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兼業禁止規定

今回は、実務の現場でもよくご相談を受ける「兼業の禁止」についてレポートします。

兼業とは、会社の業務に従事しながら別の業務に従事する、いわゆる掛け持ちを行うことを言いますが、果たしてこういった行為は法律上どこまで許されることなのでしょうか?

言い換えると、会社としては、業績が低迷する中で、賞与残業代の抑制などによって給与が減ってしまった社員が、業務終了後や休日にアルバイト等をしたいと申し出てきた場合に、どこまで認めなければならないのでしょうか?

実はこの問題については、状況に応じて判断されるという非常にグレーな部分があります。

今回は、これまでの判例を通してその辺の状況を整理してみましたので、是非ご参考にしていただければと思います。


【目次】
1.兼業禁止の概要
2.なぜ兼業の禁止規定を設けるのか?
3.兼業禁止の具体例
4.まとめ


1.兼業禁止の概要

民間企業の労働者は、公務員と違って法律上、兼業が禁止されていません。(禁止規定が存在しません)

労働者は、就業規則や個別の労働契約に基づいて、1日のうち定められた時間については労働を提供することが求められますが、これらの規則や契約で定められた時間外までは、本来どのように使おうと労働者の自由ということになります。

判例も
「一般に労働者労働契約に定められた時間、場所において契約に定められた労働を提供する義務があるが、時間外においては特約なき限り他の者のために働いてはならない義務はない。」(国際タクシー事件 昭和59.1.20)
としています。

ただ、多くの会社では就業規則において「兼業は使用者の承認(又は許可)を必要とする」など、何らかの形で特約を設けているのが一般的となっています。


2.なぜ兼業の禁止規定を設けるのか?

では、なぜ多くの会社で特約として兼業の禁止規定を設けているのでしょうか・・・?

この点について、労働者は会社に対して労働契約上、次のような義務を負っているので、この義務をきちんと果たしてもらうために設けていると言えます。

労働契約上の義務〕
(1)労務提供義務
使用者に対して労務を提供する義務。
(2)競業避止義務
会社に対して使用者の利益を侵害するような競業(ライバル関係に当たる業務に従事すること等)を差し控える義務。
(3)使用者の信用を毀損しないようにする義務

そして、判例においても、兼業を全面的に禁止することはさておき、一定の範囲で制限することは認めています。(日本放送協会事件、小川建設事件など)


3.兼業禁止の具体例
では、会社としては、労働者に義務を果たしてもらうために、どこまで兼業を認め、又は認めないとすることができるのでしょうか。

(1)労務提供義務
兼業を行う場合、就業時間が重なるようなものは認められないことは言うまでもありませんが、就業時間が重ならないものであったとしても労務提供に支障をきたすような場合には、これを承認しないとすることができることがあります。

判例では
労働者がその自由なる時間を精神的、肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものである。」(小川建設事件 昭和57.11.19)
としていますので、次の日の業務に支障をきたすような場合は兼業を認めなくてもよいと考えられます。

(2)競業避止義務
判例では、社員が競業会社(ライバル関係となる会社)の代表取締役に就任し、その競業会社の業務に従事したことが「重大な義務違反行為」であると判断したケースがあります。
(東京メディカルサービス・大幸商事事件 平成3.4.8)

したがって、競業避止義務に反する兼業は認めなくてもよいと考えられますが、実務的に問題となってくるは、その兼業が競業に当るかどうかの判断であると言えます。

判例では「制限の必要性」「期間」「地域」「背信性」などが判断要素とされていますので、規定の運用に際しては、これらを参考に状況に応じた判断や対応を行わざるを得ないと言えます。

(3)使用者の信用を毀損しないようにする義務
兼業することにより、会社の社会的信用や名誉を毀損するような場合は、兼業を認めないとする判断は合理的であると言えます。

例えば、日本放送協会事件では、上記(1)~(3)を含めて、兼業の承認について
「労働を提供すべき義務が履行不能ないし不完全になるおそれの有無やその程度、事業又は業務の内容や性格、とくにNHKの社会的評価に与える影響等の諸般の事情を総合して判断すべきである。」
としています。


4.まとめ

兼業について、裁判所は有効または無効を一律に判断することはありません。

既述のように、兼業によって労務の提供に支障がないか、職場秩序の維持に悪影響がないか等から総合判断が行われますので、当然、その程度や状況によって結論は異なってきます。

つまり、あくまでも個別の事案ごとに判断されることとなります。

就業規則等において兼業の禁止規定を設けることは、その必要性、合理性から一定の範囲で認められことにはなりますが、だからといってこれはあくまで特約という性格のものですので、状況によっては全部が全部、認められるわけではないという点を認識しておく必要があるでしょう。


~あとがき~

社員の兼業を認める場合、
(1)労働時間管理
(2)労働災害通勤災害
などについての責任の所在が問題となることもあります。

例えば、社員が過労で倒れた場合や、A社(自社)の業務を終えてB社(他社)へ向かう途中に災害に遭った場合などがそれに当ります。

ですので、兼業を認める場合の典型例として、社員の経済上の理由に基づくことがありますが、安易にそのことだけで判断してしまうと後で思わぬトラブルに巻き込まれることも想定しておかなければなりません。

兼業を認めるか、認めないかは最終的には自己判断で会社ごとに責任を持って行うことにはなりますが、その際には是非トラブル回避の視点も考慮に入れておかれるとよいと思います。


中薗総合労務事務所 http://homepage2.nifty.com/nakazono/

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