こんにちは、
産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
産業医として化学工場、営業事務所、IT企業、電力会社、小売企業等で勤務し、厚生労働省において労働行政に携わり、臨床医として治療を行った複数の健康管理の視点で情報発信をしております。多くの企業様に労働衛生法、
従業員の健康、会社の利益を守るお手伝いが出来ればと、新ブランド
産業医EX(エキスパート)を立ち上げさせて頂きました。
https://www.sangyouiexpert.com/
さらに、文末のように令和元日(5月1日)に、「令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を
資産形成につなげる方法」を出版し、今まで高価であった
産業医が持つ情報を、お手頃な価格にすることができました。
今回は、「不誠実
産業医が持ち込むおそれのある法的リスク②」について作成しました。
労働衛生の取組を行うことで、
従業員に培われる「技術」「経験」「人間関係」等の財産を、企業が安定して享受するためにご活用ください。
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不誠実
産業医が持ち込むおそれのある法的リスク②
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労働安全衛生法第13条第1項に、
事業者は
産業医を選任し、
労働者の健康管理等を行わせることが、
罰則付き義務で定められていますが、令和元年度より、
労働安全衛生法第13条第3項に「
産業医は、
労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。」(以下「誠実義務」という。)が追加されています。
産業医の誠実義務が定められるまでは、
労働者の身体的・精神的・社会的健康が
産業医の不誠実の結果で侵害されていても、法令上不誠実で良かったので
過失責任を明確化しづらく、
産業医が責任を問われるリスクはありませんでした。しかし、今後は、民事上の訴訟リスクに変化したおそれがあります。
医療の現場における医師に対する判例が、職域に直接適応されるかは、医療で医師が行う措置等の責任が、医療ではない労働衛生の現場に当てはまるか否かについて、裁判所判断というステップを踏まなくてはなりません。ですが、医師法第17条、第31条において、医業を独占している医師が負う責任は重いことから、各論の部分が水平適用される可能性は十分に考えられます。
将来的な訴訟リスクを回避するために、医師の責任が問われた判例等を元にハザードの評価と対策案をシリーズで示させていただきます。
なお、
産業医に関して
事業者に課せられた義務は、選任だけでなく、
労働者の健康管理等を行わせることもあります。不幸な事態が発生した後に、
事業者と
産業医が責任に関して水掛け論することが無いように、
産業医への業務指示等はしっかり残しておく方が良いでしょう。
◎注意義務
最高裁昭和36年2月16日第一小法廷判決において、医師が輸血する血液を梅毒患者(診察時は陰性の証明書あり)から採血(当時は輸血用の採血も臨床の現場で行っていた)した際に、
問診が不十分であったことから、輸血を受けた患者が梅毒に罹患し、訴訟となった。その判決において「人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ないところといわざるを得ない。」と、注意義務について最高裁で初めて示されました。
その後、注意義務の各論については最高裁でも段階的に整理されていますが、判例により解釈が多岐にわたり、一概に整理されているわけでもありません。ただし、「最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ない」という総論は、議論の軸となっています。
注意義務違反については、現場では、
民法上違反か刑法上違反かで大きく変わってきます。特に刑法上違反は、結果予知義務違反及び結果回避義務違反からなり、悪質と判断された場合は、禁錮をを含め適応される可能性があり、刑法上違反が認められた場合は、
民法上違反も認められることがほとんどです。
一般的な
産業医にとっては結果予知と結果回避こそが安全配慮の観点から主業務であり、代表的職務にも「
労働者の健康障害の原因の調査及び
再発防止のための措置に関すること。」と明確に示されています。誠実な
産業医であれば、ルーチン業務といっても過言ではありません。
もし、
産業医が注意義務に関する実務を行っていない、行っていても会社が活用できる記録に残していない場合は、速やかに
産業医に改善指導を行うことが必要です。
◎原則的義務の目的が達成されないものの医師が無罪となった事例
患者の医療によって得られる健康上の利益の保護の目的は、達成されるべきですが、正規分布の中央値から大きく逸脱し、目的が達成されないことはあります。福島地裁平成20年8月20日判決において、
出産時に大量出血した際に、死亡を回避する適切な措置をしなかったとして公訴された事件があります。
医療行為と患者の死亡の因果関係、大量出血の予見可能性と結果回避可能性については検察の主張がほぼ認められましたが、業務上過失致死罪では、検察が主張する生存可能性のある医療行為については、医師に行為義務を負わせるほどの標準的行為であるとは立証されておらず、かつ、患者の死亡結果は過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果であるため無罪と判断されました。
この判決においては、原則的義務や注意義務の目的が達成されていないことは認められたが、検察側が、裏付けとなる専門家の知見について収集と精査が不十分であったと指摘されている。この点に関しては、法的知見と科学的(医学的)知見双方が必要になっているといえます。
誠実な
産業医にとっては、
労働安全衛生法に準じて業務を行うため、法的知見は十分に理解した上で、科学的知見の発揮が専門性といえます。
もし、
産業医が法的知見と科学的知見の双方を十分に有していない場合は、速やかに
産業医に改善指導を行うことが必要です。一定の基準として、
労働安全衛生法第83条に基づく労働衛生コンサルタント、一般社団
法人社会医学系専門医協会が認定する専門医、社団
法人日本産業衛生学会が認定する専門医を取得しているか、その取得に向けて指導医に指示を受けているかを確認すると良いでしょう。
不誠実
産業医が持ち込むおそれのある法的リスク①
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174875/
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令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を
資産形成につなげる方法
http://miraipub.jp/books/%E3%80%8C%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9-%E9%83%A8%E4%B8%8B%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE-%E5%83%8D/
こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
産業医として化学工場、営業事務所、IT企業、電力会社、小売企業等で勤務し、厚生労働省において労働行政に携わり、臨床医として治療を行った複数の健康管理の視点で情報発信をしております。多くの企業様に労働衛生法、従業員の健康、会社の利益を守るお手伝いが出来ればと、新ブランド産業医EX(エキスパート)を立ち上げさせて頂きました。
https://www.sangyouiexpert.com/
さらに、文末のように令和元日(5月1日)に、「令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法」を出版し、今まで高価であった産業医が持つ情報を、お手頃な価格にすることができました。
今回は、「不誠実産業医が持ち込むおそれのある法的リスク②」について作成しました。
労働衛生の取組を行うことで、従業員に培われる「技術」「経験」「人間関係」等の財産を、企業が安定して享受するためにご活用ください。
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不誠実産業医が持ち込むおそれのある法的リスク②
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労働安全衛生法第13条第1項に、事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせることが、罰則付き義務で定められていますが、令和元年度より、労働安全衛生法第13条第3項に「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。」(以下「誠実義務」という。)が追加されています。
産業医の誠実義務が定められるまでは、労働者の身体的・精神的・社会的健康が産業医の不誠実の結果で侵害されていても、法令上不誠実で良かったので過失責任を明確化しづらく、産業医が責任を問われるリスクはありませんでした。しかし、今後は、民事上の訴訟リスクに変化したおそれがあります。
医療の現場における医師に対する判例が、職域に直接適応されるかは、医療で医師が行う措置等の責任が、医療ではない労働衛生の現場に当てはまるか否かについて、裁判所判断というステップを踏まなくてはなりません。ですが、医師法第17条、第31条において、医業を独占している医師が負う責任は重いことから、各論の部分が水平適用される可能性は十分に考えられます。
将来的な訴訟リスクを回避するために、医師の責任が問われた判例等を元にハザードの評価と対策案をシリーズで示させていただきます。
なお、産業医に関して事業者に課せられた義務は、選任だけでなく、労働者の健康管理等を行わせることもあります。不幸な事態が発生した後に、事業者と産業医が責任に関して水掛け論することが無いように、産業医への業務指示等はしっかり残しておく方が良いでしょう。
◎注意義務
最高裁昭和36年2月16日第一小法廷判決において、医師が輸血する血液を梅毒患者(診察時は陰性の証明書あり)から採血(当時は輸血用の採血も臨床の現場で行っていた)した際に、問診が不十分であったことから、輸血を受けた患者が梅毒に罹患し、訴訟となった。その判決において「人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ないところといわざるを得ない。」と、注意義務について最高裁で初めて示されました。
その後、注意義務の各論については最高裁でも段階的に整理されていますが、判例により解釈が多岐にわたり、一概に整理されているわけでもありません。ただし、「最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ない」という総論は、議論の軸となっています。
注意義務違反については、現場では、民法上違反か刑法上違反かで大きく変わってきます。特に刑法上違反は、結果予知義務違反及び結果回避義務違反からなり、悪質と判断された場合は、禁錮をを含め適応される可能性があり、刑法上違反が認められた場合は、民法上違反も認められることがほとんどです。
一般的な産業医にとっては結果予知と結果回避こそが安全配慮の観点から主業務であり、代表的職務にも「労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。」と明確に示されています。誠実な産業医であれば、ルーチン業務といっても過言ではありません。
もし、産業医が注意義務に関する実務を行っていない、行っていても会社が活用できる記録に残していない場合は、速やかに産業医に改善指導を行うことが必要です。
◎原則的義務の目的が達成されないものの医師が無罪となった事例
患者の医療によって得られる健康上の利益の保護の目的は、達成されるべきですが、正規分布の中央値から大きく逸脱し、目的が達成されないことはあります。福島地裁平成20年8月20日判決において、出産時に大量出血した際に、死亡を回避する適切な措置をしなかったとして公訴された事件があります。
医療行為と患者の死亡の因果関係、大量出血の予見可能性と結果回避可能性については検察の主張がほぼ認められましたが、業務上過失致死罪では、検察が主張する生存可能性のある医療行為については、医師に行為義務を負わせるほどの標準的行為であるとは立証されておらず、かつ、患者の死亡結果は過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果であるため無罪と判断されました。
この判決においては、原則的義務や注意義務の目的が達成されていないことは認められたが、検察側が、裏付けとなる専門家の知見について収集と精査が不十分であったと指摘されている。この点に関しては、法的知見と科学的(医学的)知見双方が必要になっているといえます。
誠実な産業医にとっては、労働安全衛生法に準じて業務を行うため、法的知見は十分に理解した上で、科学的知見の発揮が専門性といえます。
もし、産業医が法的知見と科学的知見の双方を十分に有していない場合は、速やかに産業医に改善指導を行うことが必要です。一定の基準として、労働安全衛生法第83条に基づく労働衛生コンサルタント、一般社団法人社会医学系専門医協会が認定する専門医、社団法人日本産業衛生学会が認定する専門医を取得しているか、その取得に向けて指導医に指示を受けているかを確認すると良いでしょう。
不誠実産業医が持ち込むおそれのある法的リスク①
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-174875/
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令和の働き方 部下がいる全ての人のための 働き方改革を資産形成につなげる方法
http://miraipub.jp/books/%E3%80%8C%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9-%E9%83%A8%E4%B8%8B%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE-%E5%83%8D/