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【重大最高裁判例】未必的な故意と過失の境界について

 こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
 産業医として化学工場、営業事務所、IT企業、電力会社、小売企業等で勤務し、厚生労働省において労働行政に携わり、臨床医として治療を行った複数の健康管理の視点で情報発信をしております。多くの企業様に労働衛生法、従業員の健康、会社の利益を守るお手伝いが出来ればと、新ブランド産業医EX(エキスパート)を立ち上げさせて頂きました。
https://www.sangyouiexpert.com/
 さらに、文末のように令和元日(5月1日)に、「令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法」を出版し、今まで高価であった産業医が持つ情報を、お手頃な価格にすることができました。
 今回は、「【重大最高裁判例】未必的な故意と過失の境界について」について作成しました。
 労働衛生の取組を行うことで、従業員に培われる「技術」「経験」「人間関係」等の財産を、企業が安定して享受するためにご活用ください。
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【重大最高裁判例】未必的な故意と過失の境界について
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 令和2年8月24日に、最高裁において非常に重要な判例が出たので、労働安全衛生の観点で紹介します。

◎平成30年(あ)第728号 殺人被告事件 令和2年8月24日 第二小法廷決定
 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89649

◎未必的な故意による殺人罪確定
 事例概要は、「生命維持のためにインスリンの投与が必要な1型糖尿病にり患した幼年の被害者の治療をその両親から依頼された者が、両親に指示してインスリンの投与をさせず、被害者が死亡した場合について、母親を道具として利用するとともに不保護の故意のある父親と共謀した殺人罪が成立するとされた」(以下「本判例」という。)ものです。
 最高裁判例の全文によると、以下のポイントが示されています。
・被害者は、今の医学で完治しないが、適切な治療をすれば、通常の生活を送ることができる。
・被害者の母親は、わらにもすがる思いで、非科学的な治療を標ぼうしていた被告人に被害者の治療を依頼した。
被告人は、疾病に関する医学的知識はなかったが、被害者を完治させられる旨断言し、両親との間で、被害者の治療契約を締結した。
・被害者の状態は悪くなっているが、被告人は、自身による治療の効果は出ているなどとして、適切な治療を受けさせない指示を継続した。
被告人は、未必的な殺意をもって、適切な治療を受けさせず、被害者を死亡させたものと認められ、被告人には殺人罪が成立する。

◎未必的な故意による殺人
 未必的な故意による殺人とは、意図した結果の実現に際して、それに付随して、あるいは副作用として生じる結果、つまり随伴結果により、人を殺めることになります。
 過去には、平成17年7月4日最高裁判決の「治療を依頼された者が、入院中の患者を病院から運び出させた上、必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させた場合につき、未必的殺意に基づく不作為による殺人罪が成立するとされた事例」(以下「放置事例」という。)や、平成28年6月13日最高裁判決の「建物内に両親がいるかもしれず、放火すれば両親が死亡するかもしれないことを認識しながら、あえて、同建物付近に灯油をまいた上放火し、同建物を全焼させるとともに、両親を焼死させた事件については、未必的な殺意が認められるにとどまるが、刑事責任は極めて重大との判断で死刑が是認されるとされた事例」があります。
 その他、いわゆる「あおり運転」がきっかけとなって、未必的な故意による殺人の判決がくだされている事例もあります。
 ただし、未必的な故意は、故意の最下限としての過失との限界を規定するものであり、何が問題とされているかことかは、以前よりその限界基準が争われてきました。未必的な故意と過失の境界はまだまだ曖昧な部分があるといえます。従って、実務上は、未必的な故意による殺人は、判例を基準として考える必要があります。

◎非科学的治療というサービスの提供が過失ではないという判断
 本判例と類似の判例として、放置事例がありますが、この判例では「被告人は、運び込まれた被害者に対する治療を家族からゆだねられ、被害者の容態を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識したが、指示の誤りが露呈することを避ける必要などから、治療を被害者に施すにとどまり、未必的な殺意をもって、放置し死亡させた。」ものであり、裁判上、被告人は死亡する危険を認識し、自らの治療が死を回避しないことも認識した上で、放置していたことになります。
 なお、放置事例で被告人が行ってた治療方法は、手の平で患者の患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるという治療方法ではありましたが、最高裁判例の全文によると非科学との指摘はありませんでした。
 一方、本判例で刮目するべき点は、被告人は放置していたわけでなく、自分の信ずる非科学的治療というサービスを熱心に提供していたことにあり、今後はこの基準が、未必的な故意と過失の境界として一定の基準となるということです。

◎労働衛生に関する注意点
 科学的根拠の無い健康経営は広まっており、実際に、健康経営に取り組んでいた企業において、社長が従業員の過労自殺により引責辞任をしたり、上司が部下を蹴っている動画がSNSで拡散したりしています。
 科学的根拠の無い健康経営であっても、事業者従業員の健康に関する意識向上が見込めるため、前述の例の様に生命や身体的・精神的・社会的健康を守ることに意味が無くとも、一定の効果が期待されていました。
 しかし、本判例において、非科学的サービスの随伴結果は、未必的な故意に該当するおそれがあると示されてしまいました。将来的に、科学的根拠の無い健康経営が企業のリスクになるおそれがあります。
 司法判断は個別具体的な判例の蓄積が必要なため、今後も引き続きの経過観察が必要ですが、事業者従業員を不要なリスクにさらさないために、アンテナを高くして適切な対策に努めて下さい。

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令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法
http://miraipub.jp/books/%E3%80%8C%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9-%E9%83%A8%E4%B8%8B%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE-%E5%83%8D/

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