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★★★ 新・
行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-20 ★★
【レジュメ編】 行政法(その3〔2〕)
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■■■ 行政上の義務
履行強制
■■■ 『
会社法入門』
■■■
行政書士会の会員数
■■■ お願い
■■■ 編集後記
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■■■ 行政上の義務
履行強制
■ 民事執行と行政的執行
(1)民事執行
・私人間での権利の強制的実現は裁判所が独占:民事訴訟法、民事執行法による。
(2)行政上の義務
履行強制
・行政行為によって課された義務の
履行の実現のためには、訴訟を提起する必要はな
く、行政庁限りで
強制執行する自力救済を認めるべき
■ 行政的執行の仕組み
(1)行政行為に執行力はなく、義務の
履行を強制するためには、そのための根拠規範
が必要である。
(ア)作為的代替義務:行政代執行法(一般的根拠規範)
(イ)執行罰:行政上の義務を
履行しない者に対して、期限を定めて一定額の過料の納
付を命じる行政上の強制
履行(
間接強制)。一般的根拠規範はない。→ 個別の
法律に根拠規範がない場合には、執行罰は許されないが、現在認められているの
は、砂防法のみ。
(例)砂防法「私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ怠ル
トキハ国土交通大臣若ハ都道府県知事ハ一定ノ期限ヲ示シ若シ期限内ニ
履行セサ
ルトキ若ハ之ヲ
履行スルモ不充分ナルトキハ五百円以内ニ於テ指定シタル過料ニ
処スルコトヲ予告シテ其ノ
履行ヲ命スルコトヲ得」(36条)。
(ウ)直接強制:一般的根拠規範はない。→ 個別の法律に根拠規範がない場合には、
直接強制は許されない。
(例)成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法 国土交通大臣は、規制区域内に所
在する建築物その他の工作物について、その工作物が次の各号に掲げる用に供さ
れ、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者、管理者又
は占有者に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止する
ことを命ずることができる。
一 多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用(以下略)(3条1項)。
(エ)強制徴収:以下の「■行政上の強制徴収」を参照のこと。
(*)即時強制:一般的根拠規範はない。→ 個別の法律に根拠規範がない場合には、
即時強制は許されない。
(例)警察官職務執行法 警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき
は、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生
命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を
要する場合においては、その行為を制止することができる(5条)。
(2)条例による場合
(ア)執行罰、直接強制:法律を根拠としなければならない(条例は根拠規範とはなら
ない。)。
→ 条例で不作為義務が課されている場合には、違反する行為に対する命令等を行っ
て、当該禁止義務を代替的作為義務に転換する必要がある(例:工作物の設置禁止
条例に違反して工作物が設置された場合には、当該工作物に対する除去命令を行い
(代替的作為義務の命令)、なお除去されない場合に、代執行を行う。)
(イ)即時強制:条例を根拠規範として行える。
■ 行政代執行法
(1)適用範囲
第一条 行政上の義務の
履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この
法律の定めるところによる。
・「法律」には条例を含まない。→ 第2条でわざわざ「法律(法律の
委任に基づく命
令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と規定しているのは、第1条の「法律」に
は「条例」を含まないため。
(2)実体的要件
第二条 法律(法律の
委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直
接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことの
できる行為に限る。)について義務者がこれを
履行しない場合、他の手段によつてその
履行を確保することが困難であり、且つその不
履行を放置することが著しく公益に反す
ると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者
をしてこれをなさしめ、その
費用を義務者から徴収することができる
(ア)代替的作為義務
・法律(法律の
委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命
ぜられた行為
→ 自主条例に基づく代執行も可能(「法律の
委任に基づく」は条例にはかからない。)
・法律に基き行政庁により命ぜられた行為
(イ)他の手段による
履行確保の困難性:比例原則によるもの。
(ウ)効果裁量:代執行の要件を充たす場合でも、代執行を行うかどうかについては、
一般的には行政庁の裁量による。
●● 最高裁判例「建物および工作物除去等請求」(民集第25巻8号1389頁)
【理由】土地区画整理事業で、建築物等の存在によつて換地予定地の使用
収益が妨げら
れているときは、施行者(岡山市長)において右権限を行使し、建築物等の移
転または
除却をして右土地の使用
収益に妨げないようにすることは、その職務
上の義務でもあるというべきであつて、施行者が過失により右義務を怠つて土
地所有者に損害を及ぼしたときは、これを賠償する責に任ずべきものと解する
のが相当である。
★ 一般的には裁量が認められるが、一定の条件の下では、代執行を行うべき義務が生
じる。
(3)手続的要件
第三条 前条の規定による処分(代執行)をなすには、相当の
履行期限を定め、その期
限までに
履行がなされないときは、代執行をなすべき旨を、予め文書で戒告しなければ
ならない。
2 義務者が、前項の戒告を受けて、指定の期限までにその義務を
履行しないときは、
当該行政庁は、代執行令書をもつて、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する
執行責任者の氏名及び代執行に要する
費用の概算による見積額を義務者に通知する。
3 非常の場合又は危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必
要があり、前二項に規定する手続をとる暇がないときは、その手続を経ないで代執行を
することができる。
・
行政手続法の「不利益処分」には該当しない。
→「事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするた
めに法令上必要とされている手続としての処分」(2条4号イ)は、不利益処分から
除外されているため。
(4)執行責任者
第四条 代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者たる本人
であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときは、何時でもこれを呈示しなけれ
ばならない。
(5)
費用の徴収
第五条 代執行に要した
費用の徴収については、実際に要した
費用の額及びその納期日
を定め、義務者に対し、文書をもつてその納付を命じなければならない。
第六条 代執行に要した
費用は、
国税滞納処分の例により、これを徴収することができ
る。
2 代執行に要した
費用については、行政庁は、
国税及び
地方税に次ぐ順位の
先取特権
を有する。
3 代執行に要した
費用を徴収したときは、その徴収金は、事務費の所属に従い、国庫
又は地方公共団体の経済の収入となる。
★ 「
国税滞納処分の例」については、後掲「■行政上の強制徴収」参照のこと。
● 行政代執行法は、行政上の義務の
履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除
いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務
の
履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法として
は、同法2条の規定による代執行のみを認めている。〔後掲最高裁判例「建築工事
続行禁止請求事件」(民集第56巻6号1134頁)〕
■ 簡易代執行
代替的作為義務を命じる場合で、過失なく命ぜられるべき者が判明しない場合には、一
定の条件の下で代執行することができる。
(例)屋外広告物法 第七条 都道府県知事は、条例で定めるところにより、第三条か
ら第五条までの規定に基づく条例に違反した広告物を表示し、若しくは当該条例
に違反した掲出物件を設置し、又はこれらを管理する者に対し、これらの表示若
しくは設置の停止を命じ、又は相当の期限を定め、これらの
除却その他良好な景
観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止するために必
要な措置を命ずることができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による措置を命じようとする場合において、当
該広告物を表示し、若しくは当該掲出物件を設置し、又はこれらを管理する者を
過失がなくて確知することができないときは、これらの措置を自ら行い、又はそ
の命じた者若しくは
委任した者に行わせることができる。ただし、掲出物件を除
却する場合においては、条例で定めるところにより、相当の期限を定め、これを
除却すべき旨及びその期限までに
除却しないときは、自ら又はその命じた者若し
くは
委任した者が
除却する旨を公告しなければならない。
●● 最高裁判例「
威力業務妨害被告事件」(刑集第56巻7号395頁)
【要旨】東京都が都道である通路に動く歩道を設置するため、通路上に起居する路上生
活者に対して自主的に退去するよう説得して退去させた後、通路上に残された
段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事は、自主的に退
去しなかった路上生活者が警察官によって排除、連行された後、その意思に反
して段ボール小屋を撤去するに及んだものであっても、同工事が公共目的に基
づくものであるのに対し、路上生活者は通路を不法に占拠していた者であり、
行政代執行の手続を採ってもその実効性が期し難かったことなど判示の事実関
係の下では、
威力業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的
瑕疵を有
しない。
★ 道路管理者である東京都が行政代執行の手続によらないで、段ボール小屋を撤去し
ても、やむをえない。
■ 行政上の強制徴収
(1)強制徴収の手続
(ア)国の金銭
債権
(a)前段階:
国税通則法
・納税の告知(36条)
・督促(37条)
(b)滞納処分:
国税徴収法
・差押
第四十七条 次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の
国税につきその財
産を差し押えなければならない。
一 滞納者が督促を受け、その督促に係る
国税をその督促状を発した日から起算して
十日を経過した日までに完納しないとき
二 納税者が
国税通則法第三十七条第一項各号(督促)に掲げる
国税をその納期限
(繰上請求がされた
国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき
・換価
第八十九条 差押財産(金銭、
債権及び第五十七条(有価証券に係る
債権の取立)の規
定により
債権の取立をする有価証券を除く。)は、この節の定めるところにより換価し
なければならない。
2 差し押えた
債権のうち、その全部又は一部の
弁済期限が取立をしようとする時から
六月以内に到来しないもの及び取立をすることが著しく困難であると認められるもの
は、この節の定めるところにより換価することができる。
・公売
第九十四条 税務署長は、差押財産を換価するときは、これを公売に付さなければなら
ない。
2 公売は、入札又はせり売の方法により行わなければならない。
・
配当
第百二十八条 税務署長は、次に掲げる金銭をこの節の定めるところにより
配当しなけ
ればならない。
一 差押財産の売却代金(以下略)
(c)
国税以外の金銭
債権:「
国税滞納処分の例により、これを徴収する。」と規定す
るものが多い。
(イ)地方公共団体の金銭
債権
(a)
地方税:「
国税徴収法に規定する滞納処分の例により滞納処分をすることができ
る」旨が各税ごとに規定されている。
(b)
地方税以外の地方公共団体の金銭
債権:「
地方税の滞納処分の例により処分する
ことができる」(地方自治法231条の3第3項)。
→ 条例で、行政上の強制徴収の根拠規定を設けることはできない。
(ウ)根拠規定がない場合
法令に行政上の強制徴収の根拠規定がない場合には、行政上の強制徴収はできない。
→ 相手方が任意に
履行しない場合には、民事訴訟により、
強制執行するしかない。
(2)行政上の強制徴収と民事執行
●● 最高裁判例「農業共済掛金等請求」(民集第20巻2号320頁)
【要旨】農業
共済組合の農作物共済掛金、賦課金および拠出金の徴収については、農業
災害補償法第八七条の二所定の手続によるべきものであつて、民事訴訟法によ
る
強制執行は許されず、その
履行を裁判所に請求することもできない。
【理由】農業
共済組合が、法律上特にかような独自の強制徴収の手段を与えられなが
ら、この手段によることなく、一般私法上の
債権と同様、訴えを提起し、民訴
法上の
強制執行の手段によつてこれら
債権の実現を図ることは、前示立法の趣
旨に反し、公共性の強い農業
共済組合の権能行使の適正を欠くものとして、許
されないところといわなければならない。
★ 金銭的執行について行政上の強制徴収が認められている場合には、民事執行による
ことはできない。
■ 行政的執行と民事執行
非金銭的執行の分野で行政的執行が法定されている場合、民事執行が認められるかどう
かについては、判例は分かれている。
■ 行政的執行が認められない場合と民事執行
●● 最高裁判例「建築工事続行禁止請求事件」(民集第56巻6号1134頁)
【理由】国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履
行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを
認める特別の規定もないから、不適法というべきである。
★ 本件は、
上告人(宝塚市長)が、宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホ
テルの建築等の規制に関する条例に基づき、宝塚市内においてパチンコ店を建築し
ようとする被
上告人に対し、その建築工事の中止命令を発したものの、被
上告人が
これに従わないため、
上告人が被
上告人に対し同工事を続行してはならない旨の
裁判を求めた事案である。
→ 行政上の義務の
履行については、民事執行によることはできない。
■■■ 行政上の義務違反に対する制裁
【1】行政罰
(1)行政上の過去の義務違反に対して、一般統治権に基づき科される制裁。行政刑罰
と行政上の秩序罰がある。
→ 原則:反社会性が強い場合には行政刑罰、単純な義務の懈怠に対しては行政上の秩
序罰。
・
懲戒罰:特別の監督関係に基づき科される制裁(例:国家
公務員の
懲戒処分(国家公
務員法82条1項)→免職、停職、減給又は戒告)
・執行罰:将来の義務
履行を確保するための制裁
【2】行政刑罰
行政上の義務違反に対する制裁として刑罰が用いられる場合
→ 刑法以外の法律に規定された犯罪に、刑法に定められた罪(死刑、懲役、禁錮、
罰金、拘留、科料、没収)(9条)を科す制裁
(ア)他の法令の罪に対する刑法の適用
刑法第八条 この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令
に特別の規定があるときは、この限りでない。
→ 行政刑罰については、原則として刑法総則および刑事訴訟法が適用される。
→ 「特別の規定」の例:両罰規定
→ 条例の義務違反者:普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほ
か、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万
円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑【又は五万円以下の過料(過料は行政
上の秩序罰)】を科する旨の規定を設けることができる(地方自治法14条3項)。
(2)非刑罰的処理:
反則金制度
道路交通法に定める反則行為について、通告があった日から10日以内に国に対して「反
則金を納付した者は、当該通告の理由となつた行為に係る事件について、公訴を提起さ
れず、又は
家庭裁判所の審判に付されない」(128条2項)。
→ 納付がない場合には、刑事手続に移行し、検察官が公訴すれば、刑事裁判が行われ
る。
●● 最高裁判例「行政処分取消」(民集第36巻6号1169頁)
【理由】
道路交通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る
反則金を
納付し、これによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由と
なつた反則行為の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗
告訴訟によつてその効果の覆滅を図ることはこれを許さず、右のような主張を
しようとするのであれば、
反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこ
れによつて開始された刑事手続の中でこれを争い、これについて裁判所の審判
を求める途を選ぶべきであるとしているものと解するのが相当である。
もしそうでなく、右のような抗
告訴訟が許されるものとすると、本来刑事手続
における審判対象として予定されている事項を行政訴訟手続で審判することと
なり、また、刑事手続と行政訴訟手続との関係について複雑困難な問題を生ず
るのであつて、同法がこのような結果を予想し、これを容認しているものとは
到底考えられない。
【3】行政上の秩序罰(行政罰)
(ア)行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として金銭的負担を課すもの。
(イ)刑法総則の適用はないが、制裁であるので、罪刑法定主義、責任主義、比例原則
は、基本的に適用される。
(ウ)条例によることも可能(地方自治法)
→ 普通地方公共団体:【二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科
料若しくは没収の刑(これらは行政刑罰)又は】五万円以下の過料(14条3項)
→ 普通地方公共団体の長:五万円以下の過料(15条2項)
(エ)刑罰と行政上の秩序罰の併科
●● 最高裁判例「刑事訴訟違反(証言拒否)」(刑集第18巻5号189頁)
【要旨】
(ア)刑訴法第一六〇条による過料と同第一六一条による罰金、拘留は、二者択一の関
係にあるものではなく、併科を妨げないと解すべきである。
(イ)刑訴法第一六〇条による過料と同第一六一条による罰金、拘留との併科は、憲法
第三一条、第三九条後段に違反しない。
【理由】刑訴法一六〇条は訴訟手続上の秩序を維持するために秩序違反行為に対して当
該手続を主宰する裁判所または裁判官により直接に科せられる(司法上の)秩
序罰としての過料を規定したものであり、同一六一条は刑事司法に協力しない
行為に対して通常の刑事訴訟手続により科せられる刑罰としての罰金、拘留を
規定したものであつて、両者は目的、要件及び実現の手続を異にし、必ずしも
二者択一の関係にあるものではなく併科を妨げないと解すべきである。
(*)刑事訴訟法
第百六十条 証人が正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだときは、決定で、十万円以
下の過料に処し、かつ、その拒絶により生じた
費用の賠償を命ずることができる。
第百六十一条 正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、十万円以下の罰金又は拘
留に処する。
★ 本件は、刑罰と司法上の秩序罰の併科の事案であるが、刑罰と行政上の秩序罰の併
科についても適用されると考えられる。
(オ)行政上の秩序罰を科す手続
〔法律違反に対する場合〕
(a)行政上の秩序罰は刑罰ではないので、刑事訴訟法は適用されない。
(b)過料事件(過料についての裁判の手続に係る事件をいう。)は、他の法令に別段
の定めがある場合を除き、当事者の普通裁判籍の所在地を管轄する
地方裁判所が
管轄する(非訟事件手続法161条)。
→
行政手続法の対象外:「裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行とし
てされる処分」(3条1項2号)については
適用除外と規定されている。
●● 最高裁判例「過料決定に対する抗告棄却の決定に対する抗告」(民集第20巻
10号2279頁)
【要旨】非訟事件手続法による過料の裁判は、憲法第三一条、第三二条、第八二条に違
反しない。
【理由】過料の裁判は、理由を付した決定でこれをすることとし(非訟事件手続二〇七
条一項)、これに不服のある者は即時抗告をすることができ、この抗告は過料
の裁判の執行停止の効力を有するものとする(同条三項)など、違法・不当に
過料に処せられることがないよう十分配慮しているのであるから、非訟事件手
続法による過料の裁判は、もとより法律の定める適正な手続による裁判という
ことができ、それが憲法三一条に違反するものでないことは明らかである。
〔条例・規則違反に対する場合〕
(a)普通地方公共団体の長が、行政処分により過料の納付を命じる。
→ 過料は刑罰ではないので、裁判所が非訟事件手続法に基づいて科さなければならな
い必要はない。
■
加算税・過怠税・
延滞税等
【1】
加算税:過少申告
加算税、
無申告加算税、不納付
加算税及び重
加算税(
国税通則
法65条~68条)
●● 最高裁判例「
法人税額公正決定取消等請求」(民集第12巻6号938頁)
【理由】
法人税法四三条の追徴税は、申告納税の実を挙げるために、本来の租税に附加
して租税の形式により賦課せられるものであつて、これを課することが申告納
税を怠つたものに対し制裁的意義を有することは否定し得ないところである
が、
詐欺その他不正の行為により
法人税を免れた場合に、その違反行為者およ
び
法人に科せられる同法四八条一項および五一条の罰金とは、その性質を異に
するものと解すべきである。
(注)「追徴税」は現在の
加算税の前身である。
●● 最高裁判例「
法人税法違反」(民集第15巻7号1054頁)
【要旨】同一の行為について
法人税法第四三条の二の重
加算税のほかに刑罰を科しても
憲法第三九条後段に違反しない。
■ 課徴金
法律の定めに基づいて国が国民から徴収する金銭で、租税以外のもの。行政権に基づく
課徴金と司法権に基づく課徴金がある。
(1)独占禁止法の課徴金
価格カルテル等に対する課徴金制度は、すでに独占禁止法に導入されていたが、今年1
月4日から大幅に改正され、かつ、強化されている。主なポイントは次のとおり。
(ア)課徴金
算定率の引き上げ
課徴金の
算定率が大幅に引き上げられた。
算定率は、大企業と中小企業、製造業、小売
業と卸売業で異なっているが、たとえば、中小企業の小売業では、商品または
役務の売
上高に乗じる率が、従来の1%から1.2%に引き上げられた。
さらに、違反行為の期間が2年未満で、調査開始の1ヶ月前までに中止していた場合に
は、その20%が減額になり(上記の場合では、0.8%)、一方、10年以内に課徴金の納
付命令を受けたことがある再度の違反の場合には、その20%が上乗せされる(上記の場
合では、1.2%)。
(イ)課徴金の対象の拡大
従来は、対価や数量等を制限するカルテルや談合が対象であったが、商品や
役務のシェ
ア、取引先を制限することとなるカルテルも対象に加えられた。さらに、購入カルテ
ル、支配型私的独占も、新たに課徴金の対象に加えられた。
(ウ)課徴金減免制度の導入
事業主が自ら関与したカルテルや談合について、その違反内容を
公正取引委員会に申請
した場合には、課徴金が減免される。
→ 立入検査前の1番目の申請者は、課徴金が全額免除。2番目の申請者は50%減額、
3番目の申請者は30%減額、立入検査後の申請者は30%減額される。ただし、合計
3社までに限られる。
●● 平成 5. 5.21 東京高裁「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反
被告事件」
【要旨】私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の課徴金のほかに刑事罰を科
しても憲法三九条に違反しない。
【理由】
公正取引委員会は、我が国における唯一の独禁法の運用機関として、独禁法違
反の行為につき調査及び制裁を行う独自の権限を有しているが、独禁法に違反
すると思われる行為がある場合は、これを調査し、当該違反行為の国民経済に
及ぼす影響その他の事情を勘案して、これを不問とするか、あるいはこれに対
し行政的措置を執るか、さらには刑事処罰を求めてこれを
告発するかの決定を
する裁量権を持つ。
(2)
証券取引法の課徴金
重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券届出書等(有価証券の発行時に作成)およ
び
有価証券報告書(継続開示のために作成)を提出した場合、風説の流布をして相場を
変動させた場合、証券市場で価格操作を行った場合、
インサイダー取引を行った場合に
は、内閣総理大臣(ただし、権限は金融庁長官に
委任。)(194条の6第1項)は、課
徴金の納付を命じなければならない(172条~177条)。
■ 公表
違反行為に対する制裁として公表を行うことによって、間接的に違反行為を抑止するこ
とを意図する場合がある。
〔例〕国土利用計画法
第二十六条 都道府県知事は、第二十四条(土地の利用目的に関する勧告)第一項の規
定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、
その旨及びその勧告の内容を公表することができる。
→ 制裁としての公表については、法律または条例の留保が及ぶ。
→ 行政指導に従わない場合に公表する旨の規定は、違法行為に対して、制裁としての
公表が予定されていて、かつ、行政指導を前置する場合には問題がない。
→ 一方、違法ではない行為について行政指導を行い、それに従わないことに対する制
裁として公表することは認められない。
●
行政手続法:行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを
理由として、不利益な取扱いをしてはならない。(32条2項)
■ 受益的処分の撤回等
行政上の義務違反を理由として撤回等が行われる場合でも、制裁自体を直接の目的とは
していない。なお、少額の制裁金を科すよりも、業務の停止や免許の取消しの方が実効
性が高い場合が多い。
→
責任能力のない者、故意過失のない者に対しても行える。
〔例〕建築士法10条1項
第十条(
懲戒) 一級建築士、二級建築士又は木造建築士が次の各号の一に該当する場
合においては、免許を与えた国土交通大臣又は都道府県知事は、戒告を与え、一年以内
の期間を定めて業務の停止を命じ、又は免許を取り消すことができる。
一 禁錮以上の刑に処せられたとき
二 この法律若しくは建築物の建築に関する他の法律又はこれらに基づく命令若しく
は条例の規定に違反したとき
三 業務に関して不誠実な行為をしたとき
・受益的処分の撤回等は、
行政手続法上の不利益処分(行政庁が、法令に基づき、特定
の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分)
(2条4号)に該当する。
■ 行政サービス、許認可等の拒否
行政上の義務違反が、行政サービス、許認可等の拒否事由として相当と認められなけれ
ばならない。そうでない場合には、違法な権限の行使となる。
●● 最高裁判例「教育施設負担金返還」(民集第47巻2号574頁)
【要旨】市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設
負担金の寄付を求めた場合において、右指導要綱が、これに従わない事業主に
は水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容
とするものであつて、右行為が行われた当時、これに従うことのできない事業
主は事実上建築等を断念せざるを得なくなつており、現に指導要綱に従わない
事業主が建築したマンションについて水道の給水等を拒否していたなど判示の
事実関係の下においては、右行為は、行政指導の限度を超え、違法な公権力の
行使に当たる。
★ 本件事案では、水道の給水拒否の根拠規定が指導要綱(行政指導)にあったが、条
例で定められていても、水道法に定める「正当の理由」がなければ、なお違法とな
る(給水拒否は正当化されない。)。
(*)水道法:水道
事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水
契約の申
込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない(15条1
項)。
・拒否事由が法的に
担保されている場合:道路運送車両法
第九十七条の四(自動車
重量税の不納付による自動
車検査証の不交付等) 国土交通大
臣(第七十四条の四の規定の適用があるときは、軽自動
車検査協会)は、第六十条第一
項、第六十二条第二項(第六十三条第三項及び第六十七条第四項において準用する場合
を含む。)又は第七十一条第四項の規定により自動
車検査証を交付し、又は返付する場
合において、当該自動
車検査証の交付又は返付に係る自動車につき課されるべき自動車
重量税が納付されていないときは、当該自動
車検査証の交付又は返付をしないものとす
る。
■
契約関係からの排除
指名停止措置等の法的性格は、制裁そのものではなく、
契約の準備段階における内部的
行為であるが(したがって、受益的処分の撤回等とは別のもの)、事実上の制裁的効果
を有している。
■■■ 『
会社法入門』
この秋に行われる
行政書士試験の「
商法」について、この5月1日に施行された
会社法
および
商法が対象になるのか、あるいは、4月1日現在ではなお効力を有していた
(旧)
商法が対象になるのか、まだ(財)
行政書士試験研究センターからは発表されて
いません。
それはさておき、先月、岩波書店から出版された『
会社法入門』(岩波新書、神田秀樹
著)はお勧めです。
会社法の第一人者である神田秀樹教授によること、新書版であるこ
と、制定の背景と内容がコンパクトに解説されていることから、この連休中に目を通す
ことをお勧めします。たとえ、(旧)
商法が
行政書士試験の対象になったにせよ、実際
に
行政書士試験に合格された後、開業する場合には、(旧)
商法ではなく、この新会社
法で対応しなければならない訳です。したがって、ちょうど施行されたばかりでもあ
り、どうかこの機会を活用してください。
なお、平成17年9月30日付
総務省告示「
行政書士試験の施行に関する定め」(平成18年
4月1日施行)では、試験科目については、「試験を実施する日の属する年度の4月1
日現在施行されている法令に関して出題するものとする」とされています。文言通りに
理解すれば、(旧)
商法について勉強しなければならないことになりそうですが、もは
や「
行政書士の業務に関し必要な法令等」ではない(旧)
商法が試験科目になるのかど
うかは、(財)
行政書士試験研究センターの発表を待つしかないところです。
■■■
行政書士会の会員数
日本
行政書士会連合会が発行する機関誌『日本行政』5月号に、この4月1日現在の単
位会(各都道府県に設立された
行政書士会のこと)別会員数が掲載されているので、ご
紹介します。
全国の個人会員数は38,875人(昨年10月1日比+157人)、また、
法人会員数は75
法人
(同+13
法人)です。
個人会員数が多いのは、順に東京4,194人、愛知2,348人、大阪2,205人、神奈川1,898
人、埼玉1,758人、兵庫1,646人、千葉1,572人、静岡1,484人、北海道1,455人、福岡
1,057人です(以上は、会員数が1,000人以上の単位会)。
逆に、個人会員数が少ないのは、順に佐賀198人、鳥取222人、高知266人、島根272人、
大分278人、山梨291人、岩手292人です。また、会員数が300人台の単位会は、青森、
秋田、山形、富山、石川、福井、奈良、香川、徳島、長崎、沖縄です。
■■■ お願い
継続して発刊するためには読者の皆様のご支援が何よりの活力になります。ご意見、ア
ドバイス、ご批判その他何でも結構です。内容、頻度、対象の追加や変更等について
も、どうぞ何なりと
e-mail@ohta-shoshi.com までお寄せください。
質問は、このメールマガジンの趣旨の範囲内のものであれば、大歓迎です。ただし、多
少時間を要する場合があります。
■■■ 編集後記
今週はゴールデンウィークです。せっかくの貴重なお休みなので、どうか有効に活用し
てください。これから7月の海の日や夏休みまでの間は、
休日もなく、たんたんとした
日々が続きます。したがって、ここで重要度に応じた選択を行い、集中投資を行ってく
ださい。
たとえば、(ア)これまでの総復習をする(憲法と
民法)、(イ)苦手な特定の分野に
集中的に取組み、得点源にする、(ウ)先取りして、特定の分野に取組む(『
会社法入
門』の読破も、これに含まれます。)、(エ)行政法(特に、
行政手続法)の注解書を
読みこなすこと等が考えられます。
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マガジンタイトル:新・
行政書士試験 一発合格!
発行者:
行政書士 太田誠 東京都
行政書士会所属(府中支部)
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