時代は変わったのにマネジメントはそのまま?昭和マネジメントから脱却すべき理由とは
最近、各企業の経営者や人事・人材開発責任者から、「若手・中堅社員の離職が増えている……」「現場の施策実行スピードが上がらない」「受け身な組織風土を変えたい」などの声をよく聞きます。
これらの要因として、「現場のマネジメントが最新版に更新されていない」という問題が挙げられます。そこで2回にわたって、各社の経営者や人事・人材開発責任者の方々とのディスカッションや研修コンサルの現場で見聞きしたことを元に、マネジメントのアップデート方法をお伝えします。
まずは第1回として、マネジメントをアップデートするべき理由とアップデートの方向性について解説していきましょう。
第1回:マネジメントのアップデートが求められる背景、どのような方向性でアップデートしていくべきか
第2回:マネジメントをアップデートする具体的な方法とは
目次
マネジメントのアップデートはなぜ必要?
マネジメントのアップデートはなぜ必要なのでしょうか。一つの要因として、上図のような時代背景が大きく関係しています。そして、こうした時代背景の中、経営層、管理職層、メンバー層からは以下のような悩みがあるようです。
複雑な要因が絡み合っているため、ボトルネックを探し出すことはかなり難しいでしょう。加えて、「原因を突き止めたところで、解決の糸口が見えてこない」「ピントがズレたまま物事が進んでいる気がする」といった閉塞感も耳にします。
これらのことから、あらゆる企業でコミュニケーション不全が起こりやすい環境になっているということ、そしてその状況を放置していれば組織に遠心力が働き、組織がバラバラになりがちであるということです。
特に、若手社員(Z世代)と管理職(40歳代:就職氷河期世代)とでは、仕事観・組織観が大きく異なります。
若手社員は「このままこの会社に居続けて、自分は成長できるか?」をとても気にします。社内での出世よりも、他社でも通用する実力をつけ、市場価値を高めることを重要視するため、現在の環境で成長できないと感じ、転職を考えるようになります。
管理職が若手だったころには考えられないことが若手の当たり前になっていることに気づかず、「若手メンバーの価値観」と「マネジメントスタイル」のズレ、いわゆるミスマッチを起こしてしまい、メンバーのエンゲージメント低下や、メンバーの成長鈍化とマネジャーの負担増加という悪循環を生みだします。
このような理由で、バラバラになりがちな組織に対し、どのように「求心力」を発揮していくか? 前例のない中で、いかにして足元と先々を両立させつつ、組織・チーム一丸となって新たな価値創造を実現するのか? という理由で、マネジメントの最新版にアップデートしていくことが必要なのです。
マネジメントのアップデートの方向性とは
ではマネジメントのアップデートはどのような方向性で進めていけばよいのでしょうか?
1:変わらざる普遍の原則
変化の時代には「変わらざること」と「変わるべきこと」の峻別が重要だといわれます。「変わらざること=普遍の原則」「変わるべきこと=アップデートすべき内容」です。
変わらざる普遍の原則は「顧客の創造という目的に向かい、他人を通じて事を成し遂げること」です。時代が変わろうとも、この本質は変わらず、変わらない本質を知る者だけが、柔軟に変わることができるのです。
2:アップデートの方向性
「変わらざる普遍の原則」を知った上で、アップデートすべき内容は下図の4つです。
旧来のマネジメントがすべてNGというわけではありませんが、旧来のマネジメントではうまくいかない現実がある以上、「これからのマネジメント」にシフトする必要があります。①~④について、一つずつ詳細に解説していきましょう。
①目標設定のあり方
「マネジャーが予測できる範囲」を起点に目標設定するのではなく、「意義あるビジョン」を起点に目標設定するということです。 「前年対比10%UP」という目標設定ではなく、「5年後はこうなっていたい。そのためにも来期は〇〇を達成しよう」という未来を見据えた目標設定です。つまり、フォアキャスティング思考(過去を参考に、現在を起点として未来を組み立てる思考)一辺倒ではなく、バックキャスティング思考(未来を起点に逆算して現在を組み立てる思考)での目標設定にシフトする必要があります。
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②リーダーシップのあり方
従来、「すごい人」といわれてきた「カリスマ型」「万能型」は、“マネジャー個人の力” でチームを引っ張っていくものです。たしかにすごいのですが、メンバーを受け身にしてしまったり、マネジャー自身が「こうあらねば……」という呪縛で疲れてしまったりという落とし穴があります。
昨今注目されているのが「等身大型」です。マネジャー個人の力に依存せず、メンバーがお互いに支え合い、チーム力を高めていくイメージです。このスタイルは、「カリスマ型」や「万能型」に比べ、メンバーに新たな発想や自発的行動が生まれやすいといわれています。
③マネジメントのあり方
先が見通せる時代には「こうすればうまくいく」というように、正解がはっきりしていたので、指示命令型のマネジメントが有効でした(意思決定スピードも実行スピードも速い)。
しかし、先行き不透明で何が正解か分からない時代、指示命令型マネジメントではマネジャー個人の発想の枠を越えられないという限界があります。また指示命令型マネジメントは、部下が成長を実感しにくく、成長欲求の高い社員の離職につながりやすいという問題もあります。
昨今有力視されているのは「現場の知恵を引き出し、より良い策を部下と一緒に創造する共創型のマネジメント」です。ただし、共創型マネジメントにシフトするには、それなりの経験(場数)と教育が必要です。
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④コミュニケーションのあり方
従来コミュニケーションというと、メンバーの話をいかに聴くか・マネジャーの考えをいかに伝えるかなど、対人スキルが中心でした。いわゆる、コーチングやアサーション、1on1ミーテイング などが脚光を浴びてきました。ところが、現場のマネジャーの本音としては下記の想いがあります。
- 対人コミュニケーションスキルは確かに大事だが、問題はその手前にある
- メンバーが目の前にいない(例:リモート環境で働いている。客先に常駐している)
- メンバーと話をする「場」をいかにつくるかが最も悩ましい
これらの問題は、コロナ禍を境に急増しています。
そこで効果を発揮するのが「コミュニケーション設計」つまり、コミュニケーションの場をいかに設計するかという考え方です。場の設計は、公式と非公式の両面から考えます。
- 公式な会議(日時、週次、月次、四半期、半期、通期)
- 非公式なミーテイングや声掛け(ドリンクスペースで、廊下で、昼食時に、始業・終業時、同行時、喫茶店で)
対面、Web会議、電話、チャットツール……というように、いろいろな方法を組み合わせて設計します。「メンバーが目の前にいない」「お互い忙しくて時間を取りにくい」ことを与件とし、コミュニケーションの場を意図的につくることがマネジャーの重要な仕事になっています。「対人スキルに自信がない…」という方も気負わず、コミュニケーションは「対人スキル2割、場の設計8割」程度に思っておくとよいでしょう。
コミュニケーションを取る際の注意点
心理的安全性の誤解
さて、場を設定し、部下とコミュニケーションを取る際に、心理的安全性が求められるのではと思う方もいるでしょう。ここで重要なのは、心理的安全性を勘違いしないことです。
心理的安全性とは、他メンバーの反応に怯えたり、恥ずかしいと感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出して話しても大丈夫と思えるチーム状態のことです。簡単にいうと、「そんなことも知らないの!?」「そんなこともできないの!?」などといわれる(思われる)のではないかと心配する必要がないということです。この心理的安全性が、チームワークやメンバーの成長、定着に大きく影響しているといわれます
従来型のマネジメントにおいては「経営や上司の意向と異なる発言をすると怒られる」「責任(目標・ノルマ)を果たせていないと人前で責められる」といった「責任に対して厳しいばかりで、心理的安全性の低い“しんどい”職場」が当たり前のように存在していました(今でも存在しているという職場もあるかもしれません)。そうした職場を経験した方からすると、心理的安全性という言葉を聞いたときに次のような誤解をされるケースが多いです。
- 心理的安全性=居心地のよい職場(妥協する“ゆるい”職場)である
- 心理的安全性なんて甘っちょろい ことをいっていると業績が下がる
- 心理的安全性が低いのはマネジャーの怠慢であり、現場の我々メンバーは被害者である
要するに、「心理的安全性を担保すること」と「責任を果たすこと」はトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)と誤解しているのです。
心理的安全性と責任認識は本来両立しうるものです。チームとしての出すべき成果や仕上がり、一人ひとりの目標にお互いが立場やキャリアの垣根を越えて協力し合う。そのなかで、ゆるい妥協があれば遠慮なく相手に進言する。意見が異なったときは「どうすることがチームにとってベストなのか?」と本音で話し合い、全員が本気になってチームとしてのゴール達成を目指す。そんな「共通目標に向け、妥協なく学習し、成長し続ける職場」を志向することが心理的安全性の本質といえます。
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今回の記事では、マネジメントのアップデートが求められる背景と方向性について解説しました。次回は、マネジメントのアップデートについて解説いたします。
*Lukas / PIXTA(ピクスタ)
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