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【社長辞任】裁判官は「医学的専門家」ではないQ&A⑤

 こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
 従業員の健康問題(従業員主治医の診断書が起因)が企業の経営に直結し、時には社長・役員の辞任、売上減少、株主代表訴訟にまで発展するケースが顕在化しています。また、従業員の健康を第一に守るという目的により、企業ガバナンスの逆転現象が起き、結果的に健康を守りきれなかったという矛盾も生じています。
 健康管理は、ケガからハラスメントまで、対策の範囲が広いです。そこで、企業ガバナンスを経営者主体という本来の形にすることで、会社と経営者を第一に守り、その結果、従業員の健康を守るという目的で、下記の日本規格協会規格(JSA 規格)「JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針」を開発しました。
 また、認証機関も立ち上げております。
なお、日本規格協会は、経済産業省による認定産業標準作成機関であり、唯一のマネジメントシステム作成機関です。
 企業主体の健康管理体制の構築について、ぜひJSA-S1025をご活用ください。

 今回は、「【社長辞任】裁判官は「医学的専門家」ではないQ&A⑤」について作成しました。
 企業利益の向上という、精神的・社会的健康を向上させるために、弊社をご活用ください。
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【社長辞任】裁判官は「医学的専門家」ではないQ&A⑤
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 次のコラムについて、大きな反響をいただきありがとうございます。
 裁判所提案で、社長辞任となる時代がいよいよ始まっています。
 もはや、医師と連携していない社長については、裁判所は一定の結論を出したと言えるでしょう。
 医師と連携している社長について、対応の正当性が、次世代の裁判の争点になると考えられます。
 【社長辞任】ハラスメントによる従業員の健康障害について、問い合わせがありましたので、Q&A形式で回答させていただきます。

【社長辞任】ハラスメントによる従業員の健康障害
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177734/

Q
 企業は、健康診断、ストレスチェック、相談窓口設置等、弁護士や社労士の指導を受けながら法令順守をしている。さらに、産業医選任義務を回避するために事業所を分割するなど、法令遵守には最大限努めている。
 それにもかかわらず、社長が「刑事罰にならない程度の叱責」をしただけで、従業員側の主治医による診断書が出た場合、その努力がすべて無になるかのように、裁判所は社長の辞任まで迫っている。
 真面目に「法令の最低ライン」を守ろうとする経営者は、診断書一枚で責任を負わされ、努力は報われないということになるのか。

A
 関連コラムで繰り返し示している様に、「刑事罰にならない程度の叱責」が原因で、新入社員が自死に至ったとされるハラスメント事件は、最終的に会社側が巨額の賠償金を支払い、さらに社長が辞任するという異例の調停で決着しました。この事件が多くの企業に突きつけた最大の教訓の一つは、「ハラスメントそのもの」だけでなく、「従業員の健康」に関わる専門的な見解、特に主治医の診断書の内容を経営者がどのように扱ったか、という点にあります。
 質問の様に、診断書一枚を起点として、社長が責任を負わされた事例になります。

〇裁判官は、「主治医の診断書」を原則変更しない
 多くの経営者や管理職は、従業員の欠勤や休職の際に提出される主治医の診断書に対し、「本当にそこまで重症なのか?」「仕事から逃げるための口実ではないか?」といった疑問を抱くことがあります。しかし、裁判所の判断において、この疑問は原則として無意味になります。

①裁判官は「医学的専門家」ではない
 裁判官の役割は、提出された証拠に基づき、法的な合理性を判断することです。病気の診断や重症度の判定は、医学的専門家の領域です。裁判官は、自らが医師に取って代わって診断書の内容を「軽い」「重い」と修正する権限も専門性も持っていません。

②「私的見解」ではない証拠力
 裁判官は、主治医がその従業員を継続的かつ専門的に診察してきたという事実を重く見ます。
 企業側が「診断書の内容は誤りだ」と主張しても、それが他の客観的な専門医(産業医や鑑定医など)の意見によって覆されない限り、主治医の診断内容は「動かしがたい事実」として法廷で扱われます。

【特殊なケース】医学的判断が求められる時の専門家活用
 薬害エイズ事件等の国家賠償請求に関する事件では、裁判所側に医学的判断が求められることがあります。この場合、裁判官は、あくまで法学の専門家ですが、これらの訴訟においては、膨大な医学的証拠を整理し、合理的な蓋然性(確からしさ)をもって因果関係を認定するという、高度な専門的判断を要求されます。
 その際、裁判官は専門家の意見聴取と中立な鑑定(職権鑑定)を求めて、判断することになります。
 裁判官は、医学的判断を求められる時は、直接的な判断をせずに、専門家を活用して判断を行います。しかし、こういった事例は特殊であり、通常の裁判で裁判官が医学的判断をすることはありません。

〇主治医の診断書に対応できるのは、産業医だけ
 従業員の主治医は、従業員から治療費を受け取っているので、10割従業員のために努力する必要があります。企業側が「本当にそこまで重症なのか?」「仕事から逃げるための口実ではないか?」といった疑問を抱いていたとしても、主治医は全く配慮する必要はありません。
 むしろ、従業員から治療費を受けているのに、企業側の求めに応じることは、主治医が従業員に対して裏切り行為に当たるため許されません。さらに、従業員情報を企業側に伝えた場合、明らかな守秘義務違反(刑法第134条 秘密漏示罪)になります。
 主治医の診断書は、発行された時点で、客観的証拠としての一里塚となります。
 企業側が、診断書の内容に疑問を抱いたり、主治医の意見を受け入れる経営的な余裕が無い場合は、その相談は主治医ではなく、産業医に行うことができます。
 産業医は、企業側の訴えを受けて、従業員から主観的情報と客観的情報を収集した上で、診断書に返答する形で、主治医に対して情報提供を求めることになります。
 主治医に対応できるのは、企業側の都合を理解している産業医だけになります。そして、裁判官は、主治医と産業医の情報共有の記録を確認し、法的に合理的な判断を下すことになります。

※主治医と産業医の役割は次の様に整理できます。
主治医:【役割】従業員の治療・回復(患者側) 【対応】従業員への治療と診断書の作成 【連携】産業医からの情報提供要求にのみ応じる(産業医以外からは守秘義務の関係で、情報提供できません)
産業医:【役割】企業と従業意を守るための安全配慮義務遂行 【対応】診断書の妥当性評価、業務上の配慮事項の提言 【連携】主治医と連携し、従業員の業務適性を判断する

産業医との連携こそがリスク回避の鍵
 社長辞任の事例は、企業利益の向上を目指す叱責が、結果的に会社と経営者自身を最大の危機に追い込むという皮肉な結末を示しました。
 企業が主治医の診断書に異議を唱える唯一の合法的な手段は、産業医などの専門家と連携し、医学的な見地からその妥当性や業務遂行の可否について意見を求めることです。
 主治医の診断は裁判の場で覆すことが困難な「事実」です。この事実を前に、経営者が取るべき行動は、「感情的な反論」ではなく、「産業医を活用した適切なリスクマネジメント」であることを、この社長辞任事件は明確に示唆しています。
 主治医の診断書を単なる書類としてではなく、法的な「レッドフラッグ」として認識し、専門家と連携して適切に対応することが、現代の企業経営においてトップを守る最後の防波堤となります。
 「真面目に法令の最低ラインを守る」ことは、医師から逃げることではありません。「産業医選任義務を回避するために事業所を分割する」という努力は、確かに労働安全衛生法の形式的な要件は満たしているかもしれません。しかし、企業のトップを守る「リスク回避」の努力とは言えません。
 医師を活用して、適切に危険予知・危険回避を行うことまでが『法令の最低ラインを守る』ことです。

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JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針

JSA-S1025ページ
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JSA-S1025%3A2025

JSA-S1025紹介
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/jsa/pdf_jsa_372.pdf

【JSA-S1025】開発の解説
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177724/

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