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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・
特許事務所 第15号 2006-03-15
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顧問
契約についての詳細は
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_firstb.html
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1 今回の判例 M&Aと保証責任
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
H18. 1.17 東京
地方裁判所判決
Y社及びZ氏(Y社のオーナー)が,ある金融会社A社の株式を持っていました。
X社(金融会社)が,X社とZ氏からA社を買収するという合意が成立し,平成
15年12月18日,Y社らが保有するA社の全株式を,X社へ譲渡する旨の合
意がなされました(この合意を「本件株式譲渡
契約」といいます。)
そして,譲渡
契約において,Y社らは,「表明,保証」と題する条項で,A社
の
財務諸表が完全かつ正確であり,一般に承認された
会計原則に従って作成され
たこと,A社の平成15年10月31日の財務内容が
貸借対照表のとおりであり,
簿外債務等の存在しないこと,すべての貸出
債権について平成15年10月31
日における各貸出
債権の融資残高が記録に正確に反映されていること,などを保
証しました。
なお,本件
株式譲渡契約書には,別紙として,A社財務部作成の平成15年1
0月31日時点の
貸借対照表が添付されていました。
そして,Y社らは,この保証責任に違反したことによるX社が被った損害,損
失(X社の
費用と弁護士
費用を含む)を補償する,ということも
契約書に記載さ
れていました。
A社は,A社の財務内容において,
決算対策用として,もともと元本の
弁済に
充当していた
債務者からの
和解契約(
和解債権)に基づく返済金を
利息の
弁済に
充当し,同額の元本についての
貸倒引当金の計上をしないという処理を行ってい
ましたが,これを
決算書に記載していませんでした。
この事実が後から判明したため,X社は,株式の譲渡価格は不正に水増しされ
たもので,Y社らの保証義務に反するとして,約3億円の
損害賠償を求めました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 判決の概要
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【結論】
請求認容
【理由】
裁判所は,A社の
財務諸表は,一般に承認された
会計原則に違反しており,適
正な
貸倒引当金を計上することなく,
和解債権の残高は,実際よりも高額に記録
されていたものであるとし,X社らの保証義務に違反すると判断しました。
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3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【M&Aと表明及び保証条項】
M&Aにあたっては,基本合意がされた後,最終合意を結ぶ前,対象会社におい
て,財務,法務,
人事面からの
デューデリジェンスが行われることが通常です
(
デューデリジェンスとは,日本語では「
資産評価手続」「買収鑑査」とされ,
企業の買収を行なう際に,その
資産価値,
収益力,リスクを詳細に調査すること
をいいます。)。
法務面の
デューデリジェンスについていえば,対象会社において,
商法その他の
法律上
コンプライアンスがなされているか,重要な
契約書の有無と内容,訴訟そ
の他等紛争がないか,
資産内容の法律面での検討(
担保権の有無,知的財産権の
内容と価値)などについて,弁護士等の専門家が行います。
そして,
デューデリジェンスの結果,対象会社について有利不利な事実が判明し
ます。これらの発見事項が買収自体を中止せざるを得ないようなものである場合
は別として,最終合意に向け,これらの有利不利な事実を,買収価格その他の買
収条件に織り込むべく
契約交渉が進むことになります。
この点で,紹介した判例の事例のように,買主の立場としては,買収対象会社の
状況について「表明及び保証」に関する条項を含むことが望ましいといえます。
この「表明及び保証」とは,デュー・デリジェンスで判明した事実を売手が保証
し,表明及び保証した事実に虚偽があった場合等で買収対象会社の実際の価値が
買収価格より低くなった結果,売手が
損害賠償責任を負ったり,
契約の取消原因
となったりするという内容の条項です。このような条項により,この判例の事例
のように,いざとなれば買手を保護する役割を果たすことになります。
他方,対象会社としては,このような「表明及び保証」条項を考えると,デュー
デリジェンスにおいては,秘密保持義務等の法的な支障がない限り,適切な資料
の開示を行うことが望ましいといえます。
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本マガジンの無断複製,転載を禁止します。
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【編集発行】石下雅樹法律・
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熊澤永代ビル5階
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mailto:
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1 今回の判例 M&Aと保証責任
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H18. 1.17 東京地方裁判所判決
Y社及びZ氏(Y社のオーナー)が,ある金融会社A社の株式を持っていました。
X社(金融会社)が,X社とZ氏からA社を買収するという合意が成立し,平成
15年12月18日,Y社らが保有するA社の全株式を,X社へ譲渡する旨の合
意がなされました(この合意を「本件株式譲渡契約」といいます。)
そして,譲渡契約において,Y社らは,「表明,保証」と題する条項で,A社
の財務諸表が完全かつ正確であり,一般に承認された会計原則に従って作成され
たこと,A社の平成15年10月31日の財務内容が貸借対照表のとおりであり,
簿外債務等の存在しないこと,すべての貸出債権について平成15年10月31
日における各貸出債権の融資残高が記録に正確に反映されていること,などを保
証しました。
なお,本件株式譲渡契約書には,別紙として,A社財務部作成の平成15年1
0月31日時点の貸借対照表が添付されていました。
そして,Y社らは,この保証責任に違反したことによるX社が被った損害,損
失(X社の費用と弁護士費用を含む)を補償する,ということも契約書に記載さ
れていました。
A社は,A社の財務内容において,決算対策用として,もともと元本の弁済に
充当していた債務者からの和解契約(和解債権)に基づく返済金を利息の弁済に
充当し,同額の元本についての貸倒引当金の計上をしないという処理を行ってい
ましたが,これを決算書に記載していませんでした。
この事実が後から判明したため,X社は,株式の譲渡価格は不正に水増しされ
たもので,Y社らの保証義務に反するとして,約3億円の損害賠償を求めました。
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2 判決の概要
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【結論】
請求認容
【理由】
裁判所は,A社の財務諸表は,一般に承認された会計原則に違反しており,適
正な貸倒引当金を計上することなく,和解債権の残高は,実際よりも高額に記録
されていたものであるとし,X社らの保証義務に違反すると判断しました。
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3 解説
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【M&Aと表明及び保証条項】
M&Aにあたっては,基本合意がされた後,最終合意を結ぶ前,対象会社におい
て,財務,法務,人事面からのデューデリジェンスが行われることが通常です
(デューデリジェンスとは,日本語では「資産評価手続」「買収鑑査」とされ,
企業の買収を行なう際に,その資産価値,収益力,リスクを詳細に調査すること
をいいます。)。
法務面のデューデリジェンスについていえば,対象会社において,商法その他の
法律上コンプライアンスがなされているか,重要な契約書の有無と内容,訴訟そ
の他等紛争がないか,資産内容の法律面での検討(担保権の有無,知的財産権の
内容と価値)などについて,弁護士等の専門家が行います。
そして,デューデリジェンスの結果,対象会社について有利不利な事実が判明し
ます。これらの発見事項が買収自体を中止せざるを得ないようなものである場合
は別として,最終合意に向け,これらの有利不利な事実を,買収価格その他の買
収条件に織り込むべく契約交渉が進むことになります。
この点で,紹介した判例の事例のように,買主の立場としては,買収対象会社の
状況について「表明及び保証」に関する条項を含むことが望ましいといえます。
この「表明及び保証」とは,デュー・デリジェンスで判明した事実を売手が保証
し,表明及び保証した事実に虚偽があった場合等で買収対象会社の実際の価値が
買収価格より低くなった結果,売手が損害賠償責任を負ったり,契約の取消原因
となったりするという内容の条項です。このような条項により,この判例の事例
のように,いざとなれば買手を保護する役割を果たすことになります。
他方,対象会社としては,このような「表明及び保証」条項を考えると,デュー
デリジェンスにおいては,秘密保持義務等の法的な支障がない限り,適切な資料
の開示を行うことが望ましいといえます。
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