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労働時間改ざん?~労働時間の把握をめぐる諸問題

労働時間の把握をめぐる問題

労働時間とはどこからどこまでを指すか?
労働時間の把握はどうすればいいか?

これらは悩ましい問題です。

対応を誤ると、サービス残業(賃金未払い残業)の問題に発展します。
(「誤り」ではなく「確信犯」の場合も少なくありませんが)


◆ヤマト運輸で是正勧告

9月23日の読売新聞に掲載されていました。

記事を引用します。

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ヤマト運輸が、大阪市内の集配センターなど2か所で宅配ドライバーらにサービス残業(賃金未払い残業)をさせていたとして、大阪南労働基準監督署労働基準法違反で是正勧告をしていたことがわかった。

同社は、ドライバーにコンピューター端末「ポータブルポス(PP)」を携帯させ、出勤・退勤時刻を記録、管理しているが、給与計算の基となる勤怠記録が実際の端末記録と異なり、労働時間が短くなっていたケースが判明。記録改ざんの疑いもあり、同労基署は関西支社(大阪市)に対し、大阪市内のセンターなどを管轄する大阪主管支店管内の従業員に過去2年間の未払い賃金を支払い、10月末までに改善報告書を提出するよう命じた。また、関西支社管内の全従業員約2万2000人の過去2年間の労働実態を調査のうえ、サービス残業があれば未払い賃金を支払うよう是正指導した。
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労働時間の把握をめぐる問題

労働時間の把握については2001年に厚生労働省が、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」と題する通達を出しています。

http://www.hrm-solution.jp/roudouhou/roudouhou69_roudoujikanhaakukijun.htm

要は、「会社は労働時間を正確に把握しなさい」ということを言っているのですが…

この中で、労働時間の把握方法は
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること
--この2つが原則であるとしています。

では、手書きの出勤簿など、いわゆる自己申告制は?

これについて「基準」にはこのように書かれています。

自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。

ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、
必要に応じて実態調査を実施すること。


いわゆる「自己申告制」それ自体が違法というわけではありません。
ただ、これがサービス残業の温床になっていることは否定できないわけで、この点を行政も重く見ているということです。

会社としては、手書き出勤簿などの時間が、正確な労働時間になっていることを説明できる状態にしておくことが肝心ですね。


◆タイムカードなどの記録=労働時間か?

ここが微妙な問題です。

業務前の身支度や、業務の準備作業、業務終了後の後片付けなどは、原則として労働時間になりません。
(状況によって一概に言えませんが)
また、業務終了後の雑談なども、もちろん労働時間になりません。
業務行為にならないわけです。

しかしタイムカードを打刻したり、ICカードをカードリーダーに通すのは、身支度前や業務後、雑談をした後ということも、少なくありません。

そのため、始業・終業時刻として認定するのは、これらの打刻などの記録とは別の時間にするという会社もあります。
特に残業時間の場合。

これ自体は、違法ではありません。

ただ、状況によっては、「記録改ざん」、「サービス残業」とされることがあるわけです。
それは今回のケースと言っていいでしょう。


ポイントは次の2点。
ひとつは労働時間認定手続
記事だけで判断する限り、同社では、上司が一方的に記録の書き換えを指示していたようです。
(その指示を出した管理者の認識と会社の方針との間で齟齬はなかったのかなどが気になるところですが。)
もしその通りなら、是正勧告を受けてもやむを得ないところです。

残業指示との関係も重要です。

「残業は上司の事前の指示または認定によって行う」という制度になっており、現実にその通りに運用されている場合で…

上司の指示も認定もなく勝手に残業をしており、上司が帰るように指示しても従わなかった場合
→残業として認める必要はない

…となりますが、そうではない場合、事前指示・認定がなかったことを理由に残業時間を認めないのは問題です。

2点目は、タイムカード等の記録と、会社が認定した始業・終業時刻との「差」。

もしタイムカード打刻時刻と、終業時刻として認定した時刻との間に何時間もの差があったら、その差の部分が明らかに労働時間とは言えない(会社内でクラブ活動をしていた、社内で慰労会をしていた、など)ということを立証できない限りは、タイムカード打刻時刻=終業時刻と推定されるでしょう。

ではどの程度の差ならいいのか?
これは「社会通念上妥当な範囲」としか言いようがないのですが…
安西愈弁護士は、「労働時間休日・休暇の法律実務」(中央経済社)の中で、「通常月給制の場合は30分程度は退勤猶予時間とされている」と述べています。
これが限度と考えていいでしょう。
(もちろん30分以内であっても、仕事をしていたことが明らかであれば労働時間としなくてはなりませんが)


このように、労働時間の認定をめぐる問題は、結構悩ましいものです。
法令、通達を見ながら(遵守しながら)、会社としてしっかり定義づけること、手続きなどをきちんと定め、面倒がらずに運用することが必要です。

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