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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・
特許事務所 第27号 2006-08-30
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http://www.ishioroshi.com/
法律相談のお申し込みは
http://www.ishioroshi.com/btob/soudan_firstb.html
顧問弁護士
契約についての詳細は
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_firstb.html
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営業秘密の保護の要件(秘密管理性)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
平成18年07月25日 東京地裁判決
訪問介護サービス事業を営むA社が,A社を
退職したB,CがD
社を設立して訪問介護サービス事業を営んでいることについて,
BとCがA社の営業秘密である利用者名簿を不正に持ち出して使
用しているとして,不正競争防止法に基づき,B,C,D社がA
社利用者名簿記載の者に対する営業活動を行うことの差止などを
求めた事案です。
B,Cは,A社に在籍中からA社の事業と同一地域での競業する
事業の立ち上げを計画し,A社に登録しているヘルパーなどに,
自社に登録するよう働きかけを行うなどをしていました。
本件で,問題となったのは,
1 介護情報の不正競争防止法上の「営業秘密性」
2 元
従業員による営業活動の
不法行為性
なお,同判決では,引き抜き行為にからむ,
労働契約上の秘密保
持義務,競業避止義務という別の興味深い論点もありますが,こ
れは別の機会に取り上げる予定です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
判決の概要
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【結論】
請求棄却(A社の請求を認めず)
【理由】
不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」
ことを要するところ(不正競争防止法2条6項),
事業者の事業
経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとは解されず,当該情報
にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できる
ようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限
されていることを要するとし,以下の事情から,秘密管理性がな
いと判断しました。
1)利用者名簿の電子データ及び紙媒体のいずれにも,当該情報,
媒体自体及び収納場所に「部外秘」等の秘密であることを示
す表示が何ら付されていない。
2)事務室の扉の施錠は防犯上当然行われる事柄にすぎない。
3)電子データへのアクセスは,専用のパソコンを使用している
が,パソコンを起動する際の簡易なパスワードが設定されて
いるにとどまり,そのパスワードも広く社員に知られている。
4)紙媒体は,施錠することなくキャビネットに保管されていて,
登録ヘルパーも,担当する利用者のファイルは,責任者の管
理のもと,閲覧することができ,一部の書類は,事業所内か
ら持ち出すことも認められていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【営業秘密の3要件】
不正競争防止法上保護される営業秘密となるためには,以下の3
つの要件が必要とされています。
1 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2 事業活動に有用な情報であること(有用性)
3 公然と知られていないこと(非公知性)
多くの判例上問題となるのは,1の秘密管理性の要件であり,本
件のように厳しい判断が出やすい部分です。
【秘密管理性の要件】
営業秘密の3要件のうち,中核的要件ともいえる秘密管理性につ
いて,判例は,以下の2要件を挙げています。
1 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)
(例) 「マル秘」「機密情報」「取り扱い注意」などの表示を
行う
2 アクセスの制限性
(例) 施錠した保管庫に入れてある情報
パスワードによるアクセス権の管理をしてあり,閲覧者の
制限がされている
本件では,
1 施錠は事務所の扉だけであるが,これは防犯目的だけであった
2 情報に「部外秘」などの表示が無かった
3 PC上のパスワードは,簡易な上,スタッフは誰でも知ってい
た
4 紙媒体は登録ヘルパーなら誰でも閲覧可能
といった点から「秘密管理性」が欠けると判断されたものです。
また,この判決は,「
従業員及び登録ヘルパーは,
雇用契約上の秘
密保持義務を負担し,A社は秘密保持に留意するよう指導教育を行っ
てきたのであるから,秘密管理性は認められる」というA社の主張
に対し,「そのような
雇用契約上の秘密保持義務や指導教育は,利
用者のプライバシー保護を念頭においたもので,これによって不正
競争防止法上の営業秘密性が直ちに導かれるものではない」と判断
しました。
つまり,
従業員に対する
契約上の制限や教育指導だけでは,「秘密
管理性」を満たさないわけです(もちろんこれらの
契約や教育の重
要性はいうまでもありませんが。)。
以上のとおり,判例上「秘密管理性」が認められるためには,法律
上の要件を意識したそれなりの厳格な管理が必要であることを認識
する必要があります。
【企業の営業秘密セキュリティ対策】
日本経済新聞社「知財Awareness 」
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20060728.html
によれば,経産省が行った企業に対する調査について以下のような
興味深い結果が示されています。
(以下引用)
「営業秘密の3要件(秘密管理性,有用性,非公知性)に関して,
全回答企業の79%が「知っている」と答えたが,重要情報について
「実務で適切な管理が実行されているか」との問いには,「管理が
行われているものとそうでないものがある」との回答は全体の65%
に及び,19%の企業は「要件を満たす管理がほとんど行われていな
い」と答えた。一方,「ほとんどすべての重要情報が管理されてい
る」との回答は14%に留まった。
(引用終了)
以上のとおり,多くの企業では秘密管理性に関しては十分な対策が
されているとはいえない状況にあります。
しかし,本件のようなケースで,A社は,残念ながら,自社と競業
関係に立つ事業を,自社と同一の地域で始めることを計画し,自社
在職中から,その準備に着手し,自社の登録ヘルパーに個別に連絡
して自社に登録するように勧誘したBとCの行為を差し止めること
ができませんでした。
裁判所も,BとCの行為には「問題性のある行為」と述べ,A社の
立場に一定の同情を示しましたが,法的にはA社の判断が認められ
るに到らなかったのです。この事例は,面倒であっても,何かに備
え,日常からの秘密管理の対策を行うことの重要性を教えるものだ
といえます。
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本マガジンの無断複製,転載を禁止します。
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【編集発行】石下雅樹法律・
特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-12-20
熊澤永代ビル5階
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訪問介護サービス事業を営むA社が,A社を退職したB,CがD
社を設立して訪問介護サービス事業を営んでいることについて,
BとCがA社の営業秘密である利用者名簿を不正に持ち出して使
用しているとして,不正競争防止法に基づき,B,C,D社がA
社利用者名簿記載の者に対する営業活動を行うことの差止などを
求めた事案です。
B,Cは,A社に在籍中からA社の事業と同一地域での競業する
事業の立ち上げを計画し,A社に登録しているヘルパーなどに,
自社に登録するよう働きかけを行うなどをしていました。
本件で,問題となったのは,
1 介護情報の不正競争防止法上の「営業秘密性」
2 元従業員による営業活動の不法行為性
なお,同判決では,引き抜き行為にからむ,労働契約上の秘密保
持義務,競業避止義務という別の興味深い論点もありますが,こ
れは別の機会に取り上げる予定です。
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判決の概要
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【結論】
請求棄却(A社の請求を認めず)
【理由】
不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」
ことを要するところ(不正競争防止法2条6項),事業者の事業
経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとは解されず,当該情報
にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できる
ようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限
されていることを要するとし,以下の事情から,秘密管理性がな
いと判断しました。
1)利用者名簿の電子データ及び紙媒体のいずれにも,当該情報,
媒体自体及び収納場所に「部外秘」等の秘密であることを示
す表示が何ら付されていない。
2)事務室の扉の施錠は防犯上当然行われる事柄にすぎない。
3)電子データへのアクセスは,専用のパソコンを使用している
が,パソコンを起動する際の簡易なパスワードが設定されて
いるにとどまり,そのパスワードも広く社員に知られている。
4)紙媒体は,施錠することなくキャビネットに保管されていて,
登録ヘルパーも,担当する利用者のファイルは,責任者の管
理のもと,閲覧することができ,一部の書類は,事業所内か
ら持ち出すことも認められていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
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【営業秘密の3要件】
不正競争防止法上保護される営業秘密となるためには,以下の3
つの要件が必要とされています。
1 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2 事業活動に有用な情報であること(有用性)
3 公然と知られていないこと(非公知性)
多くの判例上問題となるのは,1の秘密管理性の要件であり,本
件のように厳しい判断が出やすい部分です。
【秘密管理性の要件】
営業秘密の3要件のうち,中核的要件ともいえる秘密管理性につ
いて,判例は,以下の2要件を挙げています。
1 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)
(例) 「マル秘」「機密情報」「取り扱い注意」などの表示を
行う
2 アクセスの制限性
(例) 施錠した保管庫に入れてある情報
パスワードによるアクセス権の管理をしてあり,閲覧者の
制限がされている
本件では,
1 施錠は事務所の扉だけであるが,これは防犯目的だけであった
2 情報に「部外秘」などの表示が無かった
3 PC上のパスワードは,簡易な上,スタッフは誰でも知ってい
た
4 紙媒体は登録ヘルパーなら誰でも閲覧可能
といった点から「秘密管理性」が欠けると判断されたものです。
また,この判決は,「従業員及び登録ヘルパーは,雇用契約上の秘
密保持義務を負担し,A社は秘密保持に留意するよう指導教育を行っ
てきたのであるから,秘密管理性は認められる」というA社の主張
に対し,「そのような雇用契約上の秘密保持義務や指導教育は,利
用者のプライバシー保護を念頭においたもので,これによって不正
競争防止法上の営業秘密性が直ちに導かれるものではない」と判断
しました。
つまり,従業員に対する契約上の制限や教育指導だけでは,「秘密
管理性」を満たさないわけです(もちろんこれらの契約や教育の重
要性はいうまでもありませんが。)。
以上のとおり,判例上「秘密管理性」が認められるためには,法律
上の要件を意識したそれなりの厳格な管理が必要であることを認識
する必要があります。
【企業の営業秘密セキュリティ対策】
日本経済新聞社「知財Awareness 」
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20060728.html
によれば,経産省が行った企業に対する調査について以下のような
興味深い結果が示されています。
(以下引用)
「営業秘密の3要件(秘密管理性,有用性,非公知性)に関して,
全回答企業の79%が「知っている」と答えたが,重要情報について
「実務で適切な管理が実行されているか」との問いには,「管理が
行われているものとそうでないものがある」との回答は全体の65%
に及び,19%の企業は「要件を満たす管理がほとんど行われていな
い」と答えた。一方,「ほとんどすべての重要情報が管理されてい
る」との回答は14%に留まった。
(引用終了)
以上のとおり,多くの企業では秘密管理性に関しては十分な対策が
されているとはいえない状況にあります。
しかし,本件のようなケースで,A社は,残念ながら,自社と競業
関係に立つ事業を,自社と同一の地域で始めることを計画し,自社
在職中から,その準備に着手し,自社の登録ヘルパーに個別に連絡
して自社に登録するように勧誘したBとCの行為を差し止めること
ができませんでした。
裁判所も,BとCの行為には「問題性のある行為」と述べ,A社の
立場に一定の同情を示しましたが,法的にはA社の判断が認められ
るに到らなかったのです。この事例は,面倒であっても,何かに備
え,日常からの秘密管理の対策を行うことの重要性を教えるものだ
といえます。
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