経費で車を購入するには?節税のポイントと注意点を税理士が解説
法人設立のメリットは、社会的信用を獲得できる、社会保険に加入できる、節税できるなどいくつかあります。とりわけ“節税できる”は、社会的信用の獲得と並び、法人化の2大メリットと言ってもよいでしょう。なぜ会社をつくると節税ができるのか。主な理由は、次の2点です。
①法人対する国税や地方税率が一定であるのに対し、個人に対する所得税率は累進課税が採用されているから
②個人事業主よりも法人の方が、算入できる経費の範囲が広いから
法人化することで経費として認められる費用には、役員報酬・生命保険料・社宅家賃・車両の維持費などが挙げられます。今回は、税理士である筆者が“車両の維持費”について、詳しく説明していきます。記事の最後には、車の名義を個人から法人に変更する場合の実務チェックシートを無料でお配りしているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
「社用車にすればいい」は本当?会社の経費で購入できるのは…
所得税における家事按分とは
車両を100%事業で使用していることが明らかな場合は、個人事業主でもトラックなどの車両維持費を経費で落とすことは可能です。しかし普通乗用車の場合は、そう簡単には行ません。所得税の世界には、“家事按分”という考え方があり、使った金額を事業用部分と家事(プライベート)部分に分けて、経費に算入する必要があります。
車に乗って取引先を訪問している、現場を回っていると主張しても、買い物に行ったり、家族の送り迎えに使ったり、ペットを乗せて動物病院に行ったりなど、プライベートでも使用している部分は、経費にできません。たとえば、6割は仕事で使っているけれど、4割は家族が買物の脚として使っている場合には、車の減価償却費(注 下記参照)だけでなく、ガソリン代や自動車保険など車関連費用の全ての4割しか、費用として認められないというわけです。
社有車の取り扱い
法人名義の乗用車の場合はどうでしょうか。法人、なかでも株式会社や合同会社などは、経済的利益を獲得することを目的に設立されます。したがって法人の行う全ての活動は、100%事業活動に直結していなければなりません。法人が乗用車を所有するからには、営業目的や従業員の送迎目的、役員の安全確保など何らかの理由があり、法人の利益獲得に貢献しているはずと考えられます。そのため普通乗用車であっても、法人名義の車は、原則として全額を費用に算入することになります。
社有車が否認される場合も
もちろん、法人名義にしさえすれば、何でもOKという訳ではありません。社長の趣味で選んだスポーツカーや、家族でキャンプに行くために購入したランドクルーザーなど、どうみても事業目的ではない車を社有車として費用計上していると、税務調査で否認され、二重課税が発生するので注意してください。そういったことが起こると、まず車両の減価償却費や車両関係の費用が否認され、対応する部分の法人税や法人地方税が課税されます。さらに車の購入費用や法人が負担した費用は、役員に対する現物賞与とみなされ、所得税や住民税が課税されるので、かえって税負担が増えることになります。「節税のために、社有車にしさえすればいい」という安易な考えは禁物です。
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社有車にした場合の節税効果と押さえておくべきポイント
減価償却費について
車を法人名義にすると、どのような節税効果があるのでしょうか。まず何と言っても、車の購入費用を会社で負担することができることが大きなメリットです。ただし、車のように高額な支出は、購入した年度に全額費用に計上することはできません。
10万円以上の高額な資産(使用可能期間が1年未満のものは除く)は、複数年度にわたって利益に貢献することを期待して購入されるものだからです。資産の取得に要した金額は、利益に貢献する期間で按分して、少しずつ費用として計上していきます。これを“減価償却”といい、少しずつ計上される費用のことを“減価償却費”といいます。
【こちらの記事も】設備投資にいくらかけるべき?減価償却と設備投資計画の進め方を税理士が解説
減価償却する期間について
“利益に貢献する期間”は、本来なら資産の使い方や会社の事業計画によって異なるはずですが、それでは課税の公平性が保たれないため、法律で資産の種類ごとに使用可能期間が定められています。これを“法定耐用年数”といい、一般的にはこの法定耐用年数に従って、少しずつ費用化していくことになります。法定耐用年数は国税庁のホームページから確認できます。
【参考】「主な減価償却資産の耐用年数表」 / 国税庁
個人事業主が法人を設立したり、会社員だった人が法人を設立したりした場合には、個人名義だった車を法人が買い取ることになります。この場合は、中古車を買い取るわけなので、上述の法定耐用年数をそのまま使うと、実際の使用可能期間よりも長い期間、減価償却することになってしまいます。そこで中古資産を購入した場合には、下記の算式を使って使用可能期間を計算します。
中古資産の耐用年数
①法定耐用年数の全部を経過した資産・・・法定耐用年数×20%
②法定耐用年数の一部を経過した資産・・・(法定耐用年数ー経過年数)+経過年数×20%
なお、1年未満の端数は切り捨てます。また、その年数が2年に満たない場合には2年となります。この中古資産の耐用年数の計算は、その資産を事業の用に供した年度でしかできないので、注意してください。
【参考】「中古資産の耐用年数」 / 国税庁
車の所有に付随して発生する費用
車を法人名義にすることで、損金に算入できる費用は、減価償却費以外にもたくさんあります。たとえば、車の駐車場代・自動車保険・自動車税・車検費用・ガソリン代・オイル交換など車のメンテナンス費用、車の修理代などが考えられます。
法人名義にあたっては、車種によって数千円の実費がかかります。さらに代行業者に頼めば、2〜3万円の報酬が発生しますが、長い目で見れば、すぐに取り戻せる金額なので、目先のコストをケチらずに名義変更を行うことをおすすめします。名義変更が必要なのは、車本体だけではありません。加入している自賠責保険や任意保険、さらに駐車場の変更も忘れないように注意してください。
個人名義から法人名義に変える場合の注意点
譲渡価額はどうやって決めるべき?
個人が法人に譲渡するときの売買金額は、時価で行わなければなりません。中古車の時価は、インターネットなどで中古車販売会社に査定してもらうか、インターネットで同車種・同年代の中古車価額の平均値を調べ計算すれば算定できます。時価より低い金額で売買すると、差額について経済的利益を受けたとみなされ、法人に受贈益が発生します。反対に、時価より高い金額で売買すると、役員が法人から賞与をもらったとみなされ、所得税が課税されます。いずれの場合も、余計な税金が発生するので要注意です。
個人の確定申告も必要
これまで個人事業主として事業のために使っていた車を法人に売却し、利益が出る場合には確定申告が必要です。車を譲渡した場合、総合課税による譲渡所得として税金の計算をすることになります。総合課税による譲渡所得の計算は、下記のとおりです。
譲渡所得の金額 ※= 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 50万円
※注)所有期間が5年を超える場合は、1/2。
したがって、利益が50万円以下の場合には、申告・納付は不要ということになります。
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【参考】
「主な減価償却資産の耐用年数表」 / 国税庁
「中古資産の耐用年数」 / 国税庁
*akiyoko、yukiotoko、CORA、primipil、Luce/ PIXTA(ピクスタ)