札幌市豊平区の
税理士 溝江諭(みぞえさとし)です。
民主党のマニフェストではごく僅かしか触れられていない税制。そこで、より詳しく記載されている民主党の「政策集 INDEX 2009」から税制改正についての政策を見ていきましょう。
『民主党による税制改正』その8
相続税等改革です。
「特定非営利活動
法人支援税制等の拡充」と「
相続税・
贈与税改革の推進」をお届けします。
これまでお伝えした内容は以下のとおりです。
1回目・・・「納税者の視点に立った税制へ」という題で、「税制改正過程の抜本改革」「税・
社会保障共通番号の導入」「納税者権利憲章の制定と更正期間の見直し」「
国税不服審判のあり方の見直し」
2回目・・・「
所得税改革の推進」という題で、「所得控除の整理、税額控除、手当等への切り替え」「
給与所得控除の見直し」
3回目・・・「年金課税の見直し」と「
住宅ローン減税等」
4回目・・・「給付付き税額控除制度の導入」、「金融所得課税改革の推進」
5回目・・・「
消費税改革の推進」
6回目・・・「
法人税改革の推進」
7回目・・・「中小企業支援税制」
1
相続税等改革の推進
1 特定非営利活動
法人(認定
NPO法人)支援税制等の拡充
「官に過度に依存することなく、国民それぞれが公益実現に直接貢献する社会を創造するために、税制で大胆な支援を行います。
認定特定非営利活動
法人制度については、要件緩和、
認定手続等の簡素化、みなし寄附の
損金算入限度額引き上げ、寄附の税額控除制度創設など、支援税制を拡充します。
所得税の寄附優遇税制については、税額控除制度を創設し、現在の所得控除制度との選択制とします。」
特定非営利活動
法人とは、認定
NPO法人(注1)のことで、
NPO法人のうち、さらに
国税庁長官の認定を受けた
法人です。
NPO法人は、内閣府または都道府県の認証により比較的に簡単に作れますが、税制上での大きな特典を受けるためには認定
NPO法人になる必要があります。税制上の特典としては、①寄付した者に対する特典と②認定
NPO法人そのものに対する特典があります。
① 寄付した者に対する特典
(1) 個人の寄付者・・・
所得税法上、所得控除として
寄付金控除の対象に出来ます。
(2)
法人の寄付者・・・
法人税法上、一般の
寄付金とは別扱いとされ、別枠で
損金算入限度額が認められます。
(3)
相続財産の寄付者・・・寄付した財産の価格は
相続税の課税対象から除かれます。
② 認定
NPO法人に対する特典
認定
NPO法人が
収益事業も行っている場合には、「
収益事業に属する
資産」から「
収益事業以外の事業」へ支出した場合、これを
寄付金とみなし、一定の範囲(
所得金額の20%相当額)内で
損金へ算入することが可能です。これを「みなし
寄付金」制度といいます。
皆さんは、認定
NPO法人が現在どの位あると思いますか。
国税庁の発表によると、平成21年10月1日現在で、なんと僅か107しか認められていません(注2)。
そこで、民主党は認定
法人の範囲を拡大し、さらにはその支援内容も充実させようとしているのです。一言で言えば、もっと使いやすい制度にしようということです。公的使命の遂行を目的とする
NPO法人であれば、支援をより拡大すべきでしょう。私もこの点については大賛成です。出来るだけ早くこれらの支援策を具体化してもらいたいと思います。
2
相続税・
贈与税改革の推進
「
相続税については、「富の一部を社会に還元する」考え方に立つ「遺産課
税方式」への転換を検討します。
相続税の課税ベース、税率の見直しについては、わが国社会の安定や活力に不可欠な中堅
資産家層の育成に配慮しつつ検討します。税収を
社会保障の財源とすることも検討します。
さらに、
相続税の課
税方式の見直しに合わせて、現役世代への生前贈与による財産の有効活用などの視点を含めて、
贈与税のあり方も見直します。」
以上の
相続税・
贈与税政策をまとめると次のようになります。
1 課
税方式を現行の「
法定相続分課
税方式」から「遺産課
税方式」への転換を検討する。
2
相続税の課税ベース、税率については、中堅
資産家層の育成に配慮しつつ検討する。
3 税収を
社会保障の財源とすることも検討する。
4 現役世代への生前贈与による財産の有効活用などの視点を含めて、
贈与税のあり方を見直す。
このように並べて見ると、これまで見てきた「税制改正過程の抜本改革等」、「
所得税改革」、「
消費税改革」、「
法人税改革」、「中小企業支援税制」と比べ、あまりにも具体性に欠けているように思われます。いずれの項目も「検討する」、「見直す」となっているにも関わらず、どのように検討し、見直したいのかが具体的に書かれていないためです。
政策集INDEX2009以外で、より具体的に書かれた物はないかと探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。
相続税について触れられていた唯一のものは、2009 年 6 月 1 日に民主党が経団連と行った「民主党と政策を語る会」 での当時の藤井裕久 民主党税制調査会長 の次の発言です。 (「民主党と政策を語る会」の議事録より)
「
相続税については、世代間格差縮小の観点から、見直しが必要だ。特に、民主主義の基盤として、中堅
資産家の育成が重要であり、中堅
資産家を育成するという観点から、
相続税を見直していきたい。ただし、高ければ高いほど良いとは思っていない。」
この発言から分かることは、中堅
資産家が大切なので、中堅
資産家には
相続税負担を軽減したいということだけです。中堅
資産家とはどの程度の
資産を持つ者を指すのか、なぜ中堅
資産家の育成が必要なのか、どの位の負担軽減をしたいのかについては残念ながら触れられていません。おそらく、生産や消費、預貯金、投資行動の核となる担い手が中堅
資産家だという意味合いなのでしょうが。
上記の政策中にある
相続税の「遺産課
税方式」とは、遺産全体を課税物件として課税する方式で、亡くなった方の一生の間に蓄積した富の一部を
相続税として納付(還元)し、これをもって一生を通じた税負担の清算を行おうとするものです。
相続税の課
税方式としてはこの他に「遺産取得課
税方式」と「
法定相続分課
税方式」があり、現在わが国では「
法定相続分課
税方式」」が
採用されています。各課
税方式については
国税庁のサイト(注1、注2)をご参照下さい。
現行の「
法定相続分課
税方式」」にはいろいろな問題点が指摘されており(注3)、自民党政権下でもその改正が検討されてきましたが、私は民主党がもっと根本的な内容に踏み込んだ政策提言をするのではないかと期待していたので、ちょっと肩透かしを食ったような感じです。例えば、
相続税の存在そのものに係る検討とか、課税最低限の大幅引上げなどです。
なぜなら、ここ数年の
相続税額は年間で約1兆2千億円前後で推移(注4)しており、平成21年度の当初予算では、
国税と
地方税を合わせた税収の僅か1.8%を占めているに過ぎません(注5)。
そのため、私は、
相続税は日本にとって本当に必要な制度なのかどうかをぜひ検討してもらいたいと考えていました。そのためには、
相続税の理論的な課税根拠を明らかにすることが必要です。その上で、
相続税制の必要性を見直しても良いと思うからです。
私見では、
相続税の課税根拠から考えると、
相続税を廃止し、財産を取得した者に対しては不労所得である「
相続所得」として
所得税を課税することにしても良いのではないかと思っています。ただし、その場合でも少額の
相続所得への課税を避けるため、大幅な特別控除額を認めるべきでしょう。
なぜなら、亡くなった方への所得課税は過去において既に完結しているわけですから、さらに
相続財産に課税することは理論的におかしいと思うからです。また、「税・
社会保障共通の番号の導入」により所得捕捉率の上昇を図り、なおかつ、出来るだけ
分離課税を廃止し、
総合課税により垂直的公平性および水平的公平性を実現できたならば、各人の「収入の入り口」での公平な課税が期待でき、
相続財産への課税を敢えてする必要がないからです。この場合には、
贈与税も
所得税に吸収するので、不要になりますね。
皆さんはどう考えますか?
See you next !
次回は、『民主党による税制改正』 その9 国際連帯税の検討 について見ていきます。
その他の『ちょっとためになる情報』は、次のサイトの「お知らせ」と「ブログ」でどうぞ!!
http://www.ksc-kaikei.com/
(注1)
相続税の課
税方式(
国税庁 税大講本)
http://www.nta.go.jp/ntc/kouhon/souzoku/pdf/03.pdf#page=2
(注2)
相続税額の計算手順(
国税庁 税大講本)
http://www.nta.go.jp/ntc/kouhon/souzoku/pdf/05.pdf#page=4
(注3)
法定相続分課
税方式」の問題点(
税理士 浅野 洋)
http://www.meizei.or.jp/newspaper/chukei/zeijouho/article/zeijouho_080501.html
(注4)
相続税の課税状況の推移(財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/137.htm
(注5)
国税・
地方税の税目・内訳(財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/001.htm
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札幌市豊平区
税理士 溝江 諭 KSC
会計事務所
http://www.ksc-kaikei.com/
札幌学院大学 客員教授 溝江 諭
税務会計論担当
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札幌市豊平区の 税理士 溝江諭(みぞえさとし)です。
民主党のマニフェストではごく僅かしか触れられていない税制。そこで、より詳しく記載されている民主党の「政策集 INDEX 2009」から税制改正についての政策を見ていきましょう。
『民主党による税制改正』その8 相続税等改革です。
「特定非営利活動法人支援税制等の拡充」と「相続税・贈与税改革の推進」をお届けします。
これまでお伝えした内容は以下のとおりです。
1回目・・・「納税者の視点に立った税制へ」という題で、「税制改正過程の抜本改革」「税・社会保障共通番号の導入」「納税者権利憲章の制定と更正期間の見直し」「国税不服審判のあり方の見直し」
2回目・・・「所得税改革の推進」という題で、「所得控除の整理、税額控除、手当等への切り替え」「給与所得控除の見直し」
3回目・・・「年金課税の見直し」と「住宅ローン減税等」
4回目・・・「給付付き税額控除制度の導入」、「金融所得課税改革の推進」
5回目・・・「消費税改革の推進」
6回目・・・「法人税改革の推進」
7回目・・・「中小企業支援税制」
1 相続税等改革の推進
1 特定非営利活動法人(認定NPO法人)支援税制等の拡充
「官に過度に依存することなく、国民それぞれが公益実現に直接貢献する社会を創造するために、税制で大胆な支援を行います。
認定特定非営利活動法人制度については、要件緩和、認定手続等の簡素化、みなし寄附の損金算入限度額引き上げ、寄附の税額控除制度創設など、支援税制を拡充します。
所得税の寄附優遇税制については、税額控除制度を創設し、現在の所得控除制度との選択制とします。」
特定非営利活動法人とは、認定NPO法人(注1)のことで、NPO法人のうち、さらに国税庁長官の認定を受けた法人です。NPO法人は、内閣府または都道府県の認証により比較的に簡単に作れますが、税制上での大きな特典を受けるためには認定NPO法人になる必要があります。税制上の特典としては、①寄付した者に対する特典と②認定NPO法人そのものに対する特典があります。
① 寄付した者に対する特典
(1) 個人の寄付者・・・所得税法上、所得控除として寄付金控除の対象に出来ます。
(2) 法人の寄付者・・・法人税法上、一般の寄付金とは別扱いとされ、別枠で損金算入限度額が認められます。
(3) 相続財産の寄付者・・・寄付した財産の価格は相続税の課税対象から除かれます。
② 認定NPO法人に対する特典
認定NPO法人が収益事業も行っている場合には、「収益事業に属する資産」から「収益事業以外の事業」へ支出した場合、これを寄付金とみなし、一定の範囲(所得金額の20%相当額)内で損金へ算入することが可能です。これを「みなし寄付金」制度といいます。
皆さんは、認定NPO法人が現在どの位あると思いますか。国税庁の発表によると、平成21年10月1日現在で、なんと僅か107しか認められていません(注2)。
そこで、民主党は認定法人の範囲を拡大し、さらにはその支援内容も充実させようとしているのです。一言で言えば、もっと使いやすい制度にしようということです。公的使命の遂行を目的とするNPO法人であれば、支援をより拡大すべきでしょう。私もこの点については大賛成です。出来るだけ早くこれらの支援策を具体化してもらいたいと思います。
2 相続税・贈与税改革の推進
「相続税については、「富の一部を社会に還元する」考え方に立つ「遺産課税方式」への転換を検討します。
相続税の課税ベース、税率の見直しについては、わが国社会の安定や活力に不可欠な中堅資産家層の育成に配慮しつつ検討します。税収を社会保障の財源とすることも検討します。
さらに、相続税の課税方式の見直しに合わせて、現役世代への生前贈与による財産の有効活用などの視点を含めて、贈与税のあり方も見直します。」
以上の相続税・贈与税政策をまとめると次のようになります。
1 課税方式を現行の「法定相続分課税方式」から「遺産課税方式」への転換を検討する。
2 相続税の課税ベース、税率については、中堅資産家層の育成に配慮しつつ検討する。
3 税収を社会保障の財源とすることも検討する。
4 現役世代への生前贈与による財産の有効活用などの視点を含めて、贈与税のあり方を見直す。
このように並べて見ると、これまで見てきた「税制改正過程の抜本改革等」、「所得税改革」、「消費税改革」、「法人税改革」、「中小企業支援税制」と比べ、あまりにも具体性に欠けているように思われます。いずれの項目も「検討する」、「見直す」となっているにも関わらず、どのように検討し、見直したいのかが具体的に書かれていないためです。
政策集INDEX2009以外で、より具体的に書かれた物はないかと探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。相続税について触れられていた唯一のものは、2009 年 6 月 1 日に民主党が経団連と行った「民主党と政策を語る会」 での当時の藤井裕久 民主党税制調査会長 の次の発言です。 (「民主党と政策を語る会」の議事録より)
「相続税については、世代間格差縮小の観点から、見直しが必要だ。特に、民主主義の基盤として、中堅資産家の育成が重要であり、中堅資産家を育成するという観点から、相続税を見直していきたい。ただし、高ければ高いほど良いとは思っていない。」
この発言から分かることは、中堅資産家が大切なので、中堅資産家には相続税負担を軽減したいということだけです。中堅資産家とはどの程度の資産を持つ者を指すのか、なぜ中堅資産家の育成が必要なのか、どの位の負担軽減をしたいのかについては残念ながら触れられていません。おそらく、生産や消費、預貯金、投資行動の核となる担い手が中堅資産家だという意味合いなのでしょうが。
上記の政策中にある相続税の「遺産課税方式」とは、遺産全体を課税物件として課税する方式で、亡くなった方の一生の間に蓄積した富の一部を相続税として納付(還元)し、これをもって一生を通じた税負担の清算を行おうとするものです。相続税の課税方式としてはこの他に「遺産取得課税方式」と「法定相続分課税方式」があり、現在わが国では「法定相続分課税方式」」が採用されています。各課税方式については国税庁のサイト(注1、注2)をご参照下さい。
現行の「法定相続分課税方式」」にはいろいろな問題点が指摘されており(注3)、自民党政権下でもその改正が検討されてきましたが、私は民主党がもっと根本的な内容に踏み込んだ政策提言をするのではないかと期待していたので、ちょっと肩透かしを食ったような感じです。例えば、相続税の存在そのものに係る検討とか、課税最低限の大幅引上げなどです。
なぜなら、ここ数年の相続税額は年間で約1兆2千億円前後で推移(注4)しており、平成21年度の当初予算では、国税と地方税を合わせた税収の僅か1.8%を占めているに過ぎません(注5)。
そのため、私は、相続税は日本にとって本当に必要な制度なのかどうかをぜひ検討してもらいたいと考えていました。そのためには、相続税の理論的な課税根拠を明らかにすることが必要です。その上で、相続税制の必要性を見直しても良いと思うからです。
私見では、相続税の課税根拠から考えると、相続税を廃止し、財産を取得した者に対しては不労所得である「相続所得」として所得税を課税することにしても良いのではないかと思っています。ただし、その場合でも少額の相続所得への課税を避けるため、大幅な特別控除額を認めるべきでしょう。
なぜなら、亡くなった方への所得課税は過去において既に完結しているわけですから、さらに相続財産に課税することは理論的におかしいと思うからです。また、「税・社会保障共通の番号の導入」により所得捕捉率の上昇を図り、なおかつ、出来るだけ分離課税を廃止し、総合課税により垂直的公平性および水平的公平性を実現できたならば、各人の「収入の入り口」での公平な課税が期待でき、相続財産への課税を敢えてする必要がないからです。この場合には、贈与税も所得税に吸収するので、不要になりますね。
皆さんはどう考えますか?
See you next !
次回は、『民主党による税制改正』 その9 国際連帯税の検討 について見ていきます。
その他の『ちょっとためになる情報』は、次のサイトの「お知らせ」と「ブログ」でどうぞ!!
http://www.ksc-kaikei.com/
(注1)相続税の課税方式(国税庁 税大講本)
http://www.nta.go.jp/ntc/kouhon/souzoku/pdf/03.pdf#page=2
(注2)相続税額の計算手順(国税庁 税大講本)
http://www.nta.go.jp/ntc/kouhon/souzoku/pdf/05.pdf#page=4
(注3)法定相続分課税方式」の問題点(税理士 浅野 洋)
http://www.meizei.or.jp/newspaper/chukei/zeijouho/article/zeijouho_080501.html
(注4)相続税の課税状況の推移(財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/137.htm
(注5)国税・地方税の税目・内訳(財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/001.htm
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