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『民主党による税制改正』 その4 所得税「給付付き税額控除」

 札幌市豊平区の 税理士 溝江諭(みぞえさとし)です。

 民主党のマニフェストでは、ごく僅かしか触れられていなかった税制政策。そこで、より詳しく記載されている民主党の「政策集 INDEX 2009」から税制改正についての政策を見ていきましょう。

『民主党による税制改正』その4です。

 これまでお伝えした内容は以下のとおりです。

1回目・・・「納税者の視点に立った税制へ」という題で、「税制改正過程の抜本改革」「税・社会保障共通番号の導入」「納税者権利憲章の制定と更正期間の見直し」「国税不服審判のあり方の見直し」
2回目・・・「所得税改革の推進」という題で、「所得控除の整理、税額控除、手当等への切り替え」「給与所得控除の見直し」
3回目・・・「年金課税の見直し」と「住宅ローン減税等」


1 給付付き税額控除制度の導入

 「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、必要な人に確実に支援ができる給付付き税額控除制度を導入します。
 生活保護などの社会保障制度の見直しと合わせて、①基礎控除に替わり「低所得者に対する生活支援を行う給付付き税額控除」②消費税の逆進性緩和対策として、基礎的な消費支出にかかる消費税相当額を一律に税額控除し、控除しきれない部分については給付をする「給付付き消費税額控除」③就労への動機付けのため、就労時間の伸びに合わせて「給付付き税額控除」の額を増額させ、就労による収入以上に実収入が大きく伸びる形で「就労を促進する給付付き税額控除」――のいずれかの目的若しくはその組み合わせの形で導入することを検討します。ただし、不正還付・不正受給を防ぐためにも所得の正確な把握が必要であり、納税と社会保障給付に共通の番号制度の導入が前提となります。
 なお、税額控除額全額を控除するだけの税額がなく、給付を受けることになる場合は、その給付額はまずは年金や医療等の社会保険料負担分と相殺することを検討します。」


 ここでは、「給付付き税額控除制度(注1)(注2)」という聞き慣れないことばが使われています。所得控除は所得金額を計算する際に差し引くものであるのに対し、税額控除は課税所得金額に税率を掛けて算出した税額から一定の金額を差し引くものです。所得控除制度では所得金額より所得控除額が大きいと課税所得は0円とされ、所得税額は0円となります。これに対し、税額控除制度では算出した税額から税額控除額を差し引くので、算出税額より税額控除額が大きいとそのマイナス分の税額還付を受けることができます。

 具体例で見てみましょう。

 単身者で本人の給与の収入金額を95万円。この場合の給与所得は、収入金額95万円 - 給与所得控除額65万円 = 30万円となります。基礎控除(38万円)と社会保険料控除(10万円))以外の所得控除はないものとします。

(所得控除制度)・・・現行方式です。

  課税所得金額 = 給与所得30万円 - 所得控除額48万円           = △18万円 → 0 円とされる。

  算出税額は 課税所得金額が0円なので、0円とされ、所得税を納 付する必要なし。ただし、還付も受けれない。 

(税額控除方式)・・・基礎控除をなくし、その分を税額控除15万円に置き換えたとします。所得控除は社会保険料控除10万円のみとなります。

  課税所得金額 = 給与所得30万円 - 所得控除額10万円           = 20万円
 
  算出税額   = 20万円 × 税率5% = 1万円

  納付税額   = 算出税額1万円 - 税額控除 15万円
         = △14万円 ・・・ 還付を受けることができ                   ます。これが「給付」です。 
 このように所得控除の一部を税額控除に置き換えることにより、所得税制を「給付」制度として利用することができるようになります。

 例えば、次のような使い方が可能です。

1 対象を子育て世帯に限定し、子育て世帯を経済的に支援する。
2 生活保護に至る前のセーフティネットとして給付する。
3 生活保護世帯に限定し、働くほど収入が増えるようにすることにより、勤労を促進しつつ生活保護費を削減する。
4 消費税の持つ逆進性を緩和するため、低所得者の消費税負担を軽減する。

 民主党では、このうち子育て支援については所得税制を使わず、子ども手当の現金支給またはそれに代わる方法を採用するようですが、その他の3点については、低所得者を対象として給付付き税額控除制度を導入しようというわけです。

 ここで、心配されるのは不正受給です。アメリカでは低所得者対策として既にこの給付付き税額控除が導入されていますが、3割ほどの不正受給があるのではないかと言われています。そこで、登場するのが、既に解説した「税・社会保障共通の番号」の導入です。これにより、的確に各人の所得を捕捉した上で給付付き税額控除を行おうというものです。このため、この給付付き税額控除を実際に導入するまでは、かなりの時間がかかるものと思われますが、ぜひ早期実現に向けて努力してもらいたいものです。

 なお、既に第1回目でも述べましたが、民主党には、「税・社会保障共通の番号」制度を本格的に導入しようとするからには、各人の所得捕捉だけで満足することなく、本来の目的である公平な課税のための「総合課税の実現」をぜひ目指してもらいたいものです。


2 金融所得課税改革の推進

 「本来すべての所得を合算して課税する「総合課税」が望ましいものの、金融資産の流動性等にかんがみ、当分の間は金融所得については分離課税とした上で、損益通算の範囲を拡大することとします。証券税制の軽減税率については、経済金融情勢等にかんがみ当面維持します。」


 現在、上場株式等の配当所得及び譲渡所得等に対しては平成23年12月31日までの間、特例で軽減税率が適用されています。軽減税率は所得税7%、住民税3%の合わせて10%、平成24年以後でも所得税15%、住民税5%の合計20%が予定されています。いずれにしろ一定率の分離課税所得税等の課税関係を終わらせるものです。

 ここには大きな問題が潜んでいます。すなわち、税制における公平性の問題(注3)です。

 所得税制における公平性の概念は、大きく2つに分けられます。水平的公平性と垂直的公平性です。水平的公平性は負担能力が同じ人には同じ負担を求めるというものであるのに対し、負担能力の大きい人にはより大きな負担をしてもらうというのが垂直的公平性です。

 民主党は金融所得課税については基本的に自民党政権下での税制を引き継ぐとしています。自民党政権下では、「貯蓄から投資へ」という政策要請に応えるため、「金融所得の定率分離課税への一体化」が唱えられ、前記のような軽課定率分離課税制度が導入されていました。

 このような軽課定率分離課税制度は、同一の所得水準ならば同額の所得税を負担すべきという水平的公平性を阻害するものです。また、所得水準が高い人により多くの所得税を負担してもらう垂直的公平性にも逆行するものです。

 さらには、所得の源泉を自らの労働による「勤労所得」とそれによらない金融や不動産などによる「不労所得」という質的側面からとらえ、質的公平性を維持するためには、勤労所得には軽課、不労所得には重課すべしとする立場に立つとこれに反するものとなっています。

 そこで、民主党は文頭に、「本来すべての所得を合算して課税する「総合課税」が望ましいものの」という文言を入れざるを得なかったのでしょう。いかにも歯切れの悪い文章になっています。「当分の間」とはいつまでで、その後はどのようにするのか、できるだけ早くその方向性を決定してもらいたいものです。


 皆さんはどう考えますか?


 次回は、『民主党による税制改正』 その5 消費税改革の推進 について見ていきます。

 
 その他の『ちょっとためになる情報』は、次のサイトの「お知らせ」と「ブログ」でどうぞ!!
http://www.ksc-kaikei.com/

 See you next !


(注1)「給付付き税額控除とは何か」(八塩裕之)
http://www.tkfd.or.jp/admin/files/1119%20Mr.Yashio.pdf

(注2)「給付付税額控除の意義と課題」(森信茂樹)
http://www.tkfd.or.jp/admin/files/1119%20Mr.Morinobu.pdf

(注3)所得税の現状と課題(佐々木幸男)
http://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/51/04/hajimeni.htm


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    札幌市豊平区  税理士 溝江 諭 KSC会計事務所  
          http://www.ksc-kaikei.com/
 
    札幌学院大学  客員教授 溝江 諭 税務会計論担当 
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