やりっぱなしはNG!研修の効果測定から成果につながる研修を設計する方法
新卒が入社する春先や、中途社員が入社するタイミングで研修を行い、アンケートで効果を測定し、改善されず次回もそのまま……ということも多いのではないでしょうか。また、そもそも研修を行っていないという企業もあるかもしれません。
そもそも、中小企業で研修は行うべきなのでしょうか。また、研修の制度を上げ、しっかりと効果が出るようにするにはどうすればよいのでしょうか。今回は、研修の効果測定という切り口から、結果の出る研修の設計方法やアップデート方法を紹介します。
目次
中小企業に研修は必要なのか
まずは「そもそも、中小企業に研修は必要なのか」という点について述べます。
内閣府の調査によると、一人あたり人的資本投資額が1%増加した場合、労働生産性が約0.6%増加するという調査結果が出ています。つまり、労働生産性を上げるためには人材育成を行う必要があるということです。
また、育成や自己啓発支援を行わなければ、働き手から選ばれず、ますます人手不足に悩むということが起こりえるとも解釈できます。今後、人への投資に積極的に取り組んでいる企業に人材が一極集中する傾向が強まるといえるでしょう。
研修の重要性を感じていただけたかと思うのですが、実際の現場ではクライアント企業から以下のような声をよく聞きます。
- 「メンバーの成長速度が遅い!人事はもっといい研修をやってくれ」
- 「研修は一応受けますが、研修は勉強の場です。研修と現場は別物です」
- 「高いお金と時間を割いて研修を行っているが経営に役立っているのか?」
など、必ず「研修が生産性の向上に結びついているのか?」という疑問の声です。
「研修を行えば生産性が向上する」と、単純にはいえない難しさが実際にはあります。では、どうすれば経営成果や生産性の向上につながる研修になるでしょうか?
「リマインド策」「現場に即した研修内容の充実」「受講前の動機付け」など、さまざまな打ち手はありますが、今回は「研修の効果測定」という切り口から考えていきます。
もともと「研修の効果測定」は、研修実施後の振り返りの際に必要な概念で、研修の見直しや改善に活かすための考え方です。では、これを現場や経営との関わりという観点で捉え直し、経営に役立つ研修にしていくため「研修の効果測定」という概念をどう活用・運用していけばよいのでしょうか?
【参考】人生100年時代の人材と働き方/内閣府
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研修の効果測定方法とは
上図は弊社が行った「研修効果を高めるための取り組みに関するアンケート調査(回答者194名)」からの抜粋です。
効果測定方法としては、「受講者本人へのアンケート調査を行う」が突出しています。次に多いのが「特に工夫していることはない」という回答です。それ以外の項目は低い値になっています。
この結果から見えることは、「受講者本人へのアンケート」は最も手軽で取り組みやすいということだと思います。
従業員規模別で見ると、300名以下の会社では、「特に工夫していることはない」の数値が飛び抜けています。中小企業では、大企業に比べ、研修の効果測定を行う必要性を強く感じていないのかもしれません。あるいは、効果測定の方法が分からないのかもしれません。
「そもそも効果測定の方法が分からない」「もっと効果測定の工夫をして、生産性向上や経営に役立つ研修にしたい」そのような声に対して、経営成果や生産性向上につながる研修を実施するために、研修の効果測定をどう工夫し、どう運用するかについて解説していきます。
研修の効果測定はどう行うのか
①アンケートをとることが目的化してしまっている現状を変える
研修の効果測定の方法としてよく知られているのが、カークパトリックの「4段階評価モデル」です。このモデルを参考に筆者なりの考え方を加えて、まとめると以下のようになります。
- レベル1「反応 」:研修プログラムについて参加者はどのように感じたのか?
- レベル2「学習」:参加者は何を学習したのか、知識が増えたのか、技術が改善されたのか?
- レベル3「行動・態度」:研修後、職場に戻ってからの行動や態度がどのように変わったか?
- レベル4「結果」:最終的にどのような経営成果(量、質、安全面、コストなど)が出たか?
【参考】The Kirkpatrick Model/Kirkpatrick Partners
4段階をもう一度ご覧いただくと、「1から2」と「3から4」では明らかに違う点があります。それは、研修効果に影響する要因が「研修そのもの」か「研修以外も含まれる」かという違いです。
3から4レベルの研修の効果測定においては「上司の協力があったから」「いいお客様と出会えたから」など、「研修以外の要因が影響して効果が出たのではないか?」という疑問に、「いや、研修そのものが原因だ」と答えることが難しいのです。
経営層から「できれば即効性があった方が望ましいが、時間はややかかっても必ず経営成果につながる研修をしてほしい」という声をお聞きします。「研修終了後にアンケートを取る」というだけでは、「研修効果を測定すること」自体が目的となってしまい、「経営に役立つ研修を実施する。そのために研修効果を測定する」という本筋から外れていってしまう恐れがあります。
上記1~4段階の効果測定方法を活用しながら、経営成果に結びつく研修を計画し、実施・検証していきたいものです。
②経営成果と研修効果の「関わり」を設計する
【参考】ATD人材育成国際会議 帰国報告会 2018/IDEA DEVELOPMENT株式会社
人材開発に関する団体であるATD(Association for Talent Development)において、ホールとマトックスが「人材開発の組織化」という理論で、人材育成のミッションを提唱しています。
この理論を経営成果の指標として使用し、筆者なりの考えを加え、経営成果と研修効果の関わりをまとめたものが上図です。
4つの軸をもとに関係者を巻き込みながら設計する方法について述べていきます。
まずは、貴社の人材育成投資の対象となる「経営成果は何か」「重点はどれか」を考えてみてください。次に「経営成果」を決めたら、矢線図などを活用し研修効果と経営成果の関わりをざっくりとした“図”にします。経営成果と研修効果の間に、“目標”を1~2つ挟むと関わりがつながりやすくなる場合があります。
ポイントは、最初から緻密に“関わり”をつくろうとしないことです。最初はタタキ台レベルのものをつくり、それをもとに関係者を巻き込んでいけばよいのです。
③設計図で「関係者」を巻き込み、2つの質問で精度を上げる
“関係者”とは、実施する研修の関係者のことで、経営層、受講者、受講者の上司、外部に委託する時は研修業者も含まれます。“2つの質問”とは、次の2つです。
Q1:(設計図を示しながら)「目標」「達成基準」「関わり」はこれでよいか?
Q2:研修プログラム内容は、設計した「関わり」にきちんとつながるか?
この2つの質問が、関係者を巻き込み、その関与を高めます。
そして、この設計図を計画(Plan)とし、実施(Do)、効果測定(Check)、改善(Action)するという一連の過程で、“2つの質問”を関係者が常に頭において、PDCAを回していくことが、設計内容の精度を上げていきます。その結果、経営成果に結びつく研修となるように改善を進めていける、あるいは、導入前であれば関係者への説明において、その理由への納得度を高めることにつながります。
筆者のお客様でも、「人材開発員会」などを設置している企業が増えていますが、実際に委員会に中に入ってみると、「設計なし」「関係者の巻き込みなし」の状態であるケースを見かけます。設計や巻き込みなしに、研修業者や研修メニューの選定に走っているケースも少なくありません。
また「人事が経営の戦略パートナーになる時代」と最近よくいわれますが、実際には業務に追われ、「パートナーとして動けない」という声も耳にします。
人材開発員会や人事担当者が、紙と鉛筆と簡単な図を使った関わりの設計に始まり、身近な研修を例に、「経営成果に結びつけるには?」を関係者と討議し、よりよい設計を行い、実施・検証していく……これこそが、「人事が経営のパートナーになる」「人材開発担当者としての責任を果たす」ということではないでしょうか?
「ここに書いてあることは、だいたいもうやっているよ」という人にとっても、「まだこれからだ」という方にとっても、設計精度を上げ、より経営成果につながるようにするためのポイントが、もう一つあります。それは「時間軸」です。
④「時間軸(いつまでに)」が入った設計で関係者の関与度合いを高める
「研修(教室で学ぶこと)と現場(実際の仕事)は別物」とか「研修で学んだことが現場で活かされない」といわれることがあります。
「研修効果を現場に定着させる」ためには、「受講者の上司の支援が最も重要」とよくいわれます。研修に受講者の上司が関わらなければ学んだ内容と実務(OJT)が連動せず、研修が一過性のものになってしまうためです。
また、学んだ内容を継続して実践するためには上司という「人的要因」だけでなく、システムや仕組みといった要因も軽視できません。
研修定着の成功ケース(管理職対象のリーダーシップ研修)
システムや仕組みでうまくいった事例を紹介します。
「Web日報」という仕組みを活用
A氏は研修中に行ったサーベイなどから自部署の「情報共有」に問題があると認識した。
しかし、A氏はプレイングマネジャーで席を空けることが多いため、メンバーとまとまった対話時間を取ることは難しいと考えた。
そのため、「メンバーが入力したWeb日報に必ずコメントを入力すること」を決め、現場で実践継続したところ、「情報共有」の問題は半年後に解決した。
上記の例は、システムや仕組みを活用し、半年後に問題を解決したケースです。研修を成功させるためには、企画段階や実施中に、下記3点を関係者と協議しておくことをおすすめします。
- どのシステムや仕組みが現場実践の要因になりそうか?
- そのシステムや仕組みをどう活用するか?
- そのシステムや仕組みの浸透にどれぐらいの時間を要するか?
すると、「〇〇という成果が表れるのは半年後」というように、時間軸を踏まえた、よりたしかな設計が可能になります。
システムや仕組みと絡めて「研修実施⇒ 学習効果(行動変容)⇒ 経営成果」のストーリーを、時間軸を入れて設計するのです。そうすれば、「先月実施した研修の成果は出ているのか?」と問いかけをすると、管理職から「〇ヶ月後に成果を測定してご報告します」という声があがってくるでしょう。
「研修実施と経営成果」の間にはタイムラグ(時間的なズレ)があることを関係者に説明することで、研修の効果測定へ向けて、関係者の関与度合を高めることが可能になります。
本記事から、研修の効果測定を「測定のための測定」にするのではなく、成果に役立つ研修を行うための測定を行うきっかけとなれば幸いです。
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*Graphs, zak / PIXTA(ピクスタ)
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