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株式譲渡契約と競業避止特約

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石下雅樹法律・特許事務所 第58号 2011-03-01
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1 今回の判例 株式譲渡契約と競業避止特約
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 東京地裁平成22年1月25日判決

 A社の創業者であるY氏と、Y氏の資産管理会社であったB社は
労働者派遣事業を営むA社の株式を、X社に合計27億円で譲渡
しました。

 X社と、Y氏・B社の間の株式譲渡契約においては、Y氏は、3
年間、V社と同様の労働者派遣事業につき、自ら営まず、かつ、い
かなる立場でも、同様の事業を行う主体の経営等の行為を行なって
はならないという競業避止義務を負い、この義務に違反したときは
違約金5億円を支払うべき旨の定めがありました。

 Y氏は、同株式譲渡と同時期に、自己が社長を務めていたC社に
おいて人材派遣業を始め、Y氏は社長を退任したものの、社長退任
後もC社に5億円近い資金提供をしていました。

 X社は、Y氏がこの義務に違反したとして、5億円の違約金の請
求をしました。

 Y氏は、自己の行為は競業避止義務に違反していない、また、こ
の競業避止規定は公序良俗違反によって無効であり、違約金5億円
を支払う義務はないと主張しました。


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2 裁判所の判断
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 裁判所は、以下のとおり判断しました。

(1)Y氏の行為は、労働者派遣事業の経営に直接関与するもので
はないとしても、労働者派遣事業の経営を経済的に支援し、A社の
業績の低下を招くおそれがある行為であるから、株式譲渡契約にお
いて禁止されているA社の競業事業に関連する行為に該当する。し
たがって、Y氏の行為は、競業避止義務に違反する。

(2)競業避止義務は、職業選択の自由及び営業の自由を制約する
ものであるから、その制約の程度が、競業避止条項が設けられた目
的等に照らし必要かつ相当な範囲を超える場合には、公序良俗に反
し無効となるが、本件の競業避止条項が公序良俗に反し無効である
と認めることはできない。


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3 解説
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(1)競業避止義務と公序良俗違反

 「競業避止義務」とは、一定の者(義務を負う者)が、自己また
は第三者のために、その地位を利用して、権利者の営業と競業した
り、競争的な性質の取引をしてはならないとされる義務のことをい
います。

 裁判所が一般論として述べているとおり、競業避止義務を課す合
意は、職業選択の自由及び営業の自由を制約するものとして、義務
の及ぶ範囲が一定範囲を超える場合には、「公序良俗違反」となっ
て無効となります。

 まず、競業避止の期間については、合意が有効とされるためには
1~2年で、せいぜい3年程度というのが一般的です。また、制限
の場所的範囲についても、地理的範囲を無制限とする特約は有効と
される可能性は低いと考えられています。また、義務違反に対する
違約金を高額にするような合意も、公序良俗違反とされる可能性が
低くはないと考えられています。

 この点、本件では、競業避止義務の場所的範囲が限定されておら
ず、違約金も一律5億円と高額でした。しかし、裁判所は、A社の
活動範囲が限定されていないことから、この地理的不限定が相当性
を欠くとはいえないとしました。また、5億円という違約金の金額
についても、A社の損害額の立証の困難性と損害発生防止の観点か
ら必要性を肯定し、かつ、Y氏が、X社との関係で特に弱い立場で
契約させられたわけではないという契約締結の事情からも、著しく
高額であるとまで認めることができない、と判断しました。


(2)契約自由の原則と予測可能性

 Y氏がどのような意図から競業避止義務に違反する行為に及んだ
のかは分かりませんが、仮にこの競業避止義務の合意は無効とされ
るだろうと考えて違反行為に及んだとしたら、思い違いをしていた
ということになるでしょう。
 
 一般に競業避止義務の制限の法理は、雇用者と従業員という力関
係・立場に明らかに差がある当事者との間で主に議論され、別の業
種への転職が一般に困難な経済的弱者である労働者の保護が重視さ
れてきたという側面があります。

 したがって、本件では、対等な力関係の当事者間の合意であり、
義務者が経済的弱者とはいえないようなケースであって、契約自由
の原則という法の原則がより重視されるようになるものと思われま
す。いずれにせよ、ある契約中に含まれる競業避止義務についてい
ったん合意した当事者は、その合意をきちんと履行すべきでしょう
。もし競業避止義務を負う意思がないのであれば、後日その合意が
後日裁判で無効と判断されることに期待するのではなく、競業避止
義務に合意をするべきではないと思われます。


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