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法人クラフトマン 第108号 2013-09-03
(旧 石下雅樹法律・
特許事務所)
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1 今回の裁判例 多額の借財と
取締役会決議
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東京地裁平成24年2月21日判決
Y社は、A社を筆頭とするAグループというグループ企業の一つ
であり、Aグループ間での資金融通の一環としてA社に転貸融資す
るつもりで、X銀行から2億円の融資を受けることにしました。
この融資の交渉は、Y社の
代表取締役Bが担当していたので、X
銀行の担当者Cがこの借入について
取締役会決議の要否を確認した
ところ、Bは不要だと答えました。そこでX銀行は、その根拠につ
いてそれ以上確認・調査することなく貸付を実行しました。
しかし、A社が破産してしまったため、Y社がX銀行への返済が
できない事態となり、X銀行がY社に対し、貸金返還請求訴訟を起
こしました。
これに対してはY社は、2億円もの借入は、
会社法362条4項
2号の「多額の借財」にあたり
取締役会承認決議が必要であった等
と主張して、本件貸付
契約は無効であると反論しました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裁判所は以下のように判断し、本件貸付を無効としました。ただ
し、X社の
不当利得返還請求は認めました。
1)
資本金11億円、総
資産35億円、
経常利益600万円のY
社にとって、2億円の借入は、会社の財務・経営への影響が極
めて大きい上に、A社への転貸融資目的というY社の売上に直
接貢献するものでもなかったことなどを総合すれば、「多額の
借財」にあたる。
2)Cは、BからY社では
取締役会決議不要との回答を得ていた
ことから、決議がないことを知っていただけでなく、Y社の過
去3年分の
決算書等を検討し、貸付金の使途についてもBから
ある程度説明を受けていたことから、金額や使途の点からして
も「多額の借財」にあたると認識が十分可能であったのに、調
査を怠った点で過失がある。
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3 解説
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(1)「多額の借財」等についての
取締役会決議
会社法362条4項は、「多額の借財」や「重要な財産の処分及
び譲受け」を行うには
取締役会決議が必要となる旨定めています。
それは、それらの取引が類型的に会社の業務・財産に重大な影響を
及ぼす事項であることから、
代表取締役の独断ではなく
取締役全員
の協議により慎重な判断を行わせるためです。
この点、どの程度なら「多額の」「重要な」にあたるのかについ
ては、一律の数字上の基準があるわけではありません。裁判所は、
その額、会社の規模、事業の状況、会社の総
資産に占める割合、取
引の目的、会社における従来の取扱い等の事情を総合的に見て、個
別具体的に判断しています。
そこで少しでもイメージを持っていただくため、具体的な過去の
事例を挙げると、以下のようなものがあります。
● 会社の総
資産の1.6%に相当する保有株式の譲渡について、
額の大きさや営業のために通常行われる取引ではないことなど
から、「重要な」財産の処分にあたるとした例
● 関連会社の10億円の
債務についての保証予約について、保
証額は会社の総
資産の0.51%、
負債額の0.75%相当に
とどまるものの、
資本金に占める割合は7.75%と高く、社
内に1件5億円以上の
債務保証は
取締役会の付議事項とする旨
の
取締役会規則があることなどから、「多額の」借財にあたる
とした例
● バーを経営し、出資金100万円、年間
売上高2200万円
の有限会社が600万円の借入れをすることは「多額の借財」
にあたるとされた例
(2)実務上の留意点
上記のように一概に判断できないという面はあるとはいえ、もし
本来は
取締役会決議が必要であったのにそれを経ていなかったため
に後で取引が無効となったり他の損害が生じた場合、当該取引にあ
たった
取締役自身の任務懈怠はもちろんのこと、当時の他の
取締役
や
監査役も
監視義務違反を理由に責任を追及される可能性がありま
す。また、取引先にも迷惑をかけることになりかねません。
特に、会社の関係者間で関係が良好なうちはあえて決議を行わな
いことが特に問題となることはないでしょう。しかし、
取締役が1
00%
株主である会社ならともかく、そうでない場合は、創業以来
の設立者間の協力関係が何らかの理由で壊れ、
株主間や
取締役間で
内部紛争が生じ、過去になされた取引について
会社法上の不備が急
に問題視される、ということはよくあることです。今回の事例でも、
取締役会決議がないという主張がなされた背景には、取引後に筆頭
株主やY社の
役員構成が大きく入れ替わったという事情があったよ
うです。
特に新
会社法の制度のもとでは、
取締役会の開催や決議の制度が、
中小企業の現実に合わせて工夫できるようになりました。それで、
会社法に照らして
取締役会決議の要否について予め慎重に検討し必
要な決議を得ておく、こうした日常の手間暇が、将来の紛争という
大きなコスト・リスクの回避のため有益な結果となるのではないか
と考えます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4 弊所ウェブサイト紹介~
会社法(
会社法) ポイント解説
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弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した
会社法関連の情報については
http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/
において、
取締役、
取締役会といった
役員をめぐる諸問題について
実務的観点から解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。
なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えてほしい項目がありましたら、メールでご一報
くだされば幸いです。
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たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
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弁護士
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1 今回の裁判例 多額の借財と取締役会決議
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東京地裁平成24年2月21日判決
Y社は、A社を筆頭とするAグループというグループ企業の一つ
であり、Aグループ間での資金融通の一環としてA社に転貸融資す
るつもりで、X銀行から2億円の融資を受けることにしました。
この融資の交渉は、Y社の代表取締役Bが担当していたので、X
銀行の担当者Cがこの借入について取締役会決議の要否を確認した
ところ、Bは不要だと答えました。そこでX銀行は、その根拠につ
いてそれ以上確認・調査することなく貸付を実行しました。
しかし、A社が破産してしまったため、Y社がX銀行への返済が
できない事態となり、X銀行がY社に対し、貸金返還請求訴訟を起
こしました。
これに対してはY社は、2億円もの借入は、会社法362条4項
2号の「多額の借財」にあたり取締役会承認決議が必要であった等
と主張して、本件貸付契約は無効であると反論しました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
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裁判所は以下のように判断し、本件貸付を無効としました。ただ
し、X社の不当利得返還請求は認めました。
1)資本金11億円、総資産35億円、経常利益600万円のY
社にとって、2億円の借入は、会社の財務・経営への影響が極
めて大きい上に、A社への転貸融資目的というY社の売上に直
接貢献するものでもなかったことなどを総合すれば、「多額の
借財」にあたる。
2)Cは、BからY社では取締役会決議不要との回答を得ていた
ことから、決議がないことを知っていただけでなく、Y社の過
去3年分の決算書等を検討し、貸付金の使途についてもBから
ある程度説明を受けていたことから、金額や使途の点からして
も「多額の借財」にあたると認識が十分可能であったのに、調
査を怠った点で過失がある。
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3 解説
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(1)「多額の借財」等についての取締役会決議
会社法362条4項は、「多額の借財」や「重要な財産の処分及
び譲受け」を行うには取締役会決議が必要となる旨定めています。
それは、それらの取引が類型的に会社の業務・財産に重大な影響を
及ぼす事項であることから、代表取締役の独断ではなく取締役全員
の協議により慎重な判断を行わせるためです。
この点、どの程度なら「多額の」「重要な」にあたるのかについ
ては、一律の数字上の基準があるわけではありません。裁判所は、
その額、会社の規模、事業の状況、会社の総資産に占める割合、取
引の目的、会社における従来の取扱い等の事情を総合的に見て、個
別具体的に判断しています。
そこで少しでもイメージを持っていただくため、具体的な過去の
事例を挙げると、以下のようなものがあります。
● 会社の総資産の1.6%に相当する保有株式の譲渡について、
額の大きさや営業のために通常行われる取引ではないことなど
から、「重要な」財産の処分にあたるとした例
● 関連会社の10億円の債務についての保証予約について、保
証額は会社の総資産の0.51%、負債額の0.75%相当に
とどまるものの、資本金に占める割合は7.75%と高く、社
内に1件5億円以上の債務保証は取締役会の付議事項とする旨
の取締役会規則があることなどから、「多額の」借財にあたる
とした例
● バーを経営し、出資金100万円、年間売上高2200万円
の有限会社が600万円の借入れをすることは「多額の借財」
にあたるとされた例
(2)実務上の留意点
上記のように一概に判断できないという面はあるとはいえ、もし
本来は取締役会決議が必要であったのにそれを経ていなかったため
に後で取引が無効となったり他の損害が生じた場合、当該取引にあ
たった取締役自身の任務懈怠はもちろんのこと、当時の他の取締役
や監査役も監視義務違反を理由に責任を追及される可能性がありま
す。また、取引先にも迷惑をかけることになりかねません。
特に、会社の関係者間で関係が良好なうちはあえて決議を行わな
いことが特に問題となることはないでしょう。しかし、取締役が1
00%株主である会社ならともかく、そうでない場合は、創業以来
の設立者間の協力関係が何らかの理由で壊れ、株主間や取締役間で
内部紛争が生じ、過去になされた取引について会社法上の不備が急
に問題視される、ということはよくあることです。今回の事例でも、
取締役会決議がないという主張がなされた背景には、取引後に筆頭
株主やY社の役員構成が大きく入れ替わったという事情があったよ
うです。
特に新会社法の制度のもとでは、取締役会の開催や決議の制度が、
中小企業の現実に合わせて工夫できるようになりました。それで、
会社法に照らして取締役会決議の要否について予め慎重に検討し必
要な決議を得ておく、こうした日常の手間暇が、将来の紛争という
大きなコスト・リスクの回避のため有益な結果となるのではないか
と考えます。
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