著作物となりえます。しかし、著作権法の保護を受け
る著作物は、同法2条1項1号のとおり「思想又は感情を創作的に
表現したもの」である必要がありますから、著作物として保護され
る設計図又はその一部とは、制作者の創作的な(個性が表されてい
る)表現が示されている部分ということになります。
そして、設計図の主たる機能は情報の正確な表現であり、どの技
術者もその設計図を読めば同じ情報を読み取ることができる必要が
あります。そのため、実際には、設計図において、創作的な表現が
認められ、もって著作物として保護されるという範囲は、非常に限
られている、という点は頭に入れておく必要があると思われます。
(2)設計図に基づく製造と著作権侵害
また、設計図に基づき製品を製造する行為を、著作権自体で差し
止めることも通常は困難です。
例えば著作権の代表的な支分権である「複製権」は、その著作物
自体を複製する権利です。つまり、仮にある設計図が著作物である
とした場合であっても、その設計図自体の複製はその設計図の複製
権侵害となりますが、設計図に基づいて物を製造することは複製権
侵害にはならないというのが判例の考え方です。また日本では、設
計図の翻案権(著作権法27条)の侵害にも該当しないと考えられ
ています。
(3)設計情報の保護のための他の措置
以上を考えると、他者に設計図面を開示する場合、他に対策を講
じなくても、設計図面には著作権があるから大丈夫という考え方は
自社の利益保護の観点から大きなリスクがあるということになりま
す。
ですから、開示する情報の重要性とかけられるコスト、時間的余
裕等の要素を考慮し、以下のような手を事前に打つことは重要なこ
とであると考えられます(ただし、以下のいずれかの手段が決定的
な特効薬という意味ではありません)。
● 開示する情報の範囲の選別
「信頼関係がある」という理由で安易にすべての情報を開示し
せず、本当に重要なコアは自社で処理できないか検討する。
● 秘密保持契約の締結
できるかぎり秘密情報を特定する。
● 特許・実用新案等の出願
著作権は表現を保護するのに対し、設計図に具現された技術的
思想を保護することを本来的機能とするのは、特許や実用新案
です。
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4 お知らせ 弊所ウェブサイトリニューアルのお知らせ
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今般弊所は、ウェブサイトを全面リニューアルいたしました(な
お従前と同様外注はせず、代表弁護士石下の手作りです)。
今回のリニューアルにより、全般的に読みやすくなり、多くの皆
さんにさらに有用なサイトになったと自負しております。
また、会社法務・ビジネス法務・知的財産関係の各法律について
ポイントを解説したページ
http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/
も情報が満載です。ぜひ一度ご訪問ください。
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本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本稿の内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています(これまで数社からお申し出をい
ただいたことがあり、すべて承諾させていただきました)。
この場合、遠慮なく下記のアドレス宛、メールでお申出ください。
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【編集発行】
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