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【レジュメ編】 行政法(その10〔1〕)

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     ★★★ 新・行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-30 ★★
            【レジュメ編】 行政法(その10〔1〕)

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■■■ 行政事件訴訟法 ■■■
■■■ 執行停止
■■■ 裁量処分の取消し
■■■ 判決

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■■■ 行政事件訴訟法 ■■■
■■■ 執行停止
第二十五条 処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を
妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続
行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てに
より、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止
(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処
分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、すること
ができない。
3 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損
害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び
性質をも勘案するものとする。
4 執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案につい
て理由がないとみえるときは、することができない。
5 第二項の決定は、疎明に基づいてする。
6 第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当
事者の意見をきかなければならない。
7 第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
8 第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。

・本条は「処分の取消しの訴えの提起」の場合

(1)執行不停止原則(25条1項)
・処分について取消訴訟が提起されても、そのこと自体はいったんなされた処分に影響
 は与えず、処分があることを前提に事態は進捗するという考え方。
・行政の円滑な執行を確保するという観点から、原則として執行不停止とした上で、国
 民の権利救済に配慮して厳格な要件のもとで例外的に執行停止を認めるという立場を
 採用している。
→ 執行不停止原則をとるか執行停止原則をとるかは、立法政策の問題。
・執行停止の内容:処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(2
 項)
・申立ての利益:執行停止には、すでに執行が終了している場合、原状回復する効果は
 ないので、原状回復を目的とする執行停止の申立ては認められない。また、拒否処分
 の執行停止をしても、拒否処分がない申請が係属した状態に戻るだけで、許認可が与
 えられた状態にはならない(この場合、一般的には、申立ての利益はない。)。

(2)例外要件
・執行不停止原則に対する例外が認められるためには、積極要件と消極要件の双方を満
 たすことが必要。
(ア)積極要件:処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるた
   め緊急の必要があること
→ 申立人に疎明する責任がある。
(イ)消極要件:公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案につ
   いて理由がないとみえるときは執行停止することができない(25条4項)。
→ 被申立人に疎明する責任がある。

(3)重大な損害(25条2項・3項)
・損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容
 及び性質をも勘案する。
→ 行政不服審査法34条(執行停止)4項、5項と同じ。
・「処分の取消しの訴えの提起があつた場合において」:適法な本案の取消訴訟が係属
 していることが執行停止申立ての要件である。

(4) 申立ての利益
・処分の執行停止を申し立てる以上、仮のものであっても、申立ての利益があることが
 必要である。
→ 裁判所は職権で執行停止をすることはできない。

(5)即時抗告(25条8項)
・民事訴訟法では、即時抗告は執行停止の効力を有する(334条1項)。本項は、その
 例外。

■ 事情変更による執行停止の取消し
第二十六条 執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更し
たときは、裁判所は、相手方の申立てにより、決定をもつて、執行停止の決定を取り消
すことができる。
2 前項の申立てに対する決定及びこれに対する不服については、前条第五項から第八
項までの規定を準用する。

・裁判所は職権ですることはできない(執行停止の申立ての場合と同じ)。
・「取り消す」:将来に向かってのみ効力を有する(遡及効はない。)。

■ 内閣総理大臣の異議
第二十七条 第二十五条第二項の申立てがあつた場合には、内閣総理大臣は、裁判所に
対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があつた後においても、同様とす
る。
2 前項の異議には、理由を附さなければならない。
3 前項の異議の理由においては、内閣総理大臣は、処分の効力を存続し、処分を執行
し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を
示すものとする。
4 第一項の異議があつたときは、裁判所は、執行停止をすることができず、また、す
でに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない。
5 第一項後段の異議は、執行停止の決定をした裁判所に対して述べなければならない
。ただし、その決定に対する抗告が抗告裁判所に係属しているときは、抗告裁判所に対
して述べなければならない。
6 内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、第一項の異議を述べてはならず、
また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない。

・執行停止を認めるための要件が全て充足され、裁判所がこれを認めたとしても、なお
 その決定を覆す権限を内閣総理大臣に認める規定。
→ 執行停止の申立てがあった場合および執行停止の決定があつた後でも、異議を述べ
  ることができる。
・「第二十五条第二項の申立てがあつた場合」(1項):内閣総理大臣は国の行政機関
 であるが、都道府県知事や市町村長等(地方公共団体の機関)の処分に対する執行停
 止申立てについても、異議を述べることができる。
・執行停止の取消し(4項):執行停止決定は遡及的に失効する。
★ 事情変更による執行停止の取消し(26条1項)の場合には、将来に向かってのみ効
  力を生じる。

■ 執行停止等の管轄裁判所
第二十八条 執行停止又はその決定の取消しの申立ての管轄裁判所は、本案の係属する
裁判所とする。

■ 執行停止に関する規定の準用
第二十九条 前四条の規定は、裁決の取消しの訴えの提起があつた場合における執行停
止に関する事項について準用する。

・本条は「裁決の取消しの訴えの提起」の場合

(1) 申立ての利益
・裁決取消訴訟の裁決が不服申立てを棄却・却下する裁決である場合:執行停止がなさ
 れても、不服申立てが継続している状態に戻るだけで、原処分の効力に影響を及ぼさ
 ないので、訴えの利益はない。
不服申立てを認容する裁決の場合:裁決の効力を停止すると、裁決で取り消された原
 処分が復活することになるので、それによって法律上保護された利益を受ける者は、
 裁決の失効停止を申立てることができる。

(例)建築確認がされたことによる日照被害者が不服申立て審査請求
→ 審査請求が認められると、建築確認申請者には不利益が発生。
→ 建築確認申請者は裁決の取消訴訟を提起し、かつ、執行停止の申立て
→ 執行停止が認められれば、建築確認の効力が復活し、建築工事が可能になる。
→ 建築確認申請者は裁決の失効停止を求める利益を有する。

●● 最高裁判例「懲戒処分取消」(民集第41巻3号309頁)
【理由】
懲戒処分につき人事院の修正裁決があつた場合に、それにより懲戒権者の行つた懲戒
分(以下「原処分」という。)が一体として取り消されて消滅し、人事院において新た
な内容の懲戒処分をしたものと解するのは相当でなく、修正裁決は、原処分を行つた懲
戒権者の懲戒権の発動に関する意思決定を承認し、これに基づく原処分の存在を前提と
したうえで、原処分の法律効果の内容を一定の限度のものに変更する効果を生ぜしめる
にすぎないものであり、これにより、原処分は、当初から修正裁決による修正どおりの
法律効果を伴う懲戒処分として存在していたものとみなされることになるものと解すべ
きである。
★ 変更裁決・修正裁決は、原処分を全部消滅させるものではなく、当初から変更・修
  正された内容の原処分として存在したものとみなされる。


■■■ 裁量処分の取消し
■ 裁量処分の取消し
第三十条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場
合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

(1) 裁量処分の審査
・ 裁量処分:法律が行政庁に一定の判断ないし活動の幅を認める場合、行政庁に裁量
  があるといい、裁量が認められる行政処分のことを裁量処分という。
・ 裁判所は行政庁による裁量権の行使が逸脱・濫用していないかを審査し、逸脱・濫
  用があった場合にのみ処分を違法として取り消すことができる。

(2)裁量権の逸脱・濫用
・ 裁量権の逸脱:法律が認めた裁量権の範囲を超えること
・ 裁量権の濫用:形式的には裁量権の範囲内にあるように見えるが、実質的に考察す
  ると法の趣旨に反した目的や動機に基づいて裁量権が行使される場合
→ 両者を実際に区別することは難しいが、違法になるという法効果の点で相違はない
  ため、必ずしも両者の区別を意識することなく、一括して議論されるのが通常であ
  る。

(3)古典的裁量判断基準
(ア)事実誤認:行政庁が処分を行う場合に行う事実認定に誤りがあった場合、処分は
   必然的に違法となる。
(A)教育に関する判断
●● 最高裁判例「放学処分取消請求」(民集第8巻7号1501頁)
【理由】
懲戒権者たる学長が学生の行為に対し懲戒処分を発動するに当り、その行為が懲戒に値
するものであるかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについて
は、当該行為の軽重のほか、本人の性格および平素の行状、右行為の他の学生に与える
影響、懲戒処分の本人および他の学生におよぼす訓戒的効果等の諸般の要素を考量する
必要があり、これらの点の判断は、学内の事情に通暁し直接教育の衝に当るものの裁量
に任すのでなければ、適切な結果を期することができないことは明らかである。それ
故、学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を
選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合で
あるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え
るものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当
である。

(B)政治的判断
●● 最高裁判例「在留期間更新不許可処分取消」(民集第32巻7号1223頁)
【要旨】
裁判所は、出入国管理令二一条三項に基づく法務大臣の在留期間の更新を適当と認める
に足りる相当の理由の有無の判断についてそれが違法となるかどうかを審査するにあた
つては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、
その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎
を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社
会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それ
が認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものとし
て違法であるとすることができる。

(イ) 目的違反・動機違反:法律の趣旨・目的とは異なる目的や動機によって裁量処
    分がなされた場合に、処分は違法となる。

●● 最高裁判例「行政処分取消請求」(民集第27巻8号925頁)
【要旨】
地方公務員法二八条に基づく分限処分は、任命権者の純然たる自由裁量に委ねられてい
るものではなく、分限制度の目的と関係のない目的や動機に基づいてされた場合、考慮
すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して処分理由の有無が判断された
場合、あるいは、その判断が合理性をもつものとして許容される限度を超えた場合に
は、裁量権の行使を誤つたものとして違法となる。
★ 法律の目的違反や不正な動機が問題とされた事例。

(ウ)信義則違反:裁量処分であっても、当該処分がなされる事実関係において、信義
   則上違法と判断される場合がある。

(エ)平等原則違反
●● 最高裁判例「産米供出個人割当通知取消請求」(民集第9巻7号930頁)
【理由】
本件供出個人割当通知が行われた当時における法令(食糧管理法三条、同法施行規則一
条、三条、昭和二三年農林省令一一五号附則二項)によれば、供出割当の方法について
は、「市町村長が、知事の指示に従い、食糧調整委員会の議決を経て、供出割当数量を
定め、遅滞なくこれを生産者に通知する」との趣旨の定めがあるにとどまり、その方法
として、いわゆる事前割当の方法(生産開始前に予め部落内の生産者相互の協議を経て
割当額を決定通知する方法)によるべきかどうか、また割当通知の時期を何時とすべき
か等については、何等具体的な定めがなかつたことは明らかである。従つて、これらの
点についてどのような措置をとるかは、一応、行政庁の裁量に任されていたものと解さ
ざるを得ない。もつとも、かような場合においても、行政庁は、何等いわれがなく特定
の個人を差別的に取り扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味
においては、行政庁の裁量権には一定の限界があるものと解すべきである。

(オ)比例原則違反
●● 最高裁判例「行政処分取消」(民集第44巻1号1頁)
【理由】
上告人が、所管に属する福岡県下の県立高等学校等の教諭等職員の任免その他の人事
関する事務を管理執行する立場において、懲戒事由に該当する被上告人らの前記各行為
の性質、態様、結果、影響等のほか、右各行為の前後における被上告人らの態度、懲戒
処分歴等の諸事情を考慮のうえ決定した本件各懲戒免職処分を、社会観念上著しく妥当
を欠くものとまではいい難く、その裁量権の範囲を逸脱したものと判断することはでき
ない。

(4)判断過程審査
裁量権行使の結果に着目する古典的判断基準とは異なり、行政庁の判断過程に着目し
て、その合理性を審査する手法。

●● 最高裁判例「伊方発電所原子炉設置許可処分取消」(民集第46巻7号1174
頁)
【要旨】
原子炉施設の安全性に関する審査は、当該原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運
転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地
域への影響等を、原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の
社会的条件及び当該原子炉設置者の右技術的能力との関連において、多角的、総合的見
地から検討するものであり、しかも、右審査の対象には、将来の予測に係る事項も含ま
れているのであって、右審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる極め
て高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものである
ことが明らかである。そして、規制法二四条二項が、内閣総理大臣は、原子炉設置の許
可をする場合においては、同条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号所
定の基準の適用について、あらかじめ原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしな
ければならないと定めているのは、右のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質
を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する
原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合
理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。

●● 最高裁判例「損害賠償請求控訴、同附帯控訴」(民集第47巻5号3483頁)
【要旨】
本件教科書検定の審査、判断は、申請図書について、内容が学問的に正確であるか、中
立・公正であるか、教科の目標等を達成する上で適切であるか、児童、生徒の心身の発
達段階に適応しているか、などの様々な観点から多角的に行われるもので、学術的、教
育的な専門技術的判断であるから、事柄の性質上、文部大臣の合理的な裁量に委ねられ
るものというべきである。

●● 最高裁判例「進級拒否処分取消、退学命令処分等取消」(民集第50巻3号46
   9頁)
【理由】
信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を、正当な理由のない履修拒否と区別すること
なく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替措置について何ら検討すること
もなく、体育科目を不認定とした担当教員らの評価を受けて、原級留置処分をし、さら
に、不認定の主たる理由及び全体成績について勘案することなく、二年続けて原級留置
となったため進級等規程及び退学内規に従って学則にいう「学力劣等で成業の見込みが
ないと認められる者」に当たるとし、退学処分をしたという上告人の措置は、考慮すべ
き事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、そ
の結果、社会観念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかはなく、本件各処分
は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。


■■■ 判決
■ 特別の事情による請求の棄却
第三十一条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すこ
とにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その
損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を
取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却するこ
とができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であること
を宣言しなければならない。
2 裁判所は、相当と認めるときは、終局判決前に、判決をもつて、処分又は裁決が違
法であることを宣言することができる。
3 終局判決に事実及び理由を記載するには、前項の判決を引用することができる。

・公の利益:社会公共の利益
・公共の利益:社会公共の利益と個人の権利利益との調和が前提

(1) 趣旨
事情判決:取消訴訟において、処分・裁決が違法であるにもかかわらず、現実に処分を
取り消すことになると公の利益に著しい障害が生ずる場合に、結論としては請求を棄却
することを認めるもの。その場合は、判決の主文において、処分等が違法であることが
宣言される。
→ 「公の利益」」ではなく、「公共の利益」に著しい障害が生じる場合
→ これにより、処分・裁決が違法であることの既判力が生じる。

(2) 訴えの利益との関係
●● 最高裁判例「土地改良事業施行認可処分取消」(民集第46巻1号54頁)
【要旨】
本件認可処分は、本件事業の施行者である八鹿町に対し、本件事業施行地域内の土地に
つき土地改良事業を施行することを認可するもの、すなわち、土地改良事業施行権を付
与するものであり、本件事業において、本件認可処分後に行われる換地処分等の一連の
手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在することを前提とするものであるから、本
件訴訟において本件認可処分が取り消されるとすれば、これにより右換地処分等の法的
効力が影響を受けることは明らかである。そして、本件訴訟において、本件認可処分が
取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、
本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的
、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情
は、行政事件訴訟法三一条の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分
の取消しを求める上告人の法律上の利益を消滅させるものではないと解するのが相当で
ある。
★ 勝訴判決を得たとしても、原状回復の実現が社会的、経済的損失の観点からみて社
  会通念上不可能とみられる場合には、救済の余地がないものとして訴えの利益が否
  定される可能性があるが、最高裁は、上記のような判断を行った。

(3) 法の基本原則
●● 最高裁判例「選挙無効請求」(民集第30巻3号223頁)
【理由】
行政事件訴訟法は、三一条一項前段において、当該処分が違法であつても、これを取り
消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合においては、諸般の事情に照らして
右処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められる限り、裁判所においてこ
れを取り消さないことができることを定めている。この規定は法政策的考慮に基づいて
定められたものではあるが、しかしそこには、行政処分の取消の場合に限られない一般
的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられるので
ある。もつとも、行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟につい
てはその準用を排除されているが(公選法二一九条)、(中略)本件のように、選挙が
憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が
法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵
帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立
法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の
規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を
回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。もとより、明文の
規定がないのに安易にこのような法理を適用することは許されず、殊に憲法違反という
重大な瑕疵を有する行為については、憲法九八条一項の法意に照らしても、一般にその
効力を維持すべきものではないが、しかし、このような行為についても、高次の法的見
地から、右の法理を適用すべき場合がないとはいいきれないのである。

■ 取消判決等の効力
第三十二条 処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。
2 前項の規定は、執行停止の決定又はこれを取り消す決定に準用する。

(1)形成力の内容
・行政処分の取消判決が確定すると、処分は遡って効力を失い、初めから処分がなかっ
 たのと同じ状態になる。
・行政処分は、取消原因である瑕疵があっても直ちに効力が否定されることはなく(公
 定力)、所定の争訟手続によって瑕疵であることが有権的に確定されて初めて処分が
 遡及的に失効する。このように、処分の遡及的失効という効果は、取消訴訟の確定を
 待って初めて生じるものであり、取消判決のこの実体的変動力を取消判決の「形成
 力」という。
→ その後の訴訟では、同一当事者が当該処分・裁決が有効であることを主張できず、
  裁判所も当該処分・裁決が有効であるとの判断を下すことはできない。

(2) 遡及効
・取消判決が形成力を持つとしても、その効果が遡って無効とならない場合もある。遡
 及効を持たない形成訴訟の例:婚姻取消の訴え(民法748条)、会社の組織に関す
 る訴え(会社法839条)
・処分の取消判決の場合、遡及効を認めるのが当然と考えられている。

(3) 第三者効
・行政法上の法律関係はなるべく画一的に規制されるのが望ましいという見地から、取
 消判決の効力が第三者にも及ぶものとし、その反面、判決の効力が及ぶ第三者には訴
 訟参加(22条)の機会を与えるとともに、当該第三者が自己の責めに帰することの
 できない理由で訴訟参加できなかった場合には、再審の訴え(34条)ができるとし
 たものである。
・第三者:利益・不利益を問わず、処分について利害関係をもつ第三者

(4) 一般処分の取消
・ 一般処分:処分の中でも不特定多数者を対象として行われる処分

●● 最高裁判例「農地買収処分取消請求」(民集第6巻1号22頁
【理由】
行政処分の行われた後法律が改正されたからと言つて、行政庁は改正法律によつて行政
処分をしたのではないから裁判所が改正後の法律によつて行政処分の当否を判断するこ
とはできない。(中略)改正前の法律に照らして違法であつた計画が法律の改正によつ
て適法になる理由はないのであるから、所論のように本件買収計画が適法であるかどう
かについて改正後の法律によつて判断すべきものではない。

(5) 執行停止決定等の形成力
・32条2項:執行停止決定及びこれを取り消す決定が第三者効をもつことを規定。
・執行停止決定は、将来に向かって処分の効力を停止するにとどまるので、その第三者
 効が法的安定性を阻害するおそれは大きくない。
☆ 執行停止決定の取消決定は、事情変更による場合(26条1項。効力は将来に向か
  ってのみ生じる。)か、即時抗告による場合(25条7項。効力は遡及する。)が
  ある。

(6) 他の抗告訴訟への準用
・無効確認訴訟には、第三者効の準用がない。(無効確認訴訟は、処分が無効であるこ
 とを確認するにとどまり、実体上の法律関係を形成するものではないから、判決の形
 成力の対世効を規定する条文を準用する必要がなく、したがって第三者再審も準用す
 る余地がない。)
・義務付け訴訟、差止訴訟についても、第三者効の準用はなく、拘束力が準用されるに
 とどまる(38条1項)。

(7) 既判力
・請求棄却判決が確定すれば、処分に違法性がないことについて既判力が生ずる。当事
 者は後訴において処分が違法であることを主張できないし、裁判所も処分が違法でな
 いという判断に拘束される。

(8) 既判力の客観的範囲
(ア) 無効確認訴訟の判決と既判力との関係
・取消訴訟において棄却判決が出た後に無効確認訴訟が提起された場合:処分が適法で
 あるという前判決の既判力は後訴において妥当する。
・無効確認訴訟の棄却判決後に取消訴訟が提起された場合:無効確認判決の既判力は重
 大明白な瑕疵でないという点に認められるにとどまるので、取消訴訟には及ばない。
(イ) 国家賠償訴訟との関係
・取消訴訟における違法性と国家賠償訴訟における違法性を同一であると考えれば(違
 法性一元説)、取消判決の既判力は国家賠償に及ぶ。
・国家賠償訴訟における違法性を職務行為基準説と理解し、両者の違法性を異なるもの
 と捉えれば(違法性二元説)、相互に既判力が及ぶことはない。

(9) 既判力の基準時
・抗告訴訟の場合の既判力の基準時は、行政庁の権限行使の適否を事後的に審査するも
 のであることから、処分時とされている。

■ 拘束力
第三十三条 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした
行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
2 申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が
判決により取り消されたときは、その処分又は裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従い
、改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない。
3 前項の規定は、申請に基づいてした処分又は審査請求を認容した裁決が判決により
手続に違法があることを理由として取り消された場合に準用する。
4 第一項の規定は、執行停止の決定に準用する。

(1) 拘束力の意義
・拘束力:取消判決が確定した場合には、行政庁は判決の判断内容を尊重し、以後その
 事件については判決の趣旨に従って行動し、もし他にこれと矛盾するような処分があ
 れば、適当な措置をとらなければならない法的効果。
・2項:拒否処分や棄却裁決等の不利益処分が取り消された場合、行政庁は、再度の申
 請を待つことなく、判決の趣旨に従って応答すべきことを定めている。(不利益処分
 の名宛人自身が原告となった取消判決を想定)
・3項:許可処分や認容裁決などの利益的処分が手続的瑕疵があることを理由に取り消
 された場合に、行政庁が瑕疵ある手続を繰り返すことなく改めて処分・裁決をなすよ
 う拘束される旨を定めている。(処分の名宛人以外の第三者が原告となった取消判決
 を想定)

(2) 拘束力の法的性質及び内容
・特殊効力説:拘束力をもって取消訴訟による権利救済の実効性を期するために法が特
 に認めた効力であり、行政庁に対して、取消判決の判断内容を尊重し、以後その趣旨
 に従って行動しなければならないという特別の行為義務を課したものとする説
・既判力説:拘束力をもって既判力を当事者以外の関係行政庁に課したものであるとす
 る説

●● 最高裁判例「審決取消」(民集第46巻4号245頁)
【要旨】
特定の引用例から当該発明を容易に発明することができたとはいえないことを理由とし
特許無効審決の取消判決がされ、その拘束力に従つて同一引用偶から右発明を容易に
発明することができたとはいえないとした再度の審決がされた場合、その取消訴訟にお
いて、同一引用例から右発明を容易に発明することができることを主張立証すること
は、許されない。
★ 基本的には、特殊効力説である。

(3) 拘束力の具体的内容
(ア) 同一処分の繰返禁止
・ 取消判決が出された以上、同一理由で同じ処分を繰り返すことは許されない。
・ 新たな別の理由に基づいて処分を行うことができるかについては議論がある。
・ 新たな証拠に依拠しつつ同一理由で同一処分をすることは、裁判所の認定判断と矛
  盾する行為になるため、拘束力に抵触する。
(イ) 不整合処分の取消義務
・行政上の法律関係においては、ある処分がなされると、これを前提として後続ないし
 関連する処分が複数行われることが珍しくないが、ある処分の違法性が確定した場合
 に、実質的にこれと矛盾する内容の処分が残存することを放置すると、取消判決の意
 義がなくなってしまうため、拘束力の内容として、不整合処分の取消義務が生ずる。

●● 最高裁判例「権利変換処分取消」(民集第47巻10号5530頁)
【要旨】
第一種市街地再開発事業の施行地区内の宅地の所有者は、その宅地上の借地権者に対す
る権利変換に関する処分につき、右借地権の不存在を主張して取消訴訟を提起すること
ができる。

(ウ) 原状回復義務
・事実状態の原状回復義務については、取消判決の形成力により処分が遡及的に失効す
 る結果、公法又は私法上の原状回復請求権が成立するので、その実現によるべきであ
 り、拘束力の内容には含まれないとするのが支配的見解である。

(4)執行停止
・本条は執行停止に準用されている。
→ 執行停止に、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁は拘束される。

■ 第三者の再審の訴え
第三十四条 処分又は裁決を取り消す判決により権利を害された第三者で、自己の責め
に帰することができない理由により訴訟に参加することができなかつたため判決に影響
を及ぼすべき攻撃又は防御の方法を提出することができなかつたものは、これを理由と
して、確定の終局判決に対し、再審の訴えをもつて、不服の申立てをすることができ
る。
2 前項の訴えは、確定判決を知つた日から三十日以内に提起しなければならない。
3 前項の期間は、不変期間とする。
4 第一項の訴えは、判決が確定した日から一年を経過したときは、提起することがで
きない。

(1)取消判決の第三者効とデュー・プロセスの精神
・取消判決に第三者効があることを前提に、その影響を受ける第三者の防御権を尊重し
 、憲法31条のデュー・プロセスの精神及び憲法32条の裁判を受ける権利への配慮
 に基づくものである。

(2)「権利を害された第三者」の意義
22条で訴訟参加が認められる「訴訟の結果により権利を害される第三者」と同義であ
ると考えられており、取消判決の形成力によって直接自己の権利が侵害される第三者だ
けでなく、その拘束力によって権利を侵害されることになる第三者も含まれる。

(3)再審事由
・民事訴訟法上の再審における再審事由は、当事者が訴訟手続に重大な瑕疵があったこ
 とが理由とされるが(民事訴訟法338条)、本条における再審事由はこれと異な
 る。
→ 民事訴訟法による再審は、これとは別に認められる。
(ア)自己の責めに帰することができない理由により訴訟に参加することができなかっ
   たこと
・自己の責めに帰することができない理由かどうかは、事案の具体的な事実関係のもと
 で社会通念に従って判断される。
・「訴訟に参加することができなかった」とは、参加人として訴訟参加したかどうかと
 いう形式ではなく、実質に即して判断されるべきものと考えられる。
(イ)判決に影響を及ぼすべき攻撃又は防御の方法を提出することができなかったこと
・単に適切な訴訟活動ができなかったというだけでは足りず、確定判決とは異なる判決
 結果をもたらす可能性のあるような攻撃防御方法を提出することができなかったとい
 えることが必要である。

(4) 再審手続
・再審の訴えは、確定判決を知った日から30日以内に提起しなければならず(2項)、
 これは不変期間とされ(3項)、また判決が確定した日から1年を経過すると訴えを
 提起することができなくなる(4項)。
→ 現在「不変期間」はこれだけ。
→ 自己の責めに帰すことができない事由で期間を遵守できなかった場合には、当該事
  由が消滅した後1週間以内に出訴することができる(行政事件訴訟法7条、民事訴
  訟法97条1項)。
・再審手続については、特に本法で定めがあるほかは、民事訴訟法の規定(338条~
 348条)による。

・再審の被告:確定した取消訴訟の原告と被告の双方。
→ 再審の訴えが認められた場合には、従前の訴訟手続が復活する。
→ 再審の原告は、復活した訴訟では、参加人(22条)として訴訟に参加する。

・客観的出訴期間は1年
→ 14条3項の場合と異なり、「正当な理由があるとき」でも、これを経過すると、認
  められない。


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 マガジンタイトル:新・行政書士試験 一発合格!
 発行者:行政書士 太田誠   東京都行政書士会所属(府中支部)
 発行者Web:http://www.ohta-shoshi.com
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