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競業他社への転職と退職加算金の返還合意

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弁護士法人クラフトマン 第188号 2017-01-31

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1 今回の事例 競業他社への転職と退職加算金の返還合意
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 東京地裁平成28年3月31日判決

 A社は、従業員のB氏との間で、「B氏がA社を退職する際、同
業他社に転職した場合は返還する」旨の合意をし、退職加算金を支
給しました。

 その後、B氏が退職後に同業他社に転職したため、A社はB氏に
対し、前記の合意に基づき、退職加算金相当額の支払を求めました。




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2 裁判所の判断
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 裁判所は以下のように判断し、A社の請求を認めました。

● B氏との返還合意に関する制度は、従業員が申請しA社が承認
した場合に、通常の退職慰労金に加えて退職加算金を支給するとい
う制度であり、これを利用するか否かは従業員の自由な判断に委ね
られている。また、B氏がA社から強制されたと解すべき事情は認
められない。
 
● 前記合意は、従業員に対して同業他社に転職しない旨の義務を
負わせるものではなく、同業他社に転職した場合の返還義務を定め
るにとどまる。これを利用せずに退職する場合よりも従業員に不利
になる事態を想定することはできず、この制度においては、通常の
自己都合退職の場合に行われる退職金の減額が行われないから、退
職加算金の支給を考慮しなくても、通常の退職より従業員に有利で
ある。

● よって、同制度のうち退職合意だけを取り上げて、これが退職
後の職業選択の自由を制約する競業禁止の合意であると評価するこ
とはできない。




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3 解説
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(1)従業員退職後の競業は禁止されるか

 会社を運営している中で、従業員退職は避けられません。そし
て、退職社員による機密やノウハウ漏洩を防ぐために、退職社員に
競業避止義務を課す必要性を感じる場合もあると思います。

 しかし、この退職後の競業禁止自体、退職した従業員の職業選択
の自由に大きく関わり、経済的弱者である労働者の生計の道を奪い
その生存を脅かすおそれがあることから、就業規則や誓約書などで
定めたからといって無制限に効力が認められるわけでもありません。

 この点、効力が認められるためには、特約の内容(競業避止の内
容)が必要最小限であり合理的であることが必要です。

 なお、今回紹介の事例は、従業員に義務を課すという形ではなく、
従業員の任意の選択で競業避止の合意をし、退職加算金や自己都合
退職による減額の不適用などの有利な措置が受けられるという制度
でした。そして裁判所は、この合理性を認めました。



(2)退職後の競業禁止の合意が有効と判断される範囲

 そして、上に申し上げた「合理性」の判断は、以下のような要素
から判断されることになります。


 A 労働者の地位・職種
  会社の重要な機密やノウハウを持っている地位・職種にあると
  はいえない労働者に対する制限は無効とされる可能性が高いと
  いえます。それで、競業避止義務を課す意味のある従業員の範
  囲を吟味する必要があります。

 B 制限の期間
  期間無制限の競業避止義務は通常は無効と判断されます。有効
  とされた事例では、退職後1~2年が多く、それ以上となると
  厳しくなる可能性が高くなってきますが、いずれにせよケース
  バイケースです(1~2年なら常に有効というわけでもありま
  せん)。

 C 地理的制限
  競業避止の場所的範囲も重要となります。そうしなければなら
  ない必要性が特に高くない限り、「日本全国」とはせず、具体
  的必要性を考えて一定の地理的限定を付すことは重要です。

 D 代償の存在
  課される制限に対して、労働者に対する経済的代償がなされる
  ことが多くの場合必要となります。退職金の増額、手当の支給
  という形で退職時に代償を支払うといったことが求められます。
  この場合、競業規制期間中の元社員の生活保障という見地から
  評価して見合うものである必要があると考えられます。


 以上のとおり、退職後の競業避止義務を課そうとする場合には、
慎重に制度を設計しないと、いざ違反が起きても裁判所によって有
効性が否定されてしまう可能性が高くなってしまいます。

 特に特に重要な社員が関係するケースなどでは、個別事情を踏ま
え、弁護士などの法律専門家に相談しつつ競業避止義務の内容を慎
重に検討する必要があると思われます。




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4 弊所ウェブサイト紹介~労働法 ポイント解説
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弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した労働法については

   http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/

において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えることを希望される項目がありましたら、メー
ルでご一報くだされば幸いです。




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て無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアドレス宛、
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【執筆・編集・発行】
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