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借地借家法と賃料増額請求権

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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
弁護士法人クラフトマン 第140号 2015-01-06
(旧 石下雅樹法律・特許事務所)

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1 今回の判例  借地借家法と賃料増減額請求権
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最高裁平成26年9月25日判決

 賃借人Y氏は、賃貸人X氏から建物を賃借していましたが、契約
上、平成6年以降の賃料は月額300万円とされていました。そし
て賃借人Y氏は、賃貸人X氏に対し、平成16年3月、賃料を月額
240万円に減額する旨の通知をしました。

 これに対し、賃貸人X氏は、Y氏に対し、平成17年7月、賃料
を月額320万円2200円に増額する旨の通知をし、賃料額の確
認を求める訴えを起こしました(前訴)。X氏はさらに、前訴の訴
訟中である平成19年6月、賃料をさらに月額360万円に増額す
る旨の通知をしました。

 そして裁判所は、前訴において、Y氏が240万円への減額の通
知をした時点での賃料を確定したところ、その後X氏は、X氏が前
訴の最中にした360万円への増額の通知時点での賃料額の確認を
求める訴えを提起しました。これに対し、Y氏は、訴えを提起する
ことの可否を争いました。

 なお本件においては、難しい法律解釈が争点となっていますが、
本稿の解説欄においては賃料増額請求権の行使の方法に絞ってご紹
介します。

 今回は事案も複雑ですし、裁判所の判断も主として法律的な論点
ですので、後述の解説欄だけをご覧になってもよいかもしれません。



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2 裁判所の判断
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 裁判所は、前の判決の効力が、Y氏がした240万円への減額の
通知の時点、およびX氏がした320万円への増額の通知の時点で
の賃料額を判断しているにすぎないから、X氏が360万円への増
額の通知をなした時点における賃料額の確認を求める訴訟を提起す
ることも認められる、と判断しました。



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3 解説
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(1) 賃料額増減請求権

 今回の事例では、当事者双方による賃料増減額の通知が訴訟の根
拠とされています。

 この点、上で申し上げたとおり、本件では賃借人と賃貸人が相互
に一方的に賃料の増額や減額の通知をしあっていますが、これには
どんな意味があるのでしょうか。これは、借地借家法11条と32
条に定める「賃料額増減請求権」という権利に基づいた行為です。

 すなわち、借地借家法では、土地や建物の租税その他の負担の増
減、土地や建物の価格が上昇したり低下したりするなど経済事情の
変動により、または近隣の類似物件の賃料と比較して不相当となっ
たときは、契約の条件にかかわらず、将来に向かって地代等の額の
増減を請求することができるという権利が認められているのです。

 この点例えば、土地の賃貸借などでは、ずいぶん昔に締結した契
約の賃料のまま、ずっと更新され、地代として見合わなくなってい
る事例も見受けられます。このような場合に活用できるのが、賃料
額増減請求権です。


(2) 賃料額増減請求の手順

 この賃料額増減請求権は、賃貸人、賃借人どちらからも行使する
ことができます。具体的には、まずは、妥当と考える賃料への変更
を、相手方に書面で通知すします。そして、この通知は、調停や裁
判になった際の証拠とするためにも、書面で、かつ到達を確認でき
内容証明郵便などの方法によって行うのが望ましいと考えられま
す。

 賃料の増額または減額の意思表示を行うと、その時点から将来に
向かって増額・減額の効果が生じます。

 しかし、通常は、他方の当事者はそうした一方的な増減額の通知
について納得しない場合がほとんどですので、当事者間で意見がま
とまらない場合には、裁判所の判断を仰ぐことになります。そして
裁判所が最終的に賃料額を確定するまでの間、賃借人は、相当と認
める金額、増額請求なら、通常は従前の賃料を支払えばよいとされ
ています。

 ただし、裁判所の判断を仰ぐといっても、法律上は、いきなり訴
訟を提起するのではなく、まず、裁判所に調停を申し立てなければ
ならないとされています(民事調停法24条の2)。

 そして、調停でも協議が整わない場合にはじめて、訴訟を提起す
ることができ、裁判所が適切な賃料額を判断することとなります。

 適切な賃料額の判断にあたり、裁判所は、固定資産税などの公租
公課の増減、土地建物の価格変動、近隣の同種物件の賃料相場、そ
の他賃貸人と賃借人との間の個別事情等を考慮します。そして、こ
うした手続の中で不動産鑑定が行われることも少なくありません。



(3) 賃料額増減の効果

 裁判所が賃料額を確定すると、契約上の賃料は、賃貸人または賃
借人が増額または減額の意思表示をした時点に遡って確定します。

 そうすると、判決までの期間の賃料支払いについていえば、賃料
が減額された場合は賃貸人は多くもらいすぎたことになり、賃料が
増額された場合は賃借人は払い足りなかったことになります。

 そして、この場合の超過分や不足分については、年10%の割合に
よる利息を付けて支払うか返還しなければならないと借地借家法
定められています。

 不動産の賃貸借はどの業種でも関係のある問題であり、賃料の金
額は、事業の損益に大きな影響を与えるものです。それで、契約書
の記載いかんにかかわらず、賃料が実態にそぐわない場合には、賃
料額増減請求権を積極的に活用することを検討できるかもしれませ
ん。



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