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『民主党による税制改正』 その2 所得税改革 1

 札幌市豊平区の 税理士 溝江諭(みぞえさとし)です。
 
1 所得税改革の推進
 
1「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止めます。
 所得控除は、結果として高所得者に有利な制度となっています。例えば、扶養控除(一般)は子育て支援の機能を有していますが、同じ38万円の所得控除を適用した場合、高所得者が10万円を超える減税になるのに対して、低所得者では2万円の減税にもなりません。
 一方、所得の高低に関係なく税額から一定額を差し引く税額控除や所得控除から手当への切り替えは中・低所得者に有利な政策です。
 給付付き税額控除は、税額控除の額より税額が低い場合、控除しきれなかった額の一定割合を給付するものであり、税額控除と手当の両方の性格を併せ持つ制度です。
 これらの政策を適切に組み合わせることにより、下への格差拡大を食い止めます。」
 
 これまでの自民党政権の一連の規制緩和政策により不平等に拡大した経済格差を抑えようという政策です。そのために、①税額控除、②手当の支給、③この二つの性格を併せ持つ給付付き税額控除をうまく組み合わせて使っていこうとしています。そして、その財源的な裏付けとして所得控除の整理を充てようというわけです。
所得控除は所得金額を計算する際に差し引くものであるのに対し、税額控除は課税所得金額に税率を掛けて算出した税額から一定の金額を差し引くものです。
 
 現在、所得税では14種の所得控除が認められています(注1)が、ここでいう所得控除の整理が具体的にどの所得控除を対象にしているのかは残念ながら不明です。もともと高所得者ほど有利になる所得控除が理論的妥当性を持つためには、所得課税における超過累進税率の存在が前提となります。すなわち、所得控除には、超過累進税率により高所得者ほど過重となる税負担を緩和する役割があるのです。今でこそ所得税住民税を合わせた最高税率は平成11年以後50%とされていますが、それ以前は次のようにはるかに高率で、まさしく「超過」累進税率の名に値するものでした。(ただし、昭和59年と49年には賦課制限がありました(注2)。)
 
昭和49年 93% → 昭和59年 88% → 昭和62年 78% → 昭和63年 76% → 平成元年 65% → 平成11年50%
 
 そのため、本来なら最高税率が引下げられたどこかの時点で、所得控除の一部、例えば人的控除である基礎控除配偶者控除扶養控除などを税額控除に置き換えるべきだったのですが、自民党政権ではそこには手をつけなかったため、貧富の格差を一層助長してしまう結果となったのです。このことは、所得課税が果たすべき「所得再分配機能」が著しく低下したことを意味します。
 
 民主党政権はまさにここに手を付けようとしています。税額控除を整理しつつ、手当の支給を増やし、さらには給付付き税額控除まで導入する。それは、所得課税における所得再分配機能を高めつつ、その財源を社会保障政策にも活用しようとするものです。その方向性は良しとすべきですが、より一層の所得課税の垂直的公平を図るために、最高税率の引上げもぜひ検討してもらいたいものです。なお、給付付き税額控除については後日また触れることにします。
 
2 「人的控除については、「控除から手当へ」転換を進めます。子育てを社会全体で支える観点から、「配偶者控除」「扶養控除(一般。高校生・大学生等を対象とする特定扶養控除、老人扶養控除は含まない。)」は「子ども手当」へ転換します。
 また、その際は、年金生活者の負担増とならないよう、年金課税の見直しも行います。」
 
 民主党が掲げた政策の中で、子育て支援は大きな特色の一つです。その中でも中学生以下の子育て中の全家庭に「子ども手当」を現金で支給するという政策には、ちょっと驚かされました。フランスなどでは既に導入され、出生率の上昇に大きく貢献したとの情報はテレビで報じられていましたが、いよいよわが国でも実現することになります。
 
 わが国は世界に類を見ないほどの少子高齢化社会に突入しています。この状況の中で、今後、安定した経済成長を目指しつつ、国民1人当りの税・社会保険負担率の上昇を抑えるためには、人口の減少を最小限に食い止めることが優先度の高い不可欠の政策として位置づけられます。さらには、その上で、人口増大も目指したいほどです。
 
 経済成長といえば付加価値の増大を意味しますが、そのおおもとは売上げです。例えば、日本全体の売上はどのように表すことができるか考えてみましょう。それは次の式で表せます。
 
 日本全体の売上高 = 国内人口 × 1人当り平均購入額 + 輸出売上
 
 すなわち、少子高齢化により国内人口が減少していくと、以前と同じ売上高を確保するためには、①1人当りの平均購入額の増加を図るか、②輸出をこれまで以上に増加させねばならないことを意味します。しかし、今回のサブプライム問題を発端とする世界を巻き込んだ経済危機において明らかになったように、わが国もいつまでも輸出ばかり頼っているわけにも行きません。そうなると必然的に、日本国内での売上増加を図らねばならないこととなります。
 
 しかし、国内では急速な高齢化により高齢者が増加し、購買意欲の伸びは期待できず、かえって、1人当り平均購入額が低下していく恐れがあります。
 
 すなわち、人口も減少し、1人当り平均購入額も低下していく。このため日本全体の売上は今後急速に減少していくことが予想されるのです。この経済の縮小は雇用市場の縮小や労働所得の減少をもたらす恐れがあります。これにより、国民1人当りの税・社会保険負担率の上昇が避けられないという状況も考えられます。まさに、負のスパイラルへの突入です。
 
 このような負のスパイラルから脱出するためには、まず人口の減少を最小限に食い止め、できれば増加を図ることがぜひとも必要になります。
  
 このために、子供を社会全体の財産と考え、子育て世帯には分け隔てなく、子ども手当を支給するという民主党の政策には共感できます。もちろん、これだけで少子化を食い止めることは難しいでしょう。子ども手当だけではなく、保育園数の増加や育児休業制度の拡充、妊娠・出産しても安心して働き続けられる職場環境の整備、妊娠・出産の支援体制の充実、小児医療体制の整備などの政策を総合的に展開していくことが求められます。
 
 さらにまた、人口増加をより一層促進するためには、移民政策を見直し、緩和していくことも真剣に検討すべき時期に来ているでしょう。
 
3 「給与所得控除については、特定支出控除を使いやすい形にするとともに、現在青天井となっている適用所得の上限を設ける等の見直しを行います。」
 
 給与所得は、1年間の給与の収入金額から給与所得控除額(注3)を差し引いて計算します。事業所得や不動産所得では総収入金額から収入を得るために要した必要経費の金額を差し引いて計算しますが、この場合の必要経費は実際にかかった実額とされます。これに対し、給与所得では一定の範囲で実額の経費控除を認める特定支出控除という制度(注4)があるにはありますが、使えるのは、概算による給与所得控除額を超える場合に限られています。また、その内容も通勤費、転勤費、研修費など5つの項目に限定されています。民主党政権はこの特定支出控除の見直しを図ろうとしていますがどのような形になるのかは現時点で不明です。
 
 次に、現状では給与所得控除は給与の収入金額のいかんにかかわらず認められています。
 
 たとえば、1億円の給与収入の人でも670万円の無条件控除が認められています。このような高所得者にまで給与所得控除を認める必要がないというのが民主党の考え方です。この給与所得控除も昔の超過累進税率が意味を持っていた時代には、その緩和策としてそれなりの存在意義があったのでしょうが、現在のように所得再分配機能が低下した下では、このような上限設定もやむを得ないと思われます。
 
 なお、「所得者皆申告制度」により、所得税の精算制度としての確定申告を広く国民に根付かせるためには、給与所得にも大幅な実額控除を認めることを検討すべきと思います。その範囲をどこまで広げるのかという難問が待ち構えていますが、時間をかけて国民の合意を得る努力が必要になるでしょう。また、概算経費としての給与所得控除は順次縮減を目指すべきでしょう。
 
 皆さんはどう考えますか?
  
 次回は、『民主党による税制改正』その2所得税改革 2 として、「年金課税の見直し等」を取り上げます。

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(注1) 所得控除の種類
 雑損控除医療費控除社会保険料控除小規模企業共済等掛金控除生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除、 勤労学生控除配偶者控除配偶者特別控除扶養控除基礎控除

(注2) 賦課制限
税金が所得の一定割合をこえないように調整すること。昭和49年では8割を超えないように設定されていました。

(注3)給与所得控除(国税庁
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1410.htm

(注4)特定支出控除国税庁
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1415.htm


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    札幌市豊平区  税理士 溝江 諭 KSC会計事務所  
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    札幌学院大学  客員教授 溝江 諭 税務会計論担当 
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