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内定者の事前研修

<第27回>
★内定者の事前研修★

 学卒を採用する会社では、既に来年4月の内定者が決定しているところも多
いことでしょう。これからの時期は、内定式を行った後に通信教育とかレポー
ト等を義務付けて、何らかのコネクションを図るケースも多くあります。採用
担当として一番心配なのは、内定後、本人が勝手に他社に行ってしまうこと。
それゆえ、会社負担で色々な施策を講じざるを得ないのでしょうね。もちろん、
学生側としても安心感を持てるメリットもあります。

 当然、内定辞退は法的には本人を責めることも可能ですが、そんな奴を無理
に入社させてもロクなことがないので、実質的には本人のし放題。昔と違い、
最近の学生は恩なんて言葉は頭の隅にもないので、会社は歯ぎしりして我慢す
るしかないのが辛いところ。

 ちなみに今回は、内定期間に研修を行う場合の留意点について考えてみます。

 会社によっては、それも大企業ほど、業務内容の理解や相互の懇親を目的と
して、入社前研修を行うことがあります。時期や期間はそれぞれですが、余裕
のある会社だと、自前の研修所で数泊みっちりやるなんてことも。(私の経験
上、銀行はそうだった。入社後、自衛隊体験入隊もあったなぁ)

 これらの研修自体の捉え方ですが、はっきりしておいた方が良さそうです。
要は、参加を強制できるのかどうか。さらには労務を提供する「労働者」とな
るのかどうかということ。もし労働者となれば、賃金支払や労災の問題も発生
します。

 内定期間は労働契約の予約期間との見方をすれば、入社前研修時点では労働
契約は成立していないことになります。その点では、まだ労働義務を負ってい
ないので研修参加の強制は困難です。
 もちろん、参加に対しての特別の合意があれば強制も可能です。例えば、内
定時に事前研修を受ける旨の説明等を行っておけば可能です。できれば内定通
知書にその旨記載しておくとベスト。

 もし、内定時までに何らの説明もなく、内定を出した後いきなり研修を強制
するのは上記の理由から問題が残ります。もし、これを拒否したことを理由に
内定を取り消せば解雇の問題も発生するのでご注意。何だかんだ言っても、基
準法は労働者寄りなので慎重に。

 また、参加強制が可能だとしても、労働者と言えるかどうかの問題もありま
す。一般的に、研修の実体が会社の指揮命令下にあり労務の提供となる場合は、
正社員でないにしても労働者としての扱いが必要となります。強制参加なら、
指揮命令下との類推は容易にできますが、労務の提供ってのはどうなのでしょ
う。座って聞いてるだけで労務の提供というのも何か変。

 しかし、入社前研修の内容が、入社後の労務の提供に直接関連するもの、言
い換えれば入社後の業務に直結したり補完する内容のものであれば、労務の提
供とみなさざるを得ないと思われます。銀行で例えれば、銀行法務や札勘定、
電話のロールプレイング等なら、労務の提供でしょうね。

 逆に、業務に直接関連しない内容の研修であっても、研修への参加が強制さ
れていれば、これもやはり労務の提供とされるでしょう。労務の提供とは、労
働者が一方的にがむしゃらに働くことではなく、会社の業務命令に従うこと全
般をいうものと考えられます。たとえ親睦のみを目的としたものであっても、
会社が強制したものであれば、広い意味で労務の提供となります。いまどき、
親睦だけやる会社なんてないでしょうけどね。

 以上のことから、入社前研修を義務付けると、その期間は賃金支払いの必要
が生じます。もとより研修の交通費、宿泊費等は会社負担となっているのが通
例ですが、これとは別に賃金も支払わなければなりません

 じゃあ、いくら払えばいいのかということですが、正規入社としての労働契
約の効力が発生していないので、初任給で計算する必要はありません。厳密に
は当事者間で決めることとなります。かと言って、個々に決めるということで
なく、バイトに準じたり、あるいは日当として定額とする方法もあるでしょう。
当然、研修期間と言えど労働者であれば基準法の適用があるので、1日8時間
までの話です。研修の残業(何かしっくりしないなあ)がある場合、やはり割
賃金が別途必要です。

 可能であれば(というよりやっておくべき)、内定時までに、入社前研修が
ある旨とその期間中の日当を明示することをお勧めします。もちろん日当は最
賃金を下回らない範囲で、う~んと低めにしておけばいいだけ。もし、何も
決めないまま研修を行うと、初任給よこせと言われても対抗しにくくなります。
揉めれば、そんな不貞の輩を採用したのは誰だ、ということになり、採用責任
者が責められる憂き目に。

 実際、入社前研修で賃金を支払っているケースは極めて少数派です。研修は
会社が費用を出してわざわざ自分のためにやってくれるという恩恵的な考え方
が根強いですし、会社と内定者という力関係もあるでしょう。更には、学生は
基準法に明るくないのも幸いしてるのかも。ただ、今後若年層の減少傾向は顕
著になってくるのは確実であり、採用合戦は熾烈になると思われます。学生側
も色々な情報を得るようになっており、いずれ研修期間の賃金の問題が顕在化
することは確実です。

。なお、研修中の賃金について特約を設け、支払わないとしているケースもあ
るようです。何もなければそのまま通用しますが、揉めると厄介になる恐れが
あることは頭の隅に入れておいた方が良さそうです。

 それでも、どうしても研修期間の賃金は払いたくないという場合、ここは採
用担当者の腕の見せどころ。そういう要求を絶対しないような学生を集めるこ
とにつきます。結構難しいんだ、これが。


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