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法人クラフトマン 第281号 2025-06-17
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1 今回の事例
退職後の競業を制限する規定の有効性
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大阪地裁令和7年1月27日判決
大阪府内で複数の事業所を持ち、児童発達支援や放課後
デイサービス等を提供するA
法人は、
退職して発達障害の生徒を対象とする事業所を運営するようになったB氏に対して、
競業禁止規定に違反すると主張して
損害賠償を請求しました。
A
法人の
就業規則では、
従業員に対し、在職中及び
退職後6か月間、許可なく「当
法人から半径2キロ以内」の競業行為の自営を禁じる規定がありました。
裁判所は、以下のように述べ、当該規定は無効であると判断しました。
・A
法人の事業所が、福祉事業部のみでも約10か所に及ぶから、「当
法人から半径2キロ以内」とは、このすべての事業所を基点として半径2キロメートル以内の場所での開業を禁ずるものと解せざるを得ない。
・
従業員が現に関与した事業所であれば、これを基点として一定期間一定の距離内で
退職後の競業を禁ずる合理性はあるが、およそ関係のない事業所も含まれる当該規定は、過度に職業選択の自由を抑制して無効である。
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2 解説
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(1)
従業員に対する
退職後の競業禁止についての考え方
会社の立場から見れば、
退職社員による機密やノウハウを使用した不当な競業を防ぐために、
退職社員に競業制限を課す必要性を感じる場合があることは理解できますし、裁判所も、
退職後の競業禁止の規定自体を一律に無効とするような判断はしていません。
ただし、例えば誓約書にサインをもったり
就業規則に定めれば、どんな競業制限でも効力が認められる、というわけではなく、制限の範囲に合理性が必要です。そして裁判所は、その合理性の範囲を厳しく解釈しています。
(2)競業禁止の規定に関する合理性判断の要素
そしてこの「合理性」の判断は、以下のような要素から判断されることになります。
A
労働者の地位・職種
会社の重要な機密やノウハウを持っている地位・職種にない
労働者に対する制限は無効とされる可能性が高いといえます。それで、自社の利益保護に必要な範囲で競業避止義務を課す意味のある
従業員の範囲を検討します。
B 制限の期間
期間無制限の競業避止義務は通常は無効です。有効とされた事例では、
退職後1年以内が多く、2年を超えると厳しいことが多いといえます(1年以内なら常に有効というわけでもありません)。
C 地理的制限
競業避止の場所的範囲も重要となります。業種や業務内容に左右されるものの、具体的必要性を吟味して一定の地理的限定を付すことは重要です。本件の事例で場所的範囲の不明確性が有効性が否定された根拠となりました。
D 代償の存在
競業の制限に対する代償として、
労働者に対する何らかの経済的な手当も重要な要素です。
退職金の増額、手当の支給という形が多く取られます。
以上のとおり、
退職後の競業避止義務を課すのなら、弁護士などの法律専門家に相談しつつ、実効性のある競業避止の規定を慎重に検討する必要があると思われます。
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3 弊所ウェブサイト紹介~労働法 ポイント解説
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弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した労働法については
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/
において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。
なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。
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本稿の無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本稿の内容を社内研修用資料等に使用したいといったお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアドレス宛、メールでお申出ください。
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【執筆・編集・発行】
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1 今回の事例 退職後の競業を制限する規定の有効性
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大阪地裁令和7年1月27日判決
大阪府内で複数の事業所を持ち、児童発達支援や放課後デイサービス等を提供するA法人は、退職して発達障害の生徒を対象とする事業所を運営するようになったB氏に対して、競業禁止規定に違反すると主張して損害賠償を請求しました。
A法人の就業規則では、従業員に対し、在職中及び退職後6か月間、許可なく「当法人から半径2キロ以内」の競業行為の自営を禁じる規定がありました。
裁判所は、以下のように述べ、当該規定は無効であると判断しました。
・A法人の事業所が、福祉事業部のみでも約10か所に及ぶから、「当法人から半径2キロ以内」とは、このすべての事業所を基点として半径2キロメートル以内の場所での開業を禁ずるものと解せざるを得ない。
・従業員が現に関与した事業所であれば、これを基点として一定期間一定の距離内で退職後の競業を禁ずる合理性はあるが、およそ関係のない事業所も含まれる当該規定は、過度に職業選択の自由を抑制して無効である。
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2 解説
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(1)従業員に対する退職後の競業禁止についての考え方
会社の立場から見れば、退職社員による機密やノウハウを使用した不当な競業を防ぐために、退職社員に競業制限を課す必要性を感じる場合があることは理解できますし、裁判所も、退職後の競業禁止の規定自体を一律に無効とするような判断はしていません。
ただし、例えば誓約書にサインをもったり就業規則に定めれば、どんな競業制限でも効力が認められる、というわけではなく、制限の範囲に合理性が必要です。そして裁判所は、その合理性の範囲を厳しく解釈しています。
(2)競業禁止の規定に関する合理性判断の要素
そしてこの「合理性」の判断は、以下のような要素から判断されることになります。
A 労働者の地位・職種
会社の重要な機密やノウハウを持っている地位・職種にない労働者に対する制限は無効とされる可能性が高いといえます。それで、自社の利益保護に必要な範囲で競業避止義務を課す意味のある従業員の範囲を検討します。
B 制限の期間
期間無制限の競業避止義務は通常は無効です。有効とされた事例では、退職後1年以内が多く、2年を超えると厳しいことが多いといえます(1年以内なら常に有効というわけでもありません)。
C 地理的制限
競業避止の場所的範囲も重要となります。業種や業務内容に左右されるものの、具体的必要性を吟味して一定の地理的限定を付すことは重要です。本件の事例で場所的範囲の不明確性が有効性が否定された根拠となりました。
D 代償の存在
競業の制限に対する代償として、労働者に対する何らかの経済的な手当も重要な要素です。退職金の増額、手当の支給という形が多く取られます。
以上のとおり、退職後の競業避止義務を課すのなら、弁護士などの法律専門家に相談しつつ、実効性のある競業避止の規定を慎重に検討する必要があると思われます。
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3 弊所ウェブサイト紹介~労働法 ポイント解説
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