登録

会員登録いただけると、

  • メールマガジンの受け取り
  • 相談の広場への投稿 等

会員限定のサービスが利用できます

登録(無料)を続ける
TOP > 記事一覧 > 人事・労務 > 「テレワーク規程」を作ろう!トラブルを回避するポイントを弁護士が伝授
コロナ禍後を見据えて良質なテレワークを

「テレワーク規程」を作ろう!トラブルを回避するポイントを弁護士が伝授

2022.03.22

新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響で、テレワークは急速に進みました。コロナ禍で多くの人がテレワークを経験したことから、コロナ禍後もテレワークは継続したいという人が多いとされています。

そのため、テレワーク制度の導入は今後の人材獲得の鍵となりそうです。特に、日本では毎年のように大きな災害が発生しており、感染症に限らず災害時の事業継続計画(BCP)の観点からもてテレワークは重要となります。

テレワークは“オフィス以外で働く”という単純なものではなく、実際には労務管理の方法、業務報告の方法、通勤手当の取扱い、通信費用等の補填、セキュリティ対策等、出社勤務の時とは違うことが多く発生します。

そのため、今後テレワークを制度化していくにあたっては、テレワーク時のルールを定めた“テレワーク規程”を作成しておくことが重要となります。

そこで本稿では弁護士の筆者が、これからテレワークを制度化するにあたり鍵となるテレワーク規程作成のポイントを解説しましょう。

1:テレワークの目的を決める

日本にはテレワークに関する特別な法規制は存在しないため、現行の労働関係法令の範囲で柔軟に制度設計をすることができます。

そこで、まずもって「どういう目的でテレワークを制度化するか」という目的設定が重要となります。

このテレワークの目的によって、これから述べる対象者の範囲や労働時間制度などの方向性も決まってくることになります。

テレワークを導入する目的としては、様々考えられますが、主に次のような目的で導入されることが多いでしょう。

(1)人材獲得・人材の定着を図る目的
(2)育児・介護による離職を防ぐ目的
(3)生産性向上の目的
(4)感染症拡大防止、災害時のBCPの目的

【もっと詳しく】テレワークの目的設定の方法は?

2:テレワーク対象者を決める

テレワークの目的が決まったら、その目的に沿った形でテレワーク対象者を設定します。

例えば、テレワークを多様な働き方の施策の一つとして積極的に進めるのであれば、以下のように対象者も広くなります。

例)第●条 在宅勤務の対象者は、就業規則第○条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。
(1) 在宅勤務を希望する者
(2) 自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者

他方で、育児・介護による離職を防ぐという目的であれば、以下のように育児・介護の必要がある場合に限定するということになります。

例)第●条 在宅勤務の対象者は、就業規則第○条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。
(1)在宅勤務を希望する者
(2)育児、介護により出勤が困難と認められる者
(3) 自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者

その他、ある程度自分で裁量的に仕事を進めることができる従業員に限定する場合には、勤続年数や、一定以上の職務等級で限定することや、“会社が認めた者”という限定を付しておくと良いでしょう。

対象者を決める際の注意点

対象者の決定にあたって、厚生労働省が示す『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』(以下『テレワークガイドライン』)では、「正規社員は可能、非正規社員は不可」というように雇用形態“のみ”を理由としてテレワークの可否に相違を設けることは、均衡・均等待遇規定(いわゆる「同一労働同一賃金」)に抵触する可能性があるとされています。

そのため、こうした場合にはあくまで業務の性質から区分する必要があります。

【もっと詳しく】テレワーク対象者の決定の方法は?

3:テレワーク命令・承認取消の定め

特に感染症拡大時や、災害発生時の事業継続計画(BCP)の観点からテレワークを制度化する場合には、従業員の安全を守るために、出社を制限しテレワークを命じることが必要な場合があります。

そのため、以下のようなテレワーク命令に関する規定を設けておくと良いでしょう。

例)第●条 会社は、従業員に対し、業務上又は従業員の生命、身体、健康の安全を保護する必要により、在宅勤務を命ずることができる。

また、当該従業員がテレワーク中の仕事の遂行状況が芳しくないケースや、テレワークが長期化することで健康状態に支障を来す可能性が生じたケースを想定しておくことも重要です。そのため、一度テレワークを認めた場合でも、テレワークの承認を取り消し、出社を命じることができるようにしておきましょう。

例)第●条 会社は、業務上その他の事由により、第●条による在宅勤務の許可を取り消すことがある。

これらは、特段根拠がなければできないわけではないですが、規定に落とし込んでおき、予めルール化しておくことで、事後的なトラブルを防止することに役立ちます。

4:テレワーク中の労働時間管理

テレワーク中は、上長の目の届く場所で勤務をしていないことから、労働時間の把握・管理には工夫が必要となります。

特に、PCログ等によって労働時間を把握管理しておらず、タイムカードや視認によって労働時間を把握管理している場合には、テレワーク中の始業・終業時刻が把握できないことになります。

そこで、テレワーク中の労働時間の把握管理の方法として、始業・就業時の報告義務を課しておきましょう。

もちろん、これは労務管理という観点だけでなく業務状況の把握という意味でも重要となります。

例)第●条 在宅勤務者は就業規則第○条の規定にかかわらず、勤務の開始並びに終了及び休憩時間の開始並びに終了について電子メールにより報告しなければならない。

5:中抜け時間の取扱い

テレワークに特有な事象として、中抜け時間が生じる可能性があるという点には注意が必要です。

そもそも出社勤務をしている従業員との公平から、中抜け自体を禁止することも可能です。事業継続計画(BCP)の観点からテレワークを導入するような場合には、出社勤務どおり中抜けを禁止することが一般的です。

他方で、育児・介護による離職を防止する目的でテレワークを導入するような場合には、むしろ中抜けを柔軟に認めることが適当でしょう。

仮に中抜けを認める場合、中抜け時間の把握管理については、『テレワークガイドライン』では、「使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでもよい」としています。ただし、中抜け時間を把握しない場合には、当該時間も働いたこととして扱い、賃金を支払う必要があることには注意が必要です。

【もっと詳しく】テレワークでの「中抜け時間」取扱いのポイントは?

6:テレワーク中の労働時間制度

前述したようにテレワーク中は労働時間管理が難しいことから、裁量労働制や事業場外みなし制度を活用することも考えられます。これらの労働時間制度は、労働時間をみなす仕組みであるため、労働時間の把握は不要となります。また、生産性向上等のため積極的にテレワークを進めていく目的である場合には、従業員に一定の裁量を与えることが生産性の向上に寄与するとされています。

特に事業場外みなし労働時間制の場合には、裁量労働制のように職種等による制約がありませんので、上手に活用することで幅広くこれを適用することができます。

例)第●条 在宅勤務を行う者が次の各号に該当する場合であって会社が必要と認めた場合は、就業規則第●条(※事業場外みなし労働時間制)を適用し、第●条に定める所定労働時間の労働をしたものとみなす。

(1) 従業員の自宅で業務に従事していること。
(2) 会社と在宅勤務者間の情報通信機器の接続は在宅勤務者に任せていること。
(3) 在宅勤務者の業務が常に所属長から随時指示命令を受けなければ遂行できない業務でないこと。

【もっと詳しく】事業場外みなし労働時間制などの柔軟な労働時間制度の活用とは?

7:テレワークの場合の賃金・費用負担(通信費等)

テレワークの場合に、テレワーク中に増大する通信費や水道光熱費を賄う観点から“テレワーク手当”を支給する例が見られます。またその反面、通勤回数が減少することから、通勤手当を実費精算する方式に変更する例も見られます。

“テレワーク手当”等を支給する場合には、以下のような規定が考えられます。

例)第●条 在宅勤務者が負担する自宅の水道光熱費及び通信費用のうち業務負担分として毎月月額●万円を支給する。

また、テレワークの場合には、通信費、水道光熱費等が増大することになるため、紛争防止の観点からこれらの負担について定めを置いておくことよいでしょう。特に、テレワーク用のPCや作業用品を従業員に負担させる場合には、就業規則に定めを置かなければならないとされていることには注意が必要です。

例)第●条 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。
3 その他の費用については在宅勤務者の負担とする。

8:情報漏洩・セキュリティ対策

テレワークにおける大きな懸念事項の一つとして挙げられるのが情報漏洩、セキュリティ対策です。情報漏洩対策としては、テレワークに特別な服務規律を定めておくことが一つの対策となります。

例)第●条 在宅勤務者は就業規則第○条及びセキュリティガイドラインに定めるもののほか、次に定める事項を遵守しなければならない。
(1) 在宅勤務の際に所定の手続に従って持ち出した会社の情報及び作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと。
(2)第1号に定める情報及び成果物は紛失、毀損しないように丁寧に取扱い、セキュリティガイドラインに準じた確実な方法で保管・管理しなければならないこと。
(3) 在宅勤務中は自宅以外の場所で業務を行ってはならないこと。
(4)在宅勤務の実施に当たっては、会社情報の取扱いに関し、セキュリティガイドライン及び関連規程類を遵守すること。

もっとも、テレワーク中のセキュリティは、上記のような“ルール”の設定だけなく、“ルール”・“人”・“技術”をバランスよく組合せることが重要です。

テレワーク中のセキュリティ対策については、総務省が出している『テレワークセキュリティガイドライン(第5版)』も参照すると良いでしょう。

9:その他の定め

上記がテレワーク規程に定めるべき主要な点ですが、その他に次のような項目を定めておきましょう。

(1)テレワーク勤務の申請・承認手続
(2)テレワーク中の連絡体制
(3)テレワーク中の執務環境

特に、(3)は、従業員に対する安全衛生の観点からも重要なポイントとなります。

コロナ禍後を見据えて良質なテレワークを

依然として新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が続いており、今後もテレワークは継続的に続けていく必要があるでしょう。

もっとも、テレワーク自体は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前から、働き方改革として推進が図られてきたものであり、多様な人材の活躍のための重要な施策です。

これまでのテレワークでの経験を活かし、コロナ後においてもテレワークを制度化しておくことが、コロナ禍後の人材の獲得・定着にも役立つでしょう。

【参考】
テレワークモデル就業規則』 / 厚生労働省

*JIRI、Romix、kou / PIXTA(ピクスタ)