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『労働保険特別会計』を分析すると その2

 札幌市豊平区の税理士 溝江 諭(みぞえ さとし)です。
 
 前回は、労働保険特別会計のうち、雇用保険についての「雇用勘定」の平成20年度予算の概要を分析し、次の点を指摘しました。
 
1 雇用保険が本来果たさなければならないセフティーネット機能の部分に保険収入の60.4%しか使われていない現実。約6割しか使われていないのです。
 (お詫び: 前回のブログでここの割合を68.8%、約7割と誤って記載しました。お詫びいたします。)

2 独立行政法人への支出が979億円もあり、保険収入の3.7%にも相当すること。有効に活用されているのでしょうか?

3 積立金の増加が4,927億円もあり、保険収入の20.0%に相当すること。なんと5分の1も余しているのです。
 
 以下、一つずつ検討しましょう。
 
1 雇用保険が本来果たさなければならないセフティーネット機能の部分に保険収入の60.4%しか使われていない。
 
 雇用保険の目的は次のようになっています。(注1)
 
労働者失業した場合の必要な給付。失業者に対する求職者給付のことです。
労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合の必要な給付。失業の予防を目的とする教育訓練給付、育児・介護休業給付高年齢雇用継続給付のことです。
雇用安定事業失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るための事業のことです。その事業の一部を独立行政法人雇用・能力開発機構及び独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構に行わせています。
能力開発事業被保険者等の能力を開発し、及び向上させることを促進するための認定職業訓練や公共職業能力開発施設又は職業能力開発総合大学校の設置及び運営等の事業のことです。その事業の一部を独立行政法人雇用・能力開発機構に行わせています。
 
 このうち、雇用保険が果たすべき、核となる本来部分の事業はなんと言っても①の失業給付、すなわち失業者に対する求職者給付でしょう。これが雇用保険が果たさねばならない本来のセフティーネット機能の部分といえます。しかし、既にご覧になったように、この部分には保険収入の60.4%しか使われていません。失業者が当初の予想より減少したため、結果として失業給付に使われる部分が少なかったと言うのならまだ理解できますがそれとは違います。なぜなら、今回の分析に当たっては予想数値である予算を使っているからです。
 
 この問題については、失業給付を必要としている失業者のうち、実際に失業給付を受給できる人の割合が問題になります。
 
 ①現在の雇用保険失業給付を必要とする失業者のほとんどをカバーできているのであれば、全予算に占める失業給付以外の割合が高すぎるのではないか。すなわち、削減可能な無駄な事業が多く存在するのではないかということになります。このことは、国民が高すぎる保険料負担を強いられていることを意味します。一方、②現在の雇用保険では、失業給付を必要とする失業者のほんの一部の者しかカバーできていないのであれば、もっと失業給付の割合を高める必要があるのではないかということになります。さらには、セフティーネット機能を現状より充実させるために、雇用保険への加入条件や失業給付の受給条件の緩和なども考えていかねばならないことを意味します。
 
 そこで、失業給付を必要とする失業者のうち、実際に失業給付を受給できる人の割合がどの程度になっているのかを知りたかったのですが、残念ながら探せませんでした。なぜなら、失業給付を必要とする失業者数をつかまえる方法がないからです。職安を通した求職者数はわかりますが、そのうちどれほどの人が失業給付を必要としているのか、また、職安を通さないで求職活動をしている人がどの位いて、そのうちにどれほどの人が失業給付を必要としているのかが分からないためです。
 
 ただ、サブプライムローン問題を発端とした昨年のリーマンショック以後の世界的経済危機により、わが国でさえも非正社員や正社員の削減が大胆に行われている現状を省みますと、雇用保険のセフティーネットさえ使えない方々がたくさんいることは事実でしょう。年末から年始にかけて設置された『派遣村』の報道を見ても分かります。ちょっと古いデータですが、2002年12月発行の「日本労働研究雑誌 510号 特別号」(注2)では1999年から2000年でさえ、失業者のうち失業給付を受給できた者の割合が約40%とされていましたから、現在では雇用保険に加入できず、または受給要件を満たさないため、失業給付を受給できない者が増加していると言われていますので、受給割合はさらに低下し、一部の報道で伝えられるように25%を切っていることも考えられます。
 
 そうなると、前記の②が現状であり、全予算に占める失業給付の割合を高める方策を考えると共に、さらには、セフティーネット機能を現状より充実させるために、雇用保険への加入条件や失業給付の受給条件の緩和なども考えていかねばならないこととなります。もちろん、この場合でも削減可能な無駄な事業を洗い出し、廃止や縮小することにより、予算を効率的に活用できるようにすることを怠ってはいけません。
 
 このように考えてくると、現在のような雇用情勢にあっては、今回の雇用保険料率の引下げは的外れの政策のように思えます。今、緊急に必要なことは、

① 「雇用勘定」の予算の効率的活用

② 「雇用保険への加入要件」の緩和

③ 「失業給付の受給要件」の緩和
 
ということになります。政府と与野党にはすぐにでもこれらの見直しを制度化してもらい、雇用保険の拡充につなげて欲しいものです。
 
 この記事を書くために色々と調べているうちに、与野党が「求職者支援制度」を検討していると言うニュースが入ってきました。(注3) 与野党を乗り越えて、最後のセフティーネットである生活保護へ到る前のセフティーネットとして、両者歩み寄ってぜひ実現してもらいたいですね。
 
 私としては次のような多段階のセフティーネットが整備されると国民は安心して働くことができると思います。
 
① 雇用保険を拡充してのセフティーネット
② 雇用保険に加入できない、または失業給付を受給できない方への短期的なセフティーネット
③ 最後のセフティーネットとしての生活保護
 
 なぜ、このようなセフティーネットが必要とされるのか?セフティーネットをここまで用意する必要があるのかと言われる方もいらっしゃるでしょう。それに対する答えは憲法の中にあります。
 
 憲法第27条では、
「すべての国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」
と規定しており、国は、国民に対し勤労権の保障を行っています。
 
 また、憲法第25条では、
1 項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
と規定しており、国民としての生存権と、国としての社会的使命について規定しているからです。
 
 もちろん、この前提条件として、「個人としての最善の努力」や「企業に対しての雇用の維持確保」が強く求められることは言うまでもありません。
 
 今回の「雇用勘定」予算の分析に基づき、指摘したその他の問題点については、また、次回へ。

 なお、4月から予定されている雇用保険料労災保険料の引下げについては以下のサイトの「お知らせ」をご覧下さい。
http://www.ksc-kaikei.com
 
(注1)雇用保険法 第1条
 
 「雇用保険は、労働者失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。」
 
(注2)日本労働研究雑誌510号 特別号2002年12月の内容(「失業手当の受給実態」 小原 美紀)については以下のサイトを参照。
http://db.jil.go.jp/cgi-bin/jsk012?smode=dtldsp&detail=F2003040031&displayflg=1#04000000
 
(注3)「求職者支援制度」については以下のサイトを参照。
http://www.asahi.com/politics/update/0314/TKY200903130332.html
 
 

 昨日は姪の婚礼。チャペルでの結婚式、慣れない賛美歌をどら声で熱唱。カラオケには何年も行っていないので、本当に久しぶりの歌唱。ついつい力が入ってしまいました。その後、ホテルで披露宴。披露宴の最後は新郎新婦から両親への花束贈呈。この花束贈呈では、いつも、ついついもらい泣き。昨日もそうでした。大の大人がハンカチで目頭を押さえるなんてちょっと照れくさいのですが・・・。
 
 See you next !
 

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  札幌 税理士 溝江 諭 KSC会計事務所     http://www.ksc-kaikei.com/
         札幌市豊平区美園12条7丁目7-1    011-812-1672

           札 幌 学 院 大 学   客 員 教授 
           北海道情報大学大学院 非常勤講師 溝江 諭
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