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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
石下雅樹法律・
特許事務所 第29号 2008-01-07
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http://www.ishioroshi.com/
法律相談のお申し込みは
http://www.ishioroshi.com/btob/soudan_firstb.html
顧問弁護士
契約についての詳細は
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_firstb.html
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1 民事訴訟による
個人情報開示請求
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東京
地方裁判所平成19年6月27日判決
事案は次のとおりです。眼科の患者2名が,その眼科を設置す
る医療
法人に,自己の診療記録の開示を求めました。これに対
し,医療
法人が開示に応じず,かつ,開示の有無についての回
答もしませんでした。
そのため,その患者2名は,東京地裁に訴訟を起こし,この医
療
法人に対し,カルテの開示を求めました(他に
慰謝料各自1
0万円の支払いを求めましたがこの点は省略します)。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 判決の概要
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【結論】
民事訴訟によるカルテの
開示請求権 → 否定
【理由】
主な理由は次のとおりです。
法25条1項が本人に保有個人データの
開示請求権を付与した
規定であると解することは困難である。
個人情報保護法は,「25条1項による開示の求め等に関する
苦情の処理については,
個人情報取扱事業者,業界団体による
自主的な紛争解決を期待しており,そのために,本人が裁判外
の各種の方法によって苦情の解決を求められる仕組みを設ける
とともに,そのような自主的解決が期待できない場合の主務大
臣による関与の仕組みを設けているものといえる。」
「このような法の規定にかんがみると,法は,
個人情報取扱事
業者が法25条等の規定に違反した場合には,当該
個人情報取
扱
事業者や認定
個人情報保護団体による自主的解決及び主務大
臣による行政上の監督によって,個人の権利利益を保護するこ
ととしているものと解される。」
「法25条1項は,その
標題が「開示」とされ,
個人情報の開
示を専ら
個人情報取扱事業者の義務として規定し,本人が開示
請求権を有することを規定していないことからすると,同項は,
文言上も,行政機関(主務大臣)に対する義務として
個人情報
取扱
事業者の開示義務を規定しているものであって,本人が開
示請求権を有する旨を規定しているものではないと解される。」
そして,裁判所は,法に定めた紛争解決手段が定められている
にもかかわらず,個人が直接裁判所に開示を請求できると解す
ると,法が定めた仕組みが意味がなくなる,とも述べました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
個人情報保護法では,
個人情報の開示につき「
個人情報取扱事
業者は,本人(
個人情報によって識別される個人)から,当該
本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは,
本人に対し,政令に定める方法により,遅滞なく,当該保有個
人データを開示しなければならない(法25条1項)。」と定
められています。
本件訴訟では,患者2名は,以上の規定が民事上の
開示請求権
を含むものであるとして,医療
法人に対して,診療録の開示を
請求したわけです。
今回の東京地裁は,この25条1項が,個人の
事業者に対する
具体的な
開示請求権を定めたものではないと判断しましたので,
この判断が定着すれば,企業実務に大きな影響を与える,とい
う見解もあります。
しかし,この裁判例は,当該個人が,民事訴訟において
事業者
に直接的に開示を求める権利を否定したものに過ぎず,個人情
報保護法において
事業者の義務として定めた,同法が求める体
制の整備や,個人からの求めに応じた適切な措置をとる義務が
なくなったわけではないことに十分注意すべきであり,開示請
求に応じなくてよいとか,非開示の決定をしても通知をしなく
てよいという判断が示されたものではありません。
この点,
個人情報を扱う
事業者は,
コンプライアンスの観点か
らは,
個人情報保護法の趣旨にそった運用を続けるべきことは
当然であり,これを怠れば,裁判所からの開示命令がないとし
ても,行政機関からの報告徴収や勧告,命令,罰金等の行政罰
を受けることになりますから,十分に注意が必要であると考え
られます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4 お知らせ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【事務所移転のお知らせ】
この度当事務所は,業容の拡大に伴い旧事務所が手狭になった
ため,事務所を移転しました。
新事務所では,旧事務所の約3倍弱のスペースとなり,設備の
充実によって,依頼者の皆様へもさらに迅速・的確に対応でき
る態勢が整えられるものと確信しております。また,新事務所
も,横浜駅東口より徒歩3分と,旧事務所と同様,交通至便な
位置にあります。
当事務所は,これを機に,弁護士及びスタッフ一同,より一層
の努力を重ね,知的財産権,企業法務,国際取引,倒産・企業
再生,医療薬事問題,その他一般民事法務(不動産,
相続,損
害賠償等)を中心として,
法人及び個人に対するより一層質の
高い法律サービスの提供に心がけて参りますので,今後とも何
卒倍旧のご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
【お詫び】
昨年1年間,筆者の多忙のため,ほとんどまともに当メルマガ
を発行することができませんでした。誠に申し訳ありませんで
した。本年は心機一転少しでも定期発行に向け,当面は3週間
に1度程度の発行を目標にして参ります。何卒よろしくお願い
いたします。
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本マガジンの無断複製,転載を禁止します。
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【編集発行】石下雅樹法律・
特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-10-13
横浜東口ビル4階
mailto:
info@ishioroshi.com
法律相談のお申し込みは
http://www.ishioroshi.com/btob/soudan_firstb.html
顧問
契約についての詳細は
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_firstb.html
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本マガジンに対するご意見,ご感想は
mailto:
info@ishioroshi.com まで
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る医療法人に,自己の診療記録の開示を求めました。これに対
し,医療法人が開示に応じず,かつ,開示の有無についての回
答もしませんでした。
そのため,その患者2名は,東京地裁に訴訟を起こし,この医
療法人に対し,カルテの開示を求めました(他に慰謝料各自1
0万円の支払いを求めましたがこの点は省略します)。
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【結論】
民事訴訟によるカルテの開示請求権 → 否定
【理由】
主な理由は次のとおりです。
法25条1項が本人に保有個人データの開示請求権を付与した
規定であると解することは困難である。
個人情報保護法は,「25条1項による開示の求め等に関する
苦情の処理については,個人情報取扱事業者,業界団体による
自主的な紛争解決を期待しており,そのために,本人が裁判外
の各種の方法によって苦情の解決を求められる仕組みを設ける
とともに,そのような自主的解決が期待できない場合の主務大
臣による関与の仕組みを設けているものといえる。」
「このような法の規定にかんがみると,法は,個人情報取扱事
業者が法25条等の規定に違反した場合には,当該個人情報取
扱事業者や認定個人情報保護団体による自主的解決及び主務大
臣による行政上の監督によって,個人の権利利益を保護するこ
ととしているものと解される。」
「法25条1項は,その標題が「開示」とされ,個人情報の開
示を専ら個人情報取扱事業者の義務として規定し,本人が開示
請求権を有することを規定していないことからすると,同項は,
文言上も,行政機関(主務大臣)に対する義務として個人情報
取扱事業者の開示義務を規定しているものであって,本人が開
示請求権を有する旨を規定しているものではないと解される。」
そして,裁判所は,法に定めた紛争解決手段が定められている
にもかかわらず,個人が直接裁判所に開示を請求できると解す
ると,法が定めた仕組みが意味がなくなる,とも述べました。
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3 解説
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業者は,本人(個人情報によって識別される個人)から,当該
本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは,
本人に対し,政令に定める方法により,遅滞なく,当該保有個
人データを開示しなければならない(法25条1項)。」と定
められています。
本件訴訟では,患者2名は,以上の規定が民事上の開示請求権
を含むものであるとして,医療法人に対して,診療録の開示を
請求したわけです。
今回の東京地裁は,この25条1項が,個人の事業者に対する
具体的な開示請求権を定めたものではないと判断しましたので,
この判断が定着すれば,企業実務に大きな影響を与える,とい
う見解もあります。
しかし,この裁判例は,当該個人が,民事訴訟において事業者
に直接的に開示を求める権利を否定したものに過ぎず,個人情
報保護法において事業者の義務として定めた,同法が求める体
制の整備や,個人からの求めに応じた適切な措置をとる義務が
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この点,個人情報を扱う事業者は,コンプライアンスの観点か
らは,個人情報保護法の趣旨にそった運用を続けるべきことは
当然であり,これを怠れば,裁判所からの開示命令がないとし
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の努力を重ね,知的財産権,企業法務,国際取引,倒産・企業
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害賠償等)を中心として,法人及び個人に対するより一層質の
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