こんにちは、
産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
従業員の健康問題(
従業員主治医の診断書が起因)が企業の経営に直結し、時には社長・
役員の辞任、売上減少、
株主代表訴訟にまで発展するケースが顕在化しています。また、
従業員の健康を第一に守るという目的により、企業ガバナンスの逆転現象が起き、結果的に健康を守りきれなかったという矛盾も生じています。
健康管理は、ケガからハラスメントまで、対策の範囲が広いです。そこで、企業ガバナンスを経営者主体という本来の形にすることで、会社と経営者を第一に守り、その結果、
従業員の健康を守るという目的で、下記の日本規格協会規格(JSA 規格)「JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針」を開発しました。
また、認証機関も立ち上げております。
なお、日本規格協会は、経済産業省による認定産業標準作成機関であり、唯一のマネジメントシステム作成機関です。
企業主体の健康管理体制の構築について、ぜひJSA-S1025をご活用ください。
今回は、「【熊本県職員自殺】
産業医の助言はなぜ届かなかったのか?」について作成しました。
企業利益の向上という、精神的・社会的健康を向上させるために、弊社をご活用ください。
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【熊本県職員自殺】
産業医の助言はなぜ届かなかったのか?
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熊本県教育
委員会の天草教育事務所(天草市)で勤務していた男性職員(当時51歳)が2023年に過労自殺したことを受け、熊本県は2025年10月10日、「
勤務時間や健康管理についての
安全配慮義務を怠った」として男性の遺族に謝罪したうえで解決金約1億円を支払うことで遺族側と合意し、
和解しました。
「長時間労働黙認の組織風土」 教委職員自殺、熊本県が遺族に謝罪
https://news.yahoo.co.jp/articles/50eae4ba80f6d91d78b24a705bd88888941378c3
熊本県職員の過労自殺事案(以下「本事案」)は、
産業医が介入したにもかかわらず最悪の結果を招いた典型的な事例です。組織が
安全配慮義務を
履行する意思決定のプロセスと、
産業医助言の実行力の両面から、重大な教訓を残しています。
〇
産業医に求められた「実行力」と「危機感の伝達」
本事案で
産業医は、2度にわたる面接指導を実施し、2回目(12月22日)には「長時間勤務による心身の不調」「人員の増加が不可欠」と明確に指摘しました。しかし、結果回避に至らなかった点には、
産業医の対応に改善すべき点があったことが考えられます。
産業医について、公表された範囲では、
産業医から実行可能性が低い改善案が示されたに留まっています。この公表範囲のみでは、
産業医業務としては十分といえない可能性があり、次の点が指摘されます
産業医は、単に医学的助言を提出するだけでなく、その助言が組織で確実に実行されるための「実行力」を強化すべきでした。具体的には、「人員増加」という時間のかかる組織改編を待つのではなく、即座に業務負荷を
過労死ライン未満に制限するという具体的な就業措置を助言に盛り込むべきでした。また、疲労のピークにある職員が年末年始もほとんど休めない状況は「生命に関わる緊急事態」と判断し、書面だけでなく、
人事責任者に対し口頭で危機感を伝えるか、
労働安全衛生法第13条第5項に基づく強い「勧告」を速やかに行い、組織的な不作為を許さない姿勢を示すべきでした。
さらに踏み込んで、助言内容について、もっと熊本県側に寄り添った代替可能な改善案を提示できていれば、本事案の自殺を避けられた可能性があります。
上記については公表範囲に含まれていませんが、この点は、
産業医であれば当然に行われていたものと思慮します。専門医であれば基礎的な内容です。
〇熊本県側に欠けていた「トップダウンの
安全配慮義務」
本事例は、公表範囲では、詳細は不明です。しかし、熊本県側が
産業医責任を追及せず、遺族に謝罪したことは確定しています。その上で、解説いたします。
本事案の決定的な要因は、企業(県側)が
産業医の助言を事実上無視した点にあります。職員が命を絶つ直前まで、
産業医が「人員増加が不可欠」と指摘したにもかかわらず、県側は業務負荷を直ちに解除する措置を講じませんでした。
熊本県側に求められた改善点は、経営層(県教委幹部)の危機意識と意思決定です。管理主事の平均残業時間が月104時間に上り、長時間労働を「事実上黙認する組織風土」があったことを、
産業医の助言を通じて「組織的リスク」として捉え直すべきでした。具体的には、
産業医の助言を受けた時点で、知事または幹部職員が直接リスク報告を受け、業務の秘匿性を理由にせず、直ちに当該職員の業務を切り離す措置をトップダウンで決定し、ハラスメントの事実調査や人員増加の前倒しを並行して実行すべきでした。
産業医の助言を「書類上の形式的な手続き」で終わらせ、「経営上の優先課題」として扱わなかったことが、県側の
安全配慮義務の決定的な不
履行となりました。「医師と連携した対応」とは、医師の助言に迅速かつ誠実に対応することであり、それが欠けていたことが、約1億円という高額な解決金を支払う事態を招いた最大の教訓と言えます。
特に、人員増加が無理であれば、
産業医と代替する対応を議論することが何よりも大切であったと考えられます。
上記については公表範囲に含まれていませんが、この点は、
産業医であれば当然に熊本県側に助言していたものと思慮します。専門医であれば基礎的な内容です。
〇
産業医助言の「実行力」強化
産業医は、「助言を出す」だけでなく、その助言が「確実に実行されるか」までをフォローアップする実行力と、危機感が伝わる言葉選びが求められます。
その観点で、次の様な対策案が考えられます。
①就業制限の明確化と専門家連携: 2回目の面接(12月22日)で「人員増加が不可欠」と指摘した際、即座に「本人の業務負荷を直ちに、80時間未満に制限する」という具体的な就業制限の助言も添えるべきでした。また、専門医と連携し、助言内容が医学的に適切か追認を得るべきでした。
【解説】 「人員増加」は組織改編を伴い時間がかかりますが、「就業制限」は直ちに実施できる可能性が高い措置です。人員増加が間に合わない間の緊急避難的措置を具体的に指示し、県側の業務改善を促すべきでした。
②緊急性の直接伝達: 12月22日の面接指導結果を、一般の事務手続きのルートに乗せず、
人事責任者(教育事務所長、県教委幹部)に直接かつ口頭で「生命に関わる緊急事態の可能性がある」と助言すべきでした。
【解説】 疲労がピークに達し、年末年始にわずかしか休めない状況は極めて危険であり、書面だけでなく、危機感を伴う「勧告レベルの口頭助言」が必要でした。特に、行政は決裁スピードが遅いことは理解の上で、緊急性は直ちに幹部に伝えるべきでした。
③文書によるフォローアップと記録: 助言後、「業務負荷軽減措置の具体的な実施計画」を県側に文書で要求し、その後の県の対応(または無対応)を記録し、改善を提言あるいは勧告しておくべきでした。
【解説】 熊本県側の対応の遅れや不作為を公的に記録し、改善までの時系列を明確にしておくことが重要です。また、記録は、遺族に対して説明する時の重要な公的私文書になります。
〇熊本県側(会社)が行うべきであったガバナンス強化と対策案
本事案は、
産業医からの助言を、熊本県(経営者側)が無視し、その結果、職員が死亡した事案であり、
安全配慮義務違反の重大性が極めて高い典型例です。解決金約1億円の支払いは、その責任の重さを示しています。
その観点で、次の様な改善案が考えられます。
①助言の即時実行と代替案の検討:
産業医から「心身の不調」「人員増加不可欠」との助言が出た時点で、業務負荷を直ちに解除するべきでした。もし、困難な場合は、
産業医に代替案を提示させるべきでした。
【解説】 職員を業務から完全に切り離す措置(
休職勧告も含む)を取らなかったことが、結果回避義務の決定的な不
履行にあたります。
産業医の意見をすぐに実行できないことは、職域ではよくあることです。実行が困難な場合は、
産業医に相談して代替案を検討すれば良かっただけであり、疾病を早期発見できていたにも関わらず、見殺したことは、何もしなかったことよりも悪質といえます。
②組織風土と業務特殊性の克服: 「残業月104時間超」が管理職の平均であり、長時間労働を「事実上黙認する組織風土」があったことを猛省する必要があると、内部調査でも指摘されています。管理主事の業務は、秘匿性があるのであれば、それを考慮した恒久的な対策が必要でした。
【解説】 業務の秘匿性(機密性)は、
安全配慮義務を放棄する理由になり得ず、むしろ「多人数で業務を分担できないリスク」として、経営トップが優先的に解決すべきガバナンス上の問題でした。日ごろから課題が顕在化していたため、
産業医に相談して、適切な改善案を検討すれば良かったのです。
③
人事と経営の連携強化:
産業医の助言書が提出された際、
人事担当者(県教委の幹部)が、管理主事という「原則1人」体制の特殊性と膨大な残業時間を照らし合わせ、人員増加の前倒しや他部署からの緊急応援を決定すべきでした。
【解説】
産業医の助言が、「ただの健康情報」として扱われ、「経営上の優先課題」として扱われなかったことが、組織的な
安全配慮義務違反の本質であるといえます。次のコラムにも示す様に、経営者の責任は、専門家に適切に業務を任せることです。その専門家の助言が実行困難であれば、専門家と相談すれば良いだけであり、助言を無視するのであれば相当の理由が必要になります。
【考察】医師の判断なら、健康管理上、テレビ局は悪くない
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177477/
〇「
産業医と連携した対応」とは「
産業医と歩調を合わせて改善に取り組むこと」
本事案は、企業(県側)が
産業医を形式的に選任し、面接指導も行ったにもかかわらず、その「医師の助言」を経営判断に反映させなかったことで、悲劇を招いた典型例です。
特に、早期発見できていたにも関わらず、「知らなかった」「無理であった」「できなかった」などのやむを得ない理由もなく、ただ単に見殺しただけになります。
「医師と連携している社長について、対応の正当性が争点になる」という状況は、まさに「
産業医の助言に真摯に向き合い、迅速かつ具体的な措置(就業制限や人員配置の見直し)を実行できたか。もし、できない場合は出来る案を検討し対策したか」という一点に集約されます。
産業医の助言を無視した結果の賠償金1億円は、健康管理体制の不備と経営ガバナンスの崩壊に対する、社会と司法からの厳しい判断と言えます。
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JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針
JSA-S1025ページ
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JSA-S1025%3A2025
JSA-S1025紹介
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/jsa/pdf_jsa_372.pdf
【JSA-S1025】開発の解説
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177724/
こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
従業員の健康問題(従業員主治医の診断書が起因)が企業の経営に直結し、時には社長・役員の辞任、売上減少、株主代表訴訟にまで発展するケースが顕在化しています。また、従業員の健康を第一に守るという目的により、企業ガバナンスの逆転現象が起き、結果的に健康を守りきれなかったという矛盾も生じています。
健康管理は、ケガからハラスメントまで、対策の範囲が広いです。そこで、企業ガバナンスを経営者主体という本来の形にすることで、会社と経営者を第一に守り、その結果、従業員の健康を守るという目的で、下記の日本規格協会規格(JSA 規格)「JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針」を開発しました。
また、認証機関も立ち上げております。
なお、日本規格協会は、経済産業省による認定産業標準作成機関であり、唯一のマネジメントシステム作成機関です。
企業主体の健康管理体制の構築について、ぜひJSA-S1025をご活用ください。
今回は、「【熊本県職員自殺】産業医の助言はなぜ届かなかったのか?」について作成しました。
企業利益の向上という、精神的・社会的健康を向上させるために、弊社をご活用ください。
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【熊本県職員自殺】産業医の助言はなぜ届かなかったのか?
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熊本県教育委員会の天草教育事務所(天草市)で勤務していた男性職員(当時51歳)が2023年に過労自殺したことを受け、熊本県は2025年10月10日、「勤務時間や健康管理についての安全配慮義務を怠った」として男性の遺族に謝罪したうえで解決金約1億円を支払うことで遺族側と合意し、和解しました。
「長時間労働黙認の組織風土」 教委職員自殺、熊本県が遺族に謝罪
https://news.yahoo.co.jp/articles/50eae4ba80f6d91d78b24a705bd88888941378c3
熊本県職員の過労自殺事案(以下「本事案」)は、産業医が介入したにもかかわらず最悪の結果を招いた典型的な事例です。組織が安全配慮義務を履行する意思決定のプロセスと、産業医助言の実行力の両面から、重大な教訓を残しています。
〇産業医に求められた「実行力」と「危機感の伝達」
本事案で産業医は、2度にわたる面接指導を実施し、2回目(12月22日)には「長時間勤務による心身の不調」「人員の増加が不可欠」と明確に指摘しました。しかし、結果回避に至らなかった点には、産業医の対応に改善すべき点があったことが考えられます。
産業医について、公表された範囲では、産業医から実行可能性が低い改善案が示されたに留まっています。この公表範囲のみでは、産業医業務としては十分といえない可能性があり、次の点が指摘されます
産業医は、単に医学的助言を提出するだけでなく、その助言が組織で確実に実行されるための「実行力」を強化すべきでした。具体的には、「人員増加」という時間のかかる組織改編を待つのではなく、即座に業務負荷を過労死ライン未満に制限するという具体的な就業措置を助言に盛り込むべきでした。また、疲労のピークにある職員が年末年始もほとんど休めない状況は「生命に関わる緊急事態」と判断し、書面だけでなく、人事責任者に対し口頭で危機感を伝えるか、労働安全衛生法第13条第5項に基づく強い「勧告」を速やかに行い、組織的な不作為を許さない姿勢を示すべきでした。
さらに踏み込んで、助言内容について、もっと熊本県側に寄り添った代替可能な改善案を提示できていれば、本事案の自殺を避けられた可能性があります。
上記については公表範囲に含まれていませんが、この点は、産業医であれば当然に行われていたものと思慮します。専門医であれば基礎的な内容です。
〇熊本県側に欠けていた「トップダウンの安全配慮義務」
本事例は、公表範囲では、詳細は不明です。しかし、熊本県側が産業医責任を追及せず、遺族に謝罪したことは確定しています。その上で、解説いたします。
本事案の決定的な要因は、企業(県側)が産業医の助言を事実上無視した点にあります。職員が命を絶つ直前まで、産業医が「人員増加が不可欠」と指摘したにもかかわらず、県側は業務負荷を直ちに解除する措置を講じませんでした。
熊本県側に求められた改善点は、経営層(県教委幹部)の危機意識と意思決定です。管理主事の平均残業時間が月104時間に上り、長時間労働を「事実上黙認する組織風土」があったことを、産業医の助言を通じて「組織的リスク」として捉え直すべきでした。具体的には、産業医の助言を受けた時点で、知事または幹部職員が直接リスク報告を受け、業務の秘匿性を理由にせず、直ちに当該職員の業務を切り離す措置をトップダウンで決定し、ハラスメントの事実調査や人員増加の前倒しを並行して実行すべきでした。
産業医の助言を「書類上の形式的な手続き」で終わらせ、「経営上の優先課題」として扱わなかったことが、県側の安全配慮義務の決定的な不履行となりました。「医師と連携した対応」とは、医師の助言に迅速かつ誠実に対応することであり、それが欠けていたことが、約1億円という高額な解決金を支払う事態を招いた最大の教訓と言えます。
特に、人員増加が無理であれば、産業医と代替する対応を議論することが何よりも大切であったと考えられます。
上記については公表範囲に含まれていませんが、この点は、産業医であれば当然に熊本県側に助言していたものと思慮します。専門医であれば基礎的な内容です。
〇産業医助言の「実行力」強化
産業医は、「助言を出す」だけでなく、その助言が「確実に実行されるか」までをフォローアップする実行力と、危機感が伝わる言葉選びが求められます。
その観点で、次の様な対策案が考えられます。
①就業制限の明確化と専門家連携: 2回目の面接(12月22日)で「人員増加が不可欠」と指摘した際、即座に「本人の業務負荷を直ちに、80時間未満に制限する」という具体的な就業制限の助言も添えるべきでした。また、専門医と連携し、助言内容が医学的に適切か追認を得るべきでした。
【解説】 「人員増加」は組織改編を伴い時間がかかりますが、「就業制限」は直ちに実施できる可能性が高い措置です。人員増加が間に合わない間の緊急避難的措置を具体的に指示し、県側の業務改善を促すべきでした。
②緊急性の直接伝達: 12月22日の面接指導結果を、一般の事務手続きのルートに乗せず、人事責任者(教育事務所長、県教委幹部)に直接かつ口頭で「生命に関わる緊急事態の可能性がある」と助言すべきでした。
【解説】 疲労がピークに達し、年末年始にわずかしか休めない状況は極めて危険であり、書面だけでなく、危機感を伴う「勧告レベルの口頭助言」が必要でした。特に、行政は決裁スピードが遅いことは理解の上で、緊急性は直ちに幹部に伝えるべきでした。
③文書によるフォローアップと記録: 助言後、「業務負荷軽減措置の具体的な実施計画」を県側に文書で要求し、その後の県の対応(または無対応)を記録し、改善を提言あるいは勧告しておくべきでした。
【解説】 熊本県側の対応の遅れや不作為を公的に記録し、改善までの時系列を明確にしておくことが重要です。また、記録は、遺族に対して説明する時の重要な公的私文書になります。
〇熊本県側(会社)が行うべきであったガバナンス強化と対策案
本事案は、産業医からの助言を、熊本県(経営者側)が無視し、その結果、職員が死亡した事案であり、安全配慮義務違反の重大性が極めて高い典型例です。解決金約1億円の支払いは、その責任の重さを示しています。
その観点で、次の様な改善案が考えられます。
①助言の即時実行と代替案の検討: 産業医から「心身の不調」「人員増加不可欠」との助言が出た時点で、業務負荷を直ちに解除するべきでした。もし、困難な場合は、産業医に代替案を提示させるべきでした。
【解説】 職員を業務から完全に切り離す措置(休職勧告も含む)を取らなかったことが、結果回避義務の決定的な不履行にあたります。産業医の意見をすぐに実行できないことは、職域ではよくあることです。実行が困難な場合は、産業医に相談して代替案を検討すれば良かっただけであり、疾病を早期発見できていたにも関わらず、見殺したことは、何もしなかったことよりも悪質といえます。
②組織風土と業務特殊性の克服: 「残業月104時間超」が管理職の平均であり、長時間労働を「事実上黙認する組織風土」があったことを猛省する必要があると、内部調査でも指摘されています。管理主事の業務は、秘匿性があるのであれば、それを考慮した恒久的な対策が必要でした。
【解説】 業務の秘匿性(機密性)は、安全配慮義務を放棄する理由になり得ず、むしろ「多人数で業務を分担できないリスク」として、経営トップが優先的に解決すべきガバナンス上の問題でした。日ごろから課題が顕在化していたため、産業医に相談して、適切な改善案を検討すれば良かったのです。
③人事と経営の連携強化: 産業医の助言書が提出された際、人事担当者(県教委の幹部)が、管理主事という「原則1人」体制の特殊性と膨大な残業時間を照らし合わせ、人員増加の前倒しや他部署からの緊急応援を決定すべきでした。
【解説】 産業医の助言が、「ただの健康情報」として扱われ、「経営上の優先課題」として扱われなかったことが、組織的な安全配慮義務違反の本質であるといえます。次のコラムにも示す様に、経営者の責任は、専門家に適切に業務を任せることです。その専門家の助言が実行困難であれば、専門家と相談すれば良いだけであり、助言を無視するのであれば相当の理由が必要になります。
【考察】医師の判断なら、健康管理上、テレビ局は悪くない
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177477/
〇「産業医と連携した対応」とは「産業医と歩調を合わせて改善に取り組むこと」
本事案は、企業(県側)が産業医を形式的に選任し、面接指導も行ったにもかかわらず、その「医師の助言」を経営判断に反映させなかったことで、悲劇を招いた典型例です。
特に、早期発見できていたにも関わらず、「知らなかった」「無理であった」「できなかった」などのやむを得ない理由もなく、ただ単に見殺しただけになります。
「医師と連携している社長について、対応の正当性が争点になる」という状況は、まさに「産業医の助言に真摯に向き合い、迅速かつ具体的な措置(就業制限や人員配置の見直し)を実行できたか。もし、できない場合は出来る案を検討し対策したか」という一点に集約されます。
産業医の助言を無視した結果の賠償金1億円は、健康管理体制の不備と経営ガバナンスの崩壊に対する、社会と司法からの厳しい判断と言えます。
========================
JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針
JSA-S1025ページ
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JSA-S1025%3A2025
JSA-S1025紹介
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/jsa/pdf_jsa_372.pdf
【JSA-S1025】開発の解説
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177724/